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神無の世界 作者:赤雪トナ
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40/44

40 その手に掴むは、 1

 客室に運ばれ、呼ばれた医者に診察を受けたセルシオは異常なしというおかしな結果を受ける。
 それをシデルたちは信じなかった。

「異常なしってどういうことだ? 実際に倒れてどれほど呼びかけても起きないんだぞ!?」
「しかしですね、呼吸と脈が弱くなっている以外におかしなところはないのですよ。特定の病気の兆候はなく、疲労から倒れたわけでもない。おかしいというのは私もわかりますが、どこがと聞かれると答えようがないのです」
「ほかの医者を呼んでみては?」

 この医者の力量不足で、ほかの医者ならばまた別の診断結果を出すのではとイオネは考える。

「おそらく同じ結果だと思いますよ。それなりに長く医者をやってきていて、サマス様に信を得て、オータンお嬢様専属になれました。やぶ医者では無理でしょう?」

 ここでこの医者をやぶと言ってしまうと、オータンの健康が維持されていることに矛盾が出てきてしまう。
 納得せざるを得ず、シデルたちは口を閉じる。
 医者が帰っていき、部屋は静かになる。シデルとイオネは表情を暗いものにし、オータンはシデルを励ますように手を取る。リジィは死んだように眠るセルシオの手を握り締め、必死に祈っている。
 その祈りが実ることなく、セルシオはその日も次の日も目を覚まさずに眠り続ける。
 そして三日目、シーズンズ家に滞在する形となっているシデルたちは、今日もセルシオのそばにいた。
 午前九時を過ぎ、シーズンズ家の門辺りが騒がしくなる。

「なんだ?」
「なにやら兵がたくさんにいますわ」

 窓から外を見ると、十人以上の兵がいて馬車が三台並んでいるのがわかる。
 扉がノックされて、ララムが入ってくる。トレイを持ち、そこにはティーポットとティーカップとジャムの載ったタルトが並ぶ。

「お茶でもいかがですか?」

 ララムの表情は硬い。それをシデルとイオネは兵の集まりに不安を感じているのだろうと思う。

「外に兵が集まっているようですが、なにかあったのですか?」
「事件が起きたようで、たくさんの人が解決に動いているようです」
「どんな事件なんだ?」
「詳しいことは私も」

 お茶を入れて、二人に勧める。三人分のお茶をいれたララムは部屋を出て行く。

「リジィも飲みませんか?」
「いらない」
「食事の量も減っているでしょう? そのままだとリジィも倒れますわ。そんなことはセルシオも望みませんよ? こっちにきてお茶くらいは飲んでください」

 少し迷った様子を見せ、名残惜しそうに手を離し、イオネたちに近づいてくる。
 お茶を飲み、タルトを一つ食べたリジィはすぐにセルシオの元に戻る。
 イオネたちもお茶を飲み、その三分後強烈な眠気と痺れが三人を襲う。

「な、ななんですかこれはっ」
「嫌な感じしかしねえな!」

 必死に意識を保とうとするもできずにシデルとイオネは意識を失う。
 リジィも力が抜けていき、セルシオの手を握れなくなる。それを歯を食いしばって少しでも長く握っておこうと耐えていくが、ついには意識が落ちた。
 お茶を飲んだ五分後には部屋の中に動く者はいなかった。それを見計らい、ララムを伴って兵たちが入ってくる。

「ベッドで寝ている者がセルシオ・カレンダでよかったな?」
「……はい」

 表情を暗くしつつもララムは頷く。ララムが薬を盛ったのだ。命令を下したのはサマスだ。

「よし。運び出すぞ!」

 兵たちは頷き、四人を抱えて屋敷を出て行った。荷物も念のために持ち出された。
 その一時間後、サマスの部屋でオータンが怒鳴っていた。オータンやスフリやウィントアも薬を盛られて眠っており、事情を知ったのはついさっきなのだ。

「どういうことですかっお父様!」
「仕方ないのだよ」
「仕方ないって!?」
「王からの命令なのだ。セルシオとほか三人を差し出せと。でなければ家を潰すどころか、国家反逆の罪で家人皆処刑だとな」

 神託を受けて色々な国や各本神殿が動き出したが、セルシオに一番早くたどり着いたのは自国内にいるマレッド王国だった。
 連れ去られたすぐ後に連絡を受けた神官が動き出し、その一日後に各国の兵たちがアーエストラエアにやってきたが、セルシオの姿は当然の如くない。
 情報収集によりマレッド国に確保されたとわかり、兵や神官たちはそのことを上司に知らせるべく動いた。

「あの四人がなにをしたというのです!?」
「わからんっ!」

 サマスが大きな声で返す。そこには怒りがあった。オータンに向けたものではなく、国へと向けたものだ。
 サマスもこの命令は理不尽だと思っている。四人が国に追われるようなことをしでかすとは思っていないのだ。できれば四人を守ってやりたかったが、国に抵抗できるほどの力はない。

「どうにか、どうにかできないのでしょうか」
「わからんよ。ただ怪しまれないように情報を集めてみようとは思っている。どうしてこんなことになったのかわかれば、対応策も思いつくかもしれん」
「そう、ですね」

 そうなってほしいと願い頷く。
 激昂が収まるとオータンは気だるさを感じ、机に寄りかかる。シデルの復讐が終わり、すべてはこれからだと思っていた矢先にこれだ。ストレスから体調を崩してしまった。
 サマスが慌てて使用人を呼ぶ声を聞きながら、オータンはシデルとの再会を強く願う。

 アーエストラエアから遠く離れた地、リンカブス。
 神託が下ったばかりの頃、アズは事務室で割り当てられた書類を片付けていた。
 鉛筆を動かしていた手が止まる。難しい問題に当たったわけでも休憩でもない。

「今、震えた?」

 そう呟くと懐に手を入れる。取り出したのは、セルシオとわかれてから持ち歩くようになった朱のガラス玉だ。
 掌に載せて、転がす。いつもならば思い出が蘇り安心できるのだが、今日はなぜか不安が湧く。

「どうして?」

 自問してみるが、当然返答はない。
 不安を晴らそうと両手で包み込むようにガラス玉を握る。
 ただごとでない様子に、仕事仲間が声をかけるまでアズはそのままでいた。
 アズが不安に回答を得るのは十日以上先のこと。エルメアが情報を入手し、ミドルと一緒に知らされた時だ。
 オルトマンに続き、セルシオまで失うことになるかもしれないと思うと同時に、アズはそれ以上考えることを拒絶するように気絶した。

 四人を運び出した兵はそのままシーズンズ家の前に停めていた馬車に四人を乗せ、アーエストラエアを出る。
 四人が入れられたのは、とにかく頑丈に作られた馬車で、セルシオたちが以前乗せられた奴隷用の馬車に似ている。内装はあちらほど不衛生ではないが、乗り心地は大して変わらないだろう。
 車体を引くのも馬ではなく、長距離高速移動のため捕らえられ調教された魔物だ。
 薬を盛られて四時間ほど経ち、シデルたちは目を覚ます。薬の影響か、気持ち悪さに顔を顰めていた。

「……ここは馬車の中か?」

 一番に起きたシデルは周りを見て、聞こえてくる音や揺れからいる場所を予想する。そういった物音からかなり速い速度で、移動しているとわかる。
 くらくらとする頭を振って、イオネを起こす。一応セルシオにも声をかけたが無反応で、リジィはまだ寝かせておく。無理矢理な形だが、睡眠時間が確保できるのはリジィとっていいことだと思うのだ。

「う、気持ち悪い」

 二日酔いや車酔いとはまた違った気持ち悪さに、イオネは口を押さえる。
 大丈夫かと背中をさすり、それにイオネは礼を言う。

「ここは……馬車?」
「おそらくな。窓もないから状況がまったく掴めん」

 小さな空気穴が天井辺りにあるだけで、薄暗い。そこから入ってくる明かりの強弱で朝夕の判断ができる程度だ。

「なんでここにいるのかわからんな」
「記憶はお茶を飲んだところで途切れていますからね」
「サマスさんの仕業なのか?」
「シデルとオータンの付き合いを反対して私たちを奴隷として売った?」
「ないと思いたいんだが」

 情報がまったくないので、怪しめる人物がサマスくらいしかいない。
 その考えも確信があるわけではない。少しでもいいから情報が欲しかった。
 二十分ほど時間が流れ、気分がよくなったイオネは軽く周りを調べていく。壁を強く押してみたり、軽く叩いてみたり、どこかに脆い箇所がないかと細かく見ていていく。

「んー……どうしようもありませんわね」
「鉄拳でも破れそうにないか?」
「えらく頑丈なうえに衝撃を吸収する素材か魔法を使っているようで、私の腕では無理なようです」

 実際に鉄拳を使っても、軽く凹ませるのが限界で、拳を痛めるだけだろう。凹ませられるだけすごいのだが。これは猛獣を閉じ込め運ぶための馬車で、とにかく頑丈に作られている。イオネが破ろうと思えば、あとレベル150は必要だ。

「セルシオが倒れて大変な時にこんなことになるんてな」
「本当に」

 これからどうなるのかと頭が痛くなる二人だった。
 この後リジィが目を覚まし、現状を説明している時、馬車が止まる。なんだろうと思いアクションがなく三十分経つ。
 壁の向こうに誰か近づいてくる気配があり、壁の一部が開いた。犬猫なら通れそうな穴から食事が入れられ、すぐに穴が閉じる。

「飢えさせる気はないということでしょうか?」
「まあ、食べさせるのなら食べるさ。逃げる時に体力ないとどうしようもないからな」

 そうですわねと頷き、トレーを寄せる。
 パンやスープの匂いを嗅ぎ、少しだけ口に含み、おかしな薬が入っていないか調べていく。

「異常ないと思います」
「そうか。リジィ、ほら」

 あまり食べたくなさそうにしているリジィに渡す。体力は保っておいた方がいいという二人の説得に、リジィはセルシオを膝枕しつつ、少しずつ食事をとっていく。
 四人を乗せた馬車は五日間休みなく進み、王都へと入った。
 なんの情報もわからず、狭い場所に押し込められ、体を拭くこともできず、そんな環境に三人はまいっていた。

「音と振動が変わりましたね?」
「これは石畳か? どこかの街に入ったと考えていいんだろうが」
「そろそろ目的地ですか」

 ようやくチャンスが来たと目に覇気が戻る。
 隙をついて逃げられるようにと緊張感を高めていると、馬車の速度が落ちていき、すぐに止まった。
 いよいよかと思っているところに、壁の一部が開き、薬入りの煙幕が投げ込まれた。

「またですの!?」
「油断も隙もないってか」

 口を押さえて咳き込み耐える。だが耐え切ることはできず、意識を失った。
 十分経ち、三人が完全に意識を失ったところで、扉が開かれ兵たちが四人を運び出す。

「こっちの男は研究所だ。そっちの三人は地下牢だ」

 王城の庭に馬車が止まっており、運び出した四人をそれぞれ指示のあった場所へと連れて行く。
 城の一室に運び込まれたセルシオは、服を脱がされて台に載せられる。
 そのセルシオを囲み、研究者たちが好奇心に満ちた目で体中を見ている。人を見る目ではなく、動物や物を見る目だ。

「これが適格者というものなのですか?」

 調べて詳細を報告せよと王の命令を受けた時に、適格者という存在のさわりを教えられた。
 彼らが知るのは、そういった存在がいると神から教えられ、世界の敵になるかもしれないということのみだ。
 実のところマレッド王も知っているのはそれくらいで、適格者についての情報をあまり持っていないのだ。神殿が警戒する相手だ、利用価値はあるかもしれないと詳細調査を命じた。

「そうらしい」
「んー見た目は我らと変わりませんよ?」
「どう違うかはこれからの調査でわかるさ。とりあえずは体皮と髪と血の採取だ」
「ういっす」

 下っ端らしき研究員がハサミとナイフを持ち、セルシオに近づいていく。

「あれ?」
「どうした? 早く切らないか」
「いえ、んーっ」

 下っ端は最初軽くナイフを肌に押しつけて引いた。肌の柔らかさはそこらの人間と同じで、わずかな弾力を感じさせる。だが引いても血は出ない。次に押し付ける力を強めて引いても同じだった。

「切れないっすよ?」
「はあ? 俺にもやらせてみろ。お前は髪の採取だ」

 下っ端からナイフを受け取り、上司もセルシオを切ってみるが結果は同じだ。思い切って勢いよく腹にナイフを突き出すが、表皮一枚貫かず止まった。

「どういうことだ?」
「髪も切れませんぜ」

 ひらひらとハサミを振って上司に知らせる。
 髪の感触は柔らかいのだが、一本のみを切ろうとしても切れないのだ。無理に切ろうとしてハサミの刃が欠けた。

「溶かしてみるか。酸を持ってこい」
「了解~」

 棚から二種類の入った瓶を持ち出す。弱いものと強いものだ。
 始めに弱い酸を小さじですくい、腕に垂らす。肌に載った酸の様子を研究者たちはじっと見つめる。

「変化ないな」
「ないっすね。次はこっちの酸いっときます?」
「ああ、おそらく結果は変わらないだろうが」
「ですよね」

 変わらなかった。その後、火傷させてみようと熱した鉄棒を押し付けても変化なく、高所から落としてみても、宮廷法術師に魔術を使ってもらっても、騎士にスキルを使ってもらってもかすり傷一つつかなかった。
 ほかにも薬を飲ませて起こしてみようとしたが、口は開くが錠剤も液体も透明な膜に防がれたように横に垂れただけだった。

「わかったのは傷つかない。異物摂取拒否。体温、呼吸の変化なし。調べようがないってことだ」

 二日ほどつきっきりで出た結論がこれだ。

「これを王に知らせるんっすか? 役立たずって言われるのが予想できますね」
「今はとつけておけ。起きたらまた別の結果がでるかもしれないしな」
「ういっす。適格者はどうします? 起きるまでここに置いときます?」
「邪魔だし、他所の国のスパイに盗まれる可能性もある。重犯罪者用の地下牢に入れておくんだとさ」
「兵に運ぶよう頼んどきます」
「ああ」

 脱がした服を着せて、兵に運んでもらう。
 シデルたちのいる地下牢のさらに下に運ばれて、粗末なベッドに載せられる。
 そこは分厚い金属の壁に囲まれた牢で、破壊しての脱出は無理だ。格子も希少武具に使われる金属で出来ていて、こちらも破壊不可能だ。
 目が覚めるまで定期的に見回りが行くことになり、放置されることとなった。
 そして牢に運ばれて一日経ち、セルシオはあっさりと目を覚ました。

「……ここどこ?」

 寝る前の記憶を思い起こし、腕輪に異変があって意識を失ったことを思い出す。
 セルシオは腹の減り具合や、寝すぎたことの不具合など感じておらず、意識を失って十日経っていると気づいていない。

「おーい」

 誰かいないかと呼んでみたが反応はない。今この区域にいるのはセルシオだけなのだ。ここは常時監視を置けるような造りになっていない。もともと重犯罪者を放置して、人の気配すらさせず、体力的精神的に弱らせるための場なのだ。
 セルシオにとってここに置かれたことは運がよかった。起きたと気づかれると即研究所行きだ。寝ていた時の無敵状態はもうなくなっていて、今は切り刻まれてしまう。

「反応なし、か。誰かくるまで……腕輪でも見とこう。なんで寝たのか理由わかるかも」

 こんな状況でも死ぬよりましと落ち着いているが、リジィたちも捕まっているとわかればもっと慌てただろう。
 三つの宝石に指を置き、オープンと呟いて目を閉じる。

「ん?」

 いつもの画像の上に、ジョブや合成ツールを得た時と同じように、別のウィンドウが重なっていた。
 そこには「調整第一段階完了」と書かれていて、その下に長文がある。

「適格者となりました? 適格者権限の一部解放?」

 長文の一番最初の分を声に出し、首を傾げた。
 続きには、到達条件をクリアしたため、資格者が適格者へと変化したと書いてある。その変化に対応するため十日眠り続けるという部分を読んで、倒れてから十日経っているのだと知った。

「十日って、お腹空いてたりしないけど」

 本当かと首を傾げつつ、続きを読む。
 適格者とは神と同じように世界を操ることができる存在。適格者単体でも人から外れたことをできるようになるが、世界全体を操ることはできない。本来の能力を発揮したいのならば、出発の岩に触れる必要がある。そうすれば天の塔の地下隠し部屋へと移動でき、そこの部屋にある装置を使って世界を操ることができるようになる。
 注意点として、半年後の調整第二段階が終わらないと天の塔地下へは行けない、と書かれていた。
 ここまで読んで、セルシオはその突拍子もない内容に呆れた。

「世界? 神と同様に? 俺が?」

 ないないと誰が見ているわけでもないのに首を横に振る。
 ひとまず続きを読んでみようと、また目を閉じる。そこには適格者となり、得たもの二つの説明があった。一つは検索。もう一つは変化だ。
 検索とは、五千年前からの記録を納めた情報保管庫から知りたい情報を抜き出すことができる。
 変化とは、手で触れたものを好きなように変化させることができる。
 注意点として、検索と変化は合わせて一日三回までという使用条件がある。変化は第二調整が進むほど、変化し続ける日数が増えていく。変化させたままで固定したいのならば、もう一度変化を重ねる必要がある。変化にも限度があり、死者蘇生や生命創造といった難事は塔の装置を使わなければ実行不可能だ。

「死んだ人も生き返らせられるってどんだけだ」

 読み進んでも信じられないが、これが本当ならばロッドと再び暮らすことができる。信じたいという思いが湧く。それに死者蘇生が可能なら、オルトマンも元に戻すことくらい簡単だろう。

「とりあえず一度使ってみよう。それで嘘か本当か判断する材料が増えるはず。現状を知りたいから検索で情報を引き出せば知ることができるのかな?」

 検索と考えると、さらにウィンドウが開き、知りたいことを思い浮かべてくださいと書かれていた。
 眠ってから今まで自分の周辺で起きたこと、と思い浮かべる。
 するといっきに大量の文章が現れた。
 セルシオが適格者の調整により倒れてから、という書き出しで始まった文章を読んでいく。
 そこから上の階の牢に三人が入っていること。各国に自身のことが知らされたこと。世界各国の王や神官の長が排除や利用に動き出したこと。利用しようとマレッド王が捕縛命令を出したこと。起きたら実験の続きをされること。見回りが一日三回定期的に行われていること。こういったことを知っていく。
 読み終わった頃にはセルシオは血の気が引いていた。

「俺を殺そうとしてる王や偉い神官が何人もいるって」

 意味がわからず、なんでだと喚くセルシオ。
 神と同様のことができるということは、世界の支配者はセルシオになるということだ。王や貴族や神官たちにとっては、自分たちの地位を脅かす存在なのだ。逆らえば力で潰されると簡単に想像できる。排除目的で動いている者は、潰される前に潰せと考えている。マレッドの王のように利用を考えるのは、適格者の詳細を知らないからだ。

「逃げて、隠れる? いや逃げても追われるのは確実。隠れても大人数で探されればいつか見つかる。ならどうする? どうすればこんな状況をなくすことができる?」

 震えながらじっと考えて、いっそのこと天の塔地下を目指すかと思う。当然出発の間は一番警戒されているだろう。しかしそこさえ突破すれば誰も来ることができない場所に逃げ込むことができる。

「でもそうするとリジィたちを残すことになるんだ。このままここに残して逃げたら、俺を誘き出す餌として使われるだろうし、今でも俺の人質らしいし。まともな扱いをされないのは確実。一緒に逃げるのは決定。んでダンジョン管理所には連れて行かない。どこかに潜んでもらう。潜むっていってもいい加減な場所だったら暮らすことすら難しいし。アズたちに匿ってもらうか? でもリンカブスの王も俺に対しての人質とかに使ったら意味ないし」

 そんなこと考えていると遠くからうっすらと人の気配が感じられた。

「見回りか!?」

 わたわたと静かに慌てて、ベッドに横たわる。じっと動かず、早く去ってくれと強く思いながら待つ。
 牢屋の向こうからセルシオを見る兵は、異常なしと判断する。動いたことで服の皺が変わっていたり、少しだけ位置がずれていたりするが明かりが十分でないこともあり、気づかれることはなかった。
 気配が遠のいてほっと息を吐き出す。

「次は八時間後だっけか。それまでに脱出方法考えないと、変化ってやつを使えば牢の頑丈さは関係ないんだろうし」

 まずは実験かなと変化の方を一回使ってみることにした。
 変化させるものはどうしようかと、ベッドに目が止める。

「いやいや、次の見回りの時にベッドがないと怪しまれる。そこらへんの壁か床でも」

 壁や床も目立つ位置は駄目だろうと考え、ベッドの下を選んだ。
 静かにベッドをずらして、汚れた床に触れる。

「変化っていってもどんな風に変化できるのかな? 使う前に検索で調べた方がいいのかな」

 説明に書かれていなかった注意事項や上手い使い方がわかるかもと、検索で使い方を調べていく。
 ウィンドウに、できることできないことの具体例がずらりと並ぶ。そこに書かれていたのはセルシオが想像していた使い方を凌駕するものだった。
 セルシオは変化といっても壁に穴を開けたり、硬さを変えたりするだけと思っていた。だが使用例には剣に好きな効果を付与したり、自身に触れてレベルを上昇させたり、土を食べ物に変化させたり、生き物の年齢を自由に変えたりと、本当に色々自由な使い方が載っていた。

「これは……予想外すぎる」

 排除しようとする人がいることに納得してしまった。これは人の技ではない。セルシオ自身も誰かがこれを持っていたら恐れる。
 だからといって大人しく言いなりになる気も殺される気もなかった。
 首を横に振って、沈んだ気分を払い、変化を試してみる。

「なにに変えようか。そだ、食料の確保しよう」

 ここに放置されているのだ。食べ物の差し入れなどない。
 それがいいと頷いて、床を食料に変えようとして止まった。

「一食分だけしかでないのかな? それともたくさん出そうと思えば、そのとおりに変わるのか? たくさんとだけ指定した場合出てくるものの種類は?」

 もっとちゃんと説明を読んでおけばよかったと、できることに目を取られすぎたことに落ち込む。
 やってみて感覚を掴んでみようと、五日分の食料に変えてみる。あまり多いと邪魔になるのだ。
 五日分の食料を出したが、これらが五日後まで残っていることはない。今のセルシオには、変化したものは三日しかその姿形を保てない。三日をすぎると金属塊に戻るだろう。ただし食べて吸収したものは戻らないので、変化させたものを食べて死ぬことはない。
 食料の種類を指定せずに変化させ、出てきたものはセルシオが旅する際に食べている携帯食料だった。これはまとまった食料ということで、無意識に脳内に浮かんだイメージに引きずられた結果だった。

「あ、水がない」

 変化したものを見ていくと食べ物だけが並び、水が皆無なのに気づく。

「辛いものとかパサパサしたものは食べられないなぁ」

 食べ物を穴から床に出す。床にはぽっかりと穴が開き、部屋を覆う金属部分を越えて土が顔を出しているのが見える。それを確認し、再び穴に食料を入れていく。

「次に変化とか使えるのは八時間後か」

 変化や検索は毎日0時に使えるようになる。使わずにいれば、次の日にプラスされるということはない。なのできっちり使っていった方がいい。
 なにもすることがなくなったセルシオは剣を振る時の足捌きなどの練習で暇を潰し、その後はどのように逃げるか考えていく。
 逃げるためには城内の地図が必要で、次の検索では地図を得ようと考えた。できればどこになにがあるかもわかる詳細な地図がほしいが、できるかはわからず、駄目元で求めてみようと思う。
 地図のほかには水だ。幸い、水が数年間無限に出てくる魔法の水筒を本で見たことがあるので、それを作れば問題ない。
 最後の一回で、リジィたちの様子を探ることにして、明日の能力を使い道を決めた。

「少し休憩っと」

 服を脱いで、にじみ出る汗を乾かす。
 ここは本当に静かで、自分以外が出す音がないというのは落ち着かないものだった。

「逃げ出せるって確信がなかったら、精神的にきつい場所だよな」

 きっと五日も持たないと体を震わせる。
 そんな風に訓練と考え事で時間を潰し、午前0時前に見回りがきて、横たわりやりすごす。

「そろそろ使えるようになっているはず。よしっできた」

 早速、水筒を作り出し、勢いよく飲んでいく。

「ぷはぁっ生き返る」

 口から溢れた水を拭い、水筒を床に置くと、検索を使うためウィンドウを開く。
 この城のできるだけ詳細な地図を求めると、脳内に俯瞰状態の立体画像が浮かんだ。画像の右上にマレッド城と名前が出ているが、突然のことに気づいていない。

「なんだこれ!?」

 平面の地図を求めていたセルシオは予想外のものに驚きの声を上げた。
 しばらくなにがなんだかわからずにいたが、少しだけ落ち着くとこれがなんなのか考える余裕が生まれる。

「地図を求めて出てきたんだから、これも地図の一種なんだろうけど、城の外側だけ見えてもな」

 中身を見たいと思った途端、壁が消えた。

「……もしかすると?」

 もっと近くで見たいと考えると、どんどん城が近くなってくる。

「好きなように内部が見れるんだ、へー便利だ」

 使い方がわかるとあとは簡単で、今自分のいる場所を思い浮かべて、視点を牢屋からのものに変更する。
 壁が透けているため、どこをどのように通ると地上に行けるかよくわかるし、リンカブスの城にもあった隠し通路や隠し部屋も丸見えとなっている。実際に移動してみようと、視点を動かし牢屋から出て、無人の通路を進み一階に上がる。

「実際には見張りがいるからこう簡単にはいかないんだろうけど。道がわかったのは助かったな。次はリジィたちの牢に行こう」

 視点を通常の地下牢へと移動させ、リジィたちのいるはずの牢の真ん中に立つ。
 そこからも周囲を見渡し、道を探っていく。

「そこを通って、あそこを上がり、到着っと」

 何通りかの道を進んでは、視点を戻しと繰り返していく。

「だいたいこんな感じかな」

 確認に三時間ほど費やし、逃走経路を頭に叩き込んだ。

「あとは荷物を取り戻したいけど、さすがにどこに置いてあるかはわからないだろうしなぁ」

 そんなことを考えると、視点がいっきに引いていき、全体が見える位置まで戻される。そして地図の一点が点滅しているのが見えた。
 まさか、あそこに置いてあるということなのかと視点を近づけていく。兵の詰め所と名前が片隅に出ている。
 そして点滅している箇所のすぐ近くまでいくと、また驚くことが起きた。
 ウィンドウが開き、置かれている荷物の様子が見えたのだ。

「……なんでもありだなこの地図……ってことは」

 ふと気づいたことがあり、セルシオはリジィたちの居場所と念じる。再び、視点が引いていき、地下牢の一つが点滅している。
 そこに急いで寄っていくと、ウィンドウが開いて三人の様子が映し出された。
 三人とも薄汚れた感じで、元気がないようにも見える。リジィはイオネの膝枕で寝かされていて、イオネとシデルは壁に寄りかかって寝ている。三人とも弱ってみえるが、憔悴ぶりはリジィが一番ひどい。

「リジィっシデルっイオネっ!」

 聞こえないとわかっていても呼びかけることを止められない。ウィンドウの向こうの三人はセルシオの声に反応することなく眠り続けている。
 いますぐ三人に会いたくなり、どうにかできないかと必死に考えていく。

「力は一回残ってるから、牢屋を開けることはできる。そこからリジィたちの牢に行くだけならなんとかできるかもしれないけど、鍵は開けられないし、道具もないから脱出も難しい。牢屋を開けることじゃなくてほかの使い方。牢を抜け出せて、見張りにも見つからず、鍵を開けられる方法……」

 なにかないかと必死に考えていき、以前エルメアを探すため行った潜入になにかヒントはないかと思い出す。
 潜入前から潜入してからを順に辿っていき、伯爵夫人の部屋のことを思い出した。
感想誤字指摘ありがとうございます
この話含めてあと残り五話です

》ここからどう誰も知らないって状態になるんだろう
わりと簡単に予想できるけど普通は実行無理、そんな感じで

》適格者って何なんでしょう
》やっと資格者の意味が分かりそうで楽しみです。
その答えの一部が今回でました

》身体の作り変えとか怖い事を~
力を使うための変化なのでおおげさな変化はなしです。人肉喰らうようになったり、自分の中の神と対話しだしたりはしません

》資格者ポイント2から一気に6まで~
こつこつとポイントが溜まってました。資格者ポイントを得る条件は「天の塔に辿りつけ」といった真面目なものから「たくさんの人に告白してふられろ」といったなにそれといったものも多くあります

》この町まで来た時はいいが、捕まってた人たちが~
また捕まる人や騙される人がいそうです

》賞金首
賞金かけられていると思うけど、あの時はシデルの目的達成最優先でセルシオたちは気にしていませんでした

》意味を知っている者、きちんとしらない者~
戦争はないですね。書いてる人がそれを思いつきませんでした。皆セルシオを追い捕まえることに夢中に
+注意+
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