挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
破壊の御子 作者:無銘工房

龍驤の章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

205/250

第71話 スノムタの屈辱11-顎(前)

 ハリボテの砦の中で組み立てられていたのは、三基の平衡錘投石機(トレビュシェット)である。
 この平衡錘投石機は、ドワーフの職人らが設計し、入念に点検をされてはいたが、その存在が露見するのを恐れて試射などは行えず、これが初の投射であった。
 そのため、思わぬ欠陥が露呈してしまう。
 何と、三基のうち一基は(おもり)が落ちる衝撃を支えきれず、そのまま崩れてしまったのだ。さらにもう一基は石を投射できたものの飛距離がまったく足りずに、敵のはるか手前に石をばらまいただけであった。
 しかし、その中にあって最後の一基が期待以上の成果を挙げる。
 なんと、密集陣形のほぼ中央近くに投石を直撃させたのだ。
 このとき蒼馬が平衡錘投石機に用意していたのは、一個の巨大な石ではなかった。腕木(アーム)の先端にあったのは、数百もの石を詰め込んだ大きな(かご)である。その籠に入れられていた拳大から人の頭ほどの無数の石が、まさに豪雨のように広い範囲にわたって降り注いだのだ。その場にいた重装槍歩兵たちは、(またた)く間に身に着けていた鎧ごとひき肉に変えられてしまう。
 そして、ホルメア国にとって不運だったのが、中列を指揮する三人の連隊長の一人が、それに巻き込まれていたことだ。この指揮官の戦死により、さらに重装槍歩兵たちの混乱は深まってしまう。
 一方、この混乱を突くべく投石機の周囲ではドワーフや人間たちが準備に奔走していた。
「すぐに投石を再装填してください!」
 蒼馬が声を張り上げて指示をするが、とうていすべての投石機に石を再装填できるだけの人数はいない。
「効果を上げた投石機を優先させよ! 無駄な石を発射する余裕はないぞ!」
 ノルズリの指示に、ドワーフたちは敵に直撃弾を叩き込んだ投石機だけを選び、腕木を巻き上げ、その先に焼き石を乗せていく。
「再装填がすんだものから、ぶっ放せ! 目標は前面すべてじゃ! 狙わんでも届けば当たる! 打ち放題、当て放題よ!」
 ホッホッホッというノルズリの笑い声とともに、次々と投石機から石が投射されていった。その投石が次々と着弾するのを確認したノルズリは、ふと思い出したように付け加える。
「おっと、あまり左右には飛ばすなよ! あやつらの迷惑になるからの」

                    ◆◇◆◇◆

 今もまた断続的に飛んでくる投石によって、「黒壁」の重装槍歩兵たちの被害は拡大していった。
 それにヒュアキスが怒声を上げる。
「隊と隊の間を空けよ! このままでは投石の良い的だ! 隊を広げるのだっ!」
 しかし、いくらヒュアキスが叫ぼうとも、兵士らは動かなかった。
「何をしているっ! 攻城戦の訓練も、十分に積んでいるであろう!」
 ホルメア最強の軍団を名乗るからには、ただ平野での密集陣形の訓練だけをしているわけではない。敵の砦や城を攻め落とす訓練も十分に積ませてある。
 その中で、敵が投石機を持ち出したとあれば、すぐさま密集陣形を散開させ、被害を最小にするよう隊列を組み直すぐらいは、たとえ指揮官が戦死していても小隊単位で対処できるように末端の兵士まで訓練をいきわたらせているはずなのだ。
 そうだというのに、それがいまだに行われていない。
 そればかりか、逆に左右の部隊が中央へと集まって来てしまい、かえって兵の密度が増しているのだ。
「伝令、伝令! ヒュアキス副軍団長殿へご報告です!」
 そのため、左翼の部隊から白いマントをたなびかせる伝令兵が馬で駆けてきたとき、ヒュアキスは思わず声を荒らげてしまう。
「いったい左翼の部隊は何をしている?!」
 伝令兵に報告する間も与えず怒鳴り散らすなど、普段のヒュアキスならば決してやらないことだ。それだけにヒュアキスの焦りの大きさがわかる。
 このヒュアキスの剣幕に、伝令兵は一瞬気圧されてしまった。だが、すぐに自らの責務をまっとうするため声を張り上げる。
「ヒュアキス副軍団長殿へご報告! 現在、左翼の部隊は敵との交戦中! 押されております!」
「な、何だと?!」
 ヒュアキスは、絶句した。
 この第二軍の側面は、戦車隊を含む第三軍と第四軍とに守られているはずである。
 それなのに、いったい左翼の部隊は誰と戦っているのだ?
 その疑問を口にするよりも前に、今度は右からも同じように伝令兵が駆けて来た。
「伝令、伝令! ヒュアキス副軍団長へ報告です!」
 まさか、と思ったヒュアキスの悪い予感が的中した。
「右翼部隊は敵との交戦中! 槍を捨てての白兵戦となっております!」
 左翼の部隊だけではなく右翼までもが敵と交戦している。
 まさか、このような事態が起きるとは、想定もしていない。衝撃のあまりにヒュアキスは視界がグラグラと揺れるような気がした。
 それでも指揮官としての矜持(きょうじ)が、現況を確認すべく問いを発する。
「ど、どういうことだ?! 側面を守っている第三軍と第四軍は、どうした?! まさか、ドワーフごときに敗れたとでも言うのか?!」
 その疑問に伝令兵たちが答える。
「現在、左翼を攻撃しているのはドワーフのみではございません!」
「右翼も同じです! 我らを攻撃する敵はドワーフや人間、そして――」
 その伝令兵の口から、ヒュアキスを唖然とさせる言葉が飛び出した。

                    ◆◇◆◇◆

 これより話は少し時間を(さかのぼ)る。
 ゾアンたちが「黒壁」に激しい投石を行っている頃、その左右でも激しい戦いが行われていた。
 それは、地将ドヴァーリンと人将マルクロニスが率いる部隊と、討伐軍の第三軍と第四軍とによる戦いである。
 ドヴァーリンとマルクロニスがそれぞれ率いているのは、自分の背丈よりも大きな盾を背負ったドワーフと弓矢や投槍を持った軽装歩兵の人間とで編成された混成部隊一千である。
 これに対する討伐軍の第三軍と第四軍は、参戦した諸侯らの兵にホルメア国軍の兵を加えた戦車部隊二千であった。
 しかし、戦車部隊といっても、実際はその大半が歩兵である。
 それは、戦車がそれを曳く馬や騎竜の飼育などに高い維持費がかかる兵器だからだ。そのため戦車に乗れるのは、国の援助を受けられる国軍の将校や領主に限られていた。
 また、この当時は戦車一両につきおよそ二十人の歩兵を随伴(ずいはん)させるのが普通であり、このときも第三軍と第四軍はともに戦車二百両に随伴歩兵二千人という構成だったのである。
 その第三軍を率いていた国軍の将軍は、ガラガラと車輪が激しく音を立てる戦車の上で怒りの声を上げていた。
「奴らは地虫ではなく亀かっ?!」
 数は少ないとはいえ強力な兵器である戦車に加え、二倍もの兵力差があれば簡単に蹴散らせると思われていた反乱奴隷のドワーフと人間の混成部隊に、しかし第三軍の戦車隊は攻めあぐねていたのである。
 この時代の戦車は、映画のように敵陣に突入し、敵兵を蹴散らすようなことはしない。戦車はちょっとした地面の起伏で車体が跳ね上がったり、急な方向転換をしようとしただけでも横転したりする危険性がある。
 そのため、この時代の戦車は、高速移動をして敵の側面や背面など防御の弱いところへ回り込み、弓矢や投槍によって敵の陣形を乱すのが役割であった。そうして敵陣を乱したところへ随伴している歩兵が突撃するというのが、戦車隊の戦い方の定石なのだ。
 ところが、ドワーフたちは「黒壁」が持つ盾に勝るとも劣らぬ分厚く強靭な盾を用意し、それを自分らの周囲に壁のように押し立てたのである。
 そして、その内側にこもって討って出てこようとはせずに、近づいてきた戦車や歩兵を盾の壁の中から弩や投槍で攻撃してくるのだ。
 それはさながら小さい砦に籠城しているかのような戦い方であった。
 その盾の壁を貫くには、もっと近距離から力のこもった投槍の一撃を喰らわせるしかない。それぐらいは第三軍を率いる将軍もわかっていたが、それもままならなかったのだ。
「地虫どもが小賢しいわっ!」
 膠着(こうちゃく)状態に業を煮やした領主のひとりが、戦車をドワーフらの近くを走らせるように御者に命じた。
「待てっ! やめよっ!」
 その領主の戦車が車列から離れてドワーフたちへと向かうのに気づいた将軍が制止するが、それも遅い。
 ドワーフたちの盾の壁が崩れ、そこから大盾を背負ったひとりのドワーフがドカドカと足音を立てながら駆け出してきた。そのドワーフは向かってくる戦車の進路上に身を投げ出すと、盾を背負ったままうつ伏せとなり亀のように丸くなる。
「さ、避けよっ!」
 領主の叫びに御者が手綱を引くが、間に合わない。倒れたドワーフの上に片方の車輪を乗り上げてしまった戦車は、凄まじい音を上げて横転してしまう。
「それっ! やってしまえ!」
 それを見たドヴァーリンが号令をかけると、盾の壁の中からわらわらとドワーフたちが飛び出した。そして、ドワーフたちは砂糖に群がる蟻のように横転した戦車に駆け寄ると、まだ息があった領主と御者にとどめを刺す。
「おのれっ! あのドワーフどもを殺してしまえっ!」
 指揮官の命令で弓矢や投槍が飛んでくると、ドワーフたちはワタワタと盾の壁の中に駆け戻ってしまう。
 同胞が戻った盾の壁の中では、ドヴァーリンがガハハッと笑い声を上げる。
「落盤事故で埋められるのに比べれば、戦車に踏まれるぐらいたいしたことないわい! どんどんかかって来い!」
 ドヴァーリンと一緒になって笑い声を上げるドワーフたちに、人間の兵士を指揮するためにそこにいた元ホルメア国軍の小隊長であり、今や人将マルクロニスの副官となったセティウスは、げんなりした顔になる。
 いくら頑丈な盾を背負っているからといって戦車に踏み潰されに行くとは、とうてい正気とは思えない。
 同じようにドワーフたちを見て不安げな顔になる人間の部下に、セティウスは言う。
「安心しろ。おまえたちに同じことをやれとは命じない」
 セティウスの言葉に部下たちは、あからさまに安堵した顔になる。
 すると、ちょうどそこに激しく大地を叩くような無数の音が聞こえてきた。
 それを耳にしたセティウスは、さらに言葉を続ける。
「それに、私たちの出番はなさそうだ」
 そう言うセティウスが見やる先には、はるか遠くから土煙を上げて疾走してくる集団の姿があった。
長くなってしまったので、今回も前後編。今回は連続投稿できそうもないので、少し間が空きます

そして、ついに明らかになる蒼馬の策。
最後にちらっと出て来たのは、この五年の間に増殖したジャハーンギル一族五千だと思います(たぶん
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ