ハードボイルドワルツ 有機体ブルース(70/105)PDFで表示縦書き表示RDF


ハードボイルドワルツ 有機体ブルース
作:N.river



ACTion 69 『Just Border』


 どの足取りも軽い。
 それでいて、まるで無目的であるかのようにどこか緩慢だった。
 気候は熱からず寒からず。
 中庸の気温の中を、多種多様他な種族が行き交っている。
 ただ乾燥は思っていた以上に激しく、中には乾燥から身を守るための防護服をまとう者や、やけにぬらりと光る薬剤を皮膚に塗りつけた者が多数含まれていた。しかしながらそれを苦にする様子は微塵もない。あえて言うならば、どの顔にも満足げな笑みすら滲んでいる。
 つまるところそれこそが観光地である証拠だ。
 ここは惑星『カウンスラー』。
 その中でも『エピ』と名づけられた最大級の音窟入り口前である。
 訪れる者だけではなく地面すら残さず飲み込まんばかりに開けられたその口には、守り神らしきレリーフが施され、安穏と行き交い、潜り抜ける観光客をこぼれんばかりの三白眼で見下ろしていた。
 中に照明はない。
 すでに盗掘も進んで後のこと、この稀なる遺跡の価値を見直し保護を訴えた団体が、これ以上遺跡に本来の姿とは異なる処置を加える事を拒んだせいだ。ゆえに音窟へ潜り込む観光客たちは傍らの売店でレンタルした明かりをかざし、懐に余裕のある者は加えてガイドを引き連れ、闇の中へその背を沈めている。
 運んで、ひっきりなしに行き来するシャトルバスや3輪駆動車のトライクルは、そうして消えた分だけの観光客を吐き出すと、こまねずみのような回転を続けていた。
 乾燥した空気のせいで停留所と化した路肩は絶えずほこりに白く霞み、空気は悪い。
 紛れて、どの観光地でも名物といえば名物となってしまっている物乞いが、それこそ真昼の幽霊がごとく右往左往していた。
 そのほとんどは造語を話せない僻地の貧者である。
 中でもこうした生活を余儀なくされるのは、肉体労働にすら従事することが出来なくなった老人や、深手を負った者たちだった。
 腕を無くした極Yに、素顔をさらしたままのパラシェント。年老いたうえにまとったボロのせいで、果たしてどの種族なのか判別できない者に、群がる物乞いへ群がるほどにまで変形の進んだ体を持て余す者。
 おそらく汚染地域への仕事へ向かったその後、雇い主に捨てられたのだろう。
 新しいバスやトライクルが浮き足立った観光客を音窟前に降ろすたび、吸い寄せられるかのごとく群がっていた。
 例外なくシャッフルの足元にも、痩せたテラタンのシワにシワを刻んだ物乞いが力なく絡んでくる。
 すぐさま部下がシャッフルに代わって、その体を軽く片手で払いのけた。
『邪魔だ。どけ』
 周囲には3体、ミラー効果を有効にした分隊員が連れ添っている。
『かまわん。下手に暴れて目立ちたくはない』
 惑星『アーツェ』を発って以来、いまだ『フェイオン』近隣で停泊を続けている収容船へ立ち寄ることなく一気に惑星『カウンスラー』まで飛んだシャッフルと部下は、観光地にもかかわらず、この場に似つかわしくない軍服のままだ。
 すでに『アーツェ』上陸を考慮して、階級を隠すために着替えたものだと言えども、ラフな周囲からしてみればあまりにも場違いな格好だった。恐らく周囲がこれほどまでに雑多な種族で埋め尽くされていなければ、あっという間に奇異の目で見られていたことだろう。
『申し訳ありませんでした』
 前へと回り込みかけていた部下が引き下がる。
 払いのけられたテラタンの物乞いは、そうして初めて相手が軍人だと知り、恐れおののいたようにもんどりうつと観光客の群れの中へ紛れ込んでいった。
 と、目もくれず足を進めるシャッフルは口を開く。
『等しさとは、何だと思う?』
 背後についたばかりの部下が危うく聞き逃しそうになって、その声へ頭を傾けた。
『は? 等しさ・・・、ですか?』
 あまりにも唐突なその問いに即答することができず、繰り返す。
『そうだ』
 シャッフルはかたくななまでに、突き返していた。
『はぁ・・・』
 部下の反応は珍しくも明らかに鈍い。
 待ちきれず、シャッフルは待っていた答えを口にしていた。
『我々が成そうとしているのは、そういうことだ』
 そうして擦り寄る物乞いを押し切り、行き交う観光客を肩でかわすと、『エピ』前を大またで横切る。
『でしたら世界を潤滑に動かすための手段かと。それが紛争という形であれ、見解の相違という些細な誤解であれ、滞ることこそが最大の痛手と理解する、その理想系だと承知しておりますが』
 意図を掴んだ部下が、ようやく模範解答のような意見を述べた。
 指定した対象の引渡し場所は、この大きな『エピ』にオマケのごとく寄り添って開かれた別の音窟だ。目指し、賑やかな『エピ』前を抜ければ次第と辺りは落ち着きを取り戻すと、それすら行過ぎ、ひっそりうらぶれた雰囲気すらあたりに漂わせ始めてる。観光客はおろか物乞いも消え、シャトルバスやトライクルの駆動音さえもが幻聴のように遠ざかり、ただ反り立つ『エピ』の口だけが、なだらかに地下へと傾斜をつけながら先を急ぐシャッフルたちの片側に続いた。
『痛手か。なら、それを受けるのは誰だ?』
 まるで禅問答。問いかけるシャッフル。
 部下はまたもや、間髪いれず聞き返していた。
『は?』
 込み入ってきた話にシャッフルと肩を並べ、食い入るようにその瞳を向ける。
 正面をにらみつけたシャッフルは振り返ることなく、その声色に力をこめて言い放っていた。
『いいか、我々は、ただ奴らの身柄を引き取りきたのではない。そうして痛手を受ける側へ回るために、ここへ来たのだ。言うまでもないが、リスクには応じた見返りと言うものが存在する。リスクの存在しない物事には見返りなどない。ならば、回る世界からリスクを取り除くことが目的である限り、我々はその外へと出ねばならんのだ。奴らはそのボーダーだと覚えておけ』
 そして初めて、部下へとその目を向けた。
『どうだ? お前は外まで、ついてくるか?』
 刺すような視線がその覚悟を問うかのように部下を捉えた。
 逸らすことなど出来る道理がない。
『軍医は・・・』 
 言いかけて、部下はその口をつぐむ。
 問われて拒否するという選択肢がかつて存在しただろうか。たとえシャッフルにその意思があることを確かめられようとも、られまいとも、これまで通りをとるがしかるべき選択だ。考える余地などない。そしてて立場でも。
『もちろんです。軍医殿』
 その真意が分からぬままに、そつなく答えてかえす。
 シャッフルが聞きたかった言葉を得たかのように、ゆっくりと正面へ視線を戻していった。
 と、それまで片側に続いていた『エピ』の壁面が、いつしか歩くシャッフルの肩へ届くほどまでに低くなり、その先に『エピ』とは比べ物にならない小さな入り口を覗かせる。同様に守り神のレリーフは、半ば崩れかけたおももちだ。
 立ち止まり、シャッフルは覗き込んだ。中はゆるやかなスロープが続いていた『エピ』とは違って、急な階段が地下へと伸びている。
 その背後では部下が周囲を警戒するかのように見回している。
 同行していた分隊員が1体、シャッフルの前へ回ったような気配が触れた。案の定、ミラー効果を切ったその体がシャッフルの前に現れる。
『ここから先、軍医の安全は我々が確保いたします』
『頼んだ』
 聞いて敬礼すれば、慎重に階段へと足をかける分隊員。
 そして部下を挟み、最後尾についた残る2体へ合図を送ってみせる。
 いまだミラー効果を有効にしている彼らが答えてよこしたかどうかを見て取ることは不明だが、先頭の分隊員はかまわず構えたダイラタンシーベレットショットガンの先端につけられたライトを灯すと、音窟へと体をもぐりこませていった。投げかけられた光の先では、独特の質感を持った『カウンスラー』の土が、まるで混ざりもののない純金属のように、キラキラ粒子を冷たく光らせている。
 左右へ振って、再度視界を確保。
 音窟の規模はかなり小さく、通常なら抱えた小部屋の数だけ複雑に枝分かれしているハズの内部通路も簡素そのものだ。
 見極め、分隊員は階段を降り始めた。
 続きシャッフルが、そして部下が、音窟へともぐりこんでゆく。
 最後にミラー効果を切った2体の分隊員がショットガンを小脇に抱え、足早に音窟へ身を沈めた。
 現れたパラシェントのボイスメッセンジャーが開放した小部屋は、この音窟の最も奥だ。
 恐らくそこに、対象たちはいる。
 否応なく跳ね上がる心拍に、シャッフルはその顔をひと撫でしていた。
                            ACTion 70 へ続く・・・

 







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      『N.riverの食っちゃ寝、創作!』 まで!

 





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