ACTion 12 『GO!』
勢い余って前のめり。
首に提げていた楽器が床に擦れかける。
掴みあげて通路へ飛び込んだ。
追いかけるように左上方では、閃光を浴びたパネルがびっくり箱よろしく弾けている。針のような火花が、狭い通路一杯に広がると四方へ飛び散っていた。
避けてネオンは、右肩を強か壁面へと叩きつける。
引きつる頬。
そのまま寝返るように、壁面へと背中を貼り付けた。
自然、視界に、突きつけられたスパークショットの電極が映り込む。
詰まるところ、彼らこそが船賊なのだ。
傍らでは、そうして弾けたパネルから伸びるコードを導火線代わりに辿って、火花が通路を奥へと駆け抜けていた。中継地点となったパネルが、次から次へと華奢な音を立てて破裂している。あっという間にコの字の角の向こうへと消え去った。
のち襲う、再びの暗転。
非常灯すらもが消え、ネオンは闇の中に放り出される。しかしながら暗闇も2度目となれば動揺も半減するというもの。叩き付けた肩の痛みもなんのその、貼り付けていた背を引き離し、ネオンは壁面を手繰っての全力疾走に踏み切った。
と、不意に途切れる壁面。
進行方向が塞がれる。
大激突。
最初の角だ。
手繰る壁面をアウトコーナーに変えて、ピンポン玉のように曲がりきった。
その視界に、光。トラとやり取りをかわしながら目にした非常用具の蓄光テープがちらつく。
こことぞとばかり、蹴りだすヒールに力をこめるネオン。甲高く連打させて飛びついた。
が、これまたおよばず。
「ぅわッ」
「おう!」
「きゃぁっ!」
聞き覚えのある声と共に、跳ね返される。声は間違いなく、フロアから降ってきたあの2人のものだった。通路を塞ぎ、立っていたらしい。蓄光テープがちらついて見えたのも、そのためだ。
ならば手加減する義理はないというもの。
「ちょっと、どいてよっ!」
体勢を立て直すや否や、ネオンは再度、2人へ身を躍らせていた。
「な、どこへッ」
「イダ! 足、足、踏んだ!」
非難ごうごうかきわけると、まるできつかった服を脱ぎ捨てるかのように、その向こうへ抜け出す。ちらついていた光が、非常用具をくっきり囲ってネオンの目に映った。
「コレ、非常用具なんだってばっ!」
言うや否や、食らいつく。その開き方は万国共通だ。眉間へ力を込めると、硬く握った拳を振り下ろした。
だが、鈍い音を立てたのはネオンの拳の方。
「ったぁーっ! この、不良品!」
もうその口からは悪態しか出てこない。
とたん、期待していた破砕音は、そんなネオンの背後から聞こえてきた。
「邪魔してるのはそっちの方だろうッ」
男の声に振り返る。所定位置からはずされて発光を始めたハンドライトが、その目に飛びこんできた。
「使えッ」
投げつけられる。
「なによ、そっちこそ、そんなところに立ってないでよっ!」
痛む拳を開いて、どうにか受け取った。
「一応ありがとっ!」
3人がそれぞれにハンドライトをかざせば、狭い通路の視界は予想以上に広がる。広がり、続けさま飛び込んできた船賊たちをも照らし出した。
声もなく、身を翻すネオン。
毛むくじゃらも同様。宙をかくように両手を振り回して床を蹴る。
思いがけない出会い頭に、狭いコーナーでひしめき合う船賊たちがスパークショットを構えなおした。
横目に、非常用具の中に残るハンドライトを引き抜いたのは男だ。くれてやるといわんばかり、ありったけを船賊へと投げつける。
船賊たちを強烈な光の塊が襲った。
浴びてのたうつと、後ずさってゆく船賊たち。
その過剰な反応ぶりは、暗視鏡のなせるワザだ。
何も知らずに押し寄せてくる後続が、そんな彼らとぶつかった。あっという間に折り重なってコーナーを埋め尽くしてゆく。
背に、ネオンは振り返ることなく2つ目の角を曲がっていた。ひたすらコトの成り行きに吹き飛びそうな退路の記憶を、呪文のごとくそらんじ続ける。
「次のT字路が…、右。で、それから、確か、エレベータの向こうが…道なりの左?!…だっけ?」
すでに怪しい。
併走する毛むくじゃらも、そんなネオンの隣でひすらに不満を連発させていた。
そこへ一仕事終えた男が追いついてくる。
「あんた、ここの従業員なのかッ?」
口にしていた退路から、そう判断したようだ。
「まさかっ!」
答えてすぐさま、ネオンは問い返していた。
「あいつらはっ?」
今、一番の関心ごとはそれだ。
「しばらくは追ってこない」
「仕事で来ただけ。従業員じゃないわ。制服、着てないでしょ。モバイロで退路を探させただけよ」
見せ付けるように、オフホワイトのライダージャケットを引っ張る。
すると併走していた毛むくじゃらが、呪いから解かれたように2人の会話へ割り込んできた。
「助かった。ここは不慣れなのだ。そのモバイロはどこに?」
安堵の声を漏らす。
だが、その存在はご存知の通り。
「スパークショットの影響でしょ。わたしのIDごと、パンクよっ!」
「そいつは、ご愁傷様」
男が茶化して切り捨てた。
と、見据えた通路の先が、ようやく青緑色に口を開く。回線が異なるのか、他の通路には非常灯が灯っている様子だった。
「たく、船賊が、こんな田舎に、何の用があるワケっ?」
唸って、直角に交わる最初のT字路へと飛び出すネオン。
「バカヤロッ」
進行方向を確認すべく減速していた男が、その背へ声を張り上げる。
ともあれ、結果はオーライ。
見える限り通路に物影はなかった。
カーブ内壁には、並ぶドアだけがまばらに開け放たれ、しかるべきパニックがあっただろう気配だけを伝えよこすのみ。静かにネオンを迎え入れている。
無意味に終わった減速から、男と毛むくじゃらは再びのロケットダッシュに切り替えるべく、腰を落とす。その脳裏には、おかげで聞き流しかけていたあの言葉が蘇ろうとしていた。
おぼろげに反芻し、目覚めたかのごとく、こう口走る。
「船賊ッ?!」
顔を見合わせていた。
とたん、ロケットダッシュにさらなる加速が加わる。ネオンに並ぶなり、まくし立てた。
「あいつら船賊なのかッ?」
無論、言われて、いまさらなのはネオンの方だ。
「何よ、現場にいたの、そっちでしょっ!」
苛立たしげに必要のなくなったハンドライトを投げ捨てると、どうにも走りにくい楽器を手に取り、ストラップからはずす。
走りながらの手作業に手間取っていれば、視界の傍らを、モバイロと降りたエレベータの蛇腹扉が後方へ流れていった。しばらくお待ちくださいとでも書かれているのだろう。蛇腹扉には、造語らしき文字映像が重ねられている。
「相手が船賊だったとは!…」
毛むくじゃらがいかがわしげな視線を男へ向けた。
跳ね返す男が口を尖らせる。
「追われるような覚えはないッ」
聞いたネオンの目がテンになる。
「え?」
つまりはこうだ。
「あなたたちが追われるって、わけっ?」
と同時に、左手に岐路を突き刺し、めくれ上がってくる、一本調子だった通路。
驚きに浸っているヒマもないまま、ネオンは即座に進行方向を指し示して声を張り上げた。
「なによっ! サイテー! とにかく、あそこを左っ!」
3人の靴音がさらにけたたましく鳴り響いた。
全速力で駆け寄り、吹き飛びそうな体を固定すべく切れた壁面に手をかけると、それを半径に最短距離で左折する。
そこにはシャトル乗降口の踊り場にも似た空間が広がっていた。ドン突きにあるのは、重たげな1枚の鉄扉だ。表面の循環式光粒子ロックが、明らかに電気系トラブルとは無縁であることを物語っている。
見据えてネオンは、乱れる息でままならない指先を、ジャケットに忍ばせたバックヤードパスへと伸ばした。
が、触れるまでもなく、内側へと動き出す鉄扉。
ぎょっとした3人の足が、けたたましく床を打つと、もつれて止まる。
おしあいへしあい、身構えた。
案の定、押し開けられた鉄扉の向こうから顔を覗かせたのは、見飽きたスパークショットの電極だった。
ACTion 13 へ続く… |