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破壊の御子 作者:無銘工房

龍驤の章

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第96話 カリレヤ会戦4-見つめ続けた者

 敗走するホルメア国軍の中で、唯一立ち止まって戦うダリウスの部隊へ、ロマニア国軍のありとあらゆる将兵らが殺到していた。 
 勝利が決したロマニア軍の将兵らの頭は、すでに戦後の功労賞で占められている。ここで大功を挙げればドルデア王より恩賞として、勝ち取ったホルメア国の土地を与えられるかもしれない。そう思えば、つい先程まで助け合った僚友らを押し倒してでも、功を挙げんとするのも当然だった。
 そして、その大功の一番の近道といえば、ホルメア最高の将軍と呼ばれたダリウスの首を挙げることである。
 ドルデア王の征西をことごとく退けてきたダリウスは、ロマニア国にとっての怨敵だ。
 これまでダリウスによって失った兵は数万に及び、討ち取られたロマニア将軍の首級は十指に余るだろう。そんなダリウスをドルデア王は征西最大の障害と名指しし、その首に莫大な恩賞をかけさえしていた。
 そのため、今やこの戦場にいるロマニア国軍の将兵らは、誰も彼もがダリウスの旗を目がけて押し寄せていたのである。
 その中で、もっともダリウスの旗の近くまで攻め寄っていたのはダライオスであった。今もダリウスを死守せんと必死の形相で立ちふさがるホルメア兵を蹴散らしながら、しかしダライオスは(いぶか)しんだ。
 敗北が決した今、ロマニア国軍の追撃を食い止め、敗走するホルメア国兵をひとりでも多く落ちのびさせるために殿軍を買って出る。
 いかにもダリウスがやりそうなことだ。
 だが、そのくせ戦い方が稚拙すぎた。
 ダリウスならば自分の首を狙って、ロマニア国軍が殺到するのはわかりきっていただろう。それならば、自らを囮として敗走するホルメア国の兵士とは別の方向へ戦いながら退くか、踏みとどまって戦うにしてももっと狭隘(きょうあい)な谷などを選べば良い。
 それなのに、ああして愚直に旗を押し立てて踏みとどまっているばかりである。
 これは、おかしい。
 ついにダライオスは足を止めた。
「ダリウスめの気配がない!」
 あの旗のところからは、戦場を覆うほど噴き上がっていたダリウスの気が消え失せていた。しかし、逃げてはいない。いまだ戦場のどこからか、ダリウスの気が感じられる。
 いったいどこだ?
 ぐるりと戦場を見回すダライオスは、自分の斜め前方からロマニア兵を蹴散らして飛び出してきた兵たちの姿を見つけた。
 その数わずか二百程度の小勢である。
 しかし、ダライオスは、一瞬それがどこの誰の部隊なのかわからなかった。
 なぜならば、旗が掲げられていなかったからである。
 この時代の軍は、王の呼びかけに応じた諸侯らがそれぞれ率いてきた兵の寄り集まりだ。そのために、敵ばかりか味方にも明確に自分が誰なのかを示さなければ手柄を挙げても認められず、また下手をすれば敵と誤認した味方から襲われかねない。
 そのために、誰が一目見てもそれとわかる大きく目立つ旗を掲げて兵を率いるのだ。
 ところが、その部隊は旗がない。
 いったいどこの誰だ?
 敵味方の判別がつかずに固まるダライオスが見ている前で、その旗のない部隊はダライオスの蒼騎隊の脇をすり抜けるようにして通り抜けていった。
 その瞬間、ダライオスはアッと驚く。
 その部隊の先頭を走っていたのは、六頭もの馬に曳かせた巨大戦車である。ただでさえ六頭立てという珍しい戦車だ。だが、そうでなかったとしても、その戦車だけはダライオスは決して見間違えるはずはない。
 ダライオスは叫ぶ。
「ダリウス! 貴様かぁー!」

                    ◆◇◆◇◆

「すまんな、ダライオス。おまえを真っ向から受け止めるには、わしは少々歳を取り過ぎたわ」
 背後から投げつけられるダライオスの怒号に、ダリウスは苦笑いした。
 ダリウス本人としては、ダライオスとの決着をつけてやりたい気持ちはある。
 だが、今が好機なのである。ホルメア国軍が敗走し、それを追撃せんとロマニア国軍が戦列を崩した今こそが、最後の好機なのだ。
 いかに戦車の突撃でも、兵たちが盾を押し立てた戦列を破るのは難しい。
 だが、それは戦列を作る兵たちの隣にともに傷つく戦友がおり、後ろに守るべき仲間がいるからこそ、戦車と相対しても踏みとどまれるからだ。
 しかし、今やロマニア国軍は壊走するホルメア国軍を追撃するために、その戦列を乱していた。誰も彼もが逃げる敵を追いかけとどめを刺さんと、我先へと駆け出して散兵となっていたのだ。
 そのような状態では、ダリウスが乗る馬を六頭立てにした戦車を阻めるはずもない。猛り狂う六頭の馬の迫力に、ロマニア軍の兵たちは恐れをなして道を開いていった。
 また、ダリウスが旗を捨て去っていたのも大きい。
 王弟ヴリタスをホルメア王に擁立するという大義名分を掲げているロマニア国軍の中には、当然だがヴリタスを支持するホルメア国の領主の兵たちも含まれている。
 そのため、ホルメア兵の格好をしているからといって必ずしも敵とは限らなかった。そんな状況で戦いを避けながら本陣に向かう少数の部隊に、ロマニア兵はそれが敵の突撃なのか、本陣に向かう急使なのか判別がつかず、どうしても対処が後手に回らざるを得なかったのである。
 ダリウスの戦車を食い止めんと兵に指示を出す察しの早い将校もいたが、その指示を受けた兵たちが戦列を築くよりも早く、ダリウスたちはそこを突破していく。
 そうしてダリウスは、ドルデア王がいるロマニア国軍本陣に向けて、まっしぐらに突き進んで行った。
 しかし、その快進撃もいつまでも続かない。
 当然、総大将が討ち取られれば勝敗のすべてが覆ってしまうぐらいはロマニア軍も承知している。
 そのような事態を避けるために、総大将であるドルデア王の親衛隊には、たとえ味方であっても許可なく本陣に近寄る者をその場で処断する権限を与えられていた。
 親衛隊はこちらに向かってくる所属不明の不審な部隊を見るや否や、すぐさま横陣を敷いて迎え撃つ準備をする。
「制止の指示に従うならば良し! それに逆らって接近すれば容赦はいらぬ! 皆殺しにせよ!」
 そう気炎を吐く親衛隊の隊長は、親衛隊の精鋭たちに盾を並べさせて防壁を築くだけではなく、近くにいたロマニア国軍の部隊も呼び集めて、強固な防御陣を敷いた。
 これならばいかに大型戦車の突撃といえど、突破は不可能。
 無謀な突撃をしてきた敵将か、血迷った味方かはわからぬが、あの戦車から引きずり下ろして、その顔を見てやる。
 そう思った親衛隊長だった。
 ところが、である。
 いきなりダリウスは戦車の進路を変えた。
 それに、誰もがこの鉄壁の防御に恐れをなしたかと思った。
 しかし、そうではない。
 真っ先にダリウスの意図に気づいたのは、ドルデア王である。
「いかん! 奴の狙いは、ヴリタスめだ!」
 ダリウスの戦車は、ドルデア王の本陣近くに布陣していたヴリタスの陣に向けられていたのだ。
 戦車の上で仁王立ちになったダリウスは叫ぶ。
「皆の者! 狙うはヴリタス殿下の御首級(みしるし)、ただひとつ!」
 それにわずか二百名程の兵たちが「おうっ!」と唱和した。
 ドルデア王を討たれてはならじと近くの部隊すべてが本陣に集められた今、ヴリタスの陣の近くにはほとんど兵がいない。また、いかにドルデア王と共闘しているとはいえ、ヴリタスはホルメア国人である。大事な決戦においてドルデア王の近くに大勢の敵国人を置いておけるわけはなく、万が一の時に備えて、すぐに制圧できる程度の少数の兵しかヴリタスのところに置くのを許されていなかった。
 そのわずかな兵も、早くも浮き足立っている。ホルメア国の将兵ならば、六頭立ての戦車に立つダリウスの姿を見間違える者はいない。かつては仰ぎ見ていた大将軍が、自分らを討ち取ろうと突撃してくるのだ。祖国を裏切った後ろめたさも加わり、混乱するのも無理はなかった。
 そのような有様では、ダリウスが率いるのがたった二百名程度の小勢といえど、それを防ぎきれるものではない。
「ならん! 誰ぞ、ヴリタスを救え!」
 ドルデア王が、必死の形相で叫んだ。
 もし、ここでヴリタスを討ち取られれば、今回の征西が(くつがえ)ってしまう。
 そもそも、今回の征西はワリウス王を退位させ、ヴリタスをホルメア王に擁立(ようりつ)するという大義名分を掲げてのものである。それなのにヴリタスを討ち取られてしまえば、ロマニア国軍はその大義名分を失ってしまう。
 そして、大義名分を失うのは、ロマニア国だけではない。
 今はロマニア国軍に協力しているホルメア諸侯も、ヴリタスを王に擁立するという名目で、ロマニア国軍に協力しているのだ。
 その大義名分がなくなれば、今は協力しているホルメア諸侯とロマニア国軍はもとの敵同士の関係に戻ってしまう。
 それでは、ロマニア国軍は陣内に獅子身中の虫を抱えることになり、ホルメア諸侯も敵国の勢力のただ中に取り残されてしまうという(あや)うい状況となる。
 当然、すぐに戦い合うようなことにはならないだろう。だが、互いの立ち位置を決めるために、すぐさま折衝の場を設けなくてはならなくなる。
 そして、問題はそれだけに留まらない。
 ドルデア王は王都ホルメニアを陥落した後は、傀儡の王として擁立したヴリタスを使って、ホルメア国を統治しようと考えていたのだ。そうした戦後の統治計画までもが、すべてご破算になる。
 いずれにしろ、ここでヴリタスを討たれれば、ロマニア国軍は一時的にしろ侵攻の足を止めなくてはならなくなってしまう。
 それをロマニア国の将校らは理解していたが、ドルデア王の命を受けても、とっさには動けない。ここでヴリタスを助けに動き出したところへ、またもやあの部隊が転進してドルデア王を狙うのではないかと思えば、とうてい動けるものではなかったのだ。
 この場にいる誰もが、ヴリタスを討ち取られると思った。
 しかし、ダリウスが率いる部隊の後ろ姿をはるか前線近くから見つめていたダライオスが、ぽつりとこぼす。
「ダリウスよ。おまえの誤算は、この戦場におまえを見つめ続けた者がいたことだ。誰よりも、この私よりも、おまえを――おまえだけを見つめ続けた者がいたことだ」
 ダライオスがそんな言葉を洩らしたとは知らないダリウスは、すでに兵ひとりひとりの顔が識別できるまでヴリタスの陣に近づいていた。
 突撃せよ!
 そう号令を発しようとしたダリウスだったが、それよりもわずかに早く、左手より大きな声が上がる。
 何事かとそちらに目を向けたダリウスが見たのは、左手よりこちらにまっすぐ突っ込んでこようとする騎馬隊の姿だった。
 そこに掲げられているのは、狼に白百合の旗。
 ピアータの百華隊である。
 その先頭を駆けるピアータは、自らも投槍を手にしたまま叫ぶ。
「先頭の戦車に向けて、攻撃せよ!」
 騎馬の突進力を乗せた投槍が、ダリウスの側面に襲いかかった。
次話、カリレヤ会戦最終話「最期の光景」!ヽ(`д´)ノ
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