ACTion 13 『イルサリの召集』
肩で繰り返す荒い呼吸。
一塊になったまま、3人は身を寄せ合うようにして後ずさった。その背にT字路が立ち塞がる。
開ききった鉄扉からは突き出された電極に連なり、船賊が身を乗り出していた。
ヒト1人が通り抜けるにちょうどの鉄扉はサイズの似通った船賊に塞がれて、後方にどれほどの数が控えているのかを覆い隠している。
だからこそ、走馬灯にも似た勢いで展開されてゆくシュミレーションは、ネオンの脳裏へあらゆる可能性を提示していた。
だが、そのどれもは画一的な結末に帰結すると、取るべき行動の全てを無意味なものにすり替えてゆく。
つまりは八方塞り。
人生、一巻の終わり。
成す術もない、まな板の上の鯉。
イヤと言うほど思い知らされれば、強張る体が、そうして飲み込んだ息を喉に詰まらせた。跳ね返すかのように押し上げて、これでもかと鼓動は早まる。その目が、絞られてゆくスパークショットの引き金から引き剥がせなくなった。
瞬間、そんな視界を横切って飛び行く何か。
船賊へと投げつけられたハンドライトが、緩やかな弧を描く。
それはあまりにも予想外の展開だった。
詰まっていたネオンの喉が、間の抜けた声を漏らす。
「は?」
払いのけるべく、船賊が突きつけていたスパークショットを振り下ろした。
それが狙いだったのだ。
振り下ろされた電極がそうして3人から逸れるや否や、ここぞとばかり男がネオンの傍らから飛び出す。船賊の懐へ、長すぎるスパークショットの内側へ一気に踊りこむと、正拳突きよろしくガスマスクを鷲掴んだ。
無論、視界を塞がれた船賊が慌てふためく。男の背に回ったスパークショットを振り回すと、闇雲にその引き金を引いた。
放たれた閃光は、ネオンをかすめてあらぬ方向へと飛び去る。
「きゃあっ!」
叫び、屈みこむネオン。
焼け焦げた天井が煙を上げた。
すかさず男の罵声が飛ぶ。
「下がってろッ」
しかし腰の抜けたネオンには無理難題というもの。代わってクルリ、踵を返したのは、唖然とことの成り行きを見守っていた毛むくじゃらだった。おもむろにT字路最後の活路へ向かって走り出す。
「ちょ、ちょっと、待ってよっ!」
すがるネオン。
下がれと言ったが、逃げろと言った覚えのない男が声を上ずらせる。
「おいッ、バカッ。どこへッ」
何しろ求めてたどり着いた出口は、目の前だ。
と、その出口から何より警戒していた後続が飛び出した。
「…っそッ」
足蹴りで押し戻す。
よろめき倒れれば、新たな船賊が2体、入れ替わるようにそんな男の前へと飛び込んできた。鷲掴みにした船賊の左右に立ち塞がり、男へスパークショットを振りかざす。
挟まれれば、圧倒的不利。
いや、あえて利点を挙げるならば、狭い踊り場に長すぎるスパークショットが2本ということだろう。
ならばと、男は鷲掴んでいた船賊の頭を左側へと力任せに突き飛ばした。押し倒され、絡まる双方を片目にスタンエアを右へと振り上げる。
その銃身が電極と交差した。
目もくれず、一発。
反転。
さらに、よろめく2体へトリガーを引く。
ガスマスクの砕ける鈍い音が立て続けに響いた。
エア弾を食らった船賊たちが、左右壁面へとその身を叩きつける。
すかさず、ガラ空きとなった真正面へ、銃口を固定。
息を詰めたまま押しかたまった。
が、そこに新たな船賊の姿はない。鉄扉の向こうを覗き込み、左右に移動して視界を広げるが、状況に変化はなかった。
「ぼやぼやするな、行けッ」
分かるや否や、男は銃口を掲げたまま顎をしゃくってネオンを促す。
楽器を抱きしめうずくまっていたネオンは、その声に小さく飛び跳ねた。おかげで我を取り戻すと、腑抜けた体へ鞭を入れ、急かされるままつんのめりながらも立ち上がる。
目指すは鉄扉の向こうだ。
最初1歩を踏み出した。
散らばる船賊が、そんなネオンの中でマネキンのように映る。
不気味さにたじろいだその時、やおら蹴り飛ばされただけの船賊が、身を起こすべく動き出した。
浮き上がるスパークショット。
「…っ!」
ネオンは息をのむ。
気付いた男が、素早くその銃身を踏みつけ制した。
ガスマスクへ静かにスタンエアを降ろす。
さすがにこれ以上は無駄だと悟ったらしい。とたん、船賊の動きが止まった。疲れきったように再び床へと伏せる。その頭をひねって男を恨めしそうに見上げた。おもむろに、たどたどしいヒト語を話し始める。
「逃げるは、無駄」
もちろん音声言語を持たない彼ら極Yには、声帯と言う器官がない。つまるところ、それはガスマスクに仕込まれた翻訳ソフトの放つ声だった。
「イルサリの、召集。言葉、入り、らば…」
しかも、かなり劣悪な部類の。
何を言わんとしているのかが、まるで分からない。
「イルサリの召集?」
辛うじて聞き取れた単語を、男が繰り返す。
「そいつが俺を…」
呟いた。
だが、そこまで。
その耳に、コの字の通路から押し迫る船賊たちの足音が響き始める。吹き溜まりを脱し、追いついてきたのだ。まるで要領を得ない会話をぶった切る。
男の発した舌打ちの音が、ネオンのいる場所にまで鋭く響いた。
「たくッ、海賊が海賊版かッ? もっとまともなソフト、使いやがれッ」
同時に絞られるトリガー。
ガスマスクが大きくへこみ、床の上で船賊の頭が弾んだ。
壊れた翻訳ソフトの音声が、誤作動を起こして途切れることなく辺りへ漏れ出る。
避けるように迂回して、ネオンは鉄扉へ、男へと駆け寄った。
「イルサリって…」
言いかければ、男が強引にその背を鉄扉へ押しやる。
「あんたは、ここから出ろッ」
毛むくじゃらの後を追い、T字路へと駆け出した。
「どこいくのっ…」
慌てて振り返るが、引き止める術はない。
しかも折り重なるラバーソールの足音は、確実に鮮明となってゆく。
互いに御託を並べているヒマはなかった。
あっという間にT字路を折れ、完全にその姿を消し去った男へ背を向けるネオン。奥歯へ力をこめると、言われるがままに鉄扉をくぐった。見ればそこにはモバイロが説明していた通り、非常灯に照らし出されて上層のモジュールへ伸びるスロープが、シャフトへ巻き付く格好で伸びている。
1人で辿る決意を固めた。
だが、それを揺るがす音圧の接近。
これまた船賊たちの靴音だ。
スロープの奥から、つまるところ上層から鳴り響くと、ネオンの鼓膜を揺らす。
「…って、こっちからも来てるじゃないっ!…」
小声ながらも吐き捨てた。
即座に、くぐったばかりの鉄扉へそろり、後戻る。
T字路にまで後退した。
が、無論、そこに迫るのはコの字で吹き溜まっていた船賊たちの靴音だ。すでに息遣いまでもが聞こえてきそうなほどクリアとなっている。
「どうしろっていうのよっ!」
吠えた。
しかし現状、残された手はひとつしかない。
ネオンは握り続けて疲れた腕から、楽器をストラップへと繋ぎなおした。
問答無用、2人の後を追って残された通路へ向かい床を蹴りつける。
ACTion 14 へ続く… |