第5話 5年後
父さん、海だよ。
オートはつぶやいた。
青いバンダナが潮風に流れる。精霊船は朝日の下、帆にいっぱい風を受け、だんだんと島へ近づいていく。
「お、いい真珠を持ってるじゃねぇか」
筋肉が隆起した、屈強な男がオートに言った。
オートは白い珠を巾着袋に入れ、口を固く縛った。
船室へ戻ろうとして、男の大きい手に肩を掴まれた。
「おいおい、待てよ。おれはその真珠が見たいんだ」
オートは男の手をはじいた。
「触るな」
「ほぉぉぉぉ。この俺にそんなこと言うかねぇ。見たところ、破国人じゃねぇみたいだしよ。どっちかというと、コナテ人っぽい」
「そうだ。俺はコナテ人だ」
大男はけらけらと笑った。
「死にたいのかい? あの島は俺たち破国人の領土だぜぇ」
「人を探している」
「それじゃあ、海にでも聞いてみるんだな!」
巨大な拳骨がオートの頬を狙って、打ち下ろされた。
オートは掌で拳を受けた。ぱんっと乾いた音が鳴った。
大男は口をあんぐり開けた。
オートは何事もなかったかのように、手を下ろした。男の放った衝撃はどこかに忘れられたようだった。
「おいおい、ウソだろ。お前、その若さで光人かよ」
「光人?」
「えぇぇぇぇ。光人を知らないで光人だとぉぉ!」
行こうとする。
「ま、待てよ。そうか、お前がこの船に乗れた理由がわかったぞ。仲間をさがしてるんだろう? 光人を保護しようっていう団体は東西を問わずあるからなぁ。バックに奴等が付いているわけか。なるほどなぁ」
オートはため息を吐き、巾着袋を再び開けた。
「この人形を、知っているか」
ワラで作られた人形だった。
「ん? んんんん」
人形を袋の中に戻した。
「ならいい」
「い、いや、ちょっと待てよ。どっかで見たことあるような気がするなぁ」
「どこで見た!」
大男に迫った。
「い、いや。あれはたしか・・・、そうそう、どこだったかな」
「もういい」
「もうちょっとで、思い出せそうなんだが・・・・・・」
船室から、人が出始めた。20人くらいはいる。
「もうすぐで着きそうだな」
いつの間にか、島は目の前に浮かんでいた。
上陸して、しばらく歩いても、後ろから大男が付いてくる。
「この島はなぁ、通称、拷問島って呼ばれててな。まぁ、今じゃあ、名前のない島ってのが正式名称だが」
オートは無視して歩き続けた。道はほとんど坂道だった。中央に山があって、海までずっと裾野が広がっている。
「なんでこんな島に人が来るかっていうと、上質の妖精が採れるんだ。光人の素だって、うようよしてたんだ。まぁ、最近はめっきり数が少なくなったけれどもよ。ほら、最近、赤の素がこの島で目撃されてるからよ。一攫千金を狙ってるやからが多いんだ。で、これからどこに行くんだ?」
オートは大男をにらんだ。
「お前には関係ない」
「そういうなよ。これも縁だ。俺は運命ってのが大好きでね。一つ一つの出会いには運命を感じないかい?」
「ふざけるな」
オートは呟いて、森へと入っていく。
「おーい、そっちは危ないぞぉ」
言いながらも大男は、オートから離れなかった。
「俺の名前は弩雁。職業は、まぁ、今は無職だ」
「なぜ、ついて来る」
オートは木々の間を縫いながら、奥へ奥へと入っていく。
「お前が止まらないからさ」
足を止めたオートは振り向いた。
「止まったぞ」
「まぁ、だからといって今さら引き返すのもなぁ。奥に何があるんだ?」
「知るもんか」
弩雁は口を横に広げて笑った。
「わかってるんだぜぇ。いるんだろ? 赤の素が」
「なんだ、それは」
「ああ、お前の国の言い方をすれば・・・、プリズン、か」
「違うな」
「だったら、なんでこんな島に来たんだ。ただの観光か? あん?」
「そうじゃない。俺の育った村では、<色つき>って言うんだ」
「っほ。ああそうかい。でもどっちだって一緒だ」
オートは足を進めた。
「ついて来るな」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか」
と一歩踏み出したとき、弩雁の足元で、ぱんっと乾いた音がした。その場で、腰から崩れた。腰に、力が入らない。
「じきに治る。じゃあな」
「お、おい。卑怯だぞぉ! お〜〜い!」
オートはとっとと奥へ進んだ。
オートが見えなくなると、弩雁は舌打ちをうった。
「礼儀を知らない子だ」
地面に掌を、ぴたりとつけた。
「気付くなよ、オートちゃん」
一瞬、黄色い光が、弩雁の5本の爪先から地面に向かって走った。
弩雁は片足を上げた。
「なるほど。おもしろい力だ」
弩雁の足の裏には、白い珠が転がっていた。
オートには、ほの赤い光が森の奥に見えていた。<色つき>か、もしくはそれと融合した人間がいる。森の中には、日の光が届かない場所もあるだろう。そこにいるか、それとも融合した人間が力を使っているか。
赤い光は段々と弱くなっていく。
オートは急いだ。
木の根をいくつも越えて、光の出所に向かう。
近い!
赤の光は消えた。
オートは大木の前に立っていた。大木の幹は半径10メートルはある。その根っこは空洞になっていた。中に、人がいる。女だ。眼を閉じて座っている。
「あんた、<色つき>だな?」
女はゆっくり眼を開け、オートを見上げた。
オートは目を疑った。人間のはずなのに、妖精のような雰囲気を出している。
「あら、案外はやく見つかったわね」
女は瞳を細くした。立ち上がり、ゆっくりとした所作でオートの腰に触れた。
「さわるな!」
オートは退いた。
「そのバンダナに似合わず、赤いのね。あたし、そういう子、大好き」
女は笑顔をみせた。
殺気がこもった笑顔を。 |