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オークすぴりっとガール~その美少女の中身はオークです~ 作者:やみすぴ

第7章

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第43話「シオンの歌」

 アルキメス王国の王都の崩壊。
 そんなニュースが入ってきたのは今から数日前の話だ。
 なんでも王都のあった場所が一日で荒野と化したというのだ。
 崩壊した理由は不明だが、そこには何一つ残っていなかったという……。
 噂ではアルキメス王国の国王が禁忌の魔法に手を出したのが原因だと言われているようだが……。
 ちなみに王都以外の街に被害はなかったそうだ。




 アルクラン暦1101年 9月。

 試験休みが終わり、学院では授業が再開していた。
 アルキメス王国の王都の崩壊というとんでもないニュースがあったが、今のところ聖王国には表だった影響は出ていない。
 学院でも予定通りに今月の試験を行なうことになっている。

「次の試験は他校と合同で行なうことになっておる、詳しい内容は前日に伝える」

 ビヒタス先生はそう言っていたが、いったいどこの学院と合同で行い、何をするつもりなのか?
 考えてもわからないし、今は自分のできることをして準備しておこう。

「さて、今日も特訓に行くか」

 授業が終わり放課後になると、俺は一人で旧校舎へと向かう。
 旧校舎の中に入ると階段を上り、空き教室の一室に入る。

「あっ、シンクさん」

 教室の中にはミントさんと……。

「来ましたね、シンク様」

 眼鏡をかけたシオンが待っていた。

「それじゃあ二人とも今日も頼む」
「はい、任せてください」

 ミントさんは教室の隅に置かれているピアノの椅子に座ると、曲を弾き始める。
 その曲は俺でも知っている有名な曲だ。
 俺はミントさんが奏でる曲に合わせて歌い始める。

「シンク様、音程がずれています」

 するとさっそくシオンに注意される。

「そこは『アァー』ではなく『あぁ~』と下げてください」
「わかった、次は気をつけるよ」

 それから俺は何度も歌を繰り返し、注意された箇所を直していく。
 なぜこんなことをしているのかというと、トルネンブラの力を制御するには音楽に関する技術が必要だと夢で女神が言っていたからだ。

「シンクさん、最初の頃と比べるとすごく上手くなりましたね」

 休憩中にミントさんが話しかけてくる。

「シオンとミントさんのおかげだよ」

 ルクアーヌから帰ってきてから、俺はシオンに音楽の技術を身につける方法を相談した。
 その翌日からピアノが弾けるミントさんに手伝ってもらって歌の特訓をすることになったのだ。
 ちなみにミントさんには俺の音痴を治すための特訓だと伝えてある。

「私はただピアノを弾いてるだけだし……ほとんどシオン様のおかげですよ」
「そんなことはありません、シンク様の上達はミントさんのピアノがあってこそです」

 巫女として聖歌を歌っていただけあって、シオンは歌に関して的確な指示をしてくれる。
 ミントさんも子供の頃から趣味でピアノを弾いていたらしく、その腕前は結構なものだ。
 この二人がいなければ、俺は今も自分の音程が合っているのかさえわからなかっただろう。

「シオン様に褒めてもらえるなんて……ピアノやってて良かった♪」

 ミントさんが嬉しそうな顔でそう呟く。
 そういえばミントさんって、巫女だったシオンのファンなんだっけ……。
 せっかくだし、同じ巫女であるリコリスのことを聞いてみるか。

「ミントさんは、女神教団の巫女のリコリスって知ってる?」
「はい、シオン様が抜けてから入ってきた巫女ですね、とても美しい歌声で新人なのにファンもかなり多いようです」

 一度聞いただけだが、リコリスの歌声は聴く人を魅了する美しさがあった。
 今ならファンが多いというのも納得できる。

「私も実際に歌を聴きましたけど、彼女の実力は本物だと思います……だけど、やっぱり私はシオン様の歌の方が好きです」
「そういえば、シオンの歌ってちゃんと聴いたことないな」

 教えてもらっている時に少し歌うことはあるけど、シオンがちゃんと歌っているのは聴いたことがない。

「えっ!?それはもったいないですよ!!聴きましょう!!今すぐ聴きましょう!!」

 ミントさんがすごい勢いで俺に近づいてくる。
 これは断れない感じだ。

「お、おう……シオン、歌ってもらってもいいか?」
「別に構いませんけど、何を歌えば……」
「それなら私の選んだ曲をお願いします!!」

 そう言って、ミントさんはシオンに曲名を伝える。
 どうやらシオンが巫女だった時に歌っていた聖歌のようだ。

「その曲、ミントさんは弾けるんですか?」
「はい!!シオン様の曲はすべて暗記してピアノで弾けるようにしてあります!!」

 そこまでしてるなんて、ミントさんは本当にシオンの歌が好きなようだ。

「わかりました……では、久しぶりに歌わせていただきます」

 シオンは立ち上がると眼鏡を外す。

「ミントさん、お願いします」
「はい、お任せください!!」

 ミントさんがピアノから曲を奏でると、それに合わせてシオンが歌い始める。
 その歌声からはリコリスとは違う魅力を感じた。
 リコリスの歌声は神秘的で美しいものだったが、シオンの歌声は美しさの他に温かさを感じるのだ。

「これがシオンの歌……」

 言葉では説明しにくいが、シオンの歌には包み込まれるような心地よさがあった。
 それだけじゃない、何かが込み上げてくるような……。

「あの……シンク様?」

 歌が終わると、シオンが心配そうな顔で俺を見ていた。
 気がつくと俺の目からは涙がこぼれていた。
 歌を聴いて涙が出てくるなんて、生まれて初めてだ。

「シオンの歌に感動したみたいだ……こんな心に響く歌は初めて聴いたよ」
「あ、ありがとうございます」

 ここまで素晴らしい歌を聴かされると、ミントさんがシオンのファンになったのもわかる気がする。

「ミントさんの言ったとおり、シオンの歌を聴いて良かったよ」

 そう言って、ミントさんの方に視線を向けると……。

「うっひょぉぉぉ!!シオン様の生歌ぁぁぁぁぁ!!久しぶりに聞いたけどやばすぎるぅぅぅぅぅ!!はぁはぁ、今夜は眠れないかもぉ!!」

 めっちゃ興奮してた。




 今日の特訓が終わり、俺達は旧校舎の外に出る。
 空はオレンジ色に染まっており、夕方になっていた。

「すみません、今日はちょっとはしゃいでしまいました」

 あれからしばらくミントさんは興奮したままだった。

「まあそういう時もあるさ、気にしなくていいよ」

 正直ちょっと驚いたけど、それだけシオンの歌が良かったってことなんだろう。

「それではカティアちゃんと約束があるので、私はこれで……」
「ああ、今日もありがとな」
「いえいえ、シンクさんとシオン様のお役に立てるのなら、私も嬉しいです♪」

 ミントさんはそう言って、にっこりと笑う。
 その顔は本心で言っているように見えるが、さすがに手伝ってもらうだけでは悪い気がする。

「ミントさんも俺に何かして欲しいことがあったら言ってくれよ」
「いいんですか!?でしたら私の頭を踏ん……いえ、撫でてください」

 なんか今すごいことを言おうとしたような……。

「撫でるだけでいいのか?」
「はい、さすがにシンクさんにハードなことはさせられません」

 ハードなことってなんだ!?
 気になるけど、なんだか聞いてはいけない気がした。

「なので、頭なでなでを希望します!!」
「わかったよ」

 俺はミントさんの頭に手を乗せると優しく撫でる。

「えへへ、こんな風に撫でられるのも悪くないですね」

 頭を撫でられて喜ぶミントさんは、美人な見た目に反して子供っぽく見えたが、そんな姿がかわいくも思えた。

「後でカティアちゃんに自慢しよっーとっ♪」

 俺に頭を撫でられても別に自慢にはならないと思う。
 そもそもミントさんは、なんで俺に頭を撫でてもらいたかったんだろう?

「あっ、もう行かないと!!本当はもう少しなでなでして欲しかったんですけど……それではお二人とも失礼します!!」

 理由を聞く暇もなく、ミントさんは走っていってしまった。

「じっー……」

 その時、シオンが俺に視線を向けていることに気づいた。
 そういえば以前にもこんなことがあったような……。

「えっと、シオンもありがとな」

 シオンの頭に手を乗せて優しく撫でる。
 するとシオンの頬が赤く染まり、口元が少し緩んで嬉しそうな顔になる。

「それにしても今日は、シオンの歌があんなに綺麗だなんて驚いたよ」
「いえ、女神教団の巫女なら、みんな歌は得意ですから」

 そう言われてもシオンの歌はやっぱり特別な感じがする。

「リコリスという巫女の歌をシンク様は聴いたんですよね?」
「ああ、リコリスの歌は人間とは思えないくらい綺麗で思わず鳥肌が立ったな」

 歌の美しさだけなら、シオンよりもリコリスの方が勝っているかもしれない。

「シオンはリコリスのこと知らないんだよな?」
「はい、私の変わりに新しい巫女が入ったことは知ってましたが、そのリコリスという巫女には会ったこともないですし、初めて聞く名前です」

 ルクアーヌから帰ってきた時にリコリスのことをシオンに聞いたが、その時も今と同じようなことを言われた。

「シンク様の話では、その巫女は結婚を迫ってきたとか……」
「ああ、女神に俺と結婚する運命だって言われたらしい」
「シンク様はその巫女のことを、その……好きだったりしますか?」

 シオンがそんなありえない質問をしてくる。

「まだ一回しか会ってないのに好きも何もないだろ」

 リコリスのことは気になっているが、別に好きとかそういう感情ではない。
 海に落ちた時に助けてくれたらしいし、そのことに関しては感謝しているが……。

「でも、女神様が運命と言ったのが不安で……」

 リコリスも運命にこだわっていたし、女神教団の巫女にとって運命というのは特別な言葉なのかもしれない。

「俺は女神の運命なんかに左右されない、それはシオンだって知ってるだろ?」

 虚ろな運命を持つ者……俺の運命は女神、いや邪神には見ることはできない。

「そうですよね、シンク様ならきっと……」
「運命は変わりません、シンク様はリコリスと結婚して結ばれるのです」

 後ろを振り向くと、そこには黒いローブを着てフードを被ったリコリスが立っていた。

「リコリス……なんでここに!?」

 なんで学院にリコリスがいるんだ?
 しかも夏なのに、なぜそんな暑そうな格好をしているのだろう?

「シンク様に会いたくて来てしまいました」
「待ちなさい」

 近づこうとするリコリスを遮るようにして、シオンが俺の前に立つ。

「あなたがシオン・フォルアードですか……」

 リコリスは立ち止まるとそう呟き、赤い瞳でシオンの顔をじっと見つめる。

「あなたの目的はなんですか?」
「目的?リコリスはシンク様に会いに来ただけですよ」

 シオンの問いにリコリスはそう答える。

「質問を変えます、あなたがこの街にいる理由はなんですか?」
「シンク様と会うのが一番の理由ですが、もう一つはお仕事です」
「なるほど、この街の教会に聖歌を歌いに来たのですね」

 アリアドリの街にも女神教団の教会はあるし、その可能性は高いと思う。

「リコリスはシンク様に渡したい物があるので、そこをどいてもらえませんか?」

 そう言ったリコリスの手には白い封筒があった。

「なんですかそれは?」
「何って、シンク様へのラブレターですよ」

 よく見ると、その封筒にはハートマークのシールが張ってあった。

「ラブレターって……あなたはいったい何を考えているんですか?」
「以前読んだ本で好きな人にラブレターを送るシーンがあったのです、だからリコリスも真似してみました」

 シオンは怪しんでいるようだが、リコリスから敵意は感じないし、手紙を受け取るくらいはしてもいい気がする。

「わかった、受け取るよ」
「シンク様、いいんですか?」
「そんなに警戒しなくても大丈夫だって」

 リコリスの真意はわからないが、ルクアーヌの海で助けてくれたことを考えると、リコリスが俺に危害を加える可能性は低いと思う。

「中はリコリスが帰ってから見てくださいね」
「ああ、わかったよ」

 俺はリコリスから封筒を受け取ると、制服のポケットにしまう。

「それではリコリスはこれで失礼します」
「あっ、ちょっと待ってくれ!!」

 リコリスにまだ助けてもらった礼を言っていない。

「俺が海に落ちた時に助けてくれたのってリコリスなんだろ?」
「憶えているんですか!?」

 リコリスが驚いた顔をする。
 あの時は気を失っていたし、俺が憶えているとは思っていなかったんだろう。

「あの時のことはあんまり憶えてないけど、リコリスの声が聞こえたような気がしたんだ」

 夢で女神から聞いたと言うわけにもいかないので、とりあえずそう言っておく。
 それに実際に気を失う前に、俺を呼ぶ誰かの声が聞こえたような気がした。

「……そうでしたか」
「助けてくれて、ありがとな」

 リコリスが何を考えていようと、助けてもらった礼だけはちゃんと伝えておきたかった。

「いえ、気にしないでください……それではリコリスは行きますね」

 そう言うと、リコリスは後ろを向いて去っていった。
 なんとなく様子が変だった気もするけど、気のせいだろうか?

「シンク様、封筒の中を確認してみませんか?」

 すぐ開けるのもどうかと思ったが、俺も何が書かれているのか気になったので封筒を開けてみる。
 すると花の絵柄がついた綺麗な便箋が入っていた。

「ここまでは、普通のラブレターっぽいけど」

 俺は折りたたまれた便箋を開いて内容を確認すると、そこには……。

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 血のような黒ずんだ赤い文字で、便箋の余白を埋め尽くすほどにびっしりと『好き』という文字が書かれていた。

「シンク様、いったい何が書いて……」

 便箋を覗き込んだシオンも固まっていた。
 これはラブレターというよりも何かの呪いのような感じがする。

「これはわざとやっているのか、本気なのか判断に困りますね」

 好きだという気持ちを伝えたかったんだとしたら、これはやりすぎだ。
 知らない人からこんな手紙が送られてきたら、正直ちょっと怖い。

「うーん、考えてもわからないし、とりあえず帰るか」
「……そうですね」

 便箋を封筒に戻そうとした時、裏に何か書いてあるのを見つける。

『明日の午前二時に一人で教会に来てください』

 もしかして、この手紙はこれを伝えるために……。

「シンク様、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない……行こう」

 俺は制服のポケットに封筒をしまうと、寮に向かって歩き出した。
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