挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
破壊の御子 作者:無銘工房

燎原の章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

52/250

第51話 出兵

「君は、正気なのか?」
 蒼馬に向けられたマルクロニスの言葉は、普段ならそれに食って掛かりそうなシェムルですら(とが)めなかったように、その場に居合わせたすべての者たちの気持ちを代弁するものだった。
「ゾアンたちだけで、およそ8百人。解放した奴隷だった者たちを加えても、2千人にも遠く及ばない。たったそれだけで4千人以上の国軍に戦いを挑むなんて、自殺行為だ」
 ジャハーンギルひとりだけが「我が蹴散らしてくれる!」と息巻いていたが、他の者は一様に苦い顔をして黙り込んだ。
「まともにやったら絶対に勝ち目なんてない、と僕も思います」
 蒼馬の言葉に、彼が自棄(やけ)になっているわけではないと言うのが分かり、マルクロニスはため息を洩らして気を落ちつけようとした。
 しかし、蒼馬は挑発的な笑みを浮かべて、マルクロニスに問いかける。
「マルクロニスさん。ここにいる中で、あなたが一番討伐軍の指揮官に思考が近いと思います。もし、あなたが討伐軍の指揮官だとして、僕たちが街から打って出て戦いを仕掛けてくると考えますか?」
彼我(ひが)の戦力差も理解できないくらいの馬鹿が、街を落としたのに調子づいて襲ってくるかもしれない、ぐらいには警戒する」
「でしょうね」
 マルクロニスは蒼馬の軽挙(けいきょ)(いさ)める意味も含め、あえて辛辣(しんらつ)な物言いをした。マルクロニスの意図を察した蒼馬は、それに苦笑いを返す。
「危険は大きいと、僕も思います。でも、戦力は僕たちの方が圧倒的に少ないんです。いずれ、どこかで賭けに出る必要はあります」
「それは確かにそうだが……」
 想定される戦力差を(かんが)みれば、まともに戦えば負けは確実だ。それでも勝ちを拾おうと思えば、危険な賭けをしなければならないのは、マルクロニスにも理解できる。
 しかし、とマルクロニスは思う。
 仮に討伐軍が油断していたとしても、それだけでは足りないのだ。さらに、その上に勝利を引き寄せる手がなければならない。
「君は、何をするつもりだね?」
 マルクロニスの言葉に蒼馬は表情を改めると、
「それを言う前に、確認したいんですが――」
 蒼馬は地図の一点を指差す。
「これは河と橋ですよね? ここって、どれぐらいの深さと水量があります?」
 そこには北の山からボルニスとルオマの間を抜けて南へと流れる河と、それにかかる橋の絵が描かれていた。
「今は乾季で、水量はそれほどない。特に、この橋がある場所は川幅が広い代わりに水の深さは、せいぜい膝下の辺りまでだ」
「その水量じゃ無理かな。それに時間もないだろうし……」
 蒼馬がまず考えたのは、討伐軍が河を渡るのに合わせて上流に築いた堰を決壊させて、討伐軍を濁流で押し流そうと言うものだった。戦記ものの漫画や小説ではよく使われる手だが、高い土木技術を持つドワーフたちでも、敵の軍勢を押し流せるだけの水量を溜められるだけの堰を一朝一夕に作るのは難しいだろう。
 それならば、もうひとつ思いついた手が実行できるか確認する。
「この橋は、どのようなものです?」
 マルクロニスは記憶の中から、橋の光景を掘り起こしながら答えた。
「川面から突き出した岩に、縦に割った丸太を何本か渡して作った橋だ。確か、幅も大きめの馬車や荷車だといっぱいになる程度だったな」
 この時代の橋は、このような板や丸太を渡しただけのような簡単な構造のものが多い。それは敵に攻め込まれたときにその侵攻を食い止めるため、自らの手で橋を落とすのを前提としているからだ。
「では、この橋がある場所以外で、人が河を渡ることは可能ですか?」
「可能だな。それほど流れは急ではないし、泳がずとも腰あたりまで水に浸る覚悟があれば、たいていの場所で渡ることができる」
 それは蒼馬にとっては、ますます好都合だった。
 自分の考えていた作戦案に今知ったばかりの情報を加え、それらを蒼馬は頭の中で目まぐるしくシミュレートを繰り返す。
 自分たちの行動に対し、相手は何をするのか?
 自分たちが有利な点は何か?
 相手にとって不利な点は何か?
 じっと考え込んでしまったのに、みんなが()れ始めた頃、ようやく蒼馬は顔を上げた。
「僕は、討伐軍をひっかき回してやろうと思っています」
 それがどういう意味かと説明を求める視線が集まる中で、蒼馬はそれに答える代わりに、逆にマルクロニスに問いかけた。
「ホルメア国にとって、僕たちにやられたら一番困ることってなんでしょう?」
 この唐突な質問に、マルクロニスは顎に手を当てて、じっくりと考えてから答える。
「そうだな。――私なら、田畑を食い荒らす害虫のように無防備な街や村を次々と略奪して回られることを恐れる」
 それにシェムルが食って掛かった。
「誇り高きゾアンが、そのような真似をするかっ!」
 ゾアンにとって戦とは、己の武勇を示す場だ。戦う力のない者たちを襲うなど、恥以外の何物でもない。そう思われているというだけで、《気高き牙》という(あざな)を持つほど誇り高いシェムルには耐え難い屈辱である。
 シェムルの剣幕に困惑するマルクロニスに、蒼馬は助け船を出した。
「僕は、ゾアンはそんなことをしないと信じているから」
「……それなら、いい」
 いかにも渋々といった態を装っているが、口許が笑みの形になるのを必死にこらえているのが、ばればれである。
 ゾアンの娘の心を掌握している様子に感心するマルクロニスの視線に、気恥ずかしさを覚えた蒼馬は、それを咳払(せきばら)いで誤魔化して言葉を続けた。
「でも、僕はその誤解を利用しようと思うんだ」
 皆は蒼馬の言葉の意味が理解できず、疑問の色を顔に浮かべる。
「僕が考えている作戦の基本は、ゾアンの機動力を活かしたヒット&アウェイ。えっと……一撃離脱の繰り返しです」
 蒼馬は地図の上に描かれていた河にかけられた橋の絵を指差す。
「まず、討伐軍がこの河をある程度の人数――こちらの一撃で損害を与えられる程度の人数が渡ったところで襲撃をかけます」
「河を利用して、実際に刃を交える敵の数を制限するというわけだな」
 そのマルクロニスの指摘に、蒼馬はうなずいて見せた。
「そして、襲撃と同時に橋を焼きます。橋が焼け落ちれば、いくら河の水深が膝の辺りまでしかなくても、それを渡るには兵士の足は鈍るはずです。後続が渡って来る前に速やかに撤退します」
 蒼馬は地図の上でボルニス側に指先を滑らせたかと思うと、Uターンを切るように河の上流へ移動させる。
「次に、討伐軍が橋を架けなおしている間に、上流か下流に渡れる場所を探しておき、そこを渡ります」
 そこでズーグが疑問の声を上げた。
「河はそれほど深くないのだろ? 橋を架けなおさず進んでこないか?」
 もし、ズーグの言うとおりになれば、主力のゾアンたちがいないボルニスの街に討伐軍が攻め入ってきてしまう。
 しかし、それにすぐさま否定の声が上がった。
「それは、ありえないな」
 そう断言したのはマルクロニスだった。
「兵士だけなら問題ない。だが、糧食や攻城兵器などの資材を載せた荷車がある。そんなものをそのまま河に入れるはずがない」
 荷車などは道のぬかるみにはまっただけで立ち往生してしまうような時代だ。たとえ膝下程度の水深でも無理に渡らせるとは考えにくい。それに食料の保存技術も発達していないため、大事な糧食に河の水が被るようなことは避けるはずだ。
 マルクロニスのお墨付きを得た蒼馬は、内心でホッと胸を撫で下ろしながら続けた。
「そして、渡河したら、この砦と、続いて街に姿を見せます」
「攻めないのか?」
 てっきり後方の街を攻めるのかと思っていたのが、ただ姿を見せるだけというのにガラムは驚いた顔で()く。
「はい。あくまで砦や街の近くまで、僕たちが来ているんだぞと見せつけるだけです」
「なぜそんなことを?」
「すでに僕たちにボルニスの街を落とされたのが伝わっています。そこへゾアンたちが自分たちの街の近くまで姿を現したのを見た人はどう思うでしょう?」
 それにガラムも合点がいった。
「なるほど。マルクロニスと同じように、俺たちが略奪するのを恐れる。そして、そいつらは近くに討伐軍がいるのを知っているのだから、まずそこへ救援を求めるというわけだな」
「救援要請を受けた討伐軍は、ボルニスの解放よりも僕の討伐を優先するはずです。国の内部に攻め入ったゾアンたちを放置して、次々と街や村々を襲われたら、たまらないですからね」
 そう言って蒼馬が視線を向けると、マルクロニスは同意を示す。
「誤解を利用とは、そう言う意味か。――そうだな。この街を取り返したが、代わりに他の街や村が犠牲になったのでは意味がない。私でも、すぐさま軍を取って返す」
「そこで、討伐軍が引き返してきたところに再度打撃を与えます」
「……なるほど。面白いな」
 作戦を理解したガラムはそう言ってから視線をズーグに向ける。すると、ズーグは牙を剥いて、にやりと笑う。
「俺も面白いと思うぞ。俺たちの足の速さを活かして、人間の軍勢を翻弄すると言うわけか」
 ゾアンを率いる両雄がやる気になったのを蒼馬は頼もしそうに見やる。
「ホルメア国に教えてやりましょう。僕たちは、いつだってホルメア国全土に現れてやれるんだって。そうすれば、簡単にはこの街に手出しできなくなる」
 しかし、すぐに蒼馬は真剣な面持ちを作る。
「僕も、これだけで討伐軍を蹴散らせるとは思っていません。でも、時間は稼げるはずです。今、僕たちに一番必要なのは、力を蓄える時間なんです」
 蒼馬は後ろを振り向くと、車座には加わらず、少し離れたところでたたずんでいるシャハタに声をかけた。
「ホプキンスさんを呼んでください」
 ここで、なぜ人間の行商人の名前が出るのかと(いぶか)る面々に向けて、蒼馬は意味ありげに唇の端を少し上げて見せる。
「ホプキンスさんには約束していた謝礼を渡すのと一緒に、ちょっとお願いしたいことがあるんです」

                ◆◇◆◇◆

 ホルメア国王のワリウス・サドマ・ホルメアニスは、王都郊外の平野に設けられた儀礼台の上で仮の玉座に座ったまま、自分に向かって整然と並ぶ国軍を見下ろしていた。
 今年で御歳40歳になるワリウス王は、こけた頬に、ぎょろりとした目が印象的なやせぎすな男である。貫禄をつけるために生やしたどじょう髭も、先程からひっきりなしに指でなでつけているため、かえって彼の神経質な面を強調させてしまっていた。
 そのワリウス王の前に、儀礼台の階段を上ってきたダリウスが、小脇に抱えていた兜を置き、片膝をついて首を垂れる。
 仮の玉座から立ち上がったワリウス王は、侍従から宝剣を受け取ると、その鞘を一息に払った。陽光を受けてギラリと光る宝剣を持つワリウス王の手は、剣の重さに耐え兼ねてプルプルと震えていたが、もちろんそれを(とが)める者などいない。
「ダリウス・ブルトゥスよ。余に代わり、愚かな反徒どもをこの剣で打ち倒すのだ」
 やや甲高い声でワリウス王は告げると、頭を垂れたまま捧げ持つように伸ばされたダリウスの両手の上に鞘に収めた宝剣を乗せる。
「謹んで拝命いたします。すべては陛下の御為に」
 ダリウスは宝剣を腰にたばさむと、頭を上げぬまま立ち上がり、そのまま数歩後ずさった。それから兜をかぶると、音を立ててマントを(ひるがえ)して出兵の儀式を見守る兵士たちへ振り返る。
 そして、将軍を示す兜の紫の房を風にたなびかせながらダリウスは、腰の宝剣を抜き放つと天に向けて突き上げた。
 それに兵士たちは、各々が手にした槍や剣を同じように突き上げ、気勢を上げる。
「「おうっ! おうっ! おうっ!」」
 数千人がいっせいに上げた気勢が、大気をビリビリと震わせた。
 それに兵士たちの士気の高さを感じ取ったダリウスは、満足げにひとつうなずいてから儀礼台の階段を下りると、そこに止めてあった戦車に乗り込んだ。
 当然だが、戦車と言っても現代世界にあるような旋回する砲塔を持ち、キャタピラで走行する戦闘用装甲車両ではない。
 この世界において戦車と言えば、木製の箱に2輪の車輪をつけ、それを馬などに曳かせたものだ。人が乗り込む木の箱は前面部分がやや高く、後方は搭乗口として開放されている。定員は2名で、御者と兵士が肩を並べるように乗り、それを2頭の騎竜か馬によって曳かせるのだ。戦闘になれば御者は小さな丸盾で兵士を守りながら手綱を取り、兵士は弓矢か投擲用の槍を使って戦う。
 また、4頭立てで4輪の戦車もある。これは2輪より小回りが利かなくなる代わりに搭乗する兵士がひとり増やせるため、より攻撃力が高い。
 そして、ダリウスが乗り込んだ戦車は、何と馬を6頭立てにして曳かせた6輪の大型戦車である。
 矢避け用の屋根がつけられた戦車の中央には指揮官用の椅子が設えられており、その椅子の後ろには衝立(ついたて)をはさんで号令用の大太鼓が乗せられていた。搭乗員数は、指揮官と御者に加え、戦車の左右に兵士がひとりずつ、さらに太鼓の打ち手がひとりの合計5人だ。
 ここまで来ると、もはや戦車と言うより移動式の指揮所といった方が良いだろう。
「出陣の太鼓を叩け!」
 ダリウスの命を受け、打ち手が力の限り太鼓を打ち鳴らし始める。
 それとともに小さな衝撃をともなって、ダリウスの乗る戦車が動き出した。その後に、連隊指揮官であることを示す緑色の房を兜につけた連隊長が乗る2輪の戦車と、さらに歩兵連隊が2列縦隊で続く。
 討伐軍が行進する沿道の両側では、それを見送りに来た貴族たちが自分らを誇示するために大きな紋章が入った旗を何本も立てて歓声を上げていた。
「くだらん、馬鹿騒ぎだ」
 その騒ぎに吐き捨てるように言ったダリウスに、近くにいた衛士(えじ)が苦笑とともに取り成した。
「仕方ありますまい。我が子の初陣を盛大に祝ってやりたいのが親心というものです」
 今回、ダリウスの率いる軍の将校の中には、これが初陣となる貴族の子弟が多く含まれていた。
 それは貴族たちがこぞって、いまだ初陣を迎えていなかった自分らの子弟を討伐軍に従軍させたからである。
 最近は仇敵ロマニアとの戦いも小康状態が続き、大きな戦がなかった。そこに持ち上がったのが、このボルニスの反徒討伐である。聞けば、反徒たちはわずか1000名余りの小勢に過ぎず、それを討伐に向かうのは名将と誉れ高いダリウス将軍なのだ。負ける要素など、どこを探しても見つからない。
 親として華々しい勝利で息子の初陣を飾らせてやりたいと思えば、これほど都合のいい戦はなかったのである。
 その結果、ボルニス反徒討伐に向かう軍は、当初の予定を上回る規模となり、その総数は公称で1万。実数では7千余という大軍団に膨れ上がっていた。
 ダリウス自身も若い将校たちに戦を経験させるには、ちょうどよい反徒討伐だとは思っていたが、それにしても数の優位に浮かれすぎているように思える。ヒヨッ子どもを少し締め付ける必要を感じたダリウスは、戦車の脇に控えていた将校を呼び寄せた。
「半刻後(およそ1時間後)に小休止を入れる。その後、軍の隊列を編成しなおす」
「はっ! そのとき、兵装を解くのをお(ゆる)し願えますか?」
 出兵式のために兵士たちは完全装備をしていた。その上、行軍では数日分の糧食や水袋なども各自で持たなくてはいけないため、ただ歩くだけでも疲労は大きい。そのため、すぐに敵と接触する恐れがなければ、装備を軽装のものに替えたり、場合によっては装備すべてを荷駄に乗せたりし、兵士の負担を軽減させる必要がある。
 反徒たちがいるボルニスの街までは、はるか遠いこの地においては、この将校の提案は至極当たり前のものだった。
 しかし、ダリウスはその将校をぎろりと見やる。
「兵装は、現状のままだ。隊列も2列縦隊から、隊伍を編成する。それに騎兵の中から斥候(せっこう)部隊を選出し、先行させよ」
 完全武装で隊伍を組み、斥候を使って周囲の探りながら進む。それは、いつ敵軍と遭遇するかわからない状況での行軍の仕方だ。しかし、それでは疲労で、戦う前から兵士を損なってしまう。ボルニスの街を間近にしてからならばともかく、いまだ王都から出て間もない状況でやるものではない。
「……はぁ?」
 予想だにしなかったダリウスの命令に、その将校は将軍に対しては不敬とも言える気の抜けた返事を洩らした。将校はすぐに自分の失態に気づくと、慌てて背筋を伸ばす。
「はっ! 了解いたしました!」
 そう答えたものの(いぶか)しげな色が隠せずにいる将校に、ダリウスは苦笑いを見せる。
「ヒヨッ子たちの浮かれた気持ちを引き締めるついでに、自分らの部下を統率させる良い訓練になるだろう」
 その答えに将校は、なるほどと納得した。
 後ろに続く部隊に命令を伝達しに行く将校の後姿を見送っていたダリウスは、ぽつりと言葉を洩らす。
「……それだけではないのだがな」
 ダリウスは意味ありげに髭で覆われた口許をニヤリと歪める。
「閣下!」
 そこに隊列の先頭付近にいたはずの騎兵がダリウスの戦車に馬を寄せてきた。
「奇妙な服装の女が、閣下にこの手紙を」
 綺麗に折りたたまれた手紙を差し出す騎兵の言葉に、ダリウスは両腕のない主人に仕える男装の女性の姿を思い浮かべる。
「わしの知り合いの使いの者だ。よこせ」
 戦車に乗る衛士を介して受け取った手紙を開くと、そこにはダリウスが知るトゥトゥの筆跡で簡潔な一文だけがつづられていた。
『敵は最強の軍やもしれません。努々(ゆめゆめ)ご油断なきよう』
 最強の軍。
 その言葉に、ダリウスの脳裏に自分がまだ青二才だった頃、同輩の若手将校たちと酒を酌み交わしながら、自分が夢見る最強の軍について熱く語り合ったときのことが思い浮かぶ。
 しかし、そんな郷愁(きょうしゅう)に浸っていたのは、ほんの一瞬であった。
「敵が最強であろうと最弱であろうと、わしがやることは変わらぬ。一切の慢心も油断もなく、全力をもって敵を粉砕するのみ」
 そう言うと、ダリウスは音を立てて手紙を引き裂いたのであった。

蒼馬の作戦概要
挿絵(By みてみん)
 河を利用した一撃離脱の作戦で討伐軍を撃退しようとする蒼馬。
 すべては予定通りに進んでいるように思えた。
 しかし、そのとき蒼馬のもとにもたらされる、ささやかな違和感。
「もしかして……?!」
 蒼馬の感じたのは、得体のしれない悪寒であった。

次話「悪寒」

****************************************

作品設定の解説
戦車について――
 この世界では、騎兵より戦車の方が良く用いられています。
 いまだこの世界では馬具などが発展しておりません。そのため、馬に乗るには高度な技術が必要になります。しかも、貴重な馬の代わりに普及している騎竜ですが、こちらはさらに騎乗が難しい動物なのです。
 騎竜は某RPG大作のチョ●ボのように2本足で走るため、疾走時の衝撃や揺れが馬よりも激しくなります。その上、馬よりも乗る部分が狭いため、騎兵が身体を固定させるのが難しいのです。
 そのため、騎竜で疾走するときには騎手は両足でしっかりと騎竜の胴を絞めるようにし、片手で(場合によっては手綱を口にくわえて、両手で)鞍の前に突き出た突起をしっかり握って身体を固定しなければ振り落とされてしまいます。
 ですから、よくある映画や漫画のように騎竜に乗りながら弓を射たり、剣や槍を振り回したりすることは、ほぼ無理です。
 それに比べて戦車は、誰でも簡単に乗ることができる上に、高速移動しながら兵士たちによる攻撃も可能であり、馬や騎竜への負担も少ないという利点があります。
 そうしたことから、騎兵より戦車が良く用いられるのです。
 ただし、騎兵がまったく用いられていないわけではありません。伝令兵のように機敏な行動を求められる兵種は、ほとんどが騎兵で構成されています。

騎竜について――
 前述のように、騎竜は馬より乗りこなすのが非常に難しい動物です。また、寒さに弱く、その力も劣るなど、馬より1段低く見られています。
 ですが、そんな騎竜が馬よりも圧倒的に優れている点がひとつあります。
 それは、騎竜が雑食性であるということです。
 騎兵や戦車や物資運搬などに軍馬を用いるときには大量の飼葉を用意しなければなりません。そうした飼葉を運搬させるために、さらに軍馬が……というようなこともあります。
 ですが、騎竜や荷竜などは雑食であるため、人間の兵士たちと同じ糧食で養えるわけです。
 特に肉類は飼葉よりエネルギー効率に優れているため、与えるエサの量も馬の飼葉より少なくて良くなります。それは運搬するエサの軽減にもなり、運搬にかかる労力も少なくて済むのです。
 馬が買えないような貧乏な将校にとっては、騎竜は乗りこなすのが難しいにしろ、その価格と飼育費用の安さは大きな魅力なのです。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ