第11話 道行けば出会い[前編]
深く暗い洞穴は、点ほどの光を奥に含んでいる。光は薄青い。
島の森深くに、弩雁はオートを案内していた。
腰を屈めて、洞穴を歩く。
洞穴は石で固められている。人工のトンネルだった。石は冷たく、しっとりと濡れていた。
オートは疑っていた。
「おい、本当に船があるんだろうな?」
先を行く弩雁は振り向く。
「あったりまえだ。さっきも言っただろ? 俺のバックには、大団体がついている。この先には、なん十万トン級の船が俺たちを待っている」
「うそくさい……」
オートは苦笑する。
「おい、船代も、もらうからな」
「ふざけんなよ。俺はとばっちりだろうが。白虎殺しさんよ」
弩雁はオートの背を叩いた。
「誤解だっつうに。いろんな事情で、濡れ衣を被せられたんだって。とにかく特別に、船代も依頼の報酬としてやろう」
「なんで上から目線だ」
「憑精霊は手助けしただろ。さすがのプリズナーでも一人じゃ敵わなかったろ」
二人の足元に水が張ってきた。水は波打っている。
オートはさっと、指に水を付け、舐める。塩辛い。
「で、船でどこに行くつもりだ?」
「コナテカイムに向かう」
「正気か?」
オートは吹き出しそうになった。コナテカイムにおける、破国人への差別はひどい。コナテ人に比べて破国人は体格が良く、手足が若干長い。弩雁はみごとに破国人の特徴をそなえていた。
「正気だとも。しかもその国で、犯罪を犯そうとしている」
オートは顔をしかめた。
「誘拐だ。得意だろ?」
「あいにく。お前みたいに前科はないので、得意とは言えないな」
奥の光が大きくなってゆく。海水が膝までせまってきていた。
「お前は見張っているだけでいい。なにせ仲間も多いからな」
「例の、大企業、か」
弩雁は得意そうに頷いた。
海水の抵抗が強くなり、オートは足を前に動かすのでやっとになった。
洞窟の出口に近づく。
「あら?」
弩雁の疑問符は至極当然だった。
巨船などない。
「ああ、確かに、軍艦並だ。しかも妖精憑きの」
視界がひらけたとき、目の前にあったのは小船だった。
小船の船底が薄っすらと白く光っている。
突風が吹いて小船を揺する。
「逃げられると思うなよ」言葉が突風にのってきた。
「なんだ、この声は!」
オートは振り返る。
「気にしない、気にしない」
弩雁は小船に近寄った。
船底の光が輝く。
「おい! 野郎ども! 舵を持てぇい!」
もやもやとした光が子供の形をつくった。
「なんだ、これは」
オートは光の子供を観察するしかない。
「おらぁ! 乗るなら乗る。乗るなら飲むな! 飲むのか乗るのかはっきりしやがれ!」
「はは、知らないのか。妖精を憑けた船だ」
「いや、知ってるが……」
弩雁は小船に乗った。
「お前、大団体とやらで優遇されてないな」
オートも小船に乗った。体格の良い弩雁と、二人で一杯になるくらいの広さだ。
「ば、馬鹿にするなよ。行け! 大海原に向かって!」
小船はぴくりとも動かない。
「おい、馬鹿にするなよ!」小船が言う。正確には、小船に憑いている妖精が言ったのだが。妖精は続けて、「海っていうのは、自分の力で渡りきってこそだろうが!」
怒っている。
オートと弩雁の両脇に、オールが現れた。船の仕業らしい。
「けっ。この船に憑いて100年、舐められたものだぜ。さぁ、漕ぎな」
「ふざけんなよぉ。船に憑いている小妖精のぶんざいでぇ」
弩雁は足踏みをした。
「はっはっは。痛くも痒くもねぇ」
「こっこんのお!」
「いいかい? この全海を駆けるショウ・導は何者にも屈しないのさ」
ショウは船先に子供の像を表した。白く、眩しい。
弩雁は後ろを向き、オートに意見を求めた。
「漕ぐぞ」
オートは冷静だった。なにより、得体の知れない風から逃れたかった。
「しかたねぇ」弩雁はオールをもつ。
「良い心がけだ」
舳先のショウが腕組みをしてうなずく。
「どうしても駄目なら言え。特別に力をかしてやる」
「はいよ、ボス」
弩雁の返事に、ショウは満足そうにうなずいた。 |