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破壊の御子 作者:無銘工房

龍驤の章

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第33話 間道

「いったいどういうことだ?! ドワーフどもは、どこへ行った?!」
 そうカフナーが叫べば、ルドフスも困惑の声を上げる。
「わからん。奴らめ、空を飛んだか、地に潜ったか」
 街道をしらみつぶしに捜索してきたのだ。三千人ものドワーフたちが隠れて自分らをやり過ごすような場所は、もうどこにもない。それだというのに、いまだドワーフどころか銅塊のひとつとして見つかっていないのである。
「奴らはロマニアと通じていると聞く。ならば、我らの裏をかき、東へ逃げたのかもしれぬ」
 そう言ったのは、マーベン銅山から銅とともにドワーフらが姿を消したという報せを聞いて二百の軽装歩兵を引き連れて応援にやって来た将校である。彼は馬に飛び乗ると、自分は東を捜索すると言って出立した。
「国王陛下は爆発寸前だ。銅を取り戻せなかった場合は、貴公らは覚悟しておいた方が良いぞ」
 その去り際に将校が言い残した言葉に、カフナーとルドフスは震えあがった。
 気ばかり焦るが、従えている兵たちの疲労も限界に近い。とりあえずは兵を休ませておき、その間にカフナーとルドフスは額を合わせてドワーフと銅の行方を話し合った。しかし、いくつもの推測を立てては、それを打ち消すの繰り返しで、なかなか結論は出ない。そのうちついに思案も底をつき、どちらも言葉を失ってしまった。
 気まずい沈黙が流れた後、ルドフスはふと思いついたことを口にする。
「もしや、奴らは間道を使っているのではないのか?」
 間道とは、街と街を結ぶ主要な道である街道以外の道のことだ。地図には載っていないが、そうした道を経由していけば街道を使わずに西へ出られるだろう。
 しかし、間道のほとんどは小さな村々を結ぶ生活道路でしかない。その実情は人によって踏み固められた獣道と表現した方が正しいものだ。
 街道ですら雨季には泥濘(でいねい)となり、酷い時には大量の雨水が川となって流れるような道路事情の世界である。そんな世界の生活道路ともなれば、その程度が知れよう。
 ルドフスの考えに、カフナーは首を横に振る。
「ゾアンやドワーフどもは良いとして、問題は銅なのだぞ!」
 ジェボアの貴金属商コルネリウスに引き渡すために用意された銅である。その量は莫大なものだ。それを運搬するとなれば、牛か大竜に曳かせた大きな荷車が何両も必要となる。
 しかし、整備がされていない細い間道では、そのような荷車が使えるわけがない。だからこそ、ふたりは当初から間道という可能性を捨て、街道を探し回ったのだ。
「カフナー、考えても見ろ。まずゾアンどもがマーベン銅山へ奇襲をかけてこられたのだ。街道を来たとは考えにくい。間道を利用したとしか思えぬではないか」
 それについてはカフナーも同意見である。
「それはわかる。――だが、莫大な量の銅をどうやって運ぶと言うのだ?」
「逃げ出したドワーフどもは数千はいるはずだ。ひとりずつ銅を持たせれば、かなりの量を運べるのではないか?」
 カフナーは即座に否定する。
「馬鹿を言え。数千人とはいえ、大半は女子供や老人どもだぞ」
 女子供に銅塊などを背負わせれば、ただでさえ遅い足がさらに鈍る。それにひとりでは歩くのが困難な老人や傷病者も多く抱えているだろう。彼らを運ぶのにもまた人手がかかる。そのような状態で、自分らが追われているのを承知している奴らが、荷物にしかならない銅を担いで間道を進んでいるとは思えなかった。
「では、ゾアンとドワーフどもだけで間道を逃げているというのはどうだ? 銅は、どこかに隠しておくか、船に乗せて河を使えば少数でも運べるだろう」
 ルドフスの言葉に、カフナーは腕組みをして考え込む。船で河を下っても王都に近づくだけなので、その可能性は低かったが、銅とは別に移動しているというのは考えられぬことではない。
「カフナーよ。とにかく、この場で留まっていても(らち)が明かぬ。体力のある騎兵数人とともに、俺は間道を当たってみる。おまえはしばらく兵を休めておけ」
 そう言うとルドフスは数騎の騎兵とともに、近くの間道へと駆けて行った。
 それから、一日も経たないうちである。
 一部の兵を交代させながら銅の捜索を続けていたカフナーの許にルドフスからの伝令がやってきた。
 ドワーフどもの行方がわかった、という伝言を(たずさ)えて。

                    ◆◇◆◇◆

 兵たちには後から来るように命じたカフナーは馬に乗ると、ルドフスが寄越した伝令に先導され、間道をひた走る。そして、間道の先にある掘っ立て小屋のような家が五つばかり寄り集まった程度の小さな村にたどり着くと、村の入り口には見覚えのあるルドフスの兵が出迎えていた。
「ルドフスは、どこだ?! 銅は?!」
 ここにくるまでの間道には、まだ真新しい大勢の人が踏み荒らした跡が残っていた。ルドフスの伝言どおり、ゾアンやドワーフたちが間道を抜けたのは間違いないようだ。
 それだけに焦燥もあらわに問いただしてくるカフナーの剣幕に圧されながらも、その兵士は答える。
「ルドフス様は、ただいま村長を問い詰めているところです」
 その兵士が言うには、ゾアンやドワーフたちが間道を通った跡が残っているというのに、村人たちはそれを隠そうとしているらしい。そこでルドフスが直々に村長を問い詰めているのだと言う。
「くだらん! 村人のひとりやふたりの首を()ねれば、すぐにでも口を割るだろうに!」
 そう暴言を吐くカフナーを兵士は必死になだめる。
 ここは王家の直轄領ではなく、諸侯の領地のひとつなのだ。そこで国軍の兵士が無体を働けば国王と諸侯との間の確執にもなりかねない。
 気がはやり、荒れているカフナーとて、それぐらいは理解できる。自分をなだめる兵士らに「冗談だ」と言い捨てると、とにかくルドフスがいるという村長の家へと向かう。
 その途中、カフナーは自分に向けられる視線を感じた。見れば、村人たちが家の中や物陰からジッと息を殺してこちらをうかがっている。そのいずれも女子供や年寄りばかりで、何とも辛気臭い村だとカフナーの胸に侮蔑の念が湧く。
 そんなことにも苛立つカフナーが、他より多少はマシな家に入ると、そこにはみすぼらしい格好の老人と差し向うルドフスがいた。
「おお! 間に合ったか、カフナー。ようやく今、話を聞き出せるところだ」
 カフナーは勧められた椅子も断り、不機嫌そうに腕組みをして壁に寄り掛かる。それでも一応は話を聞く気はありそうなのを見て取ったルドフスは、改めて村長に話すように(うなが)した。
「先程も言ったように、何を言っても我らは咎める気はない。嘘偽りなく、あったことを話してくれ」
 ルドフスのなだめるよう声に、それでも村長はためらいながらも口を開く。
「へい。――あれは、数週間も前のことでした……」
 おかしな人間の行商人が村を訪れたと村長は言った。
 行商人といっても本人がそう名乗っているだけで商品を携えてきたわけでもなく、このような辺鄙(へんぴ)な村にその身ひとつで訪れたらしい。いったいこの辺鄙な村に行商でもなく、いったい何をしに来たのかと(いぶか)る村人に対し、その行商人は多額の謝礼金を提示し、村はずれの空き地をしばらく借りたいと言ってきたという。
 その行商人が借りたいと言ったのは、村の共有財産である休耕地だった。今は農耕用の牛が放牧されているだけの土地で、そこをわずかな間貸すだけで多額の謝礼をもらえるという話に、村はふたつ返事で了承した。
 そして、それからしばらく後のことである。ある日の朝、日の出とともに起きた村人たちは空地に山のように大量の木箱が置かれているのに気づいた。この人目をはばかるように、寝静まった夜の間に行われた所業に、村人たちは気味悪がったという。
 しかし、何かを盗まれたわけでもなく、ただ荷物が置かれただけである。この時はそれ以上の騒ぎにはならなかった。
 ところが、それから数日後のことである。今度は数えきれないほどのドワーフとゾアンたちがやってきたのだ。これには恐れおののいた村人たちは家々に閉じこもり、彼らが立ち去るのを願うしかなかった。そのおかげか、幸いなことに亜人類どもが暴れるようなこともなく、翌日にはどこかへ立ち去ってしまったという。
「木箱の中身は食い物だったようで、あいつらはそれを食べてどこかへ行ってしまったんです」
 村長が指差した窓から外を見れば、そこには大勢の人によって踏み荒らされた跡が残る空地と、そこに点々と残された石を積んだ小さな(かま)が見受けられた。
「そんなことはどうでもいい!」
 カフナーは声を荒げて村長の言葉を遮る。
「それよりも、そいつらは銅塊を持っていなかったか?! 重そうなものでも良い!」
 今はドワーフとゾアンらの動向など、二の次である。マーベン銅山から消えた銅の行方を突き止めなくてはならない。
 カフナーの剣幕に驚きながらも、村長は心当たりがあった。
「そう言えば、あいつらは確かに何やら重そうなものを運んでおりました。はい」
 ついに見つけた銅らしきものの情報に、俄然ルドフスとカフナーは目を輝かせた。ふたりは、ずいっと村長に詰め寄る。
「それは、どれぐらいあった? どうやって運んでいた?」
「荷車でも使っていたか? それとも担いでいたのか?」
 目の色を変えて詰め寄るふたりに(おび)えながらも村長は、答える。
「いえ。こ~んなものを使っておりましただ」
 そう言って村長が木の板に炭で描いた絵を見て、ルドフスとカフナーのふたりは顔を見合わせる。それからふたりは、異口同音にこう言った。
「「なんだ、これは?」」

                    ◆◇◆◇◆

「こいつは便利なものだ」
 そう感心しきった様子で言うノルズリが手にしているのは、一台の手押し車であった。
 それはソルビアント平原の開拓に用いられていた一輪の手押し車である。
 五年前に開拓を始めた頃のソルビアント平原は、ローマンコンクリートを用いた「ソーマの道」どころか街道すら整備されていなかった。そんな平原の開拓事業の中で物資運搬に大きな力となっていたのが、蒼馬が三国志において諸葛孔明が考案したという木流牛馬から着想を得て導入した、この一輪の手押し車である。平原の開拓もひと段落した今では、余剰となっていたものを今回のために徴用したのだ。
 この一輪の手押し車ならば、荷車では通れない獣道同然の狭くて荒れた間道であっても、難なく通れる。また、人が担いで運ぶよりも楽に、そして多くのものを運べるのだ。
 自らも銅塊を満載にした手押し車を押しながら、ズーグは我がことのように自慢する。
「この手押し車で、行きは食料を運び、帰りは歩けぬ者や銅塊を運ぶというのが、ソーマ殿の策よ」
 あらかじめ食糧などを用意した休憩地を設けておくことにより、ドワーフらは必要最低限の荷物だけで移住を行えるようにしていたのである。
 また、故郷を捨てなければいけないドワーフにせめてもの慰みをと蒼馬はマルコ特製の糧食ばかりではなく、かき集めた蒸留酒を大量に用意しておいた。酒と食べ物に目がないドワーフたちは休憩地ごとに用意されてある、こうしたご馳走を大いに喜んだ。そのため、故郷を捨てての旅だというのに、ズーグらから見る限りではドワーフらの顔は明るく、それどころか次の休憩地へ向かう足取りも軽いようだった。
 しかし、ズーグが語る策の内容よりも、ノルズリたち関心は手押し車の方に集まっていた。
「ふむふむ。なるほど。確かに、このような狭い道ならば一輪の方が便利じゃわい。よく考えられておる。それに、この構造もまた興味深い」
 ノルズリたちは実際に自分らの手で使った実感も交えて感心する。
「このようなものがあるとは、ボルニスという街は予想以上に発展しておるのだな」
 技術とは一朝一夕に生まれるものではない。技術者が何代もかけ、少しずつ積み重ねていくものだ。そのため、ボルニスの街にいるドワーフは他の土地から連れてこられた奴隷ばかりだと聞いていたノルズリは、技術だけならば自分らが上を行くと思っていた。ところが、実際にこうした手押し車を目にすれば、それはとんでもない思い違いだったと理解できる。
「まっこと驚いたわ。このようなものを作り、使っておるとはな……」
「これなど序の口じゃわい」
 そこに同じく手押し車で銅を運んでいたドヴァーリンが得意げに口をはさむ。
「他にも、風で回る水車や牧草を貯蔵する塔、麦の穂の束を瞬く間に脱穀する機械、ガラスを吹く筒。――おぬしらが見たことも聞いたこともないものが、わしらのところにはいっぱいあるわ!」
 やはり製造技術にかけては並々ならぬ自尊心を持つドワーフである。その団子っ鼻を高くして、自分らが作り上げて来たものを自慢した。
「おお! それは興味深い。ぜひともわしらにも作らせて欲しいもんだ」
 ノルズリの言葉に、それまで得意満面であったドヴァーリンの顔が曇る。
「……たぶん、頼まれんでもやらされると思うぞ。それは、嫌というほどにな」
 この時、ドヴァーリンの脳裏をよぎったのは、これまでの蒼馬の無茶ぶりの数々であった。
 しかし、そんなこととは知らないノルズリは笑い飛ばす。
「ふははははっ! 新しい技術に触れるのに、何の苦痛があるかい! 今から楽しみだわい!」
 髭を揺らして豪快に笑うノルズリに、ドヴァーリンをはじめとしたボルニスから来たドワーフらはいっせいに遠い目になると同じ言葉を胸中に浮かべたと言う。
「私も、そう思っていた頃がありました」と。
 そんなドワーフたちのやり取りを横目に苦笑を浮かべていたガラムだったが、彼の横に空からひとりのハーピュアンが舞い降りた。
「ガラム殿。耳を拝借」
 そう言ってハーピュアンの女性は何やらガラムに耳打ちすると、再び大きく翼を振るって大空へと駆け上がった。それを見送るガラムの顔に険しい表情が浮かんでいるのに気づいたシシュルが声をかける。
「いかがなさいました、《猛き牙》?」
「戦士らに命じ、ドワーフの女子供を手助けし、急がせろ」
 ガラムは険しい口調で言う。
「我らがこの間道を進んでいるのに、ホルメアが気づいたようだ」

挿絵(By みてみん)
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