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銀色の記憶

作者:埴輪
 ――少年には、秘密の友達がいた。
 誰に言っても信じてもらえない、秘密の、大切な、友達が。
 今夜も少年は会いにいく。
 秘密の友達に。

 友達との出会いは、満月の夜。
 夜空があんまりにも綺麗だから、少年はベッドを抜け出し、丘を目指した。
 丘の上からは、王都が一望できる。
 お城も、学校も、教会も。
 少年の家は小さく、わからなかったけれど。
 空を見上げると、無数の星と銀色の月。
「おや、先約がいたか」
 少年が振り返ると、月と同じ髪色をした男が、柔らかに微笑んでいた。
 少年は驚きのあまり、身動き一つできなかった。
 この国で暮らすものならば、その顔を知らぬものはいない。
 王都の英雄。
 少年にとっては雲の上……まさに、お月さまのような存在であった。

 その夜から、少年と英雄は友達になった。
 二人が会うのは決まって満月の夜。
 世界が、銀色に染まる時。

 少年が息を切らせて辿り着いた丘の上に、友達の姿はなかった。
 そうだよね、と少年は思う。
 だって明日は大切な日。
 とてもとても、大切な日。
 明日から、友達は英雄じゃない。
 この国の王様になるのだ。
 戦争での活躍が認められ、王女様と結ばれた友達。
 その結婚式は盛大で、華やかだったけれど、戴冠式はもっともっと、賑やかになるだろう。
 国中の人々が、新たな王様の誕生をお祝いすることだろう。
 ――でも。
 今夜は満月だから。
 月がこんなに綺麗だから。
 少年は、丘の上に立っていた。
「悪い、遅くなったね」
 少年が振り返ると、月と同じ髪色をした友達が、柔らかに微笑んでいた。

 少年はいつものように、学校や家であったことを、友達に喋り続けた。
 友達はいつものように、優しく頷きを返していた。
 少年が喋り終えると、友達が口を開いた。
「今夜は、私の話を聞いてくれるかい?」
 そんなことは初めてだったが、少年は何度も頷いた。
 そして、友達は語り出した。
 よくある話さ……そう言いながら、とある国での出来事を。

 その国は小さいながらも、豊かで平和な国だった。
 そこで友達は生まれ、暮らしていた。
 将来を誓いあった恋人もいた。
 だが、戦争が始まった。
 故郷は一晩で滅び、恋人も敵国の英雄に殺された。
 忘れることのできない、血と臓物、糞尿の臭い。

「あの夜も、満月だったよ」
 空を見上げる男の横顔を、少年はじっと見つめていた。

 満月の夜。
 少年は二度と友達に会うことはできなかった。

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