ハードボイルドワルツ 有機体ブルース(44/105)PDFで表示縦書き表示RDF


お久しぶりです。ようやく更新できました。
万が一にも、待っていてくださった方、おられましたら、ありがとうございます! 次回までもしばし間が空くと思いますので、気長にお付き合いくださいね。
ハードボイルドワルツ 有機体ブルース
作:N.river



ACTion 43 『Wellcome to F7』


 そして砂塵に埋もれた通信室の一角。降り積もる砂塵をかき分け、露出した床の上にあぐらをかいたサスの鼻溜が揺れる。
『ここから、スピードアップじゃな』
 もちろん、ながらく封鎖された基地跡に電力が供給されている道理はない。だからこそ背負ってここまで持ち込んだバックパックには、これからの作業に欠かせないバックアップ機材とバッテリーが詰め込まれていた。だがしかし、所詮サスが持ち運べる程度のバッテリーに大した電力など望める道理はない。
 夜を徹して行ったのは、ゆえにこれからの作業に必要な通信室内の機材部位と、どうすればそれら機材が持ち込んだバッテリー電力でまかなえるのかという、接続上の段取りだった。
 終了すれば、商品として店に保管されていたポータブルホロスクリーンや、サスの小さな手でも扱いやすい物理キーボード、本体となる、これまた商品だった微小電力コンピュータ2台に、そのバックアップ1台が通信室機材へとつながれ、サスの周囲にまるで通信室内に作り出された小さな通信室が形成される。
 無論、通してもぐりこむのは、スラーが向かっただろう臨時収容船の中枢だ。
 何しろアルトへ臭気マーカーを吹きかけた相手がラウア語店員であり、そこに軍絡みのカラクリが潜んでいるのだとするなら、そんなラウア語店員を探しに現れた葬儀屋が、軍及び連邦側から何らかのチェックを受けぬハズがない。
 確かめるのは、そうしてチェックを行った者の正体だった。そしてあわよくば、彼らの内部にまで探りを入れてみようとサスは目を細める。 
 恐らく再チャレンジは許されない。
 いうまでもなく、いったん軍用船への侵入がバレれてしまえば、2度と潜りこむことなどできないと言う意味でもあり、たとえ2度目のチャンスが用意されていたとしても、仕入れた情報を渡すべくアルト本人が、サスの前から姿を消しているのではないかという懸念のためだった。
 一体何が起こったというのか、恐らくアルトはサスがこの調査に乗り出している間に、あれほど思い出せないでいた過去を取り戻している。大量に抱え込んでいた軍用興奮剤の理由。その特異な経緯を思い出したからこそ、今さらこの件から手を引けなどと言いだしたに違いなかった。
 そこにある地球で出会って以来、拭い去ることのできなかった穏やかならざる事情。
 それがアルトの中に舞い戻ったのだろう。
 ならばこそ、手を引けと言った本人が、のん気にここへ留まっている道理がなかった。船のメンテナンスが終わるればすぐ、サスの帰りを待つまでもなく立ち去ってしまう事の方が自然な成り行きでもあった。
 そしうしてアルトは二度とここへ、いや、ジャンク屋という仕事へは戻ってこない。サスは痛いほどにその気配を感じ取っていた。
 もちろん無理やり引き止めるつもりなどない。
 そこから先は、自由にさせてやりたいと言ったとおり、アルトが選ぶべき道だ。
 だが、だからこそ、これが最後の付き合いならば、ここで得た情報を面と向かって手渡しておきたいと思うのも万族共通、しばし時を共に過ごした者としての情けだった。
 注文の品は早ければ、今日の昼過ぎにも砂漠港のドック11へ届けられる予定である。作業に慣れたアルトならば、丸1日もあればメンテナンスは終了してしまうだろう。スピードアップが必要なのは、そのためでもあった。
 呟いたサスは、組み合わせた両手を胸の前で丹念にすり合わせる。
 大きく鼻溜を膨らませ、もう一度、手元の時計を見下ろした。
 時計はちょうど、空も赤く染まり始める明け方を表示している。
 ひどく気が立っているせいなのだろう。そんな時間であるにもかかわらず、信じられないほどに眠気や疲労感を感じることはなかった。
 膨らませた鼻溜りから大きく息を吐き出す。
 周囲の機材のみならず、自らも心の準備を整えた。
『とはいっても、せいぜい不正アクセスがバレるまでの間じゃかからの。そう時間がかかるもんでもあるまいて』
 すり合わせていた手を、膝元の物理キーボードへ添える。
 背中を丸めると、真向かいに立ち上がるポータブルホロスクリーンを覗き込んだ。
 傍らの砂山で揺れるハンドライト。
 静けさがこれからの行いのいかがわしさを倍増させる。 
 ホロスクリーンの光がハンドライト以上に、覗き込んだサスの頬へ鼻溜へと、青白く張り付いてた。
 とたん、勢いよくキーボードを叩き始めるサスの指。
 まずは風化しているといえども、壊れてしまったわけではないこの軍事基地の通信回線復旧にとりかかる。
 すかさず狭いポータブルホロスクリーンに、復旧された近隣基地とのネットワークが広がっていった。
 ただしそのどれもは、ここが閉鎖されていることを事前に踏まえた侵入制限という名のセキュリティーを敷いている。
 うっかり手を出しては不審者も丸出し。
 捨て置いて、同様に開かれてゆく船舶へのラインへ目を移した。
 『フェイオン』周辺で事後処理に当たっている船舶へつながるモノはないかと、比較的オープンなそこへと潜り込んでゆく。
 休む間なく、潜り込んだ船の位置把握を進めていった。
 やがて一艘、粘菌ネット保護を目的に巡航を続ける巡回船をの存在にたどり着く。
 サスはそこに残された、船舶間の通信記録へ手をつけた。
 辿って、似たような船舶の間を行き来すると、粘菌ネットから他船の出入りをサポートする監視船内へと潜り込む。経て、その監視船が最もやり取りを繰り返していた船、遺体運搬船へと飛んだ。
 ありがたいことに遺体運搬船のコンピュータは今もなお、がっちりと臨時収容船の管制とつながっているらしい。いや、今まさに、その格納庫へ潜り込もうとしている最中だった。
 ほくそ笑むサス。
 コトに及ぶその前に、手早く左右へともう1枚ずつサブスクリーンを立ち上げる。
 カモフラージュとして、さらに持ち込んだバックアップ機材をかませると、引き続きこの基地のアクセスコードでの侵入を開始した。
 拒否されることなく既存の基地コードとして通過してゆく、アクセスコード。
 これが、閉鎖された場所であると気付かれるまでいかほどか。早速にもスラー葬儀社に関する記録検索に取り掛かった。
 その名は予想通り、管制記録のみならず、入鑑リストの中からも見つけ出される。
 入艦リストには彼らの行動記録として、ラウア語店員の検索結果も付録されていた。
 瞬間止まる、サスの指。
 おかげでそのファイルは、外部から予想通りのチェックを受けていたのである。
 まさにビンゴ。
『すまんの。スラー』
 思わず詫びるサス。
 しかしそれもつかの間、一気にチェック先へと跳んだ。
 落ちて始めて、ガラリと様子の変わった周囲に、今度は戸惑う。なぜなら、それまで幾つも通り抜けてきたシステムとは全く毛色の違う構造が、そこに広がっていたのだ。
 ひときわ、聞いたこともない名称がその目に飛び込んでくる。
 ラボ『F7』
 極Yの踊り子『トニック』の名がついた巨大な集積データに、症候群を世に知らしめた医師『イルサリ』の名がついた同等のソフトウェア。そこにはそのソフトウェアが発信したらしい3つのデータがぶら下がり、数多くの端末がそれらへ接続されていた。
 と、サスの目がさらのようになる。
 しばし瞬きを繰り返すと、穴が開くほどそれらを見つめた。
 何しろ、ついぞ見過ごしそうになったソフトウェアの発信したデータには、うち2つ、明らかに覚えのあるアドレスがならんでいたのだ。
 そう、暗号化されていないその送信先は、アルトの地球宅と、Op−1に建つトラの事務所を示していたのである。
 気づけばそこへと手が伸びていた。
 ソフトウェアへ介入する。
 急転直下、送り込まれるウィルス。
 バックアップ機材がサスの傍らで一気に吐き出す熱量をアップさせ、その危機を警告した。
 これはまずいと、用意していたアンチウィルスを放つサス。
 だが状況は拮抗するどころか圧倒的劣勢。
 サスは潰されるのも時間の問題と見切る。
 ならばとキーボードをよりいっそう激しく弾いた。
 できる限りを覗いてやろうという算段だ。
 立ち上がる3面のホロスクリーンを流れる情報量が、とたんその量を増す。
 それはサスへと『イルサリ』を取り囲み、暗号化されて並ぶアクセスコードの存在を示し、それらへとリンクされている、また違った情報集合体の存在を提示し、その中に『アルト』の表記があることを知らせた。そしてそれら全てを含むここは『イルサリプロジェクト』というネットワークであることを伝えよこし、そのネットワークが間違いなく連邦のネット内に取り込まれていることを告げる。
 肝心のスラー葬儀社ファイルは、それらネットワークを経由すると、『イルサリ』を囲むアクセスコードを経て、また別の場所へと転送されている様子だった。
 そこもまた船だ。
 恐らく探し求めている相手は、今そこにいる。
 だがすでに潜りこむ余力はなかった。
 せめてその位置を把握すべく、サスは一か八かプログラムだけを放り込む。反映したそのプログラムを通じて、あわよくば船舶運行衛星から座標を確かめる算段だ。もちろん軍絡みの船であるなら、反映されない可能性も大である。
 が、運よくも返される座標。
『・・・ここか?!』
 最後にして、落ちるホロスクリーンの表示。
 周囲のバックアップ機材が次から次へとダウンしていった。
 唸っていた放熱ファンの音が止み、ハンドライトの明かりだけが淡く辺りを照らし出す。

<・・・なんや、コレ>
 下2本の腕と身の丈ほどのスパークショットを場違いなほど重厚な外套の下に隠したテンは、目を丸くして小さく動話をつづっていた。
 同様のいでたちに身を包んだ極Y船賊たちは、そんなテン同様に、なす術もなくガラクタのぶら下がる1枚のドア前で頭を寄せ合っている。
 凝視しているのは、そこに貼り付けられたホログラムだ。
 それは否が応でも彼らの目を引くと、文字らしき映像を懸命にスクロールさせてぎこちない点滅を続けていた。
 段取り通り、先に店の裏口から突入したクロマたちは、すでに店がもぬけのカラであることをテンたちへ伝えている。
 ここで新たな手がかりを掴めなければ、連邦との取引は半ばなくなったも同然の状況に、テンは焦った。
<造語ですよ、テン。文字の羅列なら何かのメッセージかもしれません>
 痛いほど察したメジャーが、ホログラムから顔を跳ね上げて手を振る。
<造語やと? なんて書いてあるねん。誰か読めるヤツはおらんのか>
 見て取るなり、周囲へ鋭い動話を放つと、待ちきれないと言わんばかりにテンは呼びかける。
 だが、その大役を買って出る者が現れる気配はなかった。互いに互いの顔を見合わせると、きょとんとするばかり。
 当然といえば当然だろう。もとより話せない言語を、そうやすやすと読み下せる輩など、そういるワケがないのだ。
 しびれを切らせたテンが、そんな船賊たちの頭を、藪から棒に叩きつけてゆく。
<もう、ええわ!>
 叩いたついでにそう振り回し、ドアを押し開けた。
 家捜し中だったクロマたちがその勢いに驚き慌てふためいて、テンへとスパークショットを振り上げる。
 怯むことなく仁王立ちになったテンは、矢継ぎ早や、焦りと怒りにまみれた動話でこうつづった。
<ラチがあかん! 今すぐ連邦へ連絡取れ。動画送って、あの映像を訳してもらうんや!>
                                     ACTion 44 へ続く・・・







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      『N.riverの食っちゃ寝、創作!』 まで!

 





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