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破壊の御子 作者:無銘工房

龍驤の章

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第10話 人魚

 ジェボアの港から南東の方角を望むと、水平線の彼方に小さな島影が見える。
 それは、マーマンの島だ。
 かつてジェボア周辺の海域には、マーマンはごく少数の部族しかいなかった。ところが百年程前に東の海にいたマーマンの一族がやってきて、それまでいた部族を飲み込む形で、ジェボア沖にある島に定住したのである。
 当初、移住してきたマーマンとジェボアの関係は決して良好なものではなかった。
 最初の衝突は、マーマンが住みついた島の周辺を漁場としていた漁師らとの間で起きたという。生活の糧を得る大事な漁場を奪われた漁師らは漁場を取り戻すべく漁船で大挙して島に押し寄せたのである。
 しかし、相手は海の王者と呼ばれたマーマンだ。漁師らが乗った漁船は島にたどり着くことなく、一(そう)残らず転覆されてしまったのである。
 しかも、それで終わりではなかった。マーマンたちは自分らを攻めた報復として、ジェボアの交易船を次々と襲撃したのである。いかに大きな交易船であろうとも、マーマンにかかればひとたまりもない。船底を突き破られ、(かい)や舵をへし折られ、多くの船が沈められたのである。
 海洋交易によって栄えるジェボアにとって、これはとてつもない痛手であった。当時の十人委員のうち四人までもがマーマンの襲撃による損失で破産したというのだから、その被害の大きさがわかるだろう。
 事ここに至って、マーマンと争うのは得策ではないと考えた十人委員たちは、マーマンたちとの融和の道を模索し始めたのである。
 しかし、それは容易な道ではなかった。互いの立場や権益がぶつかり合い、時には些細な誤解から衝突することもあったという。
 だが、その時すでに陸上との交易に利を見出していたマーマンたちの歩み寄りもあり、ついにジェボアとマーマンは正式な友好条約を結ぶに至ったのである。
 それは、ジェボアは島をマーマンたちの領土として正式に認める代わりに、マーマンたちはジェボア近海における交易船の保護を約するというものだった。
 これによってジェボアの商人ギルドは、さらに海洋交易を発展させ、現在の隆盛を築いたのである。
 しかし、こうした衝突の歴史からジェボアとマーマンの関係は、非常に危ういものであることは否めない。些細な行き違いや誤解から再び過去のような争いに発展するのを危惧(きぐ)した双方は話し合いにより、互いに公使を派遣し合う取り決めをしていた。
 そして、蒼馬を食事に招待したのは、この取り決めのためにジェボアの街に公邸を構えるマーマンの公使だったのである。
 そうしたジェボアとマーマンの歴史とともに、自分を招いたマーマンの公使がオルガという名の若い女性であると告げられた蒼馬は驚いた。
 男女平等が叫ばれて久しい現代日本ですら女性の外交官は珍しいのに、男尊女卑が根強いこの世界で女性が公使を務めているというのは意外である。
 それを言うとヨアシュは、「マーマンでは、女性の方が社会的立場は高いのですよ」と説明してくれた。
 ヨアシュによれば、マーマンは女性優位の社会を形成しているらしい。最高権力者は女王であり、国の重要な役職もほとんどが女性で占められている。それに反して男の身分は低く、女王の夫は王ではなく王配と呼ばれていて何の権力も与えられていないという。
 ちなみにドワーフもまた女性優位の社会である。このふたつの種族はいずれも女神によって創造され、女神を信仰しているというのも女性優位となっている大きな理由であるのかもしれない。
 そうした説明に感心しながら、蒼馬は公使からの招待を大きな好機だと考えていた。
 それだけジェボアに影響力を持つマーマンと友好関係を結べれば、ジェボアへの牽制になるのは間違いない。まさにジェボアというくすぶる火に対して、それを消し止め得る水となるだろう。
 そんな期待を胸に蒼馬たちがマーマンの公邸を尋ねると、わざわざ公邸の入口で出迎えてくれたのは先日商人ギルドの公館で会った、あのマーマンの女性であった。
「先日は失礼いたしました、破壊の御子ソーマ・キサキ殿。改めて名乗りましょう。私が公使を務めるオルガです」
 人間の奴隷ふたりを使った桶のような形の輿に乗るオルガは、先日と同じく胸を隠す革帯と腰回りを薄布で覆っただけである。
 これは、もともと海で生活していたマーマンは寒さに強く、また泳ぎの邪魔になるため衣服を身に着ける習慣がなかったからだ。胸や腰だけでも帯や布で隠すようになったのも、陸上の他種族と接する機会が多くなった最近になってからである。
 服がなかったマーマンたちは、代わりに装身具を用いて着飾る風習があった。
 オルガが黄金に輝く大きな額飾りや耳飾りだけではなく、首に赤珊瑚の首飾りをかけ、手首にいくつもの黄金の輪を通し、全身に金銀の細い鎖をゆるく巻きつけ、これでもかと全身を飾り立てているのは、これがマーマンにとっての正装に当たるからだ。
「本日は、お招きありがとうございます。僕が木崎蒼馬です」
 蒼馬が挨拶を返すとオルガは鷹揚(おうよう)にうなずいてから、やおら蒼馬の手を取った。
「堅苦しい挨拶は、おしまいにしましょう。――さあ、宴席の用意をしてあります。私が案内いたしましょう」
 そう言うとオルガは、蒼馬を宴席の用意をしてある部屋まで手を引いて案内し始めた。そればかりか、この思わぬ厚遇に目を白黒させている蒼馬に申し訳なさそうに言葉をかけてくる。
「気を悪くしないでください。あなたが奴隷廃止を宣言しているのは承知しています。ですが、私たちが陸上で生活するには、この下半身では何かと不便なのです」
 蒼馬の戸惑いを自分が奴隷を使役しているためだと思ったようだ。
 しかし、蒼馬もボルニスの街でならばいざ知らず、よその国にまで来てとやかく言うつもりはない。それに、下半身が魚であるマーマンでは、誰かに運んでもらわねば陸上での移動はままならないのも理解できる。
 また、ここ数年の間に蒼馬も学んだことだが、この世界の奴隷は特別に酷い目にあっているとばかり思っていたが、実は地球の奴隷制度と大差ないようだ。もちろん、そうしたひどい目に遭う奴隷も存在する。しかし、奴隷は価値ある財産であり、無暗に虐待したり殺害したりするようなことはめったにない。そればかりか地域によっては、奴隷への過剰な虐待を罰するところもあるという。
 かつて蒼馬が抱いていた奴隷がひどく虐待されているというイメージは、奴隷だからというより聖教による亜人類迫害という要素が大きかったのだ。
 オルガに案内された蒼馬たちは、宴席の場となる部屋に入るなり驚いた。
 そこにはすでに宴席の料理が用意されていたのだが、その量や種類は目を見張るものだ。
「さあ、遠慮せずに楽しくやってください」
 そう言うとオルガは、蒼馬ばかりか同行していたゾアンの戦士たちにも分け隔てなく料理と酒を振る舞った。
 そのオルガの姿勢には、さすがに蒼馬も(いぶか)しいものを感じた。
 この世界の常識で考えれば、オルガにとって招待した蒼馬に同行してきたゾアンたちは、客人の護衛兵か付き人のようなものだ。そうした人は別室で待たされるのが普通で、寛大な招待者であってもせいぜい別室で振る舞い酒をいただける程度である。
 ところがオルガは同行してきたゾアンたちすべてを蒼馬と同じ宴席でもてなしたのだ。
 わざわざ公邸の前まで自身で出迎えたところといい、自分が奴隷を使っていることへの弁解のような発言といい、過剰なまでの配慮を感じる。これには、いくら人が良い蒼馬であっても、裏を感じずにはいられなかった。
 そのため、宴の中でオルガはしきりに話を振ってくるのだが、どうしても蒼馬は口が重くなってしまう。
 そんな言葉少ない蒼馬の代わりに、オルガの矛先が向けられたのはシェムルである。
「おお! それで、どうなったのでしょうか?」
「うむ。無論、私は引き留めた。皆に任せて、私たちは後ろに下がろうと。しかし、我が『臍下(さいか)(きみ)』の胆力は、私ごときが推し量れるものではなかったのだ」
 シェムルが酒杯を片手に、すまし顔で語るのはボルニス決戦のことらしい。
「何と『ホルメアなど恐れるに足らず。皆の者、我に続け』と高らかに言ったのだ。そして、その威に打たれて膝をついたディノサウリアンの背にひらりと飛び乗ると、ソーマは先陣を切って数千の敵へと突っ込んだ。ああ、まさに我が命と魂を捧げるにふさわしい『臍下の君』と、私は感動に打ち震えたものだ」
 それは、どこのソーマさんでしょう?
 蒼馬は、そう突っ込んでやりたかった。シェムルが語る内容は、とうてい自分のこととは思えない。いくらなんでも、これは誇張がすぎるというものだ。蒼馬は恥ずかしさのあまり、顔から火が出そうだった。
 宴席の片隅で、隣にいるドヴァーリンに「聞いていた話とずいぶん違うぞ」と小声で尋ねるズーグの言葉が、羞恥心をあおる。
 しかし、そう恥ずかしがってばかりはいられない。オルガがここまで自分らのご機嫌を取る目的を探るため、注意深く彼女の発言を聞いていく。
 すると、やけにオルガはボルニスの街での奴隷廃止が本当であるかを気にかけているのに気づいた。中でも、奴隷とされた人が街に入った場合はどのように対処されるかを気にしているようである。
「オルガさん。僕らの街での奴隷の扱いで、何か気になることでも?」
 そろそろシェムルが語る完璧超人ソーマの武勇伝に羞恥心も限界を迎えつつあった蒼馬は、それを遮るためにもオルガに指摘した。すると、オルガは目に見えて挙動不審になる。手にした酒杯から酒がこぼれているのにも気づかずに、視線をあちらこちらにさまよわせ、言葉を探しあぐねている様子には、蒼馬は悪いことを訊いてしまったと思うほどだ。
「あの、オルガさん。落ち着いてください」
「私は慌ててなどいない。私は常に冷静沈着です」
 思わず、「どこが?」と突っ込みを入れたくなりそうなことをいってから、オルガはひとつ咳払いをする。
「失礼いたしました。私の心底を見抜くとは、さすがは『破壊の御子』。良いでしょう。腹を割って話しましょう。――今、私たちマーマンは、ある問題で頭を悩ませているのです」
「問題といいますと?」
「最近、幼い子供たちの失踪が相次いで起きているのです」
 子供たちの失踪とは、穏やかならない話である。
「この辺りの海には鮫も多い。失踪した中には、そうした鮫に襲われた者もいるでしょう。しかし、それにしても失踪した子供の数が多すぎるのです」
「いったいどうして?」
 蒼馬の問いに、オルガはいったん唇を固く引き結び、一拍の間を置いてから言った。
「私は、陸地の奴らに奴隷としてかどわかされたのではないかと睨んでいます」
「ジェボアの商人にですか……?」
 オルガは漠然と陸地の奴らと表現したが、蒼馬はあえて核心に一歩踏み込んだ発言をする。先日の会合において十人委員ともめていたところから、そう外れた推測ではないはずだ。
 そして、やはりオルガは小さくうなずいた。
「私はそう考えています。もちろん、すべてのジェボアの商人が関与しているとは思っていませんが、少なくとも誰かが関与しているはずです」
 しかし、それは決して許されないことだとオルガは言う。
 過去には争いを起こしたジェボアとマーマンだが、今では共存共栄の関係にあった。交易船を海難や海賊の襲撃などから守る代わりにジェボアが支払っている保護料は、産業のないマーマンたちにとっては重要な収入源となっている。逆にジェボアにとっても海の王者と呼ばれるマーマンと盟約を結び、その保護を受けているという事実は、海洋交易国家としては何物にも代えがたい海の安全を保障するものだ。
 そうした友好関係にある相手の子供を不当な手段で拉致し、奴隷として売り払っていたとしたならば、これは看過できない大問題である。
 何か確証があるのかと問えば、オルガは首を横に振った。
「しかし、東にある帝国と呼ばれる地域では、私たちマーマンの奴隷が高値で取引されているという噂は事実なのです。何者かが幼い子供たちをかどわかし、大陸の中央へ奴隷として売り払っているのは間違いありません。かどわかされた子供たちを救うために、奴隷解放を宣言しているあなたの力を借りたいのです!」
 蒼馬はおおよその事態が推察できた。
 ジェボアでかどわかされた子供たちは、いったん陸路で遠くの港まで運ばれ、そこから船で帝国へと連れて行かれたのではないかとオルガは考えているのだ。
 確かにマーマンの勢力圏にある海を航行する船に、かどわかした子供たちを乗せるのは危険が大きすぎる。万が一、かどわかした子供たちが乗せられているとわかれば、マーマンたちは容赦なく船を沈めてしまうだろう。そんなことになってしまえばマーマンとの関係悪化はもとより、せっかく積み込んだ高価な交易品がすべて海の藻屑(もくず)となり、その損害は計り知れないものとなる。
 そんな危険を冒すよりかは、いったん陸路でマーマンの影響が及ばない場所まで運んでから、大陸中央へと向かう船に乗せた方が安全に違いない。
 そして、ジェボアから陸路でどこかに物を運ぼうとすれば、通らなくてはならないのがボルニスの街だ。
「奴隷廃止を掲げているあなたの街では、訪れる隊商に奴隷がいないか厳しく(あらた)めていると聞きます。これまで、マーマンの奴隷が見つかってはいなかったでしょうか?」
 懇願するようなオルガの質問だったが、あいにくと蒼馬はマーマンの奴隷がいたという報告を聞いた覚えがない。シェムルに目で問いかけるが、彼女も首を横に振った。常に蒼馬の身近に控えているシェムルの記憶にもないならば、そうした事例は報告されていないのだろう。
「申し訳ありませんが、マーマンの奴隷を見つけたということはないと思います」
 蒼馬の答えに、オルガは肩を落とす。その見るからに消沈した様子に、蒼馬はただ一族の幼い子供たちがかどわかされた義憤よりも大きな悲嘆を感じ取った。
「もしかして、ご家族か知人に?」
「はい。実は、私の妹が一週間ほど前から失踪しているのです」
 身内に被害者がいるならばこその痛切な想いなのだろう。
 顔を曇らせてしまったオルガに、蒼馬は何とかしてあげたいと思った。
「わかりました。ボルニスの街で、ジェボアからの荷物の検査を強化させましょう。あと、この街にいる知り合いにも話を聞いてみます。マーマンのあなたには話せない事情が僕ならば聞けるかもしれません」
 今のジェボアとの微妙な関係を考えれば、ジェボア商人の検査を強化するのは得策とは言えない。また、頼りにしているメナヘムとヨアシュの親子も蒼馬がジェボアの不利益になるようなことを調べるようなまねをすれば、決して良い顔はしないだろう。
 だが、そんな損得勘定によって、幼い子供たちが奴隷として売り払われていると言うのを見過ごすようなまねは決してできなかった。
 そうした蒼馬の決断を隣でうれしそうに目を細めるシェムルの姿が、自分の考えが間違いではなかったと肯定してくれている。
「感謝いたします。代わりと言ってはなんですが、私にできることがあれば何でも協力しましょう」
 オルガもまた、現在の蒼馬の微妙な立ち位置は聞き知っていた。それでもなお、さらわれたマーマンの子供たちの捜索に協力してくれるという蒼馬の態度は感謝してもしきれないものだ。その言葉に偽りなく、自分のできる範囲のことならば何でも協力する気であった。
 そして、それは蒼馬にとってもうれしい提案である。
「それなら、僕からもお願いがあります」
 蒼馬は包み隠さず自分らが置かれている難しい状況を説明し、できればマーマンと友好関係を結びたいという話をした。それはオルガにとっても悪い話ではない。今後、蒼馬と友好を深められれば、さらわれた子供たちの捜索に協力してくれる担保にもなる。
「良いでしょう。私から女王陛下に上奏してみましょう」
 オルガは、そう快諾(かいだく)したのである。

                  ◆◇◆◇◆

 蒼馬が帰った後、オルガはさっそく島へ帰還すると宮殿へと上った。
 マーマンたちの宮殿と聞くと、海底宮殿のような姿を思い浮かべるかもしれない。しかし、この世界のマーマンの宮殿は海底ではなく、島の中にあった。宮殿の基礎となったのは、島を形作る堅い岩が長い年月をかけて浸食されてできた天然の洞窟である。これをマーマンたちは手を加えて、宮殿としたのだ。
「戦士長オルガ。テーテュース女王陛下に拝謁いたします」
 床にたまった海水に身を投げ出すようにひれ伏すオルガがいるのは、二階建ての日本家屋がすっぽりと収まるほど大きなドーム状の空間である。
 そこは、女王の間と呼ばれる場所だ。マーマンの女王が臣下と謁見するだけではなく、女王の私室であり、王族が一緒に暮らす後宮でもある。また宝物庫でもあり、それを証明するように、天井近くに設けられた明かり取りの穴から射し込む光に照らされて、壁際に山と積まれた金銀財宝がキラキラと輝いていた。
 そうした財宝の中でも圧巻なのは、玉座であろう。人間の成人男子が立ち上がり、両腕をいっぱいに広げたほどの大きさがある玉座は、磨き上げられて紅色に輝く美しい宝石珊瑚だ。いたるところに金銀の装飾品や宝石が飾られたその赤い珊瑚は、さながら宝を実らす伝説の宝樹のようである。
 そして、その中央に置かれた大シャコガイのような貝の殻の上には、ひとりのマーマンの女性がしどけなく寝そべっていた。
「戦士長オルガよ。陸の上で、何か変事でもありましたか?」
 マーマンの女王テーテュースは上半身にこれでもかとつけられた装飾品をジャラジャラと鳴らしながら身体を起こす。
「はい、陛下。このオルガに上奏の機会をお与えいただければ、これに勝る喜びはございません」
「許します。話してみなさい」
「陛下に謹んで申し上げます。このオルガ、かねてより陸で噂されておりました『破壊の御子』なる者と、接する機会がございました――」
 テーテュースの許しを得たオルガは、必死に蒼馬たちと友好を深めれば行方不明になっている娘たちを見つけ出す大きな力になると力説する。
「テーテュース女王陛下。破壊の御子は人間でありながら、他種族であるゾアンを友と呼ぶばかりか、ゾアンたちもまた(あつ)い信頼を捧げており、私たちが信頼するに値する人物と思われます。どうか、かどわかされた多くの娘たちを救うために、ぜひとも彼の者との友好をお考えください」
 一通り語り終えたオルガは期待に目を輝かせてテーテュース女王の言葉を待った。
 しかし、テーテュース女王は気だるげに小さくため息を洩らす。
「……破壊の御子に伝えなさい。島に来られるのならば、いつでも盛大に歓迎するとね」
 それはオルガが期待していた言葉ではなかった。
 慌てて翻意(ほんい)をうながそうと口を開きかけたオルガをテーテュースは軽く手を挙げて制する。
「オルガ。あなたも承知しているはずです。(わらわ)たちマーマンは、陸の上のいざこざに介入するようなまねは(いまし)めていると」
「ですが、女王陛下! かどわかされた娘たちを取り戻すには――」
「言ったはずですよ。あの子のことは諦めなさいと」
 それでも諦めきれないオルガが何か言おうとするよりも早く、テーテュースはぴしゃりと言う。
「《銀の鱗》のオルガ。あなたは、いつこの国の女王になったのです? たかが戦士長ごときが、国の舵を取ろうなど己の分を(わきま)えなさい!」
 テーテュースの叱責に、オルガは顔を青くすると慌てて平伏して恭順の意を示した。
 それにテーテュースは、いくぶん表情を和らげる。
「かどわかされた娘たちのことを思うと、妾も辛い。ですが、妾たちマーマンは二度と陸のいざこざに介入するようなまねはしてはならないのです。――わかりましたか、オルガ?」
 オルガは、ただうなずくしかなかった。
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