ハードボイルドワルツ 有機体ブルース(25/105)PDFで表示縦書き表示RDF


ハードボイルドワルツ 有機体ブルース
作:N.river



ACTion 24 『動話解体』


『今後、対象の捜索に彼ら極Yを利用することが決定しました』
 それは斬新な切り口だった。
 ゆえに、結論から入ったはずのこの話を、シャッフルは理解できずに棒立ちとなる。
 気にも留めないクレッシェの口調に、遠慮の2文字はなかった。
『知ってのとおり、まだ存在していないモノのために、我々が大手を振って回収に当たることは不可能です。ですが、野放しにしておくのも、これが限界というところでしょう』
 その手が素早く、仮想デスクをスリープ状態へと切り替える。唯一の調度品だったデスクは、互いの間から姿を消し、部屋には壁面の一部と化した中央端末とシャッフル、そしてクレッシェの埋まるシートだけが取り残された。
 勿論、造語が広まるより遥か前、一世を風靡するという形で既知宇宙初の共通の話題となった極Yの踊り子、トニックの、動話舞踊の影響の強さに恐れを覚えた挙句、音声言語のスタンダード化による迫害を推し進めていったのが、連邦政府の足掛かりとなったバナールやエブランチルを含む主要23種だという事実は言うまでもない。利用すると簡単に取り決めたところで、そんな極Yと連邦が手を組むなど、ましてやそれら歴史的背景を踏まえたうえで極Yたちが連邦に手を貸すなど、まるで考えづらい構図に違いなかった。
 突きつけられてシャッフルはしばし唖然とする。
 と、クレッシェがまた、そんなシャッフルへと柔和な笑みを浮かべてみせた。今度のそれは、どこか呆れたような雰囲気に緩んでいる。
『本当にあなたの考えは、すぐ顔に出るのですね』
 慌てて頬へと、拳を押し付けるシャッフル。確かめるように、こわばった頬を押しつぶすと、はたと、その動きを止めて我に返った。
 そう、エブランチルは、そうした観察力に抜きん出て優れた種族なのだ。それは時に、心の中を覗かれてはしないかと、相手を不安にさせるほどに鋭いものだった。
 思い出したシャッフルは、それほど如実に唖然としていたのではなかったのだと知ってようやく、逆にそのことを露呈するほど狼狽してしまったことに、しまったと内心舌打ちをする。
 よほどそれが間の抜けた行動に見えたのだろう。言い終わるや否や、クレッシェはもとより愛想でしかなった笑みを消し去ると、興ざめでもしたかのように話を続けていた。
『確かに彼ら極Yと我々が、友好な関係を結べる道理はありません。それは音声言語の絶対的優位性の確立により、動話影響力の封じ込めに成功した証拠でもあります。ですが我々は、その弊害として横暴することとなった、船賊の存在までもを仕方のないことと黙認しているわけではありません』
 言い切ってクレッシェは、突如と埋まるように腰掛けていた椅子から立ち上がった。
 その目がまたチラリと、シャッフルを捕らえる。
 別段見抜かれて困るようなハラなどなかったものの、自然とその視線を拒んでシャッフルは、その身に緊張を走らせていた。
 読み取ったのかどうか、クレッシェは視線を逸らすと口を開く。
『我々は彼らへ、追跡対象らと引き換えに、音声言語獲得のための物理操作技術提供の意思があることを提示しました。さきほど彼らは、それを承諾したところです。よって以降、本作戦は極Yと共同で行うこととします』
 それはシャッフルにとって、まさに本日2度目の信じがたい話だった。
『まさか、自らを迫害した造語を受け入れると、彼らが言っているのですか?』
 顔に出てもかまわないと、思い切り目を丸くしてみせる。
『造語普及が完了して、彼らももう、6世代目です。現状を知れば、動話文化への固執が無意味に思えてくる者も少なくはないでしょう。こちらとしても、その偏見に疲弊しているグループを探し出したつもりでいます。見ての通り通訳には、ラボに唸るほど残されたトニック動話解析データを使用しました。皮肉なことですが、彼らがこの提案を拒むことなど基本的に不可能です。これは後ほど伝えるつもりでしたが、従って彼らを皮切りに、今後我々は極Yを迫害することで既知宇宙の安定を確保するのではなく、動話の完全解体による安定へと、計画を変更する予定です』
 話し終えたクレッシェは、一仕事終えたように再びシートへ埋まり込んだ。傍らに浮いていた起動ホロを遮り仮想デスクを立ち上げると、すでに次の作業へと自らを切り替える。
 見つめながら、なるほど、これが上の考えていたクーデターという失態への挽回策だったのかと、シャッフルは心の中で呟いた。長期にわたる計画だとしても、極Yと船賊の殲滅が見込めるならば、これほどうまい話はない。
 そして自分がここへ来ることとなった理由が、あながちそれら話とかけ離れていないことに気付いた。シャッフルは実に控えめに、話し始める。
『ご報告がひとつ』
 仮想デスクを囲って立ち上がったホロスクリーンを眺めながら、そつなく促すクレッシェ。
『どうぞ』
『先ほどラボの者が、監視を続けていたF7ラボのハブAIに外部出力の動きがあったことを知らせてまいりました』
 聞いたクレッシェの動きが止まる。
 驚くというよりも、事実の重大さを受け取って、きつく細めた目をシャッフルへ向けた。即座にこう、聞き返す。
『何か、やり取りのあった形跡は?』
『現在、出力内容については解析中です。はっきりするまで時間を要するようですので、先に報告に上がった次第です』
 よもや裏でそんな話が進んでいるなどとは夢にも思わなかっただけに、判断としては最善だったと、シャッフルは内心、頷いていた。
 納得したクレッシェが、しばし黙してデスクへ向き直る。やがて、静かにその口を開いた。
『分かりました。極Yを呼び戻し、そちらへ預けます。彼らへ解析情報の提供を。万が一にも、それが対象とのやり取りであったのなら、彼らを現地に向かわせて下さい』

 その後の展開は性急だった。
 解析作業中に、公安から手配者リストにあったDNAが、連邦免疫センターの入院患者より検出されたと報告が入った。もちろん手配者リストに掲げていたのは、追跡中の対象のDNAだ。シャッフルはすぐさま個体の拘束を要求した。がしかし、もとより問題視されていた公安の鈍磨な照合は、タッチの差で対象を取り逃がしてしまう。
 ようやく掴みかけたチャンスも泡と消えたように思われたその時、ようやく解読され始めたのが、ハブAIからトレースを続けていた外部出力の内容だった。ごく一部ながらも、それは惑星カウンスラーの音窟座標と、僻地コロニーのハウスモジュールに、言語カウンター名であったことを知る。
 クレッシェの指示通り、極Yたちを惑星カウンスラーの音窟と、僻地コロニーのハウスモジュールへ急行させたことは言うまでもない。
 無論、その後入った極Yたちからからの連絡は、
<音窟にパラシェントが現れた>とのことだった。
 まだ誰も、それがあの惨事へつながるなどと考えもしていない、ほんの260000セコンド前の事だ。
<泳がせて、尾行しろ。必ず対象と接触する>
 これで全てにカタがつくという思いだけが、シャッフルを突き動かしていた。
                                     ACTion 25 へ続く・・・







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      『N.riverの食っちゃ寝、創作!』 まで!

 





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