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神無の世界 作者:赤雪トナ
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32 リンカブス騒動 3

「姫様救出ですか。やりがいのある仕事ですが……」
「その分危険度もましましだ」
「ですよね」

 どうしたものかとアズを除いた四人が溜息を吐いた。
 戦いに参加するつもりで来ていたのだ、潜入救助は想定外だ。そういった技能は四人にはない。かろうじて運動ツールで隠密行動のできるセルシオが可能かといった感じだろう。

「救助に行く行かないの前に、俺たちで可能なのかもわからないし、そこらへんの技能を持った人に話を聞いた方がいいかな。アズ、そういった人に心当たりない?」

 一人いるにはいるが、ここにはいないのでアズは首を横に振る。その人物はエルメアの身辺警護役で、普段はメイドとして仕えていた。反乱が起きた日もそばにいたはずだが、情報がまったくなく生死不明なのだ。

「聞いてくる」

 そう言いアズは部屋を出る
 自室を目指し歩いていたチャンカに追いつき、そのことを聞く。
 相談を受けながらチャンカは、セルシオたちを囮に使うことを止めた。こういった事前準備ができない者に救出を任せる気はなく、ただ指定された場所に行くだけならば囮として使おうと決めていたのだ。アズもミドルも普段からエルメアの近くにいて、それは城にいた多くの者が知っている。そんな二人だ、囮として十分な効果を期待できる。
 そんな考えをおくびにも出さず、手飼いの者を後で向かわせることを約束した。
 チャンカにとって優先順位はエルメアの方が高い。助けるためならば姫の友だろうが、その仲間だろうが犠牲にできる。その判断ができるからこその上位貴族だろう。甘さがあればチャンカの代で侯爵家は落ちぶれていたかもしれない。
 囮にする場合でもそれなりのサポートはするつもりだったので、非道非情というわけではないのだろうが。

 部屋の準備が終わり、四人は案内される。自室に戻って着替えたアズもやってきてのんびりしていると、扉がノックされて三十半ばの革鎧を着た男が入ってきた。左手には書類を持っている。

「失礼、潜入について聞きたい者がいるということで来たのだが、こちらであっているだろうか?」
「あ、はい。お願いします」

 アズの返事に頷き、五人のそばに歩いてくる。

「私はチャンカ様の下で働いているモラと言う、よろしく」

 五人も名乗り、一礼する。

「時間はそうとれないので、早速潜入について語っていこう。潜入するにしても色々と下準備があるわけだが、それはチャンカ様が既にしているので話さなくていいだろう。ちなみにどんなことをするかというと情報収集だな。潜入する場所そのものについてや、そこの周りのこと。潜入するところが建物ならばそこの造りを知り、どこから侵入するか決められる。人の生活リズムを知れば、動きに合わせて建物内部での行動がやりやすくなる。建物外でも警備兵の見回りと鉢合うことがなくなる。情報はあれば困らないんだ」

 モラは手に持っていた書類をテーブルに広げた。そこには五人が潜入予定の場所の情報が載っている。念入りに調査したのか、こまごまと書き込まれていた。エルメアがいるであろう部屋も三つ印をつけられている。
 そしてエルメアの似顔絵もある。アズとミドルが顔を知っているとはいえ、四人も知っておいた方がいいという判断でチャンカが追加したのだ。
 五人が一通り目を通したことを確認すると、モラは問いかける。

「潜入してから一番大事なことはなんだと思う?」
「見つからないようにすることかな」

 セルシオの答えに頷く。

「そうだ。潜入というのは相手にばれずに行動することを指している。ばれてしまってはただの侵入だ。今回のように潜入する目的がわかりやすい場合、見つかればすぐに合図が送られて姫へ近づけなくなる。腕っ節が強ければ、見つかっても気絶させるか殺していまえばいい。ただし急に人が減って不審に思われることもあるから気をつけるように」

 気絶させた相手を脅し情報を引き出すことも可能だろう。しかしそれをモラは教えない。五人は素人でしかないのだ。脅しが上手くいくとはかぎらない。下手にとれる手段の幅を増やせば、いざという時選択肢が多く迷うことにもなりかねないのだ。
 調理でも、材料や器具が多すぎると素人には使いこなせない。レシピを準備した上で、簡単な料理を作らせるか、横に指示を出す人がつくかでまともな料理ができる。
 今回でいえば、レシピはチャンカが準備し、指示を出すのがモラだ。道具も準備してある。

「では見つからないようにするにはどうすればいいか? 気配を抑え、静かに行動する。それには少人数が好ましい。といって一人だとミスした時に脱出もままならない。お勧め人数は二人から四人くらいだ」

 これらの前提条件として身軽な者という条件がつくが、それはセルシオたちもわかっていた。
 その上でここまでの条件にあうのは、運動ツール持ちのセルシオと軽やかに屋根に上がれる身体能力を持つイオネだ。ならば潜入する建物のある街まで、二人で行くかというとそうでもない。救出して仕事が終わりではないのだ。エルメアをきちんと守らなければならない。救出すればいずれ建物からいなくなったことがばれる。そうなれば追っ手が向けられるだろう。その時の護衛として仕事があるのだ、アズたちは。

「今手持ちに眠り薬の入った煙幕とか持っているんですけど、これって使えますか?」

 役立つかなとセルシオは手を上げて聞いてみた。

「その時々によってかわってくる。相手が眠っていたり酔っ払っていたら、いきなり発生した煙を怪しむことはないだろう。しかし素面だったらそんな煙は怪しいだけだ。その場を離れるなり窓を開けるなりして対策を取られて、合図を出されるのがオチだな」
「なるほど」
「だがその怪しさを利用して注目を集めているうちに移動するなんてこともできるから使い方次第だろう。今回は相手が眠っている場合以外は、使わない方がいいだろうな。潜入は初めてだろう? いろいろと小細工に凝ると混乱するだけだ。潜入に関しての話はここまでにして、ここからは実際に潜入してからの話をしよう」

 チャンカとモラで、どこから入り動いたらいいのか、大まかなことは決めてある。
 潜入すると決めた場合、セルシオとイオネはそれにそって動くことになる。
 もともとは候補地すべてにモラが行くつもりだったので、モラの技量に合わせた潜入計画を立ててあった。
 当たり前のことだが、モラと同等の技量は二人にはない。なのでモラは話しながら、素人レベルに合わせた計画に変更していた。念のため、いくつかの潜入パターンを作ってあったおかげで、それを応用できた。
 失敗した場合は捕まらないようになりふりかまわず逃げろと言って、話を終える。

「こんなところか。ちなみに失敗した場合は指示した道中の小屋に印を残してくれ。それを見て、次は私が潜入する。話したことを元にして、行くか行かないか決めてくれ」

 求められたことを話したモラは、仕事に戻るため部屋を出て行こうとする。
 それをシデルが止める。

「モラさんのように潜入に向いた人物がいるのに、俺たちにも行かせようとするのはなんでなんだ?」
「時間を節約するためだ。防衛戦を長く続ける持久力は我々にはないのだよ。だから私一人が両方回るよりも、君たちの助力を得た方が早く目的を達せられるとチャンカ様は考え、依頼したのだろう」

 そういうことかと納得し、シデルは礼を言う。ほかに質問はないかと尋ね、誰も返答しない。今度は止められることなくモラは部屋を出て行く。

「さて情報は得たし、結論を出そうか」
「至れり尽くせりだけど、ハプニングがないわけじゃないんだよね。そこを上手く乗り切れるか」
「潜入するとしたらセルシオとイオネだから、二人の意見に従うぞ?」
「あたしも」

 決定権を渡された二人はどうしようかと視線を交し合う。

「潜入なんてやったことないから、いい経験になるんでしょうけど、そんな気持ちでやっていいことではありませんし」
「迷うね……」

 自分たちを見るアズに気づく。表情には不安と期待がある。ここにミドルがいれば同じような表情を浮かべるも、強制させるようなことはないだろう。

「……行ってみるかな」
「理由を聞いてもいいですか?」
「目的を達成してアズとミドルの喜ぶ顔が見たい、なんてね」

 イオネはきょとんとした表情になり、小さく笑いを漏らす。

「気に入りましたわ、その理由。私も行くことに賛成しましょう」
「二人とも、ありがとう」

 目を潤ませて、アズが頭を下げた。

「泣くにはまだ早いですわ。せめて姫様を助け出してから泣いてください」
「うんうんっそうするね」

 目を擦って涙を拭う。
 行くことは決めてすることがなくなり、再びのんびりと過ごし時刻は午後六時。メイドに呼ばれて食堂で夕食を食べた後に部屋に戻ると、部屋の中に誰かいる気配がした。
 貴族の家で泥棒でもあるまいと部屋に入る。
 中にいたのは分かれた時とは違う鎧を身につけたミドル。アケレーオと同じようにリンカブスの紋章が刻まれた鉄製のフルプレートメイルだ。これはエルメアに仕える時に国の騎士となる祝いとして、エルメアから贈られたものだ。頑丈と軽量化と魔術耐性の魔法がかけられていて、それなりに値が張る。
 今は身分としては下級騎士だが、将来エルメア付きの近衛騎士となることが決まっていた。

「久しぶり、セルシオ!」
「ミドル!?」

 再会を喜び近寄ってくるミドルに、セルシオも驚きつつ喜びの表情となる。
 ミドルが片手を上げ、セルシオも合わせて、ハイタッチする。

「色々あったみたいだけど元気そうでよかったよ」
「空元気な部分もあるんだけどな」

 少しだけミドルの表情に苦いものが浮かんだ。

「アズもおかえり、少しは元気になったみたいでよかった」
「ただいま。気分転換になったよ」

 シデルたちの紹介をして、ミドルはセルシオが無事に妹を取り戻したことを我がことのように喜ぶ。
 自己紹介を終えた後は、互いのこれまでのことをさっと話し、そして救助を引き受けたことを話す。

「一緒に行ってくれるか。ありがとう! ……あとで庭で手合わせしたいんだけどいいか? これからしばらく一緒に行動する相手がどれくらいの実力を持っているのか知りたい」

 夕食がまだで先に空腹を満たしたいのだ。

「シデルとイオネはミドルよりも強いかもしれないよ」
「それは楽しみ。セルシオも腕は上げたんだろう? セルシオとの手合わせも楽しみだ」
「俺は腕落ちてると思ってて」

 対人戦ができなかったことは話していなかったのだ。

「訓練さぼったり、戦い方を変えたのか?」
「リジィを取り戻す時にあったことで、対人戦ができなくなってたんだよ。最近は出来るようになったけど、魔物を相手にするのと同じ動きはできない」
「そっか。まあ、腕は落ちてても楽しみにしとくよ」

 友達とのじゃれあいのようなものだ。アズほどではないにしろ気を落としていたミドルにとって、いい気分転換になる。これまでは働き続けることで気を紛らわせていた。
 ミドルは与えられた自室に戻り、鎧を外して、夕食を食べセルシオたちの部屋に戻ってきた。
 六人は中庭に出て、そこで鍛錬を始める。ミドルもアズも食後の鍛錬は続けていたようで、腕が落ちているようには見えなかった。

「その動きを見るかぎりじゃ、腕が落ちているようには見えないんだけどなぁ」

 じっとセルシオの動きを見ていたミドルが首を傾げた。
 足の運び、力強さ、剣の動き、動作のキレ、どれを見ても確実に腕を上げているとわかる。さぼることなく続けたことがよくわかる。

「んじゃやろうか」
「いいよ」

 二人は向き合い、合図なく動き始めた。
 ミドルはすぐにセルシオの動きがわかれた時にも及ばないことに気づく。手を抜いているのかと一瞬思うが、真剣な表情を見てそうではないと理解した。
 これはこれで以前の手合わせを思い出せて、ミドルには楽しいものだった。ミドルも力を抜いて、手合わせを長引かせる。
 十五分ほど続いた手合わせは、双方が同時に剣を引いて終わる。

「よくわかった。対人戦は俺たちが担当した方がいいよな?」
「そうしてもらえると助かるね」

 五分ほど休憩したミドルは次にシデルを指名し、今度は本気で打ち合っていく。リーチで勝るシデルの斧、その斧の攻撃の合間に近寄っては引きと繰り返すミドル。
 ミドルのレベルは150ほど。対するシデルのレベルはやや下で150に届いていない。アズよりもレベルが高いのは、兵たちの魔物討伐に参加していたからだ。
 勝負はシデルの劣勢だが、優勢のミドルも余裕があるわけではない。少しでも気を抜けば形勢は逆転する。
 実力が均衡し、セルシオの時とは違う理由で手合わせの時間が伸びる。
 決着はミドルの剣がシデルの首筋に当たり勝ちとなる。常に緊張感を保ったぎりぎりの勝ちで、いい経験となった。勝敗の差は技量だろう。エクストラツール持ちで精進しているとはいえ、斧を使い始めて一年足らずだ。五年以上磨き続けた剣の腕には届かなかった。

「なんとか勝てた~」
「負けたか。もっと鍛えないとな」

 良い勝負だったと二人は握手して離れていく。
 次はイオネだとまた五分休憩して挑もうとしたミドルを、セルシオが止めた。

「イオネはシデルより強いから、もう少し休んで体力回復した方がいいよ」
「ほんと?」

 シデルを見ると、頷きが返ってきた。それならばとさらに十分休憩してイオネと戦い始める。
 流れはシデル戦とは逆で、ミドルの劣勢だ。超接近戦をしかけるイオネに、自分の距離を保てないミドル。耐えて逆転の目を探す形となるが、そのまま押し切られる形で決着がついた。鎧を着ていればもう少し粘れていただろう。

「強かった」
「うちのパーティーで一番だしね。格闘ツールのスキル三段目まで使えるし、破壊力も一番」
「そりゃすごい。救助でも頼りにさせてもらおう」
「全力を尽くしますわ」

 頼もしいと頷く。
 ミドルはイオネに向けていた視線をリジィに向ける。

「リジィっていったっけ? 妹さんはどんなことができるんだ?」
「一応格闘ツールを持たせてるけど、得意なのは雷術。二段目まで成長してて、魔力は俺を超えたよ」
「鍛錬での動きがいいなと思ってたけど、ツール持ってたからか」
「魔物とかに近寄られた時の対処のために持たせたんだよ。あまり使わないから、まだ一段目だけどね」

 雷法が成長すれば既に成長している雷術と合成され、雷導になる。格闘が成長すると雷術と合成され器術(雷)ツールを得る。
 シデルはまだ魔術戦士ジョブを得ていない。炎術ツールが最近成長してようやく器術(炎)ツールを得たのだ。魔術戦士となるのはまだ先のことだろう。
 器術は、攻撃時に炎や氷によるダメージが追加されるスキルを得る。
 似たようなツールに魔法と武器ツールが合成される武法がある。そちらは魔法による属性付与よりも強力な付与ができるようになるスキルを得る。

「セルシオはなにか変わった?」
「俺はトレジャーハンターが成長したことと、治癒魔法と運動と盾ツール買ったくらい」
「治癒できるようになったんだ」
「うん、それなりに役立ってるよ。ミドルは騎士ジョブ成長した?」
「したよ」

 誓いの剣というオリジナルスキルも得ている。これは騎士ジョブ持ちが、職業としての騎士となると得るスキルで、主から認められているかぎりダメージが増加するものだ。同時に取得するスキルで誓いの盾というものがある。こちらは守備力増加だ。
 このどちらか一つを得ることが可能で、盾をあまり使わないミドルは剣の方を選択した。
 アズも炎導と水導を法術師へとジョブ化させていた。事務仕事に集中していて、法術師としては成長していないが。
 鍛錬はここで切り上げ、六人は風呂に入る。
 セルシオはミドルに呼ばれていて、三人に先に寝ていいと言って部屋を出る。

「入るよ」

 ミドルの部屋にはアズもいた。

「アズも? なにか用事?」
「なにがあったか聞けるなら聞きたいと思ってな。対人戦ができなくなったり、肉が食べられなくなるなんてよほどのことがあったんだろ?」

 好奇心からではなく心配しての言葉だと、二人の浮かべる表情からよくわかる。
 けれども命を賭け事に使い金を得たと知られて軽蔑されることを、セルシオは恐れる。

「まっとうな手段でお金を得たわけじゃないとだけ。これ以上はごめん」

 全てを隠そうとはしないのはセルシオなりの誠意だろう。

「わかった、聞かない。じゃあ、ほかのことを話そうか。魔王級にあったこととか聞いてみたいし」
「そっちは大丈夫。あれはね……」

 オオコゲラ山の主に出会う前からのことや、主が来ることになった原因を話していく。
 話はほかのことにも及んでいき、十二時を過ぎても部屋から明かりが消えることはなかった。
 翌朝、セルシオはリジィに起こされ身支度を整えていく。いつものよりも寝ぼけた様子のセルシオに、可愛いという感想を持ったリジィは手遅れなのかもしれない。
 朝食を食べた後にメイドに呼ばれて、昨日も行った客室に行く。
 既にチャンカとモラがいて、テーブルには潜入に使う道具が置かれている。
 皆が座り、チャンカが口を開く。

「返事は?」
「行きます」

 短い問いにセルシオも短く返す。

「そうか。ではこれらの説明をするか。モラ頼む」
「わかりました」

 並ぶ道具は、艶消しの塗り薬、音吸いの指輪、防毒マスク、暗視ゴーグル、伸び縮みするフックつきロープ、簡易意思疎通の指輪。モラは、これらを一つ一つ指差し説明してく。
 艶消しは、その名の通り明かりの反射を防ぐものだ。音吸いの指輪は装着者の半径二メートル弱の音を吸収する。防毒マスクは、セルシオたちの持つ、痺れ薬などの入った煙幕の中も歩けるようになるもの。暗視ゴーグルは、そのままで暗闇を見通す。ロープは所持者の意思により百メートル伸び縮みし、百五十キロまでの重さに耐える。簡易意思疎通の指輪は二つ一組で、対になっている指輪同士で十文字まで意思を伝え合うことができる。連続しての使用はできず、一文ごとに一秒の間を置く必要がある。効果範囲は二百メートル。
 ほかには罠解除の小道具もある。閂などを切るための糸鋸、手鏡、先の曲がった針などだ。
 注意しなければならないものは、音吸いの指輪だろう。周囲の音はなんでも吸い込むので、パートナーとの会話はできないし、見張りの出す音も吸い込むので急に音が消え怪しまれることがある。会話は意思疎通の指輪で解決しているが、音が消えて怪しまれる方はどうにもできないので、見張りがいるところでは一時的に外すことも考えた方がいい。

「音吸いの指輪があれば、仲間への合図も防げるんじゃ?」
「合図が笛といった単純な手段であればな。魔法仕掛けの合図を出す者もいるから注意は必要なのだ」

 セルシオの疑問に、モラは慣れたように答える。実際に何度か質問されたことがあるのだろう。

「これらは貸与であって、君たちの物になるわけではない。不意の事故でなくした場合はとやかく言わないが、盗もうとは思わないように」
「わかりました」
「向かう場所の情報は昨日も見た書類に書かれている。馬車を準備したからすぐに出発してくれ。馬車は街入り口にいる門番に私の名前を出せば持ってきてくれる」
「姫を頼んだ」

 チャンカの言葉に、六人はしっかりと頷く。
 道具と書類のほかに旅の資金を受け取り、部屋を出て行く。モラもチャンカに挨拶して、部屋を出て行く。
 それぞれの部屋に戻り、荷物を持って玄関に集まる。セルシオたちはいつもと同じだが、ミドルとアズは分かれた頃の姿に戻っている。
 リンカブスの紋章は目立つのだ。囮としての役割ではないので、紋章の入った鎧やローブは使わないようにとチャンカから命じられていた。

「売ったり捨てたりしなくてよかったよ」
「ほんとに。思い出としてとっておいたんだけどね」

 ミドルとアズは、数ヶ月ぶりに身につけた鎧やローブを懐かしげに触っている。
 アズは後衛なので防御面はそこまで気にしなくともよいが、ミドルは前衛なため防御力低下は無視できない。なので予備として置かれていた鉄補強されている木の丸盾を借りている。リザードマン強化体を倒して得た剣は今でも使っていて、それは片手でも使用可能で、レベルが上がって筋力も上がっているため難なく扱える。

「んじゃ出発しますか」

 声をかけたシデルに五人は頷きを返し、街の入り口に向かう。
 門番の一人にミドルが話しかける。

「モラさんから馬車を受け取るように言われたんだけど」
「ああ、少々お待ちください」

 その場を離れて五分ほどで、馬車に乗って戻ってきた。
 一般的な馬よりも少し大きな馬に引かれた撥水処理のされた幌馬車で、六人で乗るには問題ないが、全員で寝泊りは無理な広さだ。中を覗くと行き帰りの食料が積まれていた。ほかにはエルメア用の着替えが積まれている。
 操縦はツール持ちのミドルが出来るので問題ない。
 すぐに乗り込み、出発する。目指すはバンダという人口五千人の街で、宰相についた伯爵領にある。湖がそばにあり、避暑地としても使われる。魚の養殖が盛んでもある。そこにある貴族の別荘の一つにエルメアがいるらしいという情報をチャンカたちは得た。
 バンダまでの六日間、少なくない人とすれ違ったが、どの顔にも少なからず不安が浮かんでいた。再び来る争いの気配に怯えている。平気な顔をしているのは傭兵くらいなものだ。その傭兵にしても近づく戦いに気が昂り、荒々しくなっているが。そのことで小さな諍いを何度か起こしつつバンダに到着する。

「俺たちはここで待っているから。気をつけろよ?」

 馬車をバンダから少し離れた林の中に隠し、セルシオとイオネを除いた四人はそこで待機することになる。
 街にミドルとアズの顔を知っている者がいる可能性があり、二人は街に入らないことになっていた。それならばセルシオとイオネが動きやすいようにリジィとシデルも待機させておこうということになったのだ。
 脱出する時もリジィたちに知らせに宿へと行かずにすむので、まっすぐ街の外へ逃げることができる。

「わかってる。吉報を待ってて」
「兄ちゃん気をつけてね」
「あら、私にはなにもありませんの?」

 からかうように言うイオネに、リジィは慌てた様子でイオネの無事も祈る。
 笑みを浮かべて、リジィの肩を軽く叩き、セルシオに出発を促す。

「行ってくるよ」
「姫様をお願いします」
「いたら、なんですけどね」

 いる可能性が高いというだけでいない可能性もあるのだ。そして実のところチャンカたちは、もう一方の候補地の方が当たりではないかと思っていた。
 そんな事情は知らないので、与えられた仕事をこなすためセルシオとイオネは気合を入れて、街へ近づいていく。
感想誤字指摘ありがとうございます

》貴族付きなのに報告の描写が無かったところ
》セルシオがお世話になっている医者には~
以前出かけることを報告する必要はないと聞いて、言わなくていいかと思っています
報告したら止められた可能性が高いですね。それでもアズたちの助けとなるため国を出たでしょうが。友を助ける目的で動くなら契約に反しませんし

》セルシオは一生懸命に生死をギリギリ粘って戦っていく~
このドSめっ! ごめんなさい。書いてる本人が言っていい言葉じゃないですね

》雇いはしないと思いますけど
道場破りは技術奪取が目的なんで、自らを雇えと売り込むことはないですね。誘いも興味がなければ断るでしょうし
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