ハードボイルドワルツ 有機体ブルース(73/105)PDFで表示縦書き表示RDF


ハードボイルドワルツ 有機体ブルース
作:N.river



ACTion 72 『Mission Impossible』


『で? このようなものでどうだ?』
 ライオンが振り返った。
『っだぁ? こんな子供だましで通用するのかよ』
 不満げなスラーはその背後で口を尖らせている。
 すかさずデミが手を休め、そちらへと顔を覗かせた。
『だってぼく、まだ子供なんだもん!』
 床へ投げ出された両足の間には、ホロスクリーンをディスプレイ代わりに立ち上げたカードパソコンが置かれている。量産されたポータブルモバイルの典型だ。
 そんなやり取りに挟まれ、サスが催促されたとおりライオンをしげしげと眺めていた。その顔色はいい。先ほど必要最低限取ったドロのような仮眠から抜け出してきたところである。
『いや、こう、その、なんか違うの』
 小首をかしげて鼻溜を揺らした。
 トラはそんな一行が向かうこととなったここ砂漠港レンタルドックの一角、場違いなほど不気味に鎮座するスラーの霊柩船後部ハッチを開いた納棺スペース内を確認している最中だ。
『なら、こうだったか?』
 口を開くライオン。
 やおらその顔はぼんやり曇ると、再びすぐさまアルトのそれへと輪郭を変えていった。
『うーむぅ』
 だがサスが納得する様子はない。アゴをさすると、もったいぶるかのように感想を述べる。
『なんじゃ、ちと・・・、2枚目すぎんかの?』
 間髪入れず、ライオンは言った。
『土台が良いのだ。仕方なかろう』
 と、スラーがそんなふたりの前へおずおずと進み出てくる。
『サス、どう見ても、こいつは安っぽかねーか』
 身に着けているのはスラー葬儀社の制服でもある喪服に変わって、臨時収容船のホグスと同じグレーの軍服だ。。
 すぐさまサスはライオンから視線を逸らすと、そんなスラーを上から下へ眺めながら後ずさった。視野へ全身を納めてゆく。
『仕方あるまい。さすがにホンモノの軍服を調達するには時間がなさ過ぎるんじゃ。ウチにあったのはそのレプリカだけでのう。まぁ、お前さんは主要23種のエブランチルじゃ。そこで何とかカバーしてくれ』
 頼み込む。
 了解しているとはいえ、その心もとなさにスラーがグチった。
『命がけで学芸会かよ』
 すかさず相手の手を入れるのは、言うまでもなくモディーだ。
『社長、お似合いでやんす』
 瞬間、平手ではすまないスラーの肘鉄がその脳天に振り下ろされる。
 うずくまるモディー。
 と、トラが絶妙なタイミングで納棺スペースから抜け出してきた。
『おおい! 本当にガスは抜き終わったんだろうな!』
 相変わらずどつき漫才を繰り返していたらしいスラーとモディーを見つけ、一瞬ながら頬のシワを困ったような笑みで歪めて吠える。
 その声に、スラーはモディーをその場に残すと、猛然と納棺スペースへ向かって踵を返した。
『くどいな、テラタン。ちゃんと冷却ガスは開放した。あんたらを氷付けにするつもりはねー』
 足早に歩き始める。
 その背を見送るのは、アルトの顔を装ったライオンだ。
 すかさずサスがそんなライオンへと、アルトが好んで発注するメーカー型落ちの作業着を手渡した。これまた在庫として店に余っていたものだ。
『これでよかろう』
 受け取ったライオンが腕を通してゆく。
 その口が、不意にこう語った。
『冗談。ボイスメッセンジャーに俺の代役が務まるかっての』
 それはアルトの声だ。
『ほ!』
 ライオンお得意の声帯模写を前に、サスが目を丸くする。
 ライオンは、いや、アルトはそんなサスへこう続けた。
『ただし俺は棺桶に入ったきりだ。話すつもりはないぜ。わかってんのか? じいさん。・・・で、どんなものだ? ご老体?』
 サスが愛嬌一杯、ウィンクしてみせる。
『完璧じゃ』
 見て取ったライオンが安心したように、アルトを装い、いからせていたその肩を落とした。
『段取り通りなら、無事もぐりこんだその後は顔を変えて霊柩船で待機と言うことになっているが・・・』
 ライオンは言葉を濁す。
『いや、十分じゃ。恩に着る』
 消えたその先を汲み取ったサスが、矢継ぎ早にそう鼻溜を振った。
 と、その足元で不意に跳ねるデミ。
『出来た!』
 まるでプラモデルの一つも完成させたような具合だ。
 話しこんでいたサスとライオンの視線がそんなデミへと落とされた。見ればホログラムディスプレイから、一連の光学バーコードが排出されている。待ちきれぬといわんばかりにその光学バーコードへ手を添えたデミは、すくい上げて立ち上がった。つながった好学バーコードを千切りながら鼻溜を揺らす。
『えっと、コレ、葬儀社の新しいID! 今からこの船はスラー葬儀社の霊柩船じゃなくて、フェルマータ葬儀社の船だよ。で、おじいちゃんとぼくはその社員。こっちが、その腕章につけるIDね。一応、どれも遅効性のウィルスを仕込んでおいたから、認識されても時間がたてば記録は消去されるようになってる。ただ、急いで作ったから、最初、ちゃんと認識してもらえるかどうかが一番の不安なんだけれど・・・』
 数枚にわたる光学バーコードのうちの1枚をサスへ手渡した。
『ま、その時はその時じゃの』
 あっけらかんと了承して、サスは左二の腕に通していた腕章へと光学バーコードを滑り込ませる。つまるところその姿は、これからの役割に合わせて急遽あつらえた、かつてのスラーの喪服にも似たダークなツナギだ。デミもしかり、同様のツナギに身を包むと、自らの腕章に光学バーコードを流し込んでいった。
『本当に大丈夫なのか?』
 その様子を眺めるライオンが、義顔を獣面へ戻して眉間のひげを逆立たせる。その口調には、ありあまるほどの心配が乗せられていた。
『トラもおる。お前さんは無理せず、ラウア探しへ向かった時の入艦記録を抹消したスラーと霊柩船に隠れておればよい』
『しかし・・・』
『じゃあぼく、スラーおいちゃんにID渡して、船の分、書き換えてくるね』
 腕章に光学バーコードが固定されたことを確認したデミが、そんな2人の足元から駆け出してゆく。
『まかせたぞ。デミ』
 鼻溜を揺すってサスは、笑顔で見送る。そして再びライオンへと顔を上げた。
『その心遣いは覚えておこう。まぁなにはともあれ、まず確かめんとならんのはF7とやらがあの臨時収容船に実在するのかどうかということじゃ。十中八九は間違いないと睨んでおるが、時間もなかったうえにデータ上での確認に過ぎんからの。コトが始まるとするなら、それからじゃ』
 聞いたライオンが、駆け出したデミとの距離がほどなく開いたことを確認する。そして手のひらを返したように琥珀色の瞳を細めてみせた。瞳の中の瞳孔もまた、なおさら針のように引き締まった、そこにひどく神経質な色を浮かべる。
『ご老体、デミがついてゆくと言っておるのだぞ』
 気づけば声も低い。
 だがサスが動揺する気配は微塵もなかった。それどころか分かっているといわんばかり、笑みさえたたえてライオンへ深く頷き返してみせる。
『わかっとる。言ったところで聞くものでもあるまい。それはわしが一番よく知っておる。大丈夫じゃ、デミを危険な目にあわせるつもりはない』
 一息ついた。
 その目をライオンか逸らす。
 まだ見えぬ遠い未来へと放った。
『願わくば、デミにはわしの店をこれからも盛り上げてもらいたいからの。そこにアルトがおれば、言うことなしじゃ』
 静かに、満足げにこぼした。
 瞳を閉じる。
 酔いしれるような間。
 開き、付け加えた。
『ま、あヤツが続けたいというかどうかは、直接聞いてみんことには分からんがの』
 スラーが足早に向かった納棺スペースからは、先ほどからひっきりなしにトラとの喧嘩腰のやり取りが漏れ聞こえている。このふたり、スラーがトラの抱いていたネオンへの好意をあっさりと口外して以来、のべつまくなしこの調子なのだ。
 ようやくそんなやりとりも終息を迎えれば、納棺スペースに敷かれたカタパルトさながらのレール上、息を合わせてチタン製の棺を押し出すふたりが姿を現す。
 棺の大きさは縦が2メートル強。横も1メートル余り。大柄なテラタンでも、さらに体格のいい者がちょうど納まるタイプだ。
『使いたかぁないが、F7ってやつの位置を探るためには必要になるだろうからな。パラシェント! 中を改めておいてくれ』
 スラーがライオンへ呼びかけていた。
 ライオンは振り返る。
『わかった。今行く!』
 答えてサスへと目配せした。
 合図にサスも、一足先にデミが向かったコクピットへと体を傾ける。
 交差すれば、ねぎらうようにサスがライオンの背を軽く叩いた。
 肘鉄を食らったモディーもようやく、頭頂をさすりながら立ち上がっている。右へ左へよろめきながら、サスの後についた。
 つまり彼らの計画とは、こうなのだ。
                             ACTion 73 へ続く・・・







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      『N.riverの食っちゃ寝、創作!』 まで!

 





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