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破壊の御子 作者:無銘工房

燎原の章

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第42話 反乱

 大隊長が叫ぶより少し前、奴隷商人のグロカコスは奴隷たちの様子を見て回っていた。
 劣悪な環境と虐待に晒されている奴隷たちは、いつ噴火するかわからない火山のような怒りと不満をため込んでいる。普段、それらは鞭と鎖によって押さえつけてはいるが、いつ何らかの拍子に爆発しないとも限らない。
 そして、予期せぬゾアンたちの襲撃は、そのきっかけには十分すぎるものだった。
 いくら黙っていても、街中に響き渡るホルンや板木を打ち鳴らす音を聞けば、奴隷たちも街に異常な事態が起きていると察するだろう。
 そのためグロカコスは、鞭を持った奴隷監督たちの姿を見せつけることで、奴隷たちの暴発を抑止しようとしていた。
 奴隷監督たちを引き連れ、ことさら余裕ぶった態度で順番に檻の中を見て回るグロカコスに、声が投げかけられる。
「おい、何ぞあったのか?」
 いきなり声をかけられたグロカコスは、驚いた。この屋敷の主人である自分に、そのような横柄な言葉で問いかけてくるような人間はいないはずだ。
 いったい誰がと周囲を見回したグロカコスは、奴隷たちが入れられた檻の中から、自分を見つめるドワーフに気がついた。
「……ドヴァーリンか」
 それは、ソーマという少年から預かっているドワーフの奴隷であった。
「地虫どもには関係ないわ! おまえたちは大人しくしていればいい!」
 グロカコスの激昂に、しかしドヴァーリンは両腕にはめられた手枷の鎖をジャラリと鳴らしながら自分の髭をしごき、悠然と言った。
「何が起きたか、わしが当ててやろう。……そうだな。ゾアンが街を攻めてきたのではないか?」
 グロカコスは、眉間にしわを寄せた。
 ドヴァーリンの口調に、何か不穏なものを感じたからだ。
「……貴様、何が言いたい?」
「さあ、な。お偉い人間様ならば、わかるのではないか?」
「この地虫め。私が、預かった奴隷には鞭を喰らわせないと思っているのか?」
 グロカコスは、鼻で笑った。
「昨日から、ずいぶんとでかい態度を取るようになったな、地虫めが。図に乗るな! 預かり物とはいえ、生意気な奴隷の調教と言えば、多少手荒く扱っても文句は言われまい」
 しかし、檻の中でドヴァーリンは、髭面をニヤニヤと笑いに歪めるのをやめなかった。その態度にグロカコスの頭に血が上る。
「この地虫め! それほど鞭が欲しいなら、くれてやるわ!」
 グロカコスは、奴隷監督に命じてドヴァーリンを檻の外に引きずり出した。そして、ドヴァーリンの鎖を広場の樹につなぐと、これまで数多くの奴隷たちの身体を打ち据えてきた鞭を手に取る。
「どうだ、地虫? 私は寛大だ。今なら這いつくばって、私の靴を舐めて許しを請えば、許してやらんでもないぞ?」
 そのつもりは毛頭ないくせに、グロカコスは寛大を装ってドヴァーリンに慈悲を請わせようとする。そして、わずかな希望を持たせたところで鞭をくれてやることで、より深い絶望と苦痛を感じさせるのだ。その時の光景を思い浮かべながらグロカコスはサディスティックに笑い、ドヴァーリンの反応を待った。
 しかし、ドヴァーリンの反応はグロカコスの予想とは違ったものだった。
「貴様の粗末な逸物と同じ役立たずを振り回して、この戦士たるドヴァーリンをどうにかするとは、御笑い(ぐさ)じゃな。せいぜい笑わせて、わしの腹筋を痛くさせるぐらいの価値しかあるまい」
 思わぬ侮辱に、グロカコスは怒るよりも唖然としてしまった。
 しばらくして、ようやく自分が侮辱されたのを理解したグロカコスは、その怒りのあまりに顔が赤を通り越して赤黒くなる。
「戦士だと?! この奴隷風情が!」
 風を切って振るわれた鞭の先端が、バシンッと肉を打つ音を立てる。
 それに鞭を振るったグロカコスばかりか、それを下卑た笑いを浮かべて見守っていた奴隷監督たちは、いっせいに目を剥いた。
「ほれ、見ろ。おまえの粗末な逸物と一緒で、役立たずではないか」
 グロカコスが振るった鞭は、ドヴァーリンの右手にしっかりと握りしめられていた。
 その手にはめられていたはずの枷は、ドヴァーリンの足元に落ちている。
 ドヴァーリンは握りしめた鞭をその太い腕で一気に手繰り寄せた。目の前で起きた状況が理解できずに棒立ちになっていたグロカコスは、手繰り寄せられる鞭に引っ張られ、まろぶようにしてドヴァーリンに引き寄せられる。
 その胸ぐらを掴むと、ドヴァーリンは渾身の右拳の一撃をグロカコスの鼻面に叩き込んだ。
 絞め殺された子豚のような悲鳴を上げ、両方の鼻の穴から血を垂れ流しながら、グロカコスは叫んだ。
「な、な、なぜだ?! 枷が? どうして? なんで?!」
 そのグロカコスの顔に、ドヴァーリンは口から唾を吐きかけてやった。
 その唾にまじって、何か固い感触のものが頬に当たって、足元にポトリと落ちる。足元に目をやったグロカコスは、丸められた針金が唾に濡れて輝いているのをそこに見つけた。
「わしらドワーフは手先が器用でな。針金一本あれば、鍵を外すぐらいは居眠りしながらでもできるのじゃよ」
 さらにグロカコスの顔に拳を叩き込む。
 そのときになって、ようやく事態を理解した奴隷監督たちが手にした棒でドヴァーリンを叩きのめそうとする。しかし、彼らは背後で上がった雄叫びに身をすくませた。
 ドヴァーリンの入れられた檻の中から、次々と枷や鎖を外したドワーフの奴隷たちが飛び出してきたのだ。彼らは自分たちを縛りつけていた木の枷の鎖を持って振り回し、奴隷監督たちに襲いかかる。
「鍵を奪え! 仲間たちを解放するのだ!」
 ドヴァーリンの指示を受け、ドワーフたちは叩きのめした奴隷監督たちの腰から鍵を奪い取ると、次々と檻を開け、ドワーフの奴隷たちの枷を外していった。
「さあ、戦士たちよ! 今こそ戦いの時ぞ!」
 いきなり解放された奴隷たちは、どうしていいものかと不安と困惑に右往左往していたが、そのドヴァーリンの叫びを聞くと、ようやく自分たちが解放されたことに改めて気づく。
「「うおおおぉーっ!!」」
 奴隷だった者たちは、解き放たれた歓喜と今までの怒りに腹の底から叫び声をあげた。
「ひいぃっ!!」
 その叫びにグロカコスと奴隷監督たちは、悲鳴を上げた。
 しかし、それは奴隷だった者たちの注目を浴びる結果となった。もはや言葉にならない怒声と罵声をあげ、皆がいっせいにグロカコスと奴隷監督たちに襲いかかる。グロカコスと奴隷監督たちは、それまで自分たちが奴隷たちにしてきた暴虐の報いをまとめて支払わされることになった。
 その凄惨な復讐劇を見届けたドヴァーリンは、いまだ鍵を開けられていない檻のひとつに歩み寄ると、中に声をかける。
「おう、ディノサウリアンども。わしらはこれから人間ども相手に暴れてくるが、おまえらはどうする?」
 ドヴァーリンの言葉に、檻の中で重い鎖の音を立てながら巨体がのそりと立ち上がった。
「我らを解放しろ、ドワーフ。我も、退屈を持て余していたところだ」

                ◆◇◆◇◆

「な、何が起きているのだぁー?!」
 大隊長が見たのは、街の中でもひと際広壮な屋敷から上がる火の手と、そこから立ち上る黒々とした煙であった。さらに目を凝らせば、その屋敷の中から喚声を上げて飛び出す大勢の人影が見て取れる。
 当初、ゾアン襲来の知らせに恐慌をきたした住民が、火の不始末をしでかしたのかと大隊長は思った。だが、屋敷から出てきた者たちが火災を鎮火しようともしないばかりか、道の両脇に立つ小さな露店などを破壊しながら街を移動し始めたのに、それがもっと深刻な事態であることを悟る。
 ちょうどそこに街の住民の強制徴募に向かわせていた中隊長から、伝令の兵士が送られてきた。
「奴隷どもの反乱だと?!」
 伝令の内容に、大隊長は足元が崩れるような衝撃を覚える。
 ゾアンたちが街を襲撃してきたという最悪の事態の上に、さらに奴隷の反乱である。大隊長は頭を抱えたくなった。
「もし、外のゾアンどもがこれに呼応すれば大変な事態になる! 中隊を率いて、速やかに鎮圧せよ!」
 大隊長の命令を受け、そばに控えていた中隊長のひとりが部下を呼び集めながら街壁から降りていく。
 しばらくすると、街で暴れる奴隷たちの集団へ鎮圧に向かった兵士たちが雄叫びを上げながら斬り込んだ。瞬く間に、悲鳴と鮮血が飛び交い、多くの奴隷たちが斬り倒される。
 しかし、兵士たちが優勢だったのは一時のことで、すぐに勢いを盛り返した奴隷たちによって兵士たちが次々と打ち倒されていく光景が街壁の上からでも見て取れた。
「あの腑抜けどもが! 何をしている!」
 苛立ち、地団太を踏む大隊長のもとに、ひとりの兵士が街壁の階段を駆け上がってきた。
「伝令! 伝令!」
 そう叫びながら駆けてきた兵士は激しく息を乱しながらも大隊長の前に片膝をつき一礼する。
「奴隷どもの抵抗が激しく、容易に鎮圧できません! 増援を求めたいとのことです!」
 それに大隊長は思わず怒鳴り返した。
「ふざけるな! たかが奴隷の反乱に何を手こずっておる! それでも貴様らは、ホルメアの兵士かっ?!」
 いくら数が多かろうと、相手は混乱に乗じて暴れ出しただけの奴隷である。せいぜい、そこらにある火かき棒や農具で武装した奴隷を相手に、完全武装の兵士が遅れを取るなどとは許されないことだ。
 しかし、伝令の兵士が発した次の弁解の言葉に、大隊長は絶句した。
「それが、奴隷どもはどこから武器を手に入れたのか、剣や槍などで武装しているのです。そうとは知らず斬り込んだため、こちらに多数の死傷者が出てしまいました!」
 奴隷商の護衛や住民の強制徴募に向かっていた兵士たちを襲って、その武器を奪っているぐらいは予想していた。しかし、伝令の兵士の口ぶりからは、奴隷たちが持ち出した武器の数はとうていその程度のものではなさそうだ。
 いったいどこからそれほど大量の武器を入手したのか、まったく想像ができずに大隊長は混乱した。
 もし、奴隷たちの持っている武器が、東門の門衛たちに賄賂を渡して不正に持ち込んだ武器だと知ったならば、大隊長は怒りのあまり自ら東門の門衛たちを斬り殺しにいったことだろう。
「大隊長どの! ゾアンどもに動きがっ!」
 街の外を振り返れば、それまでただ太鼓を叩いて騒いでいるだけだったゾアンたちが、いっせいに移動を開始していた。土煙をあげて大地を駆けるゾアンたちは、街の北側へと向かって行く。
 それに、街を落とすのを諦めて平原に帰るのでは、と大隊長は淡い期待を抱いた。
 しかし、それを裏切って街の北側に来たゾアンたちは何を思ったのか次々と河に飛び込び、泳ぎ渡ろうとする。
 その光景に、大隊長はようやくゾアンたちの意図を察した。
「街の東側に回ろうとしている?! な、なぜだ?!」
 大隊長の脳裏に、恐ろしい考えが雷光のように閃いた。
 再び街の中を振り返った大隊長は、素早く首をめぐらせて奴隷たちの反乱の様子を見回した。
 最初に奴隷商人のグロカコスの屋敷から起きた奴隷の反乱は、同じ奴隷商人の屋敷を次々と襲ってその勢力を増し、近くの家々を壊しながら街を東へと向かっていた。
 襲った奴隷商人の屋敷の中には、西門に近いところもあったのに、なぜか反乱を起こした奴隷たちは西門には見向きもせずに、東門へと向かっている。
「……! まさか、ゾアンと呼応されでもしたらではなく、すでに呼応しているのかっ?!」
 街にいた兵士の大半は、西側に集中させてしまっている。今、東側を守っているのは百名もいないだろう。
 そんな東門を内と外から同時に攻められたら、とてもではないが長くは持たない。
 今すぐ東門の救援に向かうかと考えたが、すでに反乱を起こした奴隷たちは、砂糖に群がる黒蟻の群れのように東門に押し寄せている。
 もはや東門を守りきれないと判断した大隊長は、街を捨てることを決断した。
「総員、領主官邸に移動だ! あそこは砦だった場所だ。街が落ちても、あそこにこもれば援軍がくるまで防げる!」
「街の住民は、いかがします?!」
「無理だ、諦めろ!」
 大隊長は、一喝のもとに住民を切り捨てた。
「もはや、この街は墜ちる!」

                ◆◇◆◇◆

「なぜ、手間をかけて東門を攻めたのだ?」
 シェムルは不思議そうに小首を傾げて、蒼馬に尋ねた。
 ボルニスの街の中央を流れる河によって、街の東西を行き来するには、どうしても一度は河を渡らねばならない。今回は夜の間に河を渡って街の西側で陽動を仕掛けてから、また河を渡って東門を攻めると言う二度手間をしなければならなかった。そんな手間をかけずとも、街の東側で陽動を仕掛け、西門を攻めればよかったのではないかと言うのは当然の疑問だ。
「僕たちがホプキンスさんとこの街に入ったのが、東門だからだよ」
 その蒼馬の答えに、自分の目で確認した東門の方が攻めやすかったのだろうと考え、シェムルは納得した。
 しかし、蒼馬が東門を攻めたのは、まったく異なる意図からである。
 その目的は、東門を守っている兵士をすべて殺すためだ。
 いくら人質を取られ強要されたとはいえ、街を落とすのに協力していたことが広まれば、ホプキンスの立場は悪くなる。彼がこの地を離れて他国で再起できるだけのまとまった礼金を渡す約束にはなっているが、それだけでは足りないのだ。
 協力者の利益は、徹底して守らなくてはいけない。
 そうしなければ、せっかくの協力者を失ってしまう。しかし、逆に協力者の利益を守れば、それはその協力者の信頼を得るだけではなく、新たな協力者を得やすくもなる。
 協力者の利益の保護は、()いては自分たちの利益につながるのだ。
 しかし、蒼馬の胸の奥に、どす黒いものが浮かび上がっていた。
 街を攻め落とすには、当然だが東西のどちらかの門を開かなくてはいけない。それは同時に、その門を守る兵士たちを殺すことでもある。
 東西のどちらの門を守る兵士を殺すのかと言う究極の選択に、自分たちの利益を考慮に入れた。
 それはまるで人の命を天秤にかけ、その片側に金貨を乗せるような卑しい行為に蒼馬は思えてならなかったからだ。
 そんな想いから口許に自嘲の笑みを浮かべた蒼馬の耳元に、妖しい少女の声がささやかれる。
「ああ、私の(いや)しい蒼馬。今さら自分で自分を(おとし)めて、(あわ)れんで、(さげす)んで、それで楽になろうとしているの? なんて、醜いのかしら。なんて、浅ましいのかしら。少し浮かれて覚悟を忘れたようね。私の愛しい蒼馬」
 背中から心臓を長い針で貫かれたような恐怖に、蒼馬はとっさに振り返った。
「? どうした、ソーマ?」
 しかし、後ろにいるのはシェムルだけであった。
 今、聞こえた少女のような声は、幻聴だったのか?
 自分の中にある罪悪感が、ありもしない少女の声となって自分の弱さを指摘したのだろうかと蒼馬は思ったが、それでも言い知れようのない不安がぬぐい切れない。
 そんな蒼馬だったが、シェムルが空を指差して叫んだのに我に返る。
「あれを見ろ、ソーマ! 火の手があがっているぞ!」
 シェムルの言うとおり、街の中心近くから黒い煙が立ち上っているのが見えた。
 蒼馬は幻聴のことは頭から捨てて、今起きている事態に意識を向ける。
「ドヴァーリンさんは、みんなを抑えきれなかったんだ!」
 多くの奴隷たちの恨みを買っている奴隷商たちは仕方ないと割り切っていたが、それ以外の街の住民に被害が及ぶのは蒼馬としても避けたい事態だった。
 そのため、ドヴァーリンには極力住民たちを襲わないのは当然として、奴隷たちにゾアンは味方であり、ゾアンを街に引き入れるために一刻も早く東門を開放しろと大声で叫び続けさせることで、奴隷たちの意識を住民から東門に向けさせてくれと強く言い含めていたのである。
 しかし、火事が起きているだけではなく、遠くここまで住民たちのものと思える悲鳴が聞こえてくるのに、蒼馬は奴隷たちの憎悪を甘く見ていたと痛切に悔いた。
「シェムル! 僕も東門に行く!」
「馬鹿な! あそこは解放された奴隷だった者が暴れている場所だ。そんなところに人間であるソーマが行けば、ただではすまないぞ!」
 解放された奴隷たちの暴動が、蒼馬の思惑から外れた事態であるということはシェムルも気づいていた。そんな場所に蒼馬を連れていくのに難色を示す。
「そ、それでも、行かなくっちゃいけない! 少しでも早くガラムさんやズーグさんと合流しないと」
 後悔と焦りで、今にも泣きそうな表情で訴える蒼馬に、シェムルは危うさを感じた。
 先日、蒼馬が平原で小さな赤い実をつけた植物を見つけたときである。異世界から落ちてきた蒼馬はこちらの世界の様々なものに好奇心旺盛で、そのときもその植物を興味深く観察していた。
 しかし、その赤い実は食べると最悪死に至るほど強い毒性を持っていたため、シェムルは蒼馬に注意するようにと伝えた。
 すると、それまで鼻を触れるほど顔を近づけて植物を観察していた蒼馬は、慌てて跳び退くと実を食べさえしなければ問題ないと言うのに決して植物に近寄ろうとしなくなったのだ。
 このように蒼馬は意外と危険に対して鈍感な面がある。だが、それはこちらの世界の危険そのものに気づいていなかったり、人を安易に信用していたりするためだ。しかし、明らかに危険とわかることに対しては、シェムルから見れば過敏ともいうほど臆病なところがある。
 それなのに、今のように奴隷たちが暴れているという明らかな危険な場所に行きたいと言いだすのは、蒼馬らしからぬ判断だ。
 しかし、蒼馬がそう言い出した理由に、シェムルは心当たりがあった。
 それは、後に「ホグナレア丘陵の戦い」と呼ばれる、あの戦いだ。
 火計を用いて敵兵八百人を焼き払ったあの戦いのせいで、蒼馬が重度の「戦士の感冒」を患い、一時は精神的に潰れてしまうのではないかと危惧していたのは記憶に新しい。
 もしかしたら、蒼馬は自分が招いた火災で人が死ぬのを極度に恐れているのかもしれない。それを防ごうとし、自らの危険を顧みずにガラムたちと合流して何とかしたいという想いに駆られている可能性がある。
 シェムルは迷った。
 蒼馬はゾアンの反撃作戦の要である。そんな人を危険にさらすなど、普通では許されないことだ。
 シェムルは大きく肩を落として、嘆いて見せた。
「まったく、ソーマは我がままだ。人間を恨む奴隷たちの暴れる場所を抜け、無事に同胞たちの下にたどり着けとは、無理難題もいいところだぞ」
 シェムルの言い分は、今の蒼馬にも理解できた。自分がとんでもない理不尽な要求を突きつけてしまったことを詫びようとした蒼馬だったが、それよりも先にシェムルはニィッと笑って牙をむく。
 シェムルが蒼馬を「臍下(さいか)(きみ)」に認めたのは、彼に利用価値があるからではない。
 本当は誰も傷つけることもできないくらいやさしいのに、ゾアンのために深く傷ついてしまった蒼馬を支えたかったからだ。
 それならば、やることは決まっている。
「だが、それが『臍下の君』の願いとあらば、この《気高き牙》に否やはない!」
 いろいろ書きたくて、ついだらだらと続いてしまったボルニス攻略ですが、次話でボルニス攻略は終ります。
 しかし、これまでゾアンのみだったのに比べ、ドワーフやディノサウリアンなどの他種族まで従える難しさを蒼馬は知ることになります。
 考えも姿かたちも異なる種族をまとめるには、どうすればいいのか?
 苦悩する蒼馬の姿に、少女の不気味な笑い声が響き渡る。

次話「陥落(予定)」をお楽しみに。

2013/4/22 誤字修正
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