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破壊の御子 作者:無銘工房

龍驤の章

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第99話 遺産

 ロマニア国軍から離れたピアータが率いる百華隊は、ダリウスの領地へと馬を走らせた。
 ダリウスを我が師と慕うピアータは、その領地の場所など既知のものである。ピレーの村もさほど時間もかからずに見つけられた。
 そうして見つけたピレーの村は、小さな家が五つばかり集まっただけの小さな村である。
 ダリウスの領地にはもっと大きな街もあるというのに、このような小さな村に本当に破壊の御子を討つのに役立つものが預けられているのだろうか。
 そんな疑念を抱きつつもピアータは百華隊を連れて村へ近づいた。
 すると、こんな小さな村にもロマニア国が侵攻してきた噂が届いているのか、ピアータたち百華隊の姿を認めるなり、村人たちは農作業の途中だというのに農具を放り捨てて家に逃げ込んでしまう。
「止まれ。ここからは私とデメトリアで行く。あと、誰かひとりだけ護衛についてこい」
 ピアータは無用な刺激を与えないように、まずは自身とデメトリアに護衛の騎士ひとりだけを連れて村に向かう。
 三騎だけで近づくピアータに、一番大きな家の中から村長らしい老人とそれにつきそう男が出迎えに出て来た。
「どこのどなたか存じませんが、このような何もないところに、どのような御用でしょうか?」
 何もないと言うところを強調して言うあたり、やはり略奪を警戒しているようだ。
「ここにブラウタスなる人物がいると聞いてきたのだが、いるか?」
 馬上からピアータがそう尋ねると、老人と男はしばし顔を見合わせる。それから老人に「呼んできなさい」と言われて戻っていった男は、しばらくしてからひとりの年老いた男を連れてきた。
 ピアータはかすかに眉を寄せる。
 背筋をピンッと伸ばして歩く姿は、このような泥臭い農村には似つかわしくない気品のようなものを感じさせる老人だ。
「貴殿がブラウタスか?」
「左様にございます」
 そう答えを返すブラウタスという老人の目には、警戒の色はあるが怯えの色はない。その立ち居振る舞いを見ても、ただの村人には見えなかった。ただし、その動きは武技を習った者ではない。それよりも洗練された礼法を身につけた者の動きである。
「そう固くならないでくれ。私はそなたを咎めに来たのでも、村を劫掠(ごうりゃく)しにきたのでもない」
 そう念を押してからピアータは尋ねる。
「正直に答えて欲しい。そなたはダリウス将軍と何か縁のあるものか?」
 ブラウタスはわずかにためらってから答える。
「私の家は、ダリウス様のブルトゥス家に家令として代々仕えていた家系にございます。私自身もつい先日までダリウス様の身近に仕えさせていただいておりました」
 このとき、ブラウタスは死を覚悟していた。ダリウスはロマニア国にとって怨敵である。そのダリウスに深い関わりを持っているだけで、ロマニアの憎しみを買ってもおかしくはないほどだ。
 ところが、そのブラウタスの予想を裏切るものであった。
「屋敷の厄介者からの預かり物を受け取りにきた。そう言えばわかると教えられたのだが?」
 ブラウタスは大きく目を見張った。
 屋敷の厄介者。
 それは自分とダリウスにしか通じない言葉である。それをなぜロマニア国の姫が知っているのかわからず混乱した。一瞬、捕らえたダリウスを拷問して聞き出したのかと邪推(じゃすい)もしたが、それはあり得ない。もしそうならば、普通に自分が預かっているものを渡せと言えばいいだけの話である。
 そこにあえて自分とダリウスにしか通じない言葉が出てきたことが、何よりもダリウスの意を感じ取らずにはいられなかった。
「ダリウス様よりお預かりしているものは、こちらにございます」
 ブラウタスがピアータを案内したのは、自分の住居の脇に建てられた倉庫である。
 大きな(かんぬき)をずらして扉を開けると、日光が入らないように窓がすべて閉め切られた暗い倉庫の中には、いっぱいに詰め込められた何かの影がうっすらと見えた。
 ブラウタスが持ってきた燭台に火をつける。
「これがダリウス様からお預かりしたものにございます」
「何と……!」
 その明かりに追い立てられた暗がりの中から姿を現したものに、ピアータは驚きに目を見張り、デメトリアも絶句する。
 そこにあったのは、膨大な資料の山であった。それは書簡であったり、巻物であったり、単に羊皮紙を束ねただけのものであったり、また用途のわからぬ道具であったりと様々だ。
 しかし、そのすべてに共通するのは、たったひとつの事柄である。
「もしや、これは……?」
 ピアータの問いに、ブラウタスはひとつうなずいて答える。
「はい。これは、この五年もの間にダリウス様が破壊の御子をお調べになったものにございます」
 それは、五年前にボルニスの街近郊で敗北して以来、ダリウスが私財を投げ打ち、ありとあらゆる伝手(つて)を用いて破壊の御子を調べ上げたものだった。
「これほどの量を……」
 まさに圧巻である。
 わずか五年の間に、よく集められたものだと感心するしかない。まさに、ホルメア最高の将軍と呼ばれた男の執念そのものである。
 感嘆の言葉を洩らしたピアータは資料の山々を見回しながら倉庫の中に入った。そして、所狭しと積み上げられた資料の山の間を抜けようとしたときである。
 ピアータの肘が資料の山のひとつにぶつかってしまう。
 すると、その資料の山の一番上に乗せられていた本が、バサリと音を立ててピアータの足許に落ちた。
「これは……?」
 それは、いかなる偶然か、神の気まぐれなのか。その本は、まるでピアータに中身を披露するかのように、ページを開いて落ちていた。
 ブラウタスから借りた燭台を近づけて開いた本を見たピアータは小さく目を見張る。
 その本に書かれていたのは、蒼馬がこの世界にもたらした、あるものについてであった。
 それをダリウスは驚くほど詳細に調べ上げ、手書きの図解まで入れている。そればかりか、それを導入すれば軍の力は飛躍的に向上できるが、おそらくは多くの貴族諸侯らの反発を受けるのが予想され、普及は困難などと注釈まで入れられていた。
 その本を手に取り食い入るように見つめていたピアータの手が小さく震える。
「これは……こんなものが、このようなものがあったのか!」
 そのとき、ピアータの脳裏で何かがガチッと音を立ててはまった。
 それは大きな機械仕掛けの最後の歯車のように、次々とピアータの中で何かがものすごい勢いで動き始める。
 そして、それは最後にひとつの完成予想図をピアータの脳裏に生み出した。
 その完成予想図に、しびれるような絶頂すら覚えたピアータは思わず本をかき抱くと、天を仰いだ。
「感謝いたしますぞ、ダリウス閣下!」

                    ◆◇◆◇◆

 ここに資料を運び込む際に使った荷車をブラウタスから譲り受けたピアータは、再びその荷車にすべての資料を乗せて運び出した。資料を乗せた荷台を(ほろ)でしっかりと覆ったのを確認してから、ピアータはデメトリアに用意させた銀貨の詰まった袋をブラウタスに差し出す。
「これは少ないが礼金だ。受け取ってくれ」
 ところがそれをブラウタスは固辞する。
「お気づかいは無用にございます。――それでもとおっしゃるのならば、どうかこの村の安泰をお約束ください」
「心得た。デメトリア! 私の名前で、この村に害を加えた者は厳罰に処するとの触書(ふれがき)を書け」
 デメトリアが適当な木の板にピアータが言ったとおりの言葉を書き記すと、最後にピアータ自らが署名を入れた。これを立て札にしておけば、ロマニア国軍の掠奪(りゃくだつ)部隊も手を出せないだろう。
 そうして村の安泰を約束したピアータたちが引き払った後、ブラウタスは倉庫の中でひとりたたずんでいた。
 この倉庫いっぱいに積まれていたダリウスの遺産は、すべてピアータたちが持ち帰り、紙一枚とて残されていない。あれほど狭く感じられた倉庫は、今やがらんとしてしまっている。
 そんな倉庫の中に、ブラウタスの小さな呟きが洩れた。
「旦那様。このブラウタス。無事に最後の務めを果たし終えました」
 侵攻してくるロマニア国軍と戦うためにワリウス王に従って王都を発つ前、ダリウスは家財をすべて処分して作った金を屋敷に仕えていた者たちに分配していた。それにブラウタスのみならずすべての者が、ダリウスが生きて戻らぬ覚悟であるのを察したのである。
 多くの者たちが涙とともに屋敷を去って行く中で、ブラウタスのみは屋敷に留まり、ダリウスの帰りを待つつもりであった。
 先祖代々からブルトゥス家に仕えていたブラウタスにとっては、ブルトゥス家に仕えることがすべてであり、その屋敷が最後の砦である。おそらくは暴徒となって王都に雪崩れ込んだロマニア国軍が、怨敵ダリウスの屋敷を劫掠せんと押し寄せてくるだろう。そうなった時、たとえ力及ばずとも屋敷を守るために戦い、そして屋敷とともに最期を迎えるのが自分の役目とブラウタスは覚悟を決めていたのである。
 ところがそのブラウタスに、ダリウスは自分が集めた破壊の御子に関する資料を示してこう言った。
「これは、わしの最後の我が儘の結晶だ。これを無にするのはもったいない。誰かこれを受け継ぐ者が現れるまで、これを預かって欲しい」
 おそらくそれはブラウタスを王都から逃がすための方便だったに違いない。
 しかし、その方便だったものがいかなる運命の巡り合わせなのか、現実のものとなったのである。
 ダリウスから預かったものを無事に引き渡せたブラウタスは、肩の荷が下りたような安堵感とともに、胸に大きな穴が空いたような喪失感を覚えていた。
 そんなブラウタスが思い起こすのは、ダリウスのことである。
 戦場では名将と謳われたダリウス将軍だったが、屋敷の中では何もできない人物であった。
 そんなダリウスにブラウタスは「旦那様は、お屋敷の厄介者でございます」と言うと、ダリウスは「これは言い返せん」と笑って返したものだ。
 そのときのダリウスの笑顔を思い出し、ブラウタスもまた微笑した。
 それからブラウタスは持ち込んだ小さな樽を手に取ると、その中に入っていた液体を倉庫の床に撒いていく。
 それが終わるとブラウタスは燭台を手に取った。
「本当に旦那様は、私がいなければ身の回りのことは何もできない方でしたな。おそらく、今もお困りになっていることでしょう」
 微苦笑を浮かべたブラウタスは、手にした燭台を床に投げる。
「本当に世話の焼けるお方です」
 ぼうっと赤い炎が走った。

                    ◆◇◆◇◆

「ピアータ様! あれを!」
 振り返れば、いましがた後にしたばかりの村の方から煙が立ち上っているのが見えた。
 自分たちと入れ違いにロマニア国軍の掠奪部隊がやってきたのか。
 そう思ったピアータだったが、すぐにそうではないと思い至る。
「戻りますか、ピアータ様?」
 そのデメトリアの問いに、ピアータは首を横に振る。
「いや。今は一刻も早く本軍と合流しよう」
 父王ドルデアが率いる本軍はそろそろホルメア国の王都ホルメニアに達する頃だろう。ホルメア国も無血開城に応じるとは思えない。おそらくは王都を包囲した上での攻城戦となるはずだ。
 王都ホルメニアは古王朝より受け継がれた強固な都市である。いかにロマニア国軍が大軍であろうとも、それを陥落させるのは容易なことではない。
 そして、おそらくはその混乱に乗じて破壊の御子は動くはずだ。
 いよいよ我が師が宿敵と認めた男と相まみえられる。
 その期待と興奮に、ピアータは手綱を握る手に力を込めた。
「行くぞ、百華隊! 本軍と合流するぞ!」
 ピアータの号令一下、百華隊の勇士たちは馬を走らせたのである。
 しかし、このときピアータは思い違いをしていた。
 このとき蒼馬は、すでに動いていたのである。
ピアータ姫が最強アイテムゲット!ヽ(`д´)ノ
そして、いよいよ王都ホルメニアでの戦いが始まります。
そして、ついに再会する古き親友。
+注意+
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