挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
破壊の御子 作者:無銘工房

燎原の章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

31/255

第30話 砦

 ソルビアント平原に築かれた砦は、すでに陽が暮れてずいぶんと経つというのに、盛大にかがり火を焚いて真昼のような明るさに包まれていた。
 そこでは兵士たちが慌ただしく走り回り、あちらこちらで怒声のような声が飛び交っている。
 その中にあって、砦を任されたマルクロニス中隊長補佐は、絶え間なく報告や指示を仰ぎに駆け寄る部下たちを必死にさばいていた。
「中隊長補佐殿! 負傷兵を寝かせる場所が足りません!」
「通路でもかまわん! ただでさえ体力を失っているのに、夜風に晒すわけにはいくまい。怪我の状態を見て、重傷の者を優先的に建物の中へ!」
「中隊長補佐殿! もはや傷薬が足りません! 包帯もです!」
「食料庫から酒樽を持ってこい。せめて酒で洗うのだ! 倉庫に予備の服があっただろう。それを引き裂いて包帯代わりにしろ!」
 この騒ぎは、日が沈む頃になって砦にたどり着いた負傷兵たちのせいであった。
 この砦から北にあるホグナレア丘陵に潜むゾアンの〈牙の氏族〉と呼ばれる者たちを掃討しに大隊が発ったのは、半月以上前だ。もはや往時の勢いを失ってしまったゾアンの掃討は、誰もが簡単な任務だと思っていた。
 ところが、大隊が丘陵に向かって三日後のことである。ゾアンの村がある辺りで起きた大規模な山火事は、砦からも見て取れた。ゾアンたちの村を焼いたにしては大きな山火事に、マルクロニスは嫌な予感を覚えていた。
 その予感が的中していたと知ったのは、それから三日後のことだった。
 ゾアン掃討に向かった大隊の兵士たちが、見るも無残な格好で逃げ帰ってきたのである。兵士たちは、煤や泥で身体中を真っ黒にし、最初はどこの浮浪者の集団かと見間違われたほどだ。そして、砦にたどり着いた彼らは、大半がその場に倒れ込み、動けなくなってしまうほど激しく消耗していた。
 いったいどんな天変地異に巻き込まれたかと兵士たちに聞けば、驚いたことにゾアンによって火攻めをかけられ、大隊はほぼ壊滅という大惨敗を喫したというのだ。
 大隊を率いていたルグニアトス大隊長をはじめ、中隊長以上の者すべてが混乱の中で生死不明となってしまった。火に追い立てられ取るものも取りあえず逃げるしかなかった兵士たちは、ほとんど飲まず食わずで三日も歩き続け、ようやく砦に戻ってきたという。
 これには、さすがにマルクロニスも最初は信じられなかった。
 しかし、その日から次から次へと負傷兵たちが砦に押し寄せてくると、現実を受け入れるしかなかった。
 今では砦の中は、帰還した負傷兵たちが所せましと寝かされ、彼らのあげるうめき声が絶え間なく聞こえてくるといった地獄のような有様だ。
 新たにやってきた負傷者たちの応急処置を終え、ようやく砦が落ち着きを取り戻したのは、陽が落ちたときには中天近かった月がとっくに西の空に傾いていた頃だった。
「マルクロニス中隊長補佐殿。少しよろしいでしょうか?」
 マルクロニスのところに、兜に小隊長の房をつけた兵士がやってきた。
「なんだ、セティウス?」
「お耳に入れたいことがございます」
「なんだ、言ってみろ?」
「ここでは、少し……」
 周囲に寝かされた兵士やそれらを看病している兵士たちを視線で示して言い渋る。
「わかった。ついてこい」
 マルクロニスは、建物へ足を向けた。
 建物の通路や階段にも、多くの負傷兵が寝かされており、彼らを踏みつぶさないように注意しながらマルクロニスが来たのは、砦の指揮官用の部屋だった。
 奥の壁には大きな地図がかけられ、その前に置かれた執務用の机にマルクロニスは落ちるように腰を下ろした。
「ずいぶんと、お疲れのようですね、中隊長補佐殿」
「まったくだよ」
 上官だった中隊長がゾアンの御子に手を出して悶死したのを皮切りに、たかが退役間近の中隊長補佐の手には余ることばかりが立て続けに起きている。
「こう毎日毎日負傷兵が送られてくるとは予想もしなかった。ましてや、今日は荷車まで使って四〇名を超える者が一気にだ」
「これでは、まるでゾアンの攻撃ですな」
 セティウスの言うことには同感だった。
 負傷兵は、同じホルメア国の兵士だ。見捨てるわけにはいかないが、砦に駐屯していた兵士たちよりも多い負傷兵を押し付けられ、その手当や看病などによって砦の兵士たちの疲労もすでに限界に達している。
「とはいえ、ゾアンに送ってくるな、とは言えん。それどころか、多くの兵士たちが彼らの手当てを受けたおかげで助かっている。感謝こそすれ、恨むわけにはいかんだろう」
 こちらは根絶やしにするつもりで大隊を送り込んだのだから、皆殺しにされても文句は言えない。それなのに、ゾアンたちは負傷兵には応急処置を施し、自力では歩けない者たちのためにわざわざ荷車まで作ってくれたのだ。
 軍ではゾアンたちを野蛮な(けだもの)と教えているが、これではどちらが野蛮な獣なのかわからない。
「それで、私に報告したいこととは何だ?」
「実は、戻ってきた兵士たちが気になることを言っておりました」
「なんだ、それは?」
「はい。囚われていた兵士が、ゾアンたちの中に人間の子供の姿を見たと言っているのです。しかも、複数の兵士から同じ報告が上がっております」
「人間の子供だと? どこかの開拓村から、さらわれたのか」
「いえ、そうではないようなのです。どうにも信じられない話なのですが、ゾアンたちはその子供の言うことに従っていたように見えたというのです」
 それはあり得ないとマルクロニスは考えた。
 人間によって住み慣れた平原を追われたゾアンたちは、人間に対しての恨みは骨髄に徹するだろう。そんな恨み募る人間の言うことに、ゾアンが従うとは到底考えられない。
 しかし、笑い飛ばそうとしたマルクロニスは、何かが脳裏に引っかかった。
「お忘れですか、中隊長補佐殿。この砦からゾアンが脱獄したのと一緒に消えた御子のことを」
 マルクロニスは、あっと思い出した。
 少し前に、彼の上官だった中隊長を悶死させたゾアンの御子の脱走事件があった。その時、このセティウスが邪教の祭祀場から連れて来た正体不明の御子が、ともに姿を消している。
 ゾアンが連れ出した可能性も考えられたが、人間を恨んでいるゾアンがわざわざ危険を冒してまで少年を連れて行くとは考えられず、ゾアンの脱獄に便乗して、自力で抜け出したと思われていた。
 その正体不明の御子をゾアンの御子とともに地下牢に入れさせたミルダス神官が大騒ぎしたため、大隊の協力まで仰いで少年を探したが、結局は見つけることはできなかった。この広い平原で子供がたったひとりで生き延びられるわけもないため、てっきりどこかで野垂れ死んでいるとばかりマルクロニスは思っていた。
「まさか、あの子供なのか? いや、待て待て! ゾアンが子供に従っていただと?! まさか、今回の火攻めは……!」
 マルクロニスは、ここ数日の疑問を解く手がかりを得た。
 当初、彼が大隊は火攻めにあったと報告を受けたとき、それを信じられなかったのは、それが彼の知るゾアンの戦い方とはあまりにかけ離れたものだったからだ。
 しかし、もし兵士たちが見たように人間の子供がゾアンを従えていたというのならば、このゾアンらしからぬ戦い方はその人間の子供の考えであったとしか思えない。
「何なのだ、あの子供は……?」
 あの御子の正体を知っていたようなミルダス神官を問いただそうにも、彼はすでに砦を退去してしまっている。大隊による捜索が打ち切られた日に、さんざん(わめ)き散らした挙句に怒って街に帰ってしまったのだ。
「このことを兵士たちには口止めをしておくことは、できそうか?」
 同じ人間が裏切ってゾアンについていたと知れば、兵士たちは動揺するだろう。
「目撃した兵士も多く、彼らと看病で接する兵士たちにも噂は広まり、もはや手遅れかと」
「くそっ! あのイボガエルめを締め上げて、吐かせておけばよかった」
 後悔先に立たず、である。
「とにかく今は勢いに乗ったゾアンたちが、ここに攻めてくるやもしれん。皆、疲れておるだろうが、見張りを増やせ。交代の間隔は短くしろ」
 それは疲れている兵士の集中力が長い時間は持たないという配慮からだ。
「了解いたしました!」
 敬礼をしたセティウスが部屋から出ていくと、ひとり残ったマルクロニスは、ぐったりと椅子の背もたれに身体を預けた。
「ゾアンを従える人間だと? いったい何が起きているというのだ?!」
 マルクロニスの疑問に答えられる者は、そこにはいなかった。

              ◆◇◆◇◆

 寒風が吹きすさぶ防壁の上で、毛布に(くる)まって見張りについていた兵士は、東の空がわずかに明るくなりかけた平原の中に、動くものを見つけた。
 目を凝らすと、それは大きな二台の荷車と、それを押す兵士たちの姿である。
「あれは、また負傷兵か……」
 昨夕も四〇人もの負傷兵がやってきたばかりだというのに、今度はそれを上回る人数だ。
 また昨夜のような大騒ぎになるのは勘弁して欲しいところだが、命からがら逃げてきた仲間を見捨てるわけにはいかない。見張りの兵士は、防壁の上から身を乗り出し、下に向かって叫ぶ。
「また負傷兵がきたぞ! 今度はかなりの数だ!」
 その声を受けて、門付近が慌ただしくなる。
「門を開けろー!」
 数人がかりで門を開き、負傷兵たちを迎え入れる。
 門から入ってきた負傷兵は、これまでで最もひどい状態であった。
 誰も彼もが体中に包帯を巻いており、まるで噂に聞くはるか南方の砂漠に伝わる埋葬法で弔われたミイラの集団だ。
 出迎えた兵士たちも、ここ数日で負傷兵は見慣れてきたつもりだったが、あまりの惨状に痛ましげな顔になる。
「もう、大丈夫だ。安心しろ」
 そう声をかけて駆け寄った兵士は、言葉では説明できない妙な違和感を覚えた。
 荷車を押してきた兵士たちは、いずれも身体ばかりか顔まで包帯で覆い尽くしている。それほどの大火傷を負っているにしては、その身体からは活力がみなぎっているような感じがするのだ。
 その間に別の兵士が、荷車に駆け寄り、そこで横になっている負傷兵を治療のために抱き起こそうとして、ぎょっと目を()いた。
 包帯のわずかな隙間から覗く皮膚が変なのだ。火傷を負っているように見えないどころか、やけに毛深いのだ。いや、毛深いにしても度を越している。まるで包帯の下に毛皮でも着込んでいるかのようだった。
 そのとき、ぐるるっと獣が咽喉を鳴らすような音が聞こえた。
 恐る恐るそちらを向くと、顔まで包帯を巻いた負傷兵と目が合う。よくよく見れば、その目の瞳孔がおかしい気がする。その大きくまん丸の瞳孔は、まるで暗がりにいる猫の目のようだ。
 それにわずかに開いた口許から覗く犬歯が、異常に鋭く長かった。それは、まるで牙のようではないか。
 それに気づいた兵士の顔に、ぶわっと冷や汗が湧く。
「ゾ、ゾアンだぁー!!」
 叫び声をあげた兵士の咽喉が、振るわれた山刀でばっくりと裂かれる。
 それを合図に、負傷兵を装っていたゾアンたちが次々と鎧を脱ぎ捨て、包帯を引きちぎり、正体を露わにする。
「我はゾアン十二氏族がひとつ〈牙の氏族〉、ガルグズの息子、ガラム! 抵抗しなければ殺しはせぬ! 刃向うならば、我らも刃をもって答えよう!」
 両手に山刀を持ち、荷車の上に仁王立ちになったガラムが大声で言い放った。そして、胸いっぱいに息を吸い込むと、轟っと大気を震わせて雄叫びを上げる。
 それを受けて、砦の外から激しい太鼓の音と、無数の雄叫びが次々と上がった。
「ゾアンの奇襲だぁー!」
「砦を囲まれたぞぉ!!」
 もはや砦の中は大混乱に陥った。
「我らは誇り高きゾアンの戦士ぞ! 抵抗する者は容赦するな! しかし、降伏した者は決して傷つけるな!」
 そう宣言するなり、ガラムは敵を求めて駆け出した。
 さらに〈牙の氏族〉の戦士たちが、唱和を上げながら、その後に続く。
「「抵抗する者は容赦せず! 降伏した者に手を出さず!」」
 ガラムたちの行く手では、兵士たちが次々と両手をあげて降伏を示していった。
 蒼馬は、砦を攻めるに当たり〈牙の氏族〉の戦士たちに、降伏した者は決して傷つけないことを約束させていた。
 それは蒼馬が、いまだに人を殺すことに抵抗を覚えていたせいもある。ホグナレア丘陵の戦いによって、本人は踏ん切りをつけたつもりではあるが、それでも平和な日本で生きてきた蒼馬には、殺人への抵抗感は強い。できることならば、人を殺さずに済ませたいのが本音だ。
 だが、今回はそれ以上に砦の兵士たちの戦意を砕くのが目的であった。
 このとき砦にいた兵士の数は、重傷で戦えない負傷兵を除くと、およそ三百名ほどであった。兵士の数だけ見れば、攻め込んできた〈牙の氏族〉の戦士63名を相手にしても十分に戦えただろう。
 しかし、この三百名の内訳は元から砦に駐屯していた百名と、ホグナレア丘陵から生還した二百名あまりであった。
 この二百名は戦えないほどの傷は負ってはいなかったが、その多くは火攻めによってすでに戦意が打ち砕かれていた。
 さらにそうした兵士の中には、一度ゾアンに囚われ、その後に解放された者も多く含まれている。彼らは身をもって、ゾアンが捕えた人間を虐待するようなことはせず、後で解放すると言う約束を守ったことを知っている者たちだった。
 そんな彼らの中に、降伏すれば傷つけないとゾアンに言われ、それでも戦意を奮い立たせていられる者がいるだろうか?
 これが、もし皆殺しにしろと言っていたのならば、兵士たちはわずかな戦意をかき集め、必死に抵抗しただろう。
 だが、降伏すれば傷つけないと聞いた彼らは、あっさりと降伏を選択してしまったのだ。
 さらに、そんな彼らの行動は、もとから砦に駐屯していた兵士たちにも影響を及ぼした。
 ゾアンの奇襲を知って戦意を奮い立たせて剣を抜いたと言うのに、周囲を見渡せば、みんな早々に降伏を決め込んでいるのだ。周りがこんな様子では、せっかく奮い立たせた戦意もあっという間にしぼんでしまう。
 戦えるはずの兵士たちも戦意を失い、武器を一度も合わせることなく、次々と降伏していったのだ。
 こうしてガラムたち〈牙の氏族〉の戦士たちは、ただの言葉だけで砦の兵士たちを次々と制圧していったのだった。

              ◆◇◆◇◆

 仮眠を取っていたマルクロニスは、砦の中に起きた喧騒と太鼓の音に目を覚ました。脱いでいた鎧を着ていたところに、兵士が飛び込んでくる。
「大変です、中隊長補佐殿! ゾアンの奇襲です!」
「現状を報告せよ!」
「ゾアンどもが門から侵入し、そいつらに砦が制圧されそうです!」
「門から侵入だと! 見張りは寝ていたのか?!」
 潜入した少数のゾアンによって御子の脱走の手引きをされた経験から、あれ以来砦の見張りは強化されていた。特に門の付近には、見張りを増やすだけではなく仮眠小屋を設置して、常に一〇名以上の兵士が詰めるようにしてある。万が一、敵の侵入を許しても、門を容易に開けさせないためだ。
「それが……ゾアンどもは包帯を巻き、負傷兵を装っていたため、こちらから門を開いてしまい」
「馬鹿がっ! 確認もせずに門を開いたのか?!」
「す、すみません。つい……」
 さらに怒鳴りつけようとして、マルクロニスは思いとどまった。
 ここ数日、毎日のようにやってくる負傷兵に、いつの間にか兵士たちがなれてしまっていたのだ。
 ましてや、やってくるのは大怪我を負った仲間である。一時でも早く、砦の中に入れて治療をしてやりたいのが人情だろう。
 それを責めるのは酷というものだ。
 そこまで考えてから、はっと閃いた。
「くそっ、やられた! 全部、このための布石かっ!」
 みんなまとめてではなく、少しずつ送ってこられた負傷兵たちは、そのことに砦の人間をなれさせ、油断させるため。
 前日に四〇人あまりを一気に送ったのは、こちらの疲労を誘い、判断力を鈍らせるため。
 ご丁寧に負傷兵たちを治療して帰したのも、遠目でゾアンであることがばれないように包帯を巻いていても不自然ではない状況を作るため。
「これを考えた奴は、性根が腐っているぞ!」
 胸の内で、ありったけの罵声をあげてから、剣を手に取り部屋を飛び出したマルクロニスは、建物を出たところでゾアンたちと遭遇した。
 ゾアンたちの先頭に立っていた黒毛のゾアンが、山刀をこちらに突きつける。
「その兜の房! この砦の指揮官と見た!」
 マルクロニスもまた、目の前にいる黒毛のゾアンのほれぼれしそうな体躯に、こいつがゾアンのリーダーだと察した。
 マルクロニスは問答無用とばかりに、手にした剣で鋭い突きを放つ。ガラムは逆手に持った左の山刀で突きをいなしながら、そのまま一気に踏み込み、マルクロニスの脇腹に向けて右の山刀を突き出す。それにマルクロニスはとっさに左手を剣の柄から離すと、ガラムの右手首に左肘を当て、山刀を止めた。
 だが、そのため無防備に身体を開いてしまったところをガラムはさらに踏み込み、マルクロニスの鼻面に強烈な頭突きを食らわした。思わぬ攻撃に、よろめき後ずさるマルクロニスは次の瞬間、足払いを喰らって背中から地面に叩きつけられる。
「降伏しろ! さもなければ、貴様の咽喉を掻き斬る!」
 馬乗りされ、咽喉元に二本の山刀を当てられたマルクロニスは、しばらく悔しそうに歯を食いしばっていたが、部下の兵士たちも他のゾアンに取り押さえられてしまうと、右手に握っていた剣を遠くに放り投げ、身体の力を抜いた。
「私の負けだ。降伏しよう……」
「残念だが、受け入れよう」
 言葉のとおり、不機嫌そうな様子のガラムに、マルクロニスは訝しげに尋ねた。
「残念とは、どういう意味だ?」
「降伏した者を決して傷つけるなと言われているからだ」
 本来ならば、砦を指揮していたマルクロニスは、これまで攻めてきた多くのゾアンたちを殺してきた憎むべき敵である。本音を言えば、このまま殺してやりたいところだ。
「そうか。それは、溜飲が少しさがった」
 ガラムが顔をしかめさせたことが、マルクロニスの矜持(きょうじ)をわずかに癒した。
11/11 修正
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ