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神無の世界 作者:赤雪トナ
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2 挑戦者のことを学んでみよう

 アーエストラエアはジョインド大陸南東部にあるダンジョン都市で、人口四十万を誇る世界でも有数の都市だ。ダンジョン都市という特色から外れず、武具を扱う店、ダンジョン探索に便利な道具を並べる店など、挑戦者に向けた店が立ち並ぶ。
 ジョインド大陸は五柱いる神のうち、物づくりの女神ハウアスローと商売の神エルベラッジェの影響の強い大陸だ。その二柱の大神殿もこの大陸にある。気候の変化が緩やかな大陸で、作物の種類と生産量が他の大陸よりも多い。
 ダンジョン都市の歴史は古く、支配者をかえながらも四千年以上の歴史がある。ここアーエストラエアも同様で、さすがに四千年前の建物はないが、千年以上のものならば簡単に見つけることができる。一度でもダンジョン都市に行ったことのある者ならば、歴史深さを感じられたはずだ。
 ダンジョンの管理は王侯貴族と教会が共同で行っていて、常に利権を奪い合っている。アーエストラエアでは両者の力は拮抗しており、表面的には穏やかな都市経営が行われている。
 セルシオのような一般人には大きな街という以外には無関係な話だ。

 街入り口を守る警備兵に胡散臭いものを見る目で見られつつ街に入る。止められないのはきちんと入街料を払ったからということと、セルシオのような人間が街に入るのは珍しくないからだ。
 目指す場所はダンジョン管理所だ。ダンジョンについて何も知らないセルシオは、真っ直ぐダンジョンを目指そうとしていたのだが、周囲から聞こえてきた会話から、ダンジョンに入るためにはダンジョン管理所に行って登録しないといけないと知った。
 初めて来る街なので、ダンジョン管理所がどこにあるのかわからない。誰かに聞けばすぐにわかる場所にあるが、話しかけることに躊躇いがあり、一人で街を流離う。
 奥まった場所にはないだろうと予測して一時間歩き回り、ようやく街の西にそれらしきものをみつけた。
 武具を身に着けた者たちが出入りしているそこを一分ほど観察して、意を決して建物に入る。
 入り口そばに立ち、中を見渡す。正面奥にもっとも人が出入りし、やる気に満ちた人や汚れた人や怪我をした人などがたくさんいる。右手には階段があり、二階へのものと地下へのものが見える。そばには休憩所らしきものもあり、真剣に話している人や笑っている人がいる。左手には売店とカウンターがあり、カウンターの方が広く場所をとっている。

「どうされました?」
「あ、えっと」

 入り口から動かずにいるセルシオに管理所職員が話しかける。初心者でどう動けばいいのかわからないのだろうと、セルシオの現状を把握している。

「ここってダンジョン管理所ですか?」
「そこからですか」

 ここがどこかもわかっていなかったとは予測していなかった。

「はい、ここがダンジョン管理所です。登録にこられたのですか?」

 こくこくと頷いて口を開く。

「どうすれば登録ってできるんでしょうか?」
「あちらにカウンターが見えますでしょう? あちらで登録にきたと言ってもらえれば大丈夫です。文字は書けますか?」
「いえ」
「それならばそのことも伝えてもらえれば、職員が必要事項を書き込んでいきますので、質問に答えていってください。ダンジョンについての説明も受けられますから、聞き逃すことのないように注意してください」

 職員に小さく礼を言ったセルシオはカウンターに行って、両側頭部から角の生えた女に用件と文字が書けないことを告げる。
 生えている角は緑色。これは女が風人だと示していた。風人は亜人の一種で、風を読むことに長けた種族だ。亜人はほかに火人、地人、水人、獣人といる。

「わかりました。まずは登録料金二千コルジいただけますか」

 セルシオがお金を入れた袋をリュックから取り出す間に、職員は天秤を取り出す。置かれた天秤に、硬貨を置いていき必要分を職員に渡す。

「二千確かにいただきました。では代筆いたします。答えたくないことがあれば、答えずともかまいませんので。最初はお名前年齢出身国を聞かせてもらえますか」
「セルシオ・カレンダ。十六才。ここマレッドの生まれ」
「生まれた村の名前は?」
「それは答えたくないです」

 これから家族との縁を切って生きるという意味も込めて、村のことは答えない。

「わかりました。では」

 質問の拒否を追及することなく次の質問に移り、いくつかの質問を続けていった。
 書類が完成し、職員はセルシオに手を出すように言う。農作業で硬くなった手に職員は針を当てる。

「挑戦者の証というべき、腕輪を作るために血が必要となります。その血をこの針から採取します。少し痛いかもしれませんが我慢してください」

 身構えたところに、チクリとした刺激が指先から感じた。

「ありがとうございます。そのまま腕を伸ばしてください」

 伸ばした腕に職員は針を置いて、トランプサイズの箱を針の上から腕に当てる。箱には紐がついており、職員の足下へと伸びている。
 箱がほんのりと光を発すると、セルシオは腕に何かが巻きつくのを感じた。

「腕を戻してくださって結構です」

 戻した腕にはめられた腕輪をしげしげと眺める。
 磨かれた銀色の蔦が五本絡みあいながら腕を一周している。三つの小さな宝石が赤青黄と並んでいる。肌に触れている部分からは冷たさは感じない。重さもない。
 思い出してみると村に来た傭兵や人買たちも、この腕輪をはめていた。

「それは挑戦者ならば誰でも身につけているものです。挑戦者と証明するだけではなく、色々な機能もありますので、これからそれを説明させていただきます」

 セルシオは腕輪から視線を放して頷く。

「まずは三つの宝石に全てに指を当ててオープンと言ってください」
「オープン」
「次に目を閉じてください」
「……これは!?」

 言われるまま目を閉じると、何も見えないはずの視界に文字が浮かぶ。不思議なことに文字が読めないはずのセルシオでも、浮かんだ文字を理解することができた。

「瞼の裏に文字が浮かんでますね? 上から名前年齢性別と並んでいるはずです。間違いないか確認してください。わからないことも浮かんでいると思いますが、説明いたしますので今は気にしないでください」

 名前:セルシオ・カレンダ  年齢:16  性別:男  出身:?
 職種:帰らずの挑戦者  ジョブ:なし  ツール数:0  スキル数:0
 レベル37  体力54/300  気力:45/190  状態:疲労
 筋力98 運動87 器用74 魔力40 生命84

「目を閉じたままでいいので聞いてください。わかる範囲での間違いはありましたか?」

 セルシオは首を横に振る。

「では説明を始めます。職種というのは現在のあなたの職業を表しています。商人ならば商人と、傭兵ならば傭兵と表示されます。あなたは挑戦者になりましたから、挑戦者と書かれているはずです」
「帰らずの挑戦者って書かれてるけど」
「職業の前になにかがつくのは珍しいことではありません。偉業を成し遂げた挑戦者ならば、素晴らしき挑戦者と出ることがあります。帰らずということは、どこかへ帰らないと決めたということでしょう」
「……」

 無言になったセルシオを気にせず、先に進める。

「次のジョブツールスキルは後ほど説明しますので飛ばします。レベルというのは現在のあなたの強さを示しています。一般成人男性の平均が15です。挑戦者として一人前に見られるのは100を過ぎてからです。一流と呼ばれる挑戦者たちはレベル500あたりです」

 セルシオのレベルが37で挑戦者になりたてにしては高いのは、野犬と人買の仲間を殺したからだ。レベルという面から見ると野犬はともかく、人買の仲間にセルシオが勝つのは困難きわまりなかったが、相手が油断していたおかげで勝つことができた。
 人買の仲間のレベルは200近かった。だが頭部に連続しての攻撃はレベル差を覆すに十分だったのだ。このように急所や弱点をつけば格上でもどうにかなることがある。

「体力というのはあなたの命を数値化したものと思ってください。それがゼロになるということは致命傷を負って気絶したということになります。そこからさらに攻撃を受けると死にます。気力はスキルというものを使うのに必要で、そのほかに精神的な余裕を表す数値でもあります。ショックなことがあると減ります。これが0になっても死ぬことはありませんが、すごく疲れているということなので、休むことをお勧めします。状態というのは現在あなたがどういった状況なのか示します。疲れていれば疲労、毒を負っていれば毒、病気ならば症状の名前が表示されます。おそらくですが、現在は疲労と出ているのでは?」

 セルシオはこっくりと頷いた。見た目にわかるほど疲れているのだ。そのように表示されているのだろうと簡単に予測できた。
 後で休むことを勧めようと思いつつ続ける。

「筋力というのはそのまま筋力の強さです。数値が高いほど重いものが持てますし、武器を振った時のダメージ量にもつながります。運動は身のこなしです。数値が高いと、速く動け柔軟な動きができます。器用はそのまま器用さです。数値が高いと罠の解除がやりやすくなりますし、物事の習得も早くなります。魔力は魔法と魔術に関連しています。数値が高いとそれらを使った時、より高い効果が期待できます。最後に生命。これはしぶとさですね。高いと毒を受けにくくなりますし、病気にもなりません。またそれらの症状が軽くなります」

 以上なにか質問はと職員は尋ねる。
 セルシオは聞いたことを一つ一つ噛み砕いていき、理解できなかった部分を浮き彫りにしていく。黙ったままの時間が二分、職員はじっとセルシオを見たまま待っている。

「魔法と魔術ってところがわからなかった」

 閉じていた目を開いて答える。

「それについてはツールというものの説明をする時に話します。ほかには?」
「そうですか、じゃあ大丈夫」

 では次ですと言って職員は説明を再開する。

「また目を閉じて、真ん中の宝石を二度指で叩いてください」

 トントンと青い宝石を叩くと、画面が替わる。文字と数字だらけだった先ほどとはちがい、今度は空白だらけだ。
 ツール枠という文字の下に四つの枠があり、その隣に所有ツールという名の四つの枠がある。さらにその隣には所有スキルとあり、こちらは空白枠がいくつも並んでいる。

「今見ているページはツール用のページです。ツールという言葉に聞き覚えは?」
「ない」
「ツールとは擬似才能とも呼ばれるものです。ツールには多くの種類があり、例をあげると戦闘用ツール「剣(片手)」「弓」「盾」「鎧」。探索用ツール「鑑定」「察知」「解除」「サバイバル」。法術用ツール「炎法」「炎術」「水法」「水術」。生活用ツール「文字」「数字」「操縦」「天体知識」などなど。今上げた例でも全体の一パーセントもありません。これらをツール枠にセットしますと扱い方が頭に浮かびます。挑戦者はこのツールを使い、ダンジョン探索を有利に進めています」

 ここで一息ついて、再び口を開く。

「ツールはダンジョン管理所の売店で一つ千コルジで買えます。買えますが、無限に持てるわけではありません。所有ツールの枠数までしか持てません。レベル49までは枠は四つ、レベルが50を超えるごとに所有枠数は三つずつ増えていきます。限界まで持っている時に新たに買おうとしても買えません」

 わかりましたかと問い、セルシオが頷くのを見て続ける。

「ツールはツール枠に入れて使っていると成長します。0から始まり五段階まで。買ったばかりのツールは0で、一度でも使うと一段階に成長します。ツールが成長しますとスキルというものが頭に浮かぶことがあります。これはツールの特色が形となったもので、使い方次第でダンジョン探索がさらに有利になることでしょう。ツールと同じように、スキルも使い続けていると成長します。スキルにはパッシプスキルとアクティブスキルの二種類がありまして、パッシブの方は自動的に効果を現しますが、アクティブの方は自ら使おうとしないと効果を発揮しません。それと使うと気力を消費します。あとはそう多くはないのですが、使い続けているとアクティブからパッシブへと変化するスキルもあります。スキルについては実際にツールを得て、使ってみるのが一番です」

 使い方が自然とわかるので、実際に使った方が口で説明を受けるよりわかりやすいのだ。
 中断するのにちょうどいいのか、ここで止める。一拍置いて口を開く。

「ツールに話を戻します。ツール複数をツール枠にセットしている時、成長させると複数のツールが一つにくっつくことがあります。これをツール合成と呼びます。条件が整うと腕輪が震えて音を発しますので、ツール用ページを開いて確認するといいでしょう。ページを開くと、ちょっとした説明がされて合成するか聞いてくるので許可不許可をご自身の判断で決めてください。合成例としては「剣(片手)」「剣(片手)」のツール二つが二段階目に成長すると「双剣」というツールになります」

 この話はお金のないセルシオには当分縁のない話だろう。

「このツール合成が説明をとばしたジョブに関係してきます。ツール合成でジョブツールというものが得られるのです。例えば武器ツールのいずれかと「鎧」のツールが二段階目になると「戦士」というジョブツールを得ます。これをツール枠にセットしますと、ジョブの欄に戦士と表示されます。ジョブにもスキルがあります。ジョブツールもたくさんあります。なにか仕事をする時に、特定のジョブツールを要求されることもあります。ツールに関してはこれくらいですね。ああ、そうでした。先ほど聞かれた魔法魔術これもツールの一種です。魔法は補助的なツールで、怪我を癒したりできます。魔術は攻撃的なツールで、炎や氷を飛ばしたりできます。詳しいことは自分で調べてみるか、売店の職員に聞いてみるのがよいかと」

 再び質問はあるかと聞かれ、考えたセルシオは今度はなにも思い浮かばず、首を横に振る。

「では黄色の宝石を二度叩いてください。またページが替わりましたね? そのページは持ち物用のページで、あなたが持っているものとお金と魂稀珠が表示されるようになっています」

 セルシオに見えている画面には、0コルジと書かれた小さな枠と、その下に魂稀珠(輝)(大)(中)(小)と書かれた四つの枠と、さらにその下に大きな空枠が見えている。
 魂稀珠とは、生き物が死んで一日経つと変化する珠のことだ。セルシオが殺した野犬や男も一日経って魂稀珠に変化していた。
 変化は。魂の質と大きさで四種類にわけられる。野犬は小さな珠が五つに変化し、男は大サイズの珠二つと中サイズ五つに変化した。
 そのまま魂稀珠を拾わずにほったらかしていると、液体に変化して土に溶けていく。野犬と男の魂稀珠も溶けていた。
 この魂稀珠は魔道具を作る材料となるため、店に売ることができるのだ。
 小が一つ十コルジ、中が二百コルジ、大が四千コルジ、輝が二万コルジとなる。輝魂稀珠は中々手に入らず、最後に市場に出たのは二十年前でたった一つだけだ。使われずに残っている輝魂稀珠には値段以上の価値がつくことだろう。
 家族が死んで変化した魂稀珠を売ることは人の道に外れるとされるため、ほったらかしておくことが常識とされている。たまに別れを惜しみ保存の魔法をかける者もいるが、売るようなことはしない。

「なにも入れていないので、空白ばかりです。腕輪に入れてみましょう。まずはお金を入れてみましょうか。目を開いて、お金を何枚でもいいので手に持ってください。持ちましたね? では持った硬貨を腕輪に当てて「ストア」と言ってみてください」

「ストア」

 言うと指から硬貨が消えた。

「目を閉じて持ち物用ページを見てみてください。お金の枠に入れた分のコルジが書かれているはずです」

 職員の言ったとおり、三コルジと表示されていた。

「お金を出すには必要分を口に出してアウトと言ってください」
「一コルジアウト」

 腕輪から硬貨が一枚湧き出て床に落ちる。

「お金の収容は一箇所にまとめられていれば、一度に全てを入れることができますので一枚一枚入れていく必要はありません。この街のようなダンジョン都市での買い物ですと、腕輪からお金を出さずともできますので覚えておくとよろしいかと。持ち物や魂稀珠も同じように腕輪の中に出し入れすることが出来ます。ですが上限のないお金や魂稀珠と違って、持ち物は上限十個までですので、大事なものだけを入れるようにするといいでしょう」

 この品物収容機能技術を応用したのが、セルシオの持つリュックなのだ。

「腕輪に関しての説明は以上です。オプションという追加機能がありますが、そちらは別途お金が必要となりますし、その時に説明を受ける方がいいと思います。あとは注意点として、一年に一度の調整が必要ということです。ですので一年後までにカウンターに来て、腕輪の調整を依頼してください。現在綺麗な銀色ですが、一年経つと鉛色に変色しますから調整時期を間違うことはないでしょう。調整料金を千コルジいただくことになっておりますので、ご了承を。なにかわからなかったところはありましたか?」
「腕輪が壊れたりした場合はどうすれば?」
「一年以内ならば壊れることはありません。そういった報告は今まで一度もありませんから。なにをしても曲がらず溶けず砕けずという頑丈な腕輪ですので。一年を過ぎると先ほど説明した機能が使えなくなりますが」
「機能が使えなくなるってことは入れたものを出せなくなる?」
「ええ、そのとおりです。調整を受けるとすぐに出せるようになりますけどね」

 腕輪について聞くことがなくなり、ダンジョンの説明に移る。

「ダンジョン。その誕生は約五千年前といわれています。地下三百階まであり、そこまで到達すると次は天の塔への挑戦が認められます。天の塔最上階はわかっていません。到達した人がいませんから」

 ダンジョンと同じ三百階という説もある。だがただの予測に過ぎず、神に聞いて答えが返ってきたという記録もないので、どれくらいあるのかわかっていない。

「ダンジョン内には魔物が出てきて、深く潜るほど魔物は強くなります。外とダンジョンの魔物には一つ違いがありまして、倒すとすぐに魂稀珠に変化します。消えるのも十五分と早いのでご注意を。また魔物を倒した時に魂稀珠のほかに様々な形のものを落す場合があります。それは材料アイテムと言いまして、店に売ることができます」

 売る際には管理所の売店に売るか、外の店に売るかのどちらか選べる。外に持っていく利点は交渉次第で値段が高くなるということ。欠点はその逆だ。管理所の売店では価格に変化はなく、交渉を考えずともよい。
 初心者は大抵管理所に売る。セルシオも説明を受けて管理所に売ると決めた。

「ダンジョンは五十階ごとに内装がかわります。一階から四十九階までは石造りのダンジョン、その次からはご自身の目でお確かめください。時々五十階ごとにボスフロアというところに行く人がいます。そこではそれまで出てきた魔物よりも強い魔物が一匹だけ待ち受けていますので、ご注意を。退くか進むかは挑戦者の判断任せとなっております。ボスクラスの魔物を倒した場合、必ず品質のよい武具が得られますから挑戦する人が多いようです」
「品質のいい武具?」
「炎をまとう剣や魔術に耐性のある盾といったものですね。いろいろとあります。お金さえ払えばお店でも買うことができますよ」

 品質が良いということは当然の如く値段も高く、残金千三百コルジのセルシオには全く手が出せない。そんな武具を買うよりも先に、宿代を稼ぐ方が最優先目標だ。このままでは二泊しかできない。

「ダンジョンを進んでいると宝箱を発見することがあります。宝箱には必ず罠が仕掛けられていますので、解除できなければ開けない方が安全でしょう。宝箱を開けると、六角形の金のメダルが手に入ります。それはそのままでは役立たずです。鑑定ツールを持っている者か、鑑定屋に見てもらうと、なにかしらのアイテムに変化します。武具であったり、道具であったりです」

 そういった道具知識は管理所の資料庫にまとめられている。ほかに魔物のことや罠のこと、さらに地理歴史伝承といったダンジョンに関すること以外も知ることができる。お金を払えば誰でも見ることができるので、文字が読めるようになれば行く価値はある場所だ。

「次にダンジョンの歩き方です。まずは左手をご覧ください。今も挑戦者たちが出入りしている部屋が見えますね? あそこがダンジョンへの入り口となっています。あの部屋には出発の岩と呼ばれる青い岩がありまして、その岩に触れるとダンジョンへと移動します。移動した先に似たような赤い岩がありまして、その岩は帰還の岩と呼ばれていて、触るとあの部屋に帰ってくることができます。ダンジョンを進みますと、同じような岩があります。それに触ると地下二階へと移動します。進むも戻るもこれの繰り返しとなります」

 注意点としては二階の帰還の岩に触るとあの部屋に戻るのではなく、一階の出発の岩に戻るということだろう。

「移動ってどういうこと?」
「魔法に瞬間移動というスキルがありまして、それは距離の長さに関係なく一瞬で移動できるのです。それと同じことが出発の岩と帰還の岩でも起きています。実際に触ってみるとどのようなものかわかりますよ」

 知らないものばかりだとセルシオは感心している。

「ダンジョン内には魔物という危険のほかに、罠という危険もあります。浅い階層では悪戯のようなものですが、深くなると即死するようなものも設置されますので、罠関連のツールが必須となります。ダンジョンを進む際に注意することとしては、ほかの挑戦者たちと会った場合にどうするかというものがありますね。友好的ならば情報交換やアイテム交換ができますが、中には狡猾な人もいてほかの挑戦者を囮にしたり、殺してその挑戦者が持っている道具を奪ったりする人もいます」

 特に用事がなければ一礼してすれ違うのが普通だ。なれなれしく近寄ってくる者には注意が必要となる。
 職員は、ほかの挑戦者がピンチに見えても助けを求めていなければ加勢はしない、といったマナーをいくつか話していく。

「ダンジョン内であったことにダンジョン管理所は責任を持てませんので、争いになりかけたらさっさとダンジョンから出てしまうのも対策の一つです。ほかの対策として仲間を見つけて複数でダンジョンに入るのも手ですね。一人よりは二人、二人より三人と人数が多い方ができることは多いですから、いい解決方法を思いつくかもしれません」

 パーティーを組んでダンジョン探索するのが、挑戦者の常識だ。
 パーティーを組むということに理解はできるが、気持ちが納得せず頷けないでいる。
 微妙な表情のセルシオに、頷いた職員は一つ提案をする。

「説明は以上で終わりなのですが、四百コルジでアドバイスができますが、どうでしょう? 一人で挑むつもりならば聞いて損はありませんよ」

 いつもはこの提案はしない。セルシオがなにも知らずにここに来たとわかりやすいくらいにわかったため、ちょっとした親切心から提案したのだ。タダで教えるのは一人の挑戦者に肩入れしたと、自身の査定に響いてしまう。
 持っているものは初心者ではないのだが、職員の語る知識に終始熱心にかつ感心していたことやほかの挑戦者の雰囲気と比較して、初心者なのだろうと判断した。
 その提案に所持金の少なさからセルシオは悩むも、少しでも助けになればと頷いた。
 腕輪を使いお金を支払い、アドバイスが始まる。

「まずは十階までに出てくる魔物の情報です。といっても毒を使ってくるといった厄介な魔物はいません。ジェリーイエロー、ビッグホップ、大ネズミ、爪モグラ、ブロンズホーネット、牙トカゲ、この六種が十階までに出てくる魔物です」

 それぞれの魔物の特徴や戦い方を説明し、セルシオのレベルを尋ねる。

「37と書かれてたけど」
「へえ」

 これには予想外と職員は驚いた。十に届くか届かないかと予想していたのだ。
 誰かに師事していたことがあったのかもしれないと考える。そこから想像は広がり、どこかの山奥で老人と二人で暮らし、その老人に鍛えられ、老人の死後話に聞いてたダンジョンに来てみたのだろうと空想する。持っている道具は老人の形見で、知識がないのは老人が全てを伝える前に死んでしまったからだと妄想し、二人が過ごしていたであろう静かな生活に胸を打たれた。
 そんな勘違いな妄想を表に出さず、話を続ける。

「そのレベルならば六階まで問題なく進めます。大ネズミまでならば苦労なく倒せるでしょう。爪モグラから苦労が始まるかもしれません。一番安い鎧でも買えば、苦労はさらに減ると思います」
「一番安い鎧ってどれくらいかかりますか?」
「そうですね、一番安いものは鎧というより服なんですが、獣皮製のレザーコートですね。一着八百コルジです」

 残金九百なセルシオにとっては大金だった。

「お金が貯まったら買うことにします」
「頑張ってください」

 財布事情を察した職員はこう言うしかなかった。

「そうですね、お金といえば魔物が落す材料アイテムは傭兵ギルドに持っていくと通常より高く買い取ってくれる場合があります。傭兵ギルドには様々な依頼が持ち込まれていて、その中に材料集めというものがあり、その依頼の半分近くがダンジョン内で手に入るものなのです。だから売店に売る前に傭兵ギルド行って依頼を眺めてみるのもいいかもしれません」

 傭兵ギルドというのはその名のとおり傭兵のために場だが、それだけではなくちょっとした仕事を求める人にも門戸を開いている。

「話を戻しましょう。ダンジョン十階に到達レベルは一人で進むならば五十は必要です。仲間がいれば三十ほどで十分なのですが。まあ今は一人で進むということを前提にして話していますので、関係ない話ですね。十階までの罠は引っかかっても大した被害にはなりません。だからどういったところに罠があるのか学べる機会でもあります。宝箱の罠も同様で、見つけたら被害を気にせずどんどん開くことをお勧めします」

 十階までの出発の岩のある方角を教わり、ダンジョンの進み方のアドバイスはこれで終わる。

「あとほかにはお勧めツールですね。最初に買うとしたら「文字」がいいと思います。文字が読めると本を読んで知識を得ることができます。知識はあって困るものではありません。ここの地下に資料庫という部屋があって、そこで有料ですがダンジョンだけではなく様々な本のを読むことができます。そこで得られる知識はダンジョン探索を大いに助けてくれるはずですよ。あと文字ツールは一ヶ月セットしておけば、ツールがなくても共通文字の読み書きができるようになるという利点もあります」

 文字ツールのように、セットしておくだけで学習できるツールはほかにもあり、その効果だけを目当てに挑戦者の腕輪を入手する者もいる。
 セルシオにとってのお勧めツールはほかに「剣」もあるのだが、この職員はセルシオが師匠持ちと勘違いしているので言うことはなかった。

「持っていく道具は治癒薬を一つは常備しておくことが常識です。余裕のある階でも思わぬ怪我を負うことがありますからね。ほかには明かり粉も必須です」

 明かり粉というのは、使用者の周囲にばら撒くと六時間月明かりよりも明るく照らされるという道具だ。ダンジョン内は明かりのないところが多く、こうした明かりは必須なのだ。カンテラも売られてはいるが、手が塞がるため明かり粉のほうがよく使われている。
 表情を真剣なものに変えて、最後にと続ける。

「決して無理はしない。もう少しだけなら大丈夫という時が引き返し時です。浅い階層なら多少の無理は通せますが、深くなっていくとその考えが命とりになります。覚えておいてください。死んだらなんにもなりません。魔物から逃げても、生きてさえいれば勝ちです」

 ダンジョン管理所で働いて挑戦者たちを見続けてきた職員の感じたことだ。挑戦者たちも同様の考えの者が多い。無茶無謀な考えの成功者はほとんどいない。天性の挑戦者くらいだろう、そんな無理を通しきれる者は。

「そこを踏まえて、もう一つアドバイスです。今日は宿をとって休みなさい。ここの三階四階に駆け出し専用の宿があります。サービスなど皆無ですが、一泊二百と格安ですから休むだけなら十分なところです。ここで悪さをする人はほとんどいませんから、安全面も保障されています」
「でもお金稼がないと」
「さっき言ったでしょう無理は命取りだと。状態疲労になっているそんな有様でダンジョンに入るなど大馬鹿もいいところです」

 断言する職員に説得力を感じたセルシオは押されるようにこくこくと頷いて三階へ向かう。
 そんな背に職員は、都会はいろいろと大変だけど頑張ってと応援の篭った視線を送る。セルシオの実際の出身地と職員の考えている出身地は違うが、田舎という部分は変わらないのであながち間違った応援でもなかった。
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