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破壊の御子 作者:無銘工房

燎原の章

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第46話 宣言-2

 戦いの当事者であるゾアンたちはもとより、奴隷だった者たちの中でも多少なりと先が見える者からすれば、この蒼馬の拒絶はあり得ないものだった。
 差し向けられるであろうホルメアの討伐軍は、ゾアンと奴隷だった者たちをまとめて皆殺しにできるだけの兵力を揃えて来るはずである。それに対して、奴隷だった者たちの参戦を拒み、ゾアンのみで戦えるわけがない。
 不安、疑念、不審、困惑。
 そうした感情が渦巻き、広場のいたるところでざわめきが洩れた。誰もが参戦を拒絶した真意を聞きたいと思ったが、蒼馬はただざわめく人々を眺めるだけで沈黙を守り続けている。
 いつまで経っても口を開こうとしない蒼馬の姿に、彼が自分の話をみんなが聞こうとするのを待っているのだと悟ると、誰からともなく口を閉ざし、人々は蒼馬の言葉を待つようになった。
 その場にいるすべての者たちが自分の言葉を待っているのを実感した蒼馬は、落ち着いた口調で語りかけ始める。
「みんなは、勘違いしている。
 いや。ここにいる者たちだけじゃない。ホルメアをはじめ、世界のすべての国々や人々は、僕たちのことをただの奴隷の反乱と思っているだろう。ホルメア国軍によって、すぐに鎮圧され、終わってしまう小さな事件。ひと月後には、そんなことがあったのすら忘れさられてしまう、取るに足りない出来事だと思っているだろう」
 奴隷に落とされて辛酸を舐めさせられていた者たちにとっては、人間への復讐は正当な行為に他ならなかった。自らの誇りを取り戻し、再び人に戻るための再生の儀式だったのだ。
 しかし、蒼馬はそれを小さいと、取るに足りないものだと断じたのである。
 それに奴隷だった者たちは、自分らの想いを軽んじられたと思い、怒りを感じた。
 その怒りが噴出しようとする寸前に、蒼馬は強い口調で言った。
「だが、それは違う! 僕らの戦いは、反乱や復讐などのちっぽけなものではない!」
 怒りを向けようとしていた人々は、戸惑った。
 自分たちが軽んじられていると思いきや、そうではないと言うのだ。それどころか、逆に小さいものではないと言う。
 皆、蒼馬の言っている意味が分からず戸惑いが広がる。
 そして、その戸惑いにつけ込むように、蒼馬は鋭く言葉を放った。
「みんな! 隣にいる者の姿を見ろ!」
 蒼馬の言葉に釣られ、みんな自分の周囲を見回した。
「そこにいるのは、ゾアンかもしれない。ドワーフかもしれない。ディノサウリアンかもしれない。
 しかし、それがどんな種族であろうと、そこにいるのは傷ついた者たちだ。理不尽な暴力に傷つけられた者たちだ。
 そして、それはあなたたち自身でもある。
 あなたたちは、ただ異種族であるというだけで、尊厳を踏みにじられ、心と身体の自由を奪われ、傷ついた弱き者だ。
 目をつぶれば、あなたたちを家畜のようにして鞭打つ暴虐な主人の姿が見えるだろう。耳を澄ませば、あなたたちの心を砕こうとする奴隷監督たちの罵声が聞こえるだろう」
 その言葉に、ある者はいまだに背中に残る鞭の痕に手を触れた。また、ある者は長く手枷をはめられてできた手首の傷をさすった。また、ある者はいまだに耳の奥から聞こえてくる罵声を遮ろうと、両手で耳を覆った。また、ある者は身体に()された焼印を恥じらい、隠した。
 だが、そんな者たちを蒼馬は叱咤する。
「だが、今やあなたたちは傷ついた弱き者ではない! あなたたちは今や、自らの手で自由と尊厳を取り戻し、強き者となったのだ!」
 自分の辛い過去を暴かれ、心に暗い影を落とした人々にとって、その言葉はまるで一筋の光明のように感じられた。たとえそれが意図的に作り出された影と光明であろうとも、それにすがりつかずにはいられない。
 蒼馬の言葉に、そこかしこで奴隷だった者たちは大きくうなずいた。
 しかし、その程度の反応では蒼馬は満足せず、さらに呼びかける。
「あなたたちは弱き者か?! 強き者か?! どうなんだ?!」
 それに応え、まず数名が「俺たちは強き者だ!」と叫ぶ。そして、それを受けてさらに周囲の者たちが次々と同調して声を上げる。それは水面に広がる波紋のようにして、その場にいた人々すべてに広がって行く。
 奴隷だったときの辛い過去を思い出して、うつむきかけていた者たちが、いつしか胸を張り、頬を紅潮させ、大きな声を張り上げるようになっていた。
 しばらくその光景を見守っていた蒼馬は、頃合いを見計らうと、わずかに手をあげる。
 たった、たったそれだけで騒がしかった人々が、静まり返った。
 誰かに命令されたのでも、そうするように言い含められていたわけでもない。それなのに、いつの間にか彼らは自分らの前に立つ小さな人間の子供の一挙手一投足に目を奪われ、その口から語られる言葉を待つようになっていた。
「では、強き者たちである、あなたたちに問う! 僕たちの戦うべき敵とは、何だっ?!」
 ほんの少し前まで敵は人間であると誰も疑ってはいなかった。
 しかし、これまでの蒼馬が語る言葉に、彼らはすでにそんな簡単な答えであるわけがないと予感めいたものを感じていた。そのため、誰もが蒼馬の問いかけに答える言葉を見つけられず、互いの顔を見合わせる。
 誰も答える者がいないのを確認した蒼馬は、大きな身振りとともに叫んだ。
「敵は、あなたたちを鞭打った奴隷商人たちか? 違う! そんなのは、小物に過ぎない! では、あなたたちを下等種族と決めつけた聖教か?! 違う! あんなのはとっくに死んだ狂人のたわごとを信じる馬鹿どもだ! それでは人間と言う種族そのものか?! それも違う!」
 それは、既存の考え方の否定だった。
 この場にいる奴隷だった者たちならば、誰もが敵として思い浮かべるものをひとつひとつあげ、そのすべて否定する。
 こんなのは間違っている! おまえたちの考え方は間違っている!
 そうやって否定された人々は、自分の考え方に迷いが生じた。迷いは不安であり、不安は恐怖である。その恐怖から逃れるために、人はすがるべきものを求める。
「それは、なぜか?! 人間がいなくなれば、奴隷となる人はいなくなるのか? そんなわけはない! 人間がいなくなれば、次に力を持った種族が他の種族を奴隷にする。それもいなくなれば、また次の種族が同じことをする。他の種族がすべて滅んでも、今度はその種族の中で奴隷と奴隷を(しいた)げる者が生まれる。
 今このとき、隣で肩を並べて奴隷から解放された喜びを分かち合っていた仲間が、明日の奴隷とその暴虐な主人に変わる。
 そんなことが許されるのか?! いや、許されていいはずがない! そんなのは間違っている! 間違いは正さなくてはいけない!」
 そして、迷う人々の心に、すがるべきものを求める人の心に、蒼馬は大きな答えを叩きつけた。
「僕たちが戦うべき敵は、この世界だ! この間違った世界の仕組みそのものだ!」
 それは、途方もない話だ。
 あまりに途方もない話だった。
 普段ならば、そんな馬鹿なと一笑に付されるような壮大すぎる話だ。
 しかし、それだけにその言葉は人々の心に強く刻み込まれる。
「太陽は、種族を分けて輝きを変えるのか?! 雨は種族を分けて降り注ぐのか?! 夜は種族を選んで訪れるのか?! 大地は種族を分けて接するのか?!
 そんなわけがあるはずがない!
 本来、世界とはすべての者に平等であった。それを一部の力を持った人の貪欲さによって、世界はゆがめられてしまったのだ!
 しかし、真実は違う!
 あなた方の魂は、意志は、自由なんだ! そして、いかなる種族であろうと、そこに優劣はなく、血筋や家系にも貴賤(きせん)はない! みんなは、平等なんだ!」
 自由と平等。
 誰もが聞きなれないその言葉が、なぜかとてつもなく魅力的なものに聞こえた。
「自分たちが勝ち取った尊厳、自由、平等を守るために! あなたの隣にいる同胞たちのために! あなたの隣に立つであろう愛する人のために! あなたの後ろに続くであろう子供たちのために! そのために――」
 それまでの激情から、打って変わって蒼馬は穏やかな微笑みを浮かべて言った。

「国を作ろう」

 その言葉は、乾いた砂地にまかれた水のように聞いている者すべての心にしみた。
 そして、先程よりやや熱を込めて、重ねて言う。
「僕たちの国を作ろう。僕たちの自由と平等の国を! この僕たちの手で!
 これはただの反乱ではない! 復讐でもない! そんなもので戦おうという者はいらない!! これは、僕たちの国を作るための戦いなんだから!」
 しかし、一転して蒼馬は悲しげに顔をゆがませると、目をつむって顔をそむける。
「だが、それは苦難をともなう道だ。世界をゆがめて利益を得てきた者たちは、その身勝手な欲望を守るために、必ずや僕たちを消し去ろうとする。
 そいつらは、強大な敵だ。そいつらと戦えば、多くの者が傷つき、その命を失うだろう」
 そむけていた顔を再びみんなの方に戻した蒼馬は、固く握った拳を天に向けて突き上げた。
「だけど、その犠牲の果てに、きっと僕たちの国がある! 僕たちの国が!」
 突きつけられた厳しい現実と、その果てにある理想。その落差が激しければ激しいほど、それに人々の心は大きく揺さぶられる。
 蒼馬は隣に控えていたシェムルの手から木の(かせ)と小さな袋を取り上げると、まずは木の枷を高々と掲げて見せた。
「それでも、死を恐れて、尊厳と自由を捨ててまで生き長らえたいというなら、この枷を自らの首にはめ、汚らしい奴隷小屋に戻るがいい! 家畜のように鞭で打たれ、罵られながら生きろ!」
 蒼馬が放り投げた木の枷が、ガラガラと音を立てて地面を転がった。
 そして、次に小さな袋を高々と掲げる。
「戦うのを恐れ、逃げたいと言うのならば、この銀貨を持って街から逃げるがいい! いつ人間に狩り出されるかもしれない恐怖に怯えながら、死ぬまで逃げ続けろ!」
 蒼馬が放り投げた小さな袋が地面に落ちると、その中から銀貨が音を立てて地面に散らばった。
「さあ、選べ!」
 語られる内容に圧倒され、しんと静まり返った広場に、蒼馬の声が響き渡る。
 誰もが戸惑っていた。
 あまりに自分たちの中の常識からかけ離れた内容が理解できずに。
 誰もが迷っていた。
 理解できなくても自分たちでは説明がつかない熱いものを感じ。
 そんな重苦しいほどの緊張が支配する広場で、ひとりのドワーフが立ち上がる。
 ドヴァーリンであった。
 彼は仲間たちをかき分け、蒼馬の前まで進み出る。
 その場にいる誰もが、ドヴァーリンが何をしようとするのか注目した。
 なけなしの勇気をすべてつぎ込み、触れればパチンッと弾けてしまいそうな虚勢を張る蒼馬もまた、ドヴァーリンの言葉を待った。
 怒られるかもしれない。笑われるかもしれない。相手にすらしてもらえないかもしれない。
 神の御前で最後の審判を下される咎人(とがびと)のように、内心で不安に震えながら、蒼馬は目の前にいるドワーフの判決を待った。
 そして、ドヴァーリンは、すっと小さく息を吸うと、声高に叫んだ。
「木も銀もいらぬ!」
 蒼馬に向けて、そのたくましい右腕を手のひらを上にして突き出す。
「鉄を寄越せ!」
 木とは枷のことであり、銀とは銀貨のことである。
 そして、鉄とは鉄でできた武器のことだ。
 ドヴァーリンは、奴隷となる枷でもなく、逃亡するための銀貨でもなく、戦うための鉄の武器を要求したのである。
 それを察したドワーフやディノサウリアンたちがいっせいに立ち上がった。
「そうだ! 俺にも鉄を寄越せ!」
「俺たちにも鉄を寄越せ!」
「鉄だ! 鉄を寄越せ!!」
 誰も彼もが口々に叫びながら、握り締めた拳を天に向かって突き上げた。
 胸の奥から噴き上がる激情にいてもたってもいられず、その場で激しく足踏みをし、咽喉を()らして叫び続ける。
 その熱気に当てられ、ゾアンたちまでもが立ち上がり、拳を天に突き上げ、口々に言った。
「「鉄を! 鉄を!!」」
 その熱狂的な喚声を全身に浴びる蒼馬は、自分の隣に立っていたシェムルの姿がいつの間にか見えなくなっていたことに気付いた。
 いや。シェムルはまだそこにいた。
 見えないと思ったのは蒼馬を守るようにして立っていたシェムルが、いつの間にかその場に膝をついていたからである。蒼馬に向けて頭を深く下げた彼女は、その頬をあふれる涙で濡らしていた。
「ソーマよ。我が『臍下(さいか)(きみ)』よ。この魂と心と肉のすべてをあなたに捧げたことを誇りに思う。あなたこそ、我が『臍下の君』だ! あなたこそ、私のすべてだ!」
 シェムルは、頭がどうにかなりそうだった。
 燃えるように熱い血潮が血管を逆流し、全身の毛穴という毛穴が解放され、歓喜が垂れ流しになっているような気さえする。
 こんな状態で蒼馬の顔をまともに見てしまえば、自分の中で抑えつけていたものが解き放たれてしまう予感に(おび)え、ひたすら顔を伏せて彼女が敬愛する「臍下の君」の名を繰り返すことしかできなかった。
 だから、気づかなかった。
 かしずく自分を見下ろす蒼馬の顔が、今にも泣き出しそうに歪んでいたことに。
 ちょび髭伍長の我が闘争とか、コロニー公国の総帥とか、世界一カッコいいデブな少佐とか、3倍の速さで動ける赤い人の演説などを参考にしました。
 しかし、アニメや漫画の演説も、ヒトラーのスピーチ術を踏襲するものとかあって、馬鹿にできませんね。
 次話は、この演説を聞いていた他の人の感想と後世の評価についてです。


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おまけ

蒼馬
「う~ん。明日はみんなに何て言おうか。
 『ホルメア軍は形骸である。あえて言おう、カスであると!!』ってこれは、まずいか。
 なら、『諸君、私は奴隷解放が好きだ。諸君、私は奴隷解放が好きだ。諸君、私は奴隷解放が大好きだ!』って、これもさすがに……。
 あと、メ●ルギアのジ●ンの演説も捨てがたいし、3倍の速度で動ける赤い人の演説もカッコいいよなぁ……」

小鳥のさえずり(チュンチュン)

シェムル「『あ……シェムル』ではないぞ、ソーマ! 私は言ったはずだぞ。無理をするな、と!」
蒼馬「あれ……? いつの間に朝に?(なんだか、徹夜でアニメや漫画を見続けていた気分だ)」
+注意+
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