ハードボイルドワルツ 有機体ブルース(13/105)PDFで表示縦書き表示RDF


ハードボイルドワルツ 有機体ブルース
作:N.river



ACTion 12 『GO!』


 勢い余って前のめり。
 首に提げていた楽器が床に擦れかける。
 掴みあげて通路へ飛び込んだ。
 追いかけるように左上方では、閃光を浴びたパネルがびっくり箱よろしく弾けている。針のような火花が、狭い通路一杯に広がると四方へ飛び散っていた。
 避けてネオンは、右肩を強か壁面へと叩きつける。
 引きつる頬。
 そのまま寝返るように、壁面へと背中を貼り付けた。
 自然、視界に、突きつけられたスパークショットの電極が映り込む。
 詰まるところ、彼らこそが船賊なのだ。
 傍らでは、そうして弾けたパネルから伸びるコードを導火線代わりに辿って、火花が通路を奥へと駆け抜けていた。中継地点となったパネルが、次から次へと華奢な音を立てて破裂している。あっという間にコの字の角の向こうへと消え去った。
 のち襲う、再びの暗転。
 非常灯すらもが消え、ネオンは闇の中に放り出される。しかしながら暗闇も2度目となれば動揺も半減するというもの。叩き付けた肩の痛みもなんのその、貼り付けていた背を引き離し、ネオンは壁面を手繰っての全力疾走に踏み切った。
 と、不意に途切れる壁面。
 進行方向が塞がれる。
 大激突。
 最初の角だ。
 手繰る壁面をアウトコーナーに変えて、ピンポン玉のように曲がりきった。
 その視界に、光。トラとやり取りをかわしながら目にした非常用具の蓄光テープがちらつく。
 こことぞとばかり、蹴りだすヒールに力をこめるネオン。甲高く連打させて飛びついた。
 が、これまたおよばず。
「ぅわッ」
「おう!」
「きゃぁっ!」
 聞き覚えのある声と共に、跳ね返される。声は間違いなく、フロアから降ってきたあの2人のものだった。通路を塞ぎ、立っていたらしい。蓄光テープがちらついて見えたのも、そのためだ。
 ならば手加減する義理はないというもの。
「ちょっと、どいてよっ!」
 体勢を立て直すや否や、ネオンは再度、2人へ身を躍らせていた。
「な、どこへッ」
「イダ! 足、足、踏んだ!」
 非難ごうごうかきわけると、まるできつかった服を脱ぎ捨てるかのように、その向こうへ抜け出す。ちらついていた光が、非常用具をくっきり囲ってネオンの目に映った。
「コレ、非常用具なんだってばっ!」
 言うや否や、食らいつく。その開き方は万国共通だ。眉間へ力を込めると、硬く握った拳を振り下ろした。
 だが、鈍い音を立てたのはネオンの拳の方。
「ったぁーっ! この、不良品!」
 もうその口からは悪態しか出てこない。
 とたん、期待していた破砕音は、そんなネオンの背後から聞こえてきた。
「邪魔してるのはそっちの方だろうッ」
 男の声に振り返る。所定位置からはずされて発光を始めたハンドライトが、その目に飛びこんできた。
「使えッ」
 投げつけられる。  
「なによ、そっちこそ、そんなところに立ってないでよっ!」
 痛む拳を開いて、どうにか受け取った。
「一応ありがとっ!」
 3人がそれぞれにハンドライトをかざせば、狭い通路の視界は予想以上に広がる。広がり、続けさま飛び込んできた船賊たちをも照らし出した。
 声もなく、身を翻すネオン。
 毛むくじゃらも同様。宙をかくように両手を振り回して床を蹴る。
 思いがけない出会い頭に、狭いコーナーでひしめき合う船賊たちがスパークショットを構えなおした。
 横目に、非常用具の中に残るハンドライトを引き抜いたのは男だ。くれてやるといわんばかり、ありったけを船賊へと投げつける。
 船賊たちを強烈な光の塊が襲った。
 浴びてのたうつと、後ずさってゆく船賊たち。
 その過剰な反応ぶりは、暗視鏡のなせるワザだ。
 何も知らずに押し寄せてくる後続が、そんな彼らとぶつかった。あっという間に折り重なってコーナーを埋め尽くしてゆく。
 背に、ネオンは振り返ることなく2つ目の角を曲がっていた。ひたすらコトの成り行きに吹き飛びそうな退路の記憶を、呪文のごとくそらんじ続ける。
「次のT字路が…、右。で、それから、確か、エレベータの向こうが…道なりの左?!…だっけ?」
 すでに怪しい。
 併走する毛むくじゃらも、そんなネオンの隣でひすらに不満を連発させていた。
 そこへ一仕事終えた男が追いついてくる。
「あんた、ここの従業員なのかッ?」
 口にしていた退路から、そう判断したようだ。
「まさかっ!」
 答えてすぐさま、ネオンは問い返していた。
「あいつらはっ?」
 今、一番の関心ごとはそれだ。
「しばらくは追ってこない」
「仕事で来ただけ。従業員じゃないわ。制服、着てないでしょ。モバイロで退路を探させただけよ」
 見せ付けるように、オフホワイトのライダージャケットを引っ張る。
 すると併走していた毛むくじゃらが、呪いから解かれたように2人の会話へ割り込んできた。
「助かった。ここは不慣れなのだ。そのモバイロはどこに?」
 安堵の声を漏らす。
 だが、その存在はご存知の通り。
「スパークショットの影響でしょ。わたしのIDごと、パンクよっ!」
「そいつは、ご愁傷様」
 男が茶化して切り捨てた。
 と、見据えた通路の先が、ようやく青緑色に口を開く。回線が異なるのか、他の通路には非常灯が灯っている様子だった。
「たく、船賊が、こんな田舎に、何の用があるワケっ?」
 唸って、直角に交わる最初のT字路へと飛び出すネオン。
「バカヤロッ」
 進行方向を確認すべく減速していた男が、その背へ声を張り上げる。
 ともあれ、結果はオーライ。
 見える限り通路に物影はなかった。
 カーブ内壁には、並ぶドアだけがまばらに開け放たれ、しかるべきパニックがあっただろう気配だけを伝えよこすのみ。静かにネオンを迎え入れている。
 無意味に終わった減速から、男と毛むくじゃらは再びのロケットダッシュに切り替えるべく、腰を落とす。その脳裏には、おかげで聞き流しかけていたあの言葉が蘇ろうとしていた。
 おぼろげに反芻し、目覚めたかのごとく、こう口走る。
「船賊ッ?!」
 顔を見合わせていた。
 とたん、ロケットダッシュにさらなる加速が加わる。ネオンに並ぶなり、まくし立てた。
「あいつら船賊なのかッ?」
 無論、言われて、いまさらなのはネオンの方だ。
「何よ、現場にいたの、そっちでしょっ!」
 苛立たしげに必要のなくなったハンドライトを投げ捨てると、どうにも走りにくい楽器を手に取り、ストラップからはずす。
 走りながらの手作業に手間取っていれば、視界の傍らを、モバイロと降りたエレベータの蛇腹扉が後方へ流れていった。しばらくお待ちくださいとでも書かれているのだろう。蛇腹扉には、造語らしき文字映像が重ねられている。
「相手が船賊だったとは!…」
 毛むくじゃらがいかがわしげな視線を男へ向けた。
 跳ね返す男が口を尖らせる。
「追われるような覚えはないッ」
 聞いたネオンの目がテンになる。
「え?」
 つまりはこうだ。
「あなたたちが追われるって、わけっ?」
 と同時に、左手に岐路を突き刺し、めくれ上がってくる、一本調子だった通路。
 驚きに浸っているヒマもないまま、ネオンは即座に進行方向を指し示して声を張り上げた。
「なによっ! サイテー! とにかく、あそこを左っ!」
 3人の靴音がさらにけたたましく鳴り響いた。
 全速力で駆け寄り、吹き飛びそうな体を固定すべく切れた壁面に手をかけると、それを半径に最短距離で左折する。
 そこにはシャトル乗降口の踊り場にも似た空間が広がっていた。ドン突きにあるのは、重たげな1枚の鉄扉だ。表面の循環式光粒子ロックが、明らかに電気系トラブルとは無縁であることを物語っている。
 見据えてネオンは、乱れる息でままならない指先を、ジャケットに忍ばせたバックヤードパスへと伸ばした。
 が、触れるまでもなく、内側へと動き出す鉄扉。
 ぎょっとした3人の足が、けたたましく床を打つと、もつれて止まる。
 おしあいへしあい、身構えた。
 案の定、押し開けられた鉄扉の向こうから顔を覗かせたのは、見飽きたスパークショットの電極だった。
              ACTion 13 へ続く…


お読みいただきありがとうございました。
そんなみなさんに、ささやかながら、メリークリスマス!!






関連イラストと作者のボヤキ、ムービーは、作者管理のブログ

      『N.riverの食っちゃ寝、創作!』 まで!

 





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