ACTion 20 『JAM!』
「あんたが一緒で、助かった」
船首、突き当りに据えられたハシゴを伝い、アルトはコクピットへ上昇する。
一足先にもぐりこんでいたライオンは、半径3メートル足らずのアクリルドーム中央に据えられた座席の中で、すでに息を吹き返した計器類の放つ淡い光に包まれていた。
「驚いた。ただのスクーター船だとばかり思っていたのだが」
アルトへ振り返るなり、驚嘆の声を漏らす。
「仕事柄、ちんたら飛んでたんじゃ、儲け損ねるんでね」
身をすり合わせるようにして、2人は場所を入れ替わった。
アルトは、背中から剥がしたスタンエアを座席側面に張り替えると、オーダーメイドの座席にピタリ、体をはめ込む。背負い込まんばかりの勢いで4点ベルトを締めた。
その手際のよさに、ライオンは知らず知らず安堵感を覚えて、腹を据える。
「だが、スクーターでは、光速に乗れんだろう?」
落ち着き払った声で問いただした。
アルトは両足元のフットペダルを交互に踏み込みながら、その感触を確かめつつ、ライオンへと言い放つ。
「乗り入れが許可されていないのは、サイズに問題があるからじゃないだろ。その点、こいつは大型船舶と同じスペックだ。相当の使用料も払ってる。船種詐称だって文句を言われる筋合もないね」
続けさま、左手スロットル脇のコンソールを弾いた。
どうやらついに、その術を覚えたらしい。相変わらずのやり方を聞き流したライオンは、質問をすぐにも次のものへと切り替える。
「で、あの2人はどうした?」
もちろんあの2人とは、女と、急遽乗り合わせることとなったデフ6のことだ。
「カーゴなら問題ない」
船の動力部は高速運転に伴い、風をきるような高音を発し始めていた。
船尾では、歪んだ鉄扉を覆い隠し、エアロックが閉じられようとしている。コクピットと管制の連携が、先だってライオンがいじった管制端末を経て、潤滑に取り行われている証拠だ。
「それは名案だな」
すかさず管制からは、コロニー周辺の航路状況が送信されていた。アクリルドーム全体に、ホロ映像の膜が広がって、出航してゆく機影と、その予想軌道を表示してゆく。それは機影の数だけ幾重にも重なると、リアルタイムでの変化を続けた。
見回すアルト。
しかしながら、そこに安定した抜け道は見当たらない。我先にコロニーを飛び立つ機影の編み上げた予想軌道は、ひたすら混沌と絡まって、アルトの視界を埋め尽くすばかり。
察したライオンが、周囲へ両手足を突っ張った。
「ただでも込み合うエリアだというのに!」
身構えれば、閉まりきった後方エアロックに続き、真正面の格納庫扉も口を開き始める。
が、すでに生じていた歪みが原因か、その動きはすぐにも鈍い動力音と共に、3分の1も開かないところで静止した。
刹那、管制からの情報も途絶える。
アクリルドームを砂嵐が襲った。
即座に見限ったアルトが管制を切る。
「…っそッ」
その手で素早く、自前のナビを立ち上げた。
が、管制との連携上、ここはジャミング防止措置が取られた場所だ。詰まるところ、逆に外の様子を知ることなどできる道理がない。立ち上がったナビはひたすら透けて見える格納庫の四角いアウトラインを表示するに止まる。
「いいたかないが、俺たちゃ、よっぽど嫌われてるってワケだ」
ヤケクソ混じりで吐き捨てた。
「このどさくさに紛れて、わたしを仲間に入れてくれるな!」
すかさずその背で、ライオンが突っ込む。
「そいつは、失礼」
覚悟を決めたアルトがスロットルを握る。
膝下のスターターをワンプッシュ。
風切音のようだった駆動音に重なって、膨張してゆく低音がコクピット内に大きくこだまし始める。
あわせてアルトは、スロットルを絞っていった。
ゆるゆると船体が上昇を始める。
マタドールに立ち向かう闘牛のごとく、闘志もあらわに右へ左への横滑りを繰り返すと、ホバリング状態、わずかに開いた格納庫の隙間に覗く修羅場を睨んだ。
同様に、見据えてアルトは軽く唇をなめる。
「吹き飛ばされんなッ」
無言でライオンが頷き返した。
合図に、傾ける操縦桿。
船体が滑り出す。
やおらフットペダルを蹴り上げた。
はかったかのように船体は90度、回転し、開き損ねた格納庫の狭い出口を、スクーター船ならでは、するり、抜け出す。
とたん、広がる視界。
大小様々の船が、もんどりうつと交錯した。
反応するナビがアクリルドーム一杯に映像を展開してゆく。
まるでぶちまけたように機影が投影されていった。
その中でも、急速に接近してくる数機がマークされ、警報がはなから最大ボリュームで鳴り響く。
アルトの周囲はたちまち、編み上げられてゆくそれら機影の予想軌道に覆われていった。
一手に引き受けて、待ったなし。
今一度、右足のフットペダルを蹴り上げる。
見つけた軌道の抜け道へと、船体をもぐりこませた。
くぐり抜ければ息継ぐ暇なく左展開。右舷から突っ込んでくる他船をかわす。抜けても立ちふさがる壁のような軌道の網目から、次なる突破口を探した。
固く結ばれた予想軌道が解けだせば、ねじ込むように船体を落とす。
と、唐突に、せりあがって来る鉄塊。
『フェイオン』の残骸だ。
あまりにも周辺が混み合い過ぎたため、ナビが処理しきれなかったのだろう。もとより表示に上がっていない物体が目の当たりと迫る。
否応なく跳ね上がる心拍数。慌てるあまり、大きさも距離もうまくつかめないままに、だただ条件反射まかせは、火事場のクソヂカラ。
逆噴射を敢行。
その勢いに、踏ん張りきれなかったライオンが、コクピット内をどこぞへ吹き飛ばされていった。そのさらに奥では、思い切り中身をシェイクする居住モジュールが、けたたましい音を立てている。
かまわずアルトは、抜けるほどの勢いで左フットペダルを踏み込んだ。
悲鳴を上げるライオンと船体。
聞きながら、吹き飛ぶような左展開で、残骸を船の腹へと押しやった。
その大幅な減速に、周囲の予想起動が瞬時にして組み替えられてゆく。出来た予想軌道の穴へ両手両足総動員で、アルトは船首を振り上げた。くぐりに、くぐり、かわしにかわして、ようやく優雅に航行する超巨大観光船を盾に、閑散とし始めたエリアを通り抜ける。やがてそんな超大型観光船とも軌道を分ければ、あれほどな鳴り続けていた警報音はピタリと止んだ。
絡まりあっていた軌道も、いつしか眼前から幻のごとく解け去る。
そこには、瞬きを忘れた満天の星空が広がっていた。
そうして訪れる静寂。
実感するまで、どれほど時間を要したろうか。
アルトは引き剥がすようにしてスロットルから手を離すと、まさにぐったり、オートパイロットのスイッチを弾いて浅い呼吸を繰り返す。
オートパイロットに切り替えられたコクピットでは、計器から光が消え、白色灯が辺りをフラットに照らし出していた。同時に働き始めた簡易重力は、その足を久方ぶりの地面へ下ろす。
その安堵感に、自然と腹の底から深い溜め息がもれ出た。
と、背後で鈍い音が響く。
アルトは思い出したように、食い込んでいたベルトを外した。座席で体をよじり、音へと振り返る。
「おい、大丈夫か?」
そこには、上下逆さでひっくり返るライオンの姿があった。
さすがに心配だ。
しかし、ライオンの返事はこうだった。
「ちょうど、慣れてきたところだ」
ほっとしたせいもあってか、思わず笑いがこみ上げてくる。
「あんたにしちゃ、上出来だ」
歩み寄って、アルトは手を差し出した。
掴んだライオンが、正しい上下を取り戻す。しばし、放心したように宙へ目を泳がせていた。
「・・・助かったのか?」
気の抜けた声で確認する。
アルトは肩をすくめて答えていた。
「一生分の運を使い果たして、な」
今度はライオンが噴き出す番だった。
「なるほど。ならば、残りは実力で切り抜けるとしよう」
笑いを力に変えて、ライオンは腰を上げる。そこでようやく目に止まった自らの身なりに、今度は声を上げた。
「なんてありさまだ」
げんなり、目を細める。
確かに発色のよかったオレンジ色のツナギは、ススと得体の知れない流動食に塗り固められて、今やみる影もない。無論、2発目の落雷で飛び散ったあれやこれやを頭から被ったアルトは、それ以上のいでたちとなっていた。
「悪いが、ランドリーなんて気の利いたものはないぜ」
脱いだ作業着を座席へ投げつつ、アルトが先手を打つ。くるり、その体を階段へ向けた。
眺めまわしていたツナギから、顔を上げるライオン。
「どこへゆく?」
不意を突かれた格好だ。
アルトはすでに、上がってきた時とはまるで違う軽快な靴音を響かせると、階段を下層へ降りているところだった。
「カーゴへ行って来る。後回しにされたことがバレたら、噛みつかれそうだったんでな」
振った手で、進行方向を指差してみせた。
「何かあったら、下層の一番奥だ」
その手が吸い込まれるように下層へ消え去る。
取り残されてライオンは唖然としていた。
思わずこう呟く。
「それはまだ、何か起きるとでも言いたいのか?」
スライドするドア。
相当に揺れたことを示して、灯る明かりがカーゴ内に渦巻くホコリを照らし出す。
軽く払いのけて、アルトは目を凝らした。
2人をどこに吊るしたかと、視線を泳がせる。
「死ぬかと、思ったわ」
とたん、呼び止めたのは、地を這うような女の声だった。
見れば、目の前、並ぶネットの中に恨みのこもった三白眼が浮かんでいる。すっかり周囲と同化していたため、アルトにはひと目で気付けなかったらしい。
「お、驚かすなよ」
思わずどもっていた。誤魔化すようにフックへ身を屈める。外そうと手をかければ、女がネットを揺すってそれを拒否した。
「あたしじゃなくて、隣が先でしょ」
蹴られかけて、手を離す。
「ったく、危ねーな」
しぶしぶデミと紹介されたデフ6のフックへ手を伸ばした。床からフックを外せば、張力を失ったネットが、だらしなく解ける。かき分けるようにして、デミが中から勢いよく飛び出してきた。続けさま、女のフックをはずしにかかる。
「ぅぎゃぁ!」
軽快なデミに反して、女はネットに絡まりながら雪崩れるように吐き出されてきた。
仕事を終えたネットは本のロープへ戻ると、すぐにも天井へ吸い上げられてゆく。
その勢いに跳ね回るフックを押さえつつ、アルトは吐き出された挙句に尻餅をついている女へ眉をひそめた。
「おいおい、その勢いで大事な商品に傷、つけてくれんなよ」
打ち付けた尾てい骨をさすりつつ、女は立ち上がる。
「だったら、今度からちゃんとした座席、用意しておいてよね」
いまさらだ。
「そいつはよれよれの爺さんになって、観光遊覧船の船長にでも転身したなら考えておいてやるよ」
どうでも言いように突き返すアルト。
「あらそう。ならそれ、楽しみにしてるわ。きっとそれはそれは豪華なシートで遊覧してくれるんでしょ。代金、弾まなきゃね」
負けじと女が、さらり交わして言葉を並べた。
「誰が恵んでくれって言ったかよ」
けっ、と吐き出すアルト。
と、おもむろに、女の手がその視界へ差し出されてくる。意味が分からず、アルトはその手を見つめて目をパチクリさせた。
「だけど、デミのいってたことはホントだったみたい」
「?」
「ともかく、ありがと。あたしはネオン。言っとくけど、これ皮肉じゃないわよ」
そこに開いているのは、ウソ偽りのない笑みだ。
小ざかしくも翻弄されて、アルトはひとつ大きな息を吐き出したト。呆れ半分で、ネオンの手を握り返す。
「アルトだ。礼は素直に受け取っておくよ」
微笑み返した。
「で、デミが俺のことを何か言ってたって?」
付け加える。
握手をほどけば、聞いていたかのように両者の間へとデミが割って入った。
『ね、ジャンク屋なんでしょ? おじさん、ジャンク屋なんでしょ?』
見やったネオンが、肩をすくめてアルトへ訴える。
「だからここは絶対安全だし、きっと切り抜けられるって。ぶら下がってるガラクタを見るなり言ってたのよ」
『ね、そうでしょ? ジャンク屋なんでしょ?』
ヒト語の聞き取れないデミは、ひたすら造語の返事を求めて繰り返している。
「ガラクタって言うな、ガラクタって」
訂正して、アルトはデミへと造語を放った。
『だったら、どうした』
認めれば、デミの目がひときわ輝く。
『やっぱりそうなんだ! ぼく、一度、ホンモノのジャンク屋に会っておきたかったんだ!』
「とにかく、ずっとここにいろなんて言うつもりはない。表へ出るぞ」
かまうことなく足元にまといつくデミを蹴散らして、アルトはドアをスライドさせた。とはいえ、他にゆく場所など限られている。ひとまず通路を居住モジュールへ向かった。たどり着いた居住モジュールのドアを開く。
が、覗き込むなり、即座に閉めた。
室内の備品は先ほどの逆噴射で、山のごとく一所に掃きかためられている。
使える状態ではなかった。
後始末のことを想像してげっそりしながら、仕方なくその足をコクピットへと向けるアルト。
『ねえ、ねえ、だったらぼく、確かめたいことがあったんだ』
道中、途切れることなく鼻溜を揺らすデミが、そんなアルトの前へと回りこむ。
『だって授業と実際じゃ、違うんだもん。ね? ジャンク屋って、基礎理論には詳しいんでしょ? でないと、お金になるパーツを見極められないんだもん』
後ろ歩き。アルトを見上げる。
捉えてアルトは、ネオンへと振り返っていた。
「こいつ、本当にお前の助手なのか? ネオン」
「えっと、そうねぇ、10分だけ、かな」
ネオンは適当に言い逃れる。
「は?」
聞き返されて、本当のところを口にした。
「あの昇降機のメンテナンスをしてくれてたの。そこで知り合っただけで…えっと、なんだっけ? サポジトリってとこの、物理なんとかって学生さんだって、今聞いたわ」
とたん、アルトはその声をひっくり返していた。
「サポ? なんだよ末はギルドか学者さんってヤツか?」
ならばと、アルトはコクピットへつながる階段を前に足を止めると、自らデミへと身を屈めた。
『あのな、ぼうず。だったらひとつ教えておいてやるよ』
待ちに待った講義に、デミの鼻溜が期待で膨らむ。
アルトは、その口を開いた。
『この船に乗り合わせたのは仕方ないとしても、ほんとうのおりこうさんてのは、訳のわからねぇ話に首を突っ込まないもんだ』
まるで師匠からの大事な言葉を受け止めるかのように、大きく頷き返すデミ。さらに何が聞けるのだろうと、アルトへ真摯な眼差しを向ける。
沈黙。
じれったくなったのは、アルトの方だった。
『つまり俺のいいたいことは、少しはその鼻溜を閉じてろってことだ』
睨みつけた。
ようやくその真意を理解したデミの鼻溜が、見る間にしぼんでゆく。
「バカね。子供相手に、何、脅してるのよ」
見かねたネオンの眉が険しく歪んだ。
「勘違いしてんのは、ぼうずの方だろ。こいつのために言ってやってんだ」
するとデミが、そんんなアルトへ反論すべく声を張り上げる。
『違うもん! ぼうずじゃないもん! デフ6は雌雄同体だから、大人になったらぼく、女の子になるんだもん!』
「…は?」
「…え?」
しかし、主張の焦点がズレている。
言い合っていたアルトとネオンの目が、そんなデミへと釘付けになった。
かまわず声のトーンをかつてのものに戻してデミは、高らかと宣誓する。
『でもね、一番の夢はおじいちゃんの店を継ぐこと!』
満面の笑みをアルトへ向けた。
瞬間、底知れない疲れにどっと襲われ、言葉をなくすアルト。
『好きにしてくれ』
言うだけが精一杯だった。
『ならね、ならね…!』
デミの絶え間ない質問がアルトの尻を叩く。
なされるがまま、アルトはコクピットへ上がっていった。
「お、騒々しいな」
聞きつけ、座席の脇でライオンが振り返る。
「こういうのは、けたたましいってんだ」
アルトは即座に突き返していた。
その足元から、デミが顔をのぞかせる。並ぶ計器を目にするなり、飛び出していった。
『こら、勝手に触るなッ』
すっかり振り回されて追いかけるアルト。
一呼吸おいたその後から、ネオンは姿を現していた。
「無事だったか」
ライオンが迎え入れる。顔は相変わらずの獣面だが、その声には安堵の色が濃くにじんでいた。
「死にそうなほど振り回されたけれどね」
聞き取って、冗談交じりに返すネオン。
ライオンも手馴れたものだ。
「船長が船長だから仕方あるまい」
突き返した。
無論、すかさず聞きつけたアルトが加わる。
「おい、聞こえてるぞ」
デミはその小脇だ。
と、突如、姿勢を正しライオンが改まった。
「わたしの名は、ルーケス・ク・ニット・タンぺーナイマだ。しばし、空間を共にするものとして、よろしく頼む」
パラシェントならでは、あわせた両手のひらを水平に倒して頭を下げる。
「舌、かみそうな名前だな。ライオンでいいだろ、ライオンで」
アルトが即、却下した。
すかさずネオンも名乗る。
「あたしはネオン。こっちはデミ。よろしくね」
アルトが小脇から、そんなデミを解放した。
『ねえ、造語で話してくれないと、ぼく、分からないよ』
見回し、デミは歯がゆそうに鼻溜を揺らす。
「ちなみに、普段の義顔はこれなのだが…」
と、装っている必要のなくなったライオンが、その顔を別のものへとすり変えていった。現れたのは見たこともない形状だ。
とたん、見上げていたデミの鼻溜が潰れた。
かと思うと、火がついたように泣きだす。
確かに、目の当たりとしたネオンの頬も引きつっていた。
あからさまな拒絶反応に、ライオンはうろたえる。
「いや、あちらの方がいいのなら、それで通すが」
これほどまでに不評を食らうとは思っていなかったらしい。
「そうしてくれ、そっちのほうが和むな」
アルトが止めを刺していた。
いや、美的感覚とは、それくらいに幅のあるものなのだ。
どこか残念そうに、その顔を元へと戻してゆくライオン。
ところがデミは、泣き止まなかった。それどころか、ふらりネオンの前へ倒れ込む。
「デミっ!」
慌てて抱きとめるネオン。
答える様子を見せないデミの鼻溜は、いつしかイビキのような音を立てていた。
「デミっ?!」
揺さぶり、ネオンが呼びかける。
そんなデミをアルトとライオンも覗き込んだ。
「…まさかッ?」
そうして気づいたのはアルトだ。
弾かれたように計器へ振り返るなり、覗き込む。探したのは、一酸化炭素のゲージだった。見ればその目盛は、いつしか危険濃度近くにまで跳ね上がっている。即座に座席の下から酸素マスクを剥ぎ取った。ネオンへ投げる。
「酸欠?」
受け取ったネオンが、余るほどのマスクをデミにかぶせて口走った。
「さっきの航行で事故ったか? フィルターならヒト5人まで処理できるハズだってのに」
口走るアルトが、取り急ぎチェックを始めた。
と、すまなさそうに、ライオンがその手を挙げる。
「いや、申し訳ない。パラシェントはヒトの3倍の呼気量があってだな…」
瞬間、殺気にも似た緊張感がアルトとネオンの間に走った。
振り返りざま、アルトはライオンへ指を突きつけ言い放つ。
「黙れ。しゃべるな。息、するなッ」
気圧され、大げさなまでに息をのむライオン。
詰まるところ、メッセージ再生はまだ先の話らしい。
ACTion 21 へ続く・・・ |