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オートファンタジー
作:白琴



第1話 君の息子が君と旅をする頃 [前編]


 夜に生きる妖精達は、朝日に照らされて消えてゆく。

 とうとうこの日がやってきた。13歳の誕生日。
 オートはベットから起きて、拳を握った。昨日とは違う。僕はやれる。
「もう、起きたの?」
 メリーはオートを見ながらも、手元を忙しく動かしていた。ワラで出来ているお守り人形を手馴れた手つきで作っていた。
「今日から、仕事の手伝いをしていいんでしょ」
 灰色にくすんだ布の服をまとって、体を伸ばした。
 お守り人形の効果はともかく、人形を売らなければ今日の食べ物は手に入らない。しかしオートの住む田舎村では、お守り人形はあまり売れない。
 ほとんど顔見知りで、村人全員が買ってくれたとしても1金にもならないからだ。一日一食食べるのにも2金はかかるのに。
「あなたは学校に行くの」
「がっこうは、つまらないよ」
「今はつまらなくても・・・」
ドン! 扉が開いた。赤い鼻をしたマーマが、酒の息を吐きながらオートに近づいてきた。
「オートぉぉ。今日で13歳だなぁ。やっと俺は定年だ。もう酒をがまんする理由がなくなったぜぇ。これからはお前が、街まで売りにいくんだ」
 一日だって酒を切らした事のない父親に、オートは顔をしかめた。
「いいえ。オートには学校に行くの」
 マーマのしもぶくれた顎にはヨダレがひと筋、光っている。
「はぁ!! まだ俺に働けって言うのか! 酒代も稼げねぇ、ちっぽけな人形ばかり売り歩いてる俺の惨めさがわかんねぇのか!」
 オートは、マーマの前に立った。両手を広げた。
「母さんに、手を出すな」
 マーマは腰を下ろして、オートと同じ高さの視線になった。
「俺が一度でも、いちどでも! 母さんを殴った事があったか? んん?」
 オートは思い出していた。
 お父さんには、お父さんの考え方がある。酒を飲んでいない父さんは、よく愚痴を言っていた。
「ぼくには、僕の考え方がある!」
 オートの頭よりも大きな掌でマーマは、オートの栗色の髪の毛を鷲づかみにした。メリーが止める間もなく、オートの額は作業台に打ちつけられた。
「きゃああ」
 メリーは悲鳴を上げた。
 オートはうずくまった。額をぬぐってみると、赤い血が手の甲についていた。痛みはない。けれども、ぬぐっても、ぬぐっても、血は止まらなかった。
 メリーは自分の袖を破って、オートの額に巻きつけた。
「そんなボロを巻いたんじゃ、かえって悪化だ」
 マーマは奥に行き、オートが寝ていたベットに寝転んだ。
「医者に見せるんじゃねぇぞ。金がねぇからな!」
 オート達に背を向け、いびきをかきはじめた。
「お医者様にみてもらうわよ」
 オートは首を横に振った。意地もあった。僕には僕の考え方がある。今優先しなきゃならないのは、金を稼ぐことだ。金があれば、母さんは寝ずに人形を作るなんてことはない。金があれば、父さんは愚痴をいう事はない。金があれば、今、血を流すこともなかった。
「もう、治った」
 オートは、にこりと笑顔をつくった。
「だめ、見てもらわなきゃ」
 マリーは、オートの腕を引っ張り、外に出た。
 この田舎村には、煉瓦造りの建物が一軒だけある。そこには国の兵士が常駐していた。そこに、村で唯一の医者がいる。街から赴任している人で、<色つき>だ。
 歩いているうちに、オートの額からは血が垂れてきた。

 マリーは扉を叩いた。煉瓦造りの建物の中から、緑色の国軍服を着た、背の高い、細面の男が出てきた。
「なんだ?」
 いかにも官僚らしい、傲慢な言い方だった。
「この子が、怪我をしてしまって」
 オートは上から睨まれ、寒気を感じた。背の高い官僚の指先が、オートの目線にある。爪の色が、青かった。
「もういい、行こうよ」
 言ったとき、背の高い官僚が、オートの額にふれた。
「あ」
 メリーが巻きつけた袖を、官僚が解いた。
「5センチ、切っているな。君、これが何色に見える?」
 官僚の手が、オートの目の前につきつけられた。爪が、青い。
「あお・・・」
「青は冷たい。そう思うかい?」
「青は、冷たい・・・うん」
「いい子だ。ふぅ。さぁ、この息も、青く見えるだろう・・・」
 官僚の息が、だんだんと青みを帯びてくる。
「すごい、青・・」
 青い息が傷口に触れた。
「冷たい!」
 オートは身を引いた。
 恐る恐る額を触ると、青いガラスの破片のような物がぱらぱらと落ちた。
 メリーは驚いていた。オートの傷口から流れていた血が、氷の結晶になって落ちたのだ。傷口も氷で覆われている。
「ふふ。これで大丈夫。念のために、この布も巻いていたほうが良い」
 官僚は、袖にも息を吹いた。
 袖が、真青に染まっていく。
「多少、冷たいが」
 とオートの額に巻いた。
 額に当たるときは冷たかったが、巻きつけられると気にならなくなった。
「あ、ありがとうございます。あの、申し訳ないのですが、代金は、後でよろしいでしょうか」
 官僚は「ふふ」と笑った。
「代金? 後でけっこうですよ」
「ありがとうございます! 来週には、必ず」
 オートとメリーは煉瓦造りの家を後にした。
 途中、オートは振り向いた。
 青い爪の官僚が、じっとこっちを見ている。
 オートは早足になった。メリーの手を引くくらいに。



 読んでいただき、ありがとうございました。
 度々修正がありますが、ストーリーに変更はありません。






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