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破壊の御子 作者:無銘工房

燎原の章

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第57話 読み合い-2

「僕たちが、この街を攻めた理由を思い出してください」
 その場にいたゾアンの主だった者たちの脳裏に、同じ言葉が浮かぶ。
 ――平原にこもったままでは、ゾアンはいつか滅びます!
 ――広い世界に出るしかないんです!
 それは、ボルニス攻略に難色を示したゾアンたちに向けて蒼馬が放った言葉だった。
「どうしても僕たちは、このボルニスの街を失うわけにはいかない。それには、街の外に出て討伐軍を迎え撃つ必要があるんです」
 重苦しい沈黙が下りる。
 しばらくして、改めてボルニスを攻めたときの言葉を胸に刻んだガラムが、その目に戦意をみなぎらせて言う。
「……理由はわかった。今さら逃げるわけにはいかん」
 ガラムの言葉を引き継いで、ズーグが言う。
「問題は、いかにして戦うか、だな」
 ガラムとズーグは、しばし顔を見合わせると、どちらからともなく、ふっと笑みを浮かべた。
 それからその笑みを消し、真剣な面持ちになったガラムは、ズーグに向けて言う。
「俺たちの足を活かして、強襲をかけるというのは、どうだ?」
 それにズーグは首を横に振る。
「俺たちの足にも、限界はあるぞ。こんな見通しの良い平野では、はるか彼方からでも俺たちが突撃してくるのが見える。ようやく接敵する頃には、敵は槍の穂先を並べ終え、俺たちを歓迎してくれるだろう」
 今度は、ズーグがガラムに向けて策を提案する。
「どこかに待ち伏せし、奇襲をかけるというのはどうだ?」
「その程度は、相手も予想しているだろう。よしんばうまくいったとして、一度の奇襲で7千もの敵を殲滅できるわけがない。少しでも退く機会を見失ったり、退くのに手間取ったりすれば、それで終わりだ。危険すぎる」
 ふたりの掛け合いに触発され、他の者たちも次々と口を開いた。
「夜襲をかけてみたら、どうだ?」
「河の奇襲を見破った相手だぞ。とうに、その程度の対策は考えているだろう」
「俺たちの足の速さを活かして、突撃を繰り返しては?」
「あの大軍を相手では、向こうが撤退するより先にこちらが疲弊するわ」
「罠を作ってみたらどうでしょう?」
「今から、あの大軍に損害を与えられる罠とは何だ? 猪や鹿を狩るのではないんだぞ」
 いたるところから意見が飛び交い、侃々諤々(かんかんがくがく)と議論を戦わせるが、これといった結論は出ない。しだいに出される意見も少なくなり、それとともに議論する声も小さくなっていく。ついに意見が出し尽くされると、皆の視線は自然と蒼馬へ集まり出した。
 その視線を意識しながら立ち上がった蒼馬は、ゆっくりと右腕を伸ばすと、テーブルの上に広げられていた地図の一点を指差した。
 それを蒼馬の脇で見ていたシェムルは、あっと小さな声を上げる。
 そこはつい先程、蒼馬とふたりで見に行った場所に間違いなかった。
「僕は、ここに陣地を築こうと考えています」

                ◆◇◆◇◆

「マリウスよ。おまえならば、どう我らを迎え撃つ?」
 その問いに、マリウスは即答できなかった。
 2千にも満たない反徒に比べて、自分ら討伐軍は7千以上。迎え撃とうにも、ここからボルニスに至るまでは平地ばかりで、数で劣る反徒が攻め入る隙がない。
「何でも良い。言ってみろ」
 ダリウスにうながされ、自分でも無茶と思いつつ、いくつか策を出す。
「自軍の数倍の敵とまともにぶつかり合うのは、愚の骨頂でしょう。直接の戦闘を避けながら後退しつつ、投石、投槍、火壺などを用いて敵の損耗を強いる。もしくは、ゾアンの機動力を活かして、縦横無尽に駆け回り、後方や側面を突く。このようなところでしょうか?」
「それならばわしは軍を2つか3つに分け、信頼できる将にそのひとつを預けて反徒どもの側面や後方に回らせる」
 こちらが反徒の2倍以上の兵力があるならば、当然の戦略だ。
 投擲武器による攻撃を行うにしろ、機動力を活かして直接敵にぶつかるにしろ、そのときはどうしても足を止めなくてはいけない。そして、その間に別働隊を敵の後方へ回り込ませて退路を断ってしまえば、後は挟撃(きょうげき)による殲滅だ。
 マリウスは苦し紛れに、次の策を出してみる。
「それならば、陣地を築いてみるというのは、どうでしょう?」
「それはなかなか面白いな。反徒の中には、ドワーフたちも多いと聞く。彼らなら、短期間に強固な陣地を築くのも可能だろう。――で、その陣地はどこに築く?」
「私たちが必ず通る、街道を塞ぐようにしてでは?」
 ボルニスの街を落とされたら負けだというのならば、まずは街に近づけさせないことが前提になる。それならば、街道を塞ぐ形で陣地を築くのが自然だろう。
「だが、ただ陣地を敷いただけでは、勝てんぞ。わしらに周囲を取り囲まれ、じっくりと料理されるだけだ」
 その程度は言われずともわかっていたマリウスには、さらなる考えがあった。その言葉を待っていましたとばかりに、それを披露する。
「陣地の中に足の遅いドワーフやディノサウリアンだけを残し、ゾアンたちを遊撃兵として使います。籠城戦を得意とするドワーフに、白兵戦では無敵を誇るディノサウリアンが立て籠もれば、そうやすやすとは陣地も落とせないでしょう。さらに、私たちが陣地を落とそうとすれば、その後方よりゾアンに襲撃をかけさせます」
 それでダリウスにも、マリウスの意図を読めた。
「なるほど。そして、わしらがゾアンに矛先を向ければ、今度は陣地からディノサウリアンが打って出る。そちらに向かえば、またゾアンが後方を脅かすというわけか……」
「その通りです。いかがでしょうか?」
 優等生が尊敬する教師に試験の解答合わせをねだるように、マリウスは顔を輝かせて尋ねた。
 ダリウスは、しばし自分の顎鬚(あごひげ)をしごきながら考えを巡らせて答える。
「それならば、陣地を築くのは街道ではない方が良いな。たとえば、街道の北にある山を背負うようにしてだ」
「山を背負うようにしてですか?」
「うむ。いくらドワーフの強固な陣地とはいえ、四方より攻め立てられれば防ぎきれん。しかし、山を背負うことで、後方から攻められるのを防げる。それだけではない。自ら退路を断つことにより、劣勢で逃げ腰になる仲間を追いつめ、死にもの狂いで戦わせられよう」
 敵に囲まれれば、いかな戦い慣れた兵士であっても浮足立ってしまう。それならいっそのこと自ら退路を断ってしまった方が、肝が据わると言うものだ。
 そうして自ら死ぬ覚悟を決した兵士は、強い。
「もし、反徒どもがそうして来た場合、閣下はどう攻めます?」
 寡兵(かへい)と言えども死を覚悟した兵士とまともに戦えば、負けはしないだろうがこちらも被害が大きくなる。そんな敵を相手にどのように攻めるか、興味津々といった顔で尋ねるマリウスに、ダリウスは悪戯小僧のような顔つきで答えた。
「そんな奴らとまともに戦っておれん。無論、放置して先にボルニスを落とすわ」

                ◆◇◆◇◆

「陣地を張る場所は、ここです。北に山を背負い、東は突き出た森が防壁となります。ここなら、敵の攻めを南と西に限定できます」
 そこで蒼馬はドヴァーリンに顔を向ける。
「ドワーフの力で、しばらくの間だけでも討伐軍の攻撃をしのぐことができる陣地をここに作れますか?」
 ドヴァーリンは不機嫌そうにため息をついた。ドワーフの力でと言われれば、できないと言えるわけがない。
「さすがに、7千もの敵を退けられるほどの陣地を作るには時間が足りんわ。――だが、しばらくの間だけしのげれば良いと言うのならば、やってやれんことはない」
 その答えに、蒼馬は満足そうにうなずいて見せた。
 だが、そこにガラムがすぐに疑問の声を上げる。
「討伐軍が俺たちを無視して、先に街を攻めはしないか?」
 それは指摘されるまでもなく、蒼馬も考えていたことだ。
「もちろん、その可能性はあります」
 しかし、蒼馬には、それに対する秘策がひとつあった。
「ですが、僕にちょっとした策があります。上手くいけば一兵も用いず、(しば)の山ひとつで街を守れると思います」
「柴の山ひとつで、街を守るだと?!」
 皆は異口同音に驚きの声を上げた。
「いったい、柴の山ひとつでどう守るというのだ?!」
「7千もの敵から、それだけで街を守るとは、信じられん!」
 次々と投げかけられる問いに、蒼馬は「落ち着いて」というように開いた両手で押さえるような仕草をする。それに驚きに我を失っていた人々も冷静さを取り戻し、腰を落ち着けた。
 それから皆を代表してガラムが、蒼馬を問い質す。
「正直に言って、信じられん。いったい、どうやるのだ?」
「ごめんなさい。今は、言えません」
 しかし、蒼馬は首を横に振って答えを拒絶した。
「これは、敵にバレてしまえば一巻の終わりです。どこから街に敵のスパイ……えっと、密偵? 間者? えっと、そんな人たちが入り込んでいないとも限りません。ぎりぎりまで秘密にさせてください」
 そんな答えでは、誰も納得できるはずがない。しかし、蒼馬の言うことももっともである。深々とため息をついて、ガラムは自分を無理やり納得させるしかなかった。
 それで気持ちを切り替えたガラムは、別の疑問を投げかけた。
「だが、そこに陣地を作ったとしても、それだけで勝てるのか?」
 それに、蒼馬はとんでもない返答を返した。
「いえ、勝てません」
 想像の斜め上を行く蒼馬の答えに、皆は唖然とする。
 だが、蒼馬の答えには続きがあった。
「――ですから、こうします」
 蒼馬は地図の上で陣地を築くと言った場所から、ソルビアント平原の入り口近くにその指を動かした。
「この辺りに、少数のゾアンの人たちを伏せておくんです」

                ◆◇◆◇◆

「……閣下」
 さんざん期待させておいて、その答えが敵を無視するというのだから、マリウスは拍子抜けしてしまう。上目づかいで「それはないでしょ」とでも言うように、こちらを見るマリウスに、ダリウスは(ひげ)を大きく揺らして、かっかと笑った。
「言ったであろう。ボルニスを落とせば、反徒どもは終るのだ。街道だろうと山際だろうと、陣地に籠るのならば、がら空きとなったボルニスを落とすのも一興であろう?」
「それはそうですが……」
 マリウスは、ぱっと目を輝かせて言う。
「そうです! 反徒の首魁は、意外な策を考え出す(やから)だとか。仮に、我らがボルニスに手を出せないような策を講じて来るやもしれません! その場合は、いかがされますか?」
 陣地を築いた反徒をいかにして討つのか。それを何としてでも聞き出そうとする、そんな愛弟子の姿に、ダリウスは苦笑してから答えた。
「やはり、わしは軍を2つに分けるな。一隊をゾアンの襲撃に備えさせ、残り全軍をもって、まずは陣地を踏み潰す。その後、ゾアンどもを片づければよい」
 すでにダリウスは、反乱が起きた当時のボルニスに、およそどれぐらいの数の亜人種の奴隷たちがいたかを街から逃げ出した人々から聞き出して把握していた。
 それによれば、ドワーフたちの総数は300人前後。これにディノサウリアンを加えても、400人にも届かない。
 ゾアンの襲撃に備えた部隊に、ゾアンの倍以上となる2千の兵士を割いたとしても、本隊には5千もの兵士が残る。いかに守り上手のドワーフがいる陣地であろうとも、20倍近い兵力差をもってすれば、それを攻め落とすのは赤子の手をひねるがごときだろう。
 そして、陣地さえ落としてしまえば、残されたゾアンどもは無駄な戦いの上で全滅するか、逃げて緩慢な滅びを迎えるしかない。
「しかし、わしが反徒の首魁で、ボルニスを守る策があるならば、また別の手を打つがな」
「それはどのような手でしょうか?」
 好奇心に目を輝かせて尋ねるマリウスに、ひとつ大きくうなずいてからダリウスは答える。
「わしならば、ゾアンすべてを遊撃兵とはせん。その代り、信頼できる将に少数の兵を預け、どこかに伏せておく」
「少数の兵を伏兵に、ですか?」
「ドワーフやディノサウリアンだけではなく、大半のゾアンまでも陣地に籠るのであれば、こちらも全軍をもって当たらねばなるまい。それでも、そうやすやすとは落とせんだろう」
 そこでいったんダリウスは言葉を止め、マリウスの期待を煽ってから、こう言った。
「そうして陣地攻略に手こずっているところに、伏兵をもってわしらの急所を突くのだよ」
 ダリウスの言葉に、固唾(かたず)を呑んだマリウスの咽喉が、ごくりと動く。
「急所と言いますと?」
「重装槍歩兵の密集陣形の左右か後方。もしくは――」
 ダリウスは、自分の首筋を平手でぴしゃりと叩く。
「このわしの首を直接取りにくるか、だな」

                ◆◇◆◇◆

「南側より攻めてくる敵本隊の猛攻を陣地で食い止めている間に、ゾアンの精鋭からなる部隊を動かし――」
 地図の上を蒼馬の指が目まぐるしく踊る。
「――そして、敵本隊の側面を突きます!」
 その指の動きを目で追っていたみんなの顔に驚愕の表情が浮かぶ。
 みんなの顔をゆっくりと見回してから、蒼馬は言った。
「重装槍歩兵による密集陣形は、前面への攻撃に特化した陣形です。その側面を突けば、たとえ兵数に劣っていようとも、打ち破れるはずです!」

                ◆◇◆◇◆

「奇襲をかける前に陣地が潰れてしまえば、元も子もない。また、あまり兵を割きすぎれば、こちらに奇襲部隊の存在を察せられる。ならば、伏兵として割けるのは、どんなに多く見積もっても2百から3百程度であろう。ならば、わしの直属の兵に、ボーグスらの2個中隊を加えた1個大隊を持って当たればよい」
 これがとっくに老齢の域に達した男なのか、とマリウスが驚愕せざるを得ない気迫を発しながら、ダリウスは言葉を続けた。
「わしの首を直接狙いに来れば、それを迎え撃つも良し。重装槍歩兵部隊が敵陣地を蹂躙(じゅうりん)するまで守りに徹するも良し。重装槍歩兵団の後方や側面を突こうとすれば、逆にその側面や後方をわしらが突くも、また良し!」

                ◆◇◆◇◆

「僕は、この奇襲によって討伐軍を討ちます!」と、蒼馬。
「わしは、各個撃破にて反徒どもを討つ!」と、ダリウス。
 ふたりの言葉は、期せずして遠く離れた地において同時に発せられたのである。
 敵を迎え撃つことを決意した蒼馬たち。
 ドヴァーリンが率いるドワーフたちだけではなく、ゾアンやディノサウリアンたちも力を合わせ陣地を築いていく。
 そして、それが完成したとき、ついに地の彼方よりダリウス将軍の率いる討伐軍が姿を現す。

次話「陣地」
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