第6話 森と女
眉間に皺を寄せ、オートは構えた。指の間に白珠を隠し持った。
「ここでやり合う気?」
女は不敵に微笑している。
「人を探している」
警戒しつつ、巾着袋からワラ人形を出し、女に見せた。
「汚い人形」
「見覚えは?」
「知らないわ」
人形をしまう。
「なら用はない」
「私は、あなたに用があるの」
女は、足を交差させて腰を振りながら歩く。木洩れ日が女の凹凸のはっきりとした目鼻を照らした。
「真理を見る森、って、知らない?」
「きいた事はない」
オートは後ずさる。
「その森に住む光人は、あらゆる探し物をみつけることができるらしいの。あなたも誰かを探しているようだけれど、私も探してるのよ」
「そんな<色つき>がいるのか」
「いるのよ。噂では。ふふふ。そういう、<色つき>がね」
後ずさるオートの背に幹が当たった。
女は近づいてくる。
「それなら、お互いに、用はないってわけだ」
「そうかしら。あなたは、うずうずしてるんじゃない?」
「何のことだ」
「ふふ。あなたからは血の匂いがするわ。たくさんのね」
女の顔中の血管が、みるみる赤黒くなって浮き出てきた。
「赤の<色つき>、か」
どんな力を持っているのか。
オートは踏ん張り、真横に飛んだ。
同時に、オートの後ろにあった木が八方に弾けた。破片がオートの腕をかする。
振り向くと、根元からばらばらになった幹から、黄色に濁った水が噴出している。
「生命にとって、一番大切なのは血。でしょ?」
足元に気配を感じて、後ろに飛んだ。大木の根につまづき、後ろに重心がより過た。
よろめく。
赤い、無数の紐状のものが、オートの足の裏に突き刺さった。
「ぐっ」
痛みはない。
「捕まえた」
足首が腫れて、膨張していく。ふくらはぎに昇ってくる。
「ぐあぁぁ」
どうやら血管を攻撃してくる力らしかった。
「私を見つけるくらいだから、もっと強いかと思ったのに。悪いけど、弱い子は死んで。あなたの中の光人を解放してあげる。もっと適合する人をみつけてあげるわ」
オートは歯を食いしばりながらも立ち上がった。拳を緩め、指で丸をつくる。片目を閉じ、丸を覗く。女を丸の中の視野に入れた。
「なにそれ? 望遠鏡のつもり?」
女は背後の違和感を感じた。
オートは震える手の丸を、徐々にしぼってゆく。
女の周りの空気が歪む。
女は、掌から紐を出し、それを傍の大木の枝に絡めて、飛んだ。オートの足に進入していた紐が抜けていく。
オートは拳を握った。その瞬間、オートが覗いていた前方一直線上にある木々が丸く削られた。
女がいた地面は半円形に削られた。
穴の開いた巨木の下に、白珠が点々と転がる。
「まったく、何色の力よ、それ」
女はそばの木に赤い紐でぶらさがっていた。
オートは頭を抱えた。バンダナが冷たく、頭を締める。
「あらあら、ぜんぜん適合できてないじゃない」
するりと木から下りた女は胸の谷間から刃物を出した。小型の曲刀で鞘に納められている。女は鞘を抜いた。
「くうう」オートは頭の痛みに耐えるのでやっとだった。この力を使うたびにバンダナが激しく反応する。
女はオートを見下ろした。
「あら、以外に若いのね。自分の運命を嘆くべきよ。ふふ」
曲刀が振り下ろされた。
パンっと乾いた音が鳴った。曲刀はオートの後頭部をえぐる直前で、止まった。オートの掌がそれを止めていた。指の間の白珠が曲刀の切っ先に触れている。
オートはすかさず、曲刀の触れた白珠を女に向けて弾き、飛ばした。白珠は曲刀に形を変えて飛ぶ。
女は体をひねった。しかし白珠は肩に当たった。女の肩が、刃物で突かれたかのように傷を負った。血が流れる。
「くっ、なかなか、しぶとい子。ますますぞくぞくするじゃない」
女の肩から流れていた血がひと塊になって、傷口に戻っていく。
オートは息を切らした。膝がひとりでに震える。
「スタミナはないみたいね」
「うるせぇ、ババァ」
「はっははは。良くない子。破裂したい?」
女は一歩踏み出して、ふいに足を止めた。
オートはきっと睨む。
「ま、そういうことなら、ちょっと面倒ね」
女はオートの後ろを見ている。
「なんだ、ばばぁ」
歩きだした女は、オートの横を通り過ぎようとした。
「待て、まだ終わってない」
女の鋭い視線がオートを見た。瞬間、膝を蹴られ、オートは地に手をついた。
「私の名前はU・R。この世界の覇者を探す者よ。もっと強くなりなさい。可愛い子」
女はウインクをして、森の中に消えて行った。
「ぐう」
あまりのバンダナの冷たさに、大木の根にもたれて意識を失った。
くそ。母さんの幻影が頭をよぎる。
オートは人形を作る母の姿を一瞬、見た。
はっと眼を覚ますと、雑談する声がそばで聞こえる。
丸太で組まれたロッジのなかだった。
中二階でオートは寝かされていた。
階下を覗くと、数人の男女が、がやがやと話し合っている。その中に弩雁の姿があった。
「おはよう、ボウヤ」
弩雁がにっと笑った。 |