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オートファンタジー
作:白琴



第2話 君の息子が君と旅をする頃 [中編]


 夕空が、コナテカイムの街をオレンジに染めてゆく。
 青いバンダナを付けているオートが、煉瓦造りの家々を訊ねてまわっていた。
 道も家も煉瓦で舗装されて、ゴミ一つ落ちていない。行き交う人々はシルクの服を身にまとい、飼われている犬は肥えている。彼等彼女等からみれば、汚いものというのはオートくらいなものだろう。つまり乞食だ。彼等彼女等は身なりで人の優劣を決める。
 笑顔で応対に出てきた人は、オートの身なりを見るなり態度を変えた。そして煙たがる。
 それでもオートは握り締めたワラ人形を、売らなければいけなかった。
 お腹が鳴った。オートは空腹だった。
 メリーが夕飯の支度をしている時に、人形を持って家を出てきた。
 マーマが持って帰ってくる金が無くなった今、自分が人形を売りに歩かなければ母さんは自分の食事を減らすだろう。オートはそれが我慢ならなかった。
「すいません」
 コナテカイムの街中にあっても大きさを感じる屋敷。夕陽が傾いて、赤い屋根に光沢があった。
「はい? どなた」
 扉が薄く開けられた。
 香ばしい匂いがする。オートは生唾をのんだ。
 黒髪の少女が出てきた。オートと背丈に差はない。
「あの」
 と人形を差し出したとき、少女は後ろに立った婦人に抱えられた。
「ミゥナ、おじいちゃんの所に行ってなさい」
 少女は階段を登って行った。けれども階段の途中で止まり、手すりの隙間からオートの方をみてきた。
 オートは婦人に見下ろされた。婦人も真っ黒な髪の色をしていた。少女に似ている。
「ぼく、何か用?」
「お守り人形はいりませんか」
 オートは握り締めていた人形を婦人に差し出した。
「いらないわ」
「効き目は保障します。前の戦争の時、ゴルガル陸軍主将が身につけていたといわれていて」
「いらない、と言ったでしょう。官僚を呼んでもいいのよ?」
 オートはうなだれた。
「ごめんなさい」
 扉が閉まった。
 泣きそうになるのをこらえた。次だ。コナテカイムの街は広い。きっとどこかに買ってくれる人がいるはずだ。父さんだって売り歩いていたんだから。
 オートは屋敷を離れた。
 コナテカイムの露天市場には、野菜や果物、穀物に魚、ありとあらゆる食材が売っている。
 種類の豊富さは大陸のなかでも最も多い。それはコナテカイムが大陸の中央に位置するのに関係がある。魚は、東の海から毎日、車で運搬され、その他はコナテ国を構成する107の地域から運ばれる。コナテカイムはコナテ国の人と物が集中していた。
 露天市場でも、オートの身なりは目立っていた。
 眉間にシワをつくった大人たちに何度も睨まれた。
「おい、触るなよ!」
 体格のいい店主が、オートを見た。
「あの、お守り人形は・・・」
「おい! 近づくな! ハエがこっちに来る」
 オートはお腹に穴が開いたようで、店主が何を言っているのか、上の空だった。
 思わず、露天に手をかけた。
 瞬間、店主の大きな掌が、オートの頬を張った。
 オートは煉瓦の地面に、うつ伏せに倒れた。
「おい、誰か、官僚を呼んでくれ。泥棒だ」
 辺りの人のざわめきが聞こえる。
「うわ、汚い子」「死んでるんじゃないのか」「臭いわ、この子」「邪魔だよ、はやくどけてくれ」「乞食ね。死ぬなら他で死になさいよ」「こんな乞食でも公費で燃やすんだぜ。公費がもったいないよなぁ」
 伏せたまま、オートは泣いた。なんで世の中はこうも理不尽なんだろう。なんで僕は金持ちに生まれなかったんだろう。
 立ち上がる力もなく、じっとしていると、脇を抱えられた。
「おい、眼、覚ませよ」
 頬を張られた。
 眼を開けると、国軍服を着た官僚が目の前にいる。左右の揉み上げがアゴヒゲを通って繋がっている。
「とっとと連れて行け!」
 店主が怒鳴った。
「だまれ。お前も連れて行くぞ? みなさん、ほら、歩いて。通行を妨げないで」
 市場に流れがもどった。
 オートは髭面の官僚に背負われた。
 眼が腫れて、視界が悪い。官僚の背に揺られながら、行き交う人を怨んだ。
「その人形、君が売り歩いてるのか?」
 オートは切れた唇を舐めた。血の味はお腹の足しにはならない。
「うん」
「いくらで売ってる?」
 馬鹿にされてる気がした。もしくは、怒られそうな。
「5金」
 高く言ってやった。
「そうか」
 オートが降ろされたのは、コナテカイムから南に出た所だった。ここからさらに南へ2時間歩けば村に着く。
 オートが歩き出した時、官僚に呼び止められた。
「手をだしな」
 官僚の手から、巾着袋を受け取った。
 中を覗くと、数えられないくらいの金貨が入っていた。
「え、これは・・・」
「20金入っている。お守り人形を4っつだ。落とすなよ」
「は、はい!」
 官僚は引き返そうとした。
「あの、どこに人形を届ければ・・?」
「ああ、取りに行く。君は、あの、名もない田舎村に住んでるんだろう」
「え・・・」
 コナテカイムの方から、人が走って来た。国軍服を着ている。
「副将、ゴゾ副将〜!」
 オートは村に向かって駆け出した。髭面の、ゴゾ副将と呼ばれた人の気が変わる前に、場を抜け出したかった。
 辺りには白いもやが出てきていた。ちぎれ雲のようなもやは、やがて妖精になる。
 夜はちかい。




 読んでいただき、ありがとうございました。
 度々修正がありますが、ストーリーに変更はありません。






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