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破壊の御子 作者:無銘工房

龍驤の章

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第80話 応援

 急遽、ルオマの街が見える丘の上に設営された天幕の中に、蒼馬の呆れ返った声が響いた。
「うわぁ~……」
 ガラムとズーグから一連の出来事を聞いた蒼馬は、さすがにすぐには言葉にできなかった。
 攻め落としたガラフ砦をセティウスとノルズリに任せてルオマの街まで兵を進めてきたが、まさかそのようなことになっているとは思いもしなかったのだ。
 シェムルもまた呆れたように言う。
「『飢えに耐えかね、食らった腐肉で腹を下す』という奴だな」
 空腹のあまりに腐っていると承知で食べた肉に(あた)り、腹を下してさらに苦しんでしまったことから、苦しい状況に後先考えずに行動した結果、さらに苦しい状況に陥ってしまうという意味のゾアンの格言である。
「とにかく、こちらに降った兵たちは手厚く保護しましょう」
 蒼馬は降伏した兵たちには暖かい食事と飲み物を配布するように命じてから、皆に今後どうするか相談する。
「さて、これからどうしようか?」
 追い詰められればシェムルですら仰天するほど大胆になる蒼馬だが、普段はいたって臆病な小心者である。
 それなのに、壊滅できたはずの敵を逃がしてしまい、自分たちがホルメア国にどれほどの損害を与えられたか定かではない。追撃によってさらにホルメア国軍に打撃は与えたものの、肝心の敵の指揮官は取り逃がしてしまったのだ。
 そのため蒼馬は、ホルメア国に壊滅的な損害を与えられたという確信が持てず、ここで予定どおり退くべきか、さらに打撃を与えるべく進軍すべきか迷っていたのである。
 どうしたものかと皆に意見を求める蒼馬に、「ルオマの街を落とすべきだ」と発言したのは人将のマルクロニスである。
「このルオマの街は、ホルメア国西部の要といってもいい街でしょうな」
 マルクロニスは、そう切り出した。
「ロマニアからホルメアを通りジェボアへと通じる西域の公街道の上にある交易の重要拠点であるばかりか、ホルメア国西部の街道の中心地でもあります。この街を押さえることが、ホルメア国西部を押さえるのと同義とさえ言えるでしょう」
 マルクロニスの言うとおり、ホルメア国西部の地図に描かれたルオマの街は、そこからホルメア国西部全域へ放射状に広がる街道が記されている。
 このルオマの街さえ掌握すれば、ホルメア西部の諸侯らも降伏せざるを得なくなり、ホルメア西部は蒼馬のものになるとマルクロニスは断言した。
「でも、周囲の辺境諸侯を制圧しないで、ここまで突出しちゃった僕らが逆に叩かれないかな?」
 蒼馬の懸念をマルクロニスは否定する。
「その心配は少ないと考えます」
 その理由を問われたマルクロニスは、即座に答える。
「周囲の諸侯らが我らを包囲するため動こうと思えば、緊密な連携を取らねばなりません。ですが、こうしてルオマの街の周辺を我らに押さえられては、それもままならないでしょうな」
 それに蒼馬は、なるほどと思った。
 確かに地図上でも、西部各地の辺境諸侯らが連絡を取り合おうと思えば、ルオマの街を経由するのが最短である。
 しかし、こうして自分らがルオマの街の周囲を押さえている限り、辺境諸侯らは大きく迂回して連絡を取らねばならず、それでは相互の連携は難しいだろう。
 だからといって一部の諸侯が単独で動けば、それこそこちらの各個撃破の良い的である。
 それがわかれば周囲の諸侯らは動くに動けなくなるだろう。
 無線機や携帯電話などがないこの世界では、遠くとの連絡が思うように行かないのにいつもは苛立つ蒼馬だったが、このときばかりはそれがこちらの有利に働いていた。
 さらにマルクロニスは「それに」と付け加える。
「私ならば、『黒壁』を打ち倒した敵と戦いたいとは思いません。まずは兵を動かすより先に交渉から入るでしょうな」
 そうした辺境諸侯らとの交渉は来てから考えるとして、当面は彼らを無視しても問題なさそうだ。
 それにルオマの街は今、多くの敗残兵を受け入れて大混乱に陥っているだろう。まさか自分らがここまで攻め寄せるとは予想もしていなかっただろうから、籠城戦の準備もしていないはずだ。
 内側は混乱し、周辺の辺境諸侯も当てにならず、頼みの王都からの援軍もいつ来るかもわからない。
 今が、ルオマの街を攻め落とす絶好の機会である。
 そう説明したマルクロニスは、次の言葉で締めくくった。
「『黒壁』が破れ、西部も奪われたとなれば、もはやワリウス王がいかに騒ぎ立てようとも、その求心力はないも同然。あとは中央部や東部の諸侯らに圧力をかければ、戦わずしてホルメア国は瓦解(がかい)するものと考えます」
 皆は、なるほどと納得した。
 ルオマの街はボルニスと並ぶほどの大きな街だ。街壁も高く、物資も豊富である。そんな街が万全の体制で籠城を決め込めば、それを陥落させるには多大な犠牲を払わなければならない。
 それを思えば、確かに今こそがルオマを攻め落とす絶好の機である。
 また、その場に居合わせた者たちの顔を見れば、すでにやる気になっている顔ばかりだ。
「わかりました。僕らはルオマの街を攻略します!」
 蒼馬が決断を口にすると、皆から「おお!」と熱気のこもった声が上がった。
「では、どうやって街を攻めるかですが……」
 そう切り出した蒼馬にドヴァーリンが声を上げる。
「わしらに任せてもらおう! 間もなく投石機が組み上がる。後はミシェナの嬢ちゃんから油壺の補給物資が届けば、いつでも街にぶち込めるわい」
 自信満々に豪語したドヴァーリンであったが、蒼馬は座っていた椅子を蹴立てて立ち上がった。
「それはダメですっ!」
 蒼馬の剣幕に、その場は一瞬静寂に包まれた。
 しかし、その中で一番驚いていたのは蒼馬自身である。蒼馬は自分自身で、なぜこれほど大声を出してドヴァーリンの提案を拒絶したかわからなかった。
 みんなが自分を注視しているのに、蒼馬はしどろもどろに弁解する。
「えっと……街を火攻めにするのは最後の手段というか、まだ早いというか」
 そこに助け船を出したのはシェムルである。
「当然だろ。ソーマは街を壊したいのではなく、手に入れたいのだ。獲物にいらぬ傷を負わせては、せっかくの生け捕りも意味はない。――そうだろ、《猛き牙》?」
「ああ。俺も同感だ」
 シェムルに話を振られたガラムも賛同する。
「あの街をボルニスと同様に統治していくならば極力破壊は控えるべきだ。火攻めは最後の手段とした方が良いと思うが、どうだ?」
 蒼馬ばかりか大将軍であるガラムまでそう言うのならば、誰も異論は無い。ドヴァーリンは残念がったが、火攻めは見合わせることになった。
 実はこのとき、ガラムは軍議に先立ってシェムルから蒼馬のトラウマについて聞き及んでいたのだ。
 そのときは、まさかと思ったものだが、先程の蒼馬の様子を見る限り、どうやら妹が言うように自分が想像していた以上の重症のようである。
 先程の言葉も自分の意見を表明すると言うより、蒼馬を落ち着かせるために言い聞かせるのを目的としていたものだった。
 そのおかげか混乱しかけていた蒼馬も落ち着きを取り戻した。
 白けてしまった場の空気を打ち払うように、咳払いをひとつしてから蒼馬は口を開く。
「とにかく、強固な防壁を持つ街を力で攻め落とすのは愚策と僕は考えます。ここは(から)め手で攻めてみましょう」
 それに「何か手はあるのか?」と尋ねるズーグに蒼馬はひとつうなずいて見せてから言った。
「あちらが攻め入る隙を見せてくれました。それを突きます」
 そう言ってから蒼馬は地図に描かれたルオマの街の西側に指先で半円を描く。
「まず、敵を威圧するとともに奇襲への備えとして、ここに強固な陣地を築きましょう」
 お願いできますかと目で問うと、ドヴァーリンは任せろと言わんばかりに胸を叩いて見せた。それを確認してから蒼馬はさらに続ける。
「いずれにしろ必要と思って、すでにミシェナさんへ追加の糧食や物資の手配をお願いするのと同時に応援を頼んであります。しばらくは、その人の到着を待ちましょう」
 それにシェムルは不思議そうな声を上げる。
「その人? 応援の軍勢を呼んだのではないのか?」
 蒼馬はうなずいてから、シェムルにある名前を告げた。
 すると、シェムルは人間の蒼馬でもわかるほど顔をしかめる。
「あのくそジジイを呼んだのか……」
1章第20話の蒼馬が部下からの火攻めの提言を退けた伝説回収!ヽ(`д´)ノ
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