ACTion 02 『獅子現る!』
「ジャンク屋のアルトとは、あなたのことか?」
声へ振り返った。
とたん、あまりの光景に言葉を失う。
なぜなら、そこには、オレンジ色のつなぎを着込んだ1頭の、いや、ヒト同様の手足から察するに1人と言っても過言ではないライオンが、パンクなたたてがみを揺らして立っていたからだった。
いくら『獅子の口は真実を語る』とは言え、凝りに凝ったホロレターとは裏腹、その安直さに、見事、気負い続けたアルトは足元をすくわれる。
「違う、のか?」
唖然としていれば、安穏とライオンが首をかしげた。
襲う、さらなる拍子抜け。
その間はまさに、ジャイロを人質に、腹に一物据えてやってきたとは思えない雰囲気だ。
そもそも、ライオン星のライオン星人は存在しない。
明らかにその顔は、素性を隠すための小細工だろう。いや、それとも、待ち合わせの目印にと、気を利かせての扮装か?
その考えを後押しするように、どこか間抜けたライオンのツナギには、丸腰を強調するかのごとく、ポケットひとつついていたなかった。
果たして、このライオン。あり得ないほどのサル芝居を展開しているのか、それとも、振り回された自分に怒りがこみ上げてくるホドのド素人なのか、アルトには区別がつかなくなってくる。
確かめるべく、アルトは、思い出したようにカウンターへと手を伸ばした。
とりあえず、まさにとりあえず、「く」の字に押し潰したばかりのタバコをくわえなおし、噛み潰して気合を注入すると、同様に放りだされていたホロレターを引き寄せ、2つ折のそれを開く。リーチ一杯、ライオンの鼻先へと突きつけた。
「つまり、こいつを出したのはあんたってワケだ」
ライオンが大きな体をのけ反らせる。
顔をゆがめ、しばしホロレターの放つ光をまぶしそうに眺めた。そしてようやく確認できた鼻先のメッセージに、第一声を上げる。
「何だ、これは?」
まさかの返答だった。
ご挨拶に、たまらずアルトは鼻で笑う。
「その顔で現れておいて、よく言うぜ」
瞬間、猫パンチよろしく飛び来るライオンの手。
鼻先のホロレターを払いのけた。のしかかるようにアルトへそのごついライオン顔を突きつける。
「何! あなたはこの顔を知っているのか!!」
先程までの安穏とした雰囲気はどこへやら、立場逆転でのけ反るアルトへ血相を変えて吠え立てた。
が、いまひとつ飲み込めない。
咄嗟に引き抜きかけていた背裏のスタンエアから手を離すと、アルトはのけ反ったままの姿勢でタバコを揺らし答える。
「…あのな、場違いのラウア語カウンターにヒトが立ってんだぜ? あんたを待つ以外、ここに何の用があるってんだ」
眉をひそめた。
するとそれまで猛獣の形相を決め込んでいたライオンの顔が、みるも無残にゆるんでゆく。
「そ、そうか…、ついに、ついに…」
放たれる得体の知れない独り言。
「お、おい?」
対応しきれなくなって、さらにのけぞりアルトは怯む。
かまわずライオンはその両腕を大きく広げた。感動の再会よろしく、ぎゅっとアルトを抱きしめる。
「よかった!!」
肉体的か、精神的か、その衝撃でアルトの口元からタバコが吹き飛んだ。
「だッ。な、何だッ、テメーッ」
だいたいペットにしていたライオンを泣く泣く近所の惑星に捨ててきた記憶もなければ、アルトには夏、暑苦しいからという理由だけでライオンをフッた記憶もない。などとと、それら全てが冗談だと白状しても、こんなかぶり物を愛用する知人こそ、アルトの記憶にはただ1人もいなかった。つまり、この状況が引き出すのは、至極生理的な居心地の悪さのみ。背中のスタエンエアに気付かれたくないという思いも手伝って、とにもかくにも縄抜けさながら、その身をよじる。
「離せッ、このヤロッ」
が、余計にしがみつかれて逆効果。
「あなたがいなければどうなることかと〜!!」
吠えるように鳴きわめくライオンはテンションを上げ続ける。
「うるせぇ、さんざん待たせておいて、俺の知ったことかッ」
もう、サル芝居も何もあったものではなかった。
そうしてようやく掴む、背中へまわされたライオンの腕。しっかと握ると、ここぞとばかりに、腕を捻り上げる。
即座にライオンの泣き声が、呻き声に変わった。
「い、いた、痛い、痛い」
同時にその体が不自然な方向へと傾き、力なくアルトから剥がれてゆく。
「し、心配はない。ちゃんとウィルスカーテンはくぐってきている」
後ずさりながらの弁解は、またもや調子っぱずれにも接触感染へのものだ。
呆れてアルトはその体をカウンターへ突き飛ばす。
「ったく、い加減にしろッ」
悪意がないことを示すかのように、なるがまま、なされるがまま身を投げたライオンは、その背を強かにカウンターへと打ちつけていた。
「どこまですっとぼけるつもりだ? かぶり物やら、小芝居やら、俺はあんたの発表会に付き合うために、ここにきたんじゃないってんだッ」
声を荒げるアルト。
「と、とぼけてなど」
捻られた腕をさするライオンが、すっかり飼い猫の目つきでアルトを見上げる。
「冗談。『獅子の口は真実を語る』…とっとと、本題に入ろうじゃないか」
聞かされたライオンの琥珀色の瞳の中で、針のようだった瞳孔が息をのんだように大きく開いた。ようやくその動きが的を得だす。
「分かっている。忘れていたわけではない。こんなことになるなど、慣れていないのだ。それだけは分かってくれ」
カウンターから背を離すと、おもむろに足場を確かめるかのごとく、足踏みを繰り返して仁王立ちを決め込んだ。続けさま捻られた右手を頭上へ持ち上げる。パンクに逆立つたてがみへと押し込んだ。
「ならば、取り急ぎ、お望みのものをあなたへ渡そう」
その手がたてがみの中で、何かを探り動く。
お望みのもの?
繰り返すアルトが、目を細めた。
無論、ジャイロはそんなスペースに収まらない。
ならばそこにあるのは、何なのか?
身に覚えがあればこそ、即座に脳裏を最悪のシナリオが過ぎってゆく。
微笑んだのか、ライオンの大きく突き出た口の端が、白い牙をのぞかせわずかに持ち上がった。
公共の場とはいえ、これだけの種族が渾然一体と溢れているフロアでは、異種間トラブルも日常茶飯事のできごとだ。
アフロヘアーから鬼が出るか蛇が出るか。
それを逆手にとっての場所選びなら、トボケた芝居とは裏腹の知能犯だろう。
押しとどめるべく、アルトはライオンへと身を躍らせる。
ACTion 03 へ続く・・・ |