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  幸せのありか 作者:smile
文明と魔力
「さて、そろそろ本題に戻ろうか。」
アレスはパン、と手を叩き、軽く姿勢を直しながらそう言った。
「・・・の前にユリ、君に一つ質問があった。」
「何?」
「君はこれからどうしたい?」
真剣な目でアレスがこちらを見る。
考えていないわけではなかった。もし元の世界に戻れないとしたら、どう生きていきたいのか。
けどいくら考えても、どうでもいい、という結論に達してしまう。
どうせこの世界で普通に暮らす事は出来ない。
全くアレスは残酷な質問をするものだ。
しかし私がその答えを見つけない限り、彼はいつまででも私に付き合ってくれるだろう。
それだけは駄目だ。他人に頼り切った生き方なんて惨めなだけである。
「一人で生きたい。」
私がそう言うと、アレスは困ったように私を見た。
無理なのはわかっている。私が黒器である限り、人々は私を人として見ないのだろう。
その中で一人生きていくのは不可能に近い。
まるで私に眠る魔力は原子力のようだ。生活を豊かにするが、時に兵器にもなる。
「・・・まるで歩く核爆弾だよ」
そう呟き、自嘲気味にふっと笑えば、アレスは目を細め、意味がわからない、といった顔をする。
きっと核爆弾という言葉なんて知らないのだろう。
黒器が供給する魔力だけで生きてきた人たちだ。別の資源や力を探そうとはしなかったんだと思う。
その時、私はある事に気がついた。

「ねえ、この世界の人たちは魔力なしでは生きられないの?」

そう。そもそもそこが、おかしかったんだ。この世界の人は黒器から出される魔力に依存し過ぎだ。
唐突に質問され、アレスは驚いた様子を見せる。
そして苦笑気味に言った。
「何を言っているんだい、ユリ。魔力なして人間が生きられるわけないだろ?
今までずっと魔力に頼って生きてきたんだ。病気の治療も、食べ物の生産も。
魔力が無くなったら私たちは滅ぶしかなくなる。」
――なんとなくわかった。
この世界の人は神に与えられた力に依存し過ぎて、文明の発達が遅れてしまっているのだ。

「それがおかしいんだよ。私のいた世界ではそんなものに頼っている人なんて見たことない。
代わりに地下資源や自然エネルギーを使って生きてる。
そして私の世界の人たちはいずれその地下資源が無くなることも知ってる。
だからまた代わりになるものを自分の世界から探して、それを使える形にしようと日々研究してる。
病気の治療だって、最初は沢山の人が死んでいったけど、そういう前例を使って
治療方法を探し出してる。最初から全て上手くいったわけじゃない。
けど長い歴史の中で、少しずつ知識が積み重なって、
今では豊かな生活を送ることも可能になった。
魔法は無いけど、文明としてはこの世界より、私の居た世界のほうが進んでると思う。
これってどういうことかわかる?」

アレスがじっとこちらを見つめている。そしておもむろに口を開き、
「・・・要するに私たちは、魔力に頼り過ぎて進化が遅れていると?
ユリの居た世界では誰一人魔力を使ってないと?」
「そういうこと。私の知る限り、魔法だのなんだの本気で信じる人は精神科に連れてかれるよ。」
「・・・そうなのか。」
「まあ、どうするかはアレス達の自由だけど。
ただ、黒器である私はきっとこれを言う権利がある。おまえら私に頼んな、ってね。
正しくは私の中にある力に、だけど。」

最後に少し茶化したように言えば、アレスがふっと笑う。
「ユリの言うとおりかもしれない。私たちは少し神の力に頼り過ぎているのかもしれない。」
「魔力が必要ないぐらい文明が発達すれば、私も家に帰して貰えるかもね・・・。」
自分でそう言ってなんだか悲しくなった。文明の発達とはそんなはやく進まないものだ。
私の生きている内に魔力が必要のない世界になど、なるはずがない。
はあ、とため息をついた瞬間、アレスに肩を揺さぶられる。
「そうだよユリ。きっとそれが君の唯一家に帰る方法だよ!
やろうユリ。世界を変えよう!」

アレスはキラキラした目で、漫画の主人公みたいな台詞を言った。
無理だ、と口から出かけたが、希望に満ち溢れた彼の目を見て、
私はうっ、と言葉を詰まらせる。
一国の王が言うのだ、ただでは済まないだろう。何かしら動くはず。
自分の発言がここまでアレスに影響を与えるとは思わなかった。

――しかしこの話は壮大すぎるぞ、アレス。


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