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破壊の御子 作者:無銘工房

龍驤の章

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第7話 山賊退治

 蒼馬がいるメナヘムの屋敷を訪れたのは、十人委員のうちコルネリウスたち七人であった。
「先程着いたばかりの客人に対して、これはまたずいぶんと気の早いことですな」
 彼らの対応に出たメナヘムは、まず簡単な挨拶を交わしてから、そう切り出した。
 遠路はるばる訪れた客に、一息入れる間もなく挨拶がしたいとは失礼ではないか。それを言外に匂わせて、あわよくば蒼馬への挨拶を断ろうとするメナヘムに、コルネリウスは笑顔で返す。
「押しかけてきた客とはいえ、十人委員として挨拶のひとつもしなくては礼に反するでしょう。それに、向こうから私たちに挨拶にいらっしゃるお手間を省いてさしあげたと思っていただければ、うれしいですな」
 あくまで蒼馬を招いたのはメナヘム個人であり、自分らにとっては勝手に押しかけてきた客に過ぎないのだぞと明確に宣言したばかりではない。十人委員の会合で蒼馬を客として紹介しようとしていたメナヘムに対し、その必要はないと先手を打ってきたのだ。
「押しかけてきた客とは、失礼でしょう。私が招いた大事な客人です。十人委員の諸兄には、後日会合の場において正式に紹介しようと思っておりました」
 後で紹介してやるから、とっとと帰れ。
「はっはっはっ。メナヘム殿、出し惜しみはいけませんな。破壊の御子といえば、今や西域では渦中の人物ですぞ。たった一目だけでも良いので、会わせていただきたいものですな」
 破壊の御子なんて奴は、いらぬ騒動の種だ。そんな奴と我らとの間に、何らかの折衝(せっしょう)が行われたと疑われるような既成事実を作ろうったって、そうはいくものか。いいから、さっさと破壊の御子を出しやがれ。
 互いに迂遠(うえん)な言い回しを使ってチクチクとやり合うふたりの様子を蒼馬とヨアシュは物陰から見ていた。
「今、父上とやりあっているのが、コルネリウス殿です」
「あの人が、そうですか……」
 蒼馬もコルネリウスのことは聞き及んでいた。
 貴金属を扱わせれば西域随一との呼び声も高い豪商だと聞く。彼の最大の取引先は、西域でも有数の採掘量を誇る銅山を有するホルメア国だ。その取引先の機嫌を損ねるわけにはいかないばかりではない。蒼馬の奴隷廃止宣言によって、買い付けた莫大な銅塊をジェボアへ運ぶ労働力に奴隷が使えなくなったおかげで大きな損失を(こうむ)っているという。
 次に、そのコルネリウスの後ろで苛立っているのは、交易商のヤコブである。海外から運ばれた珍しい品物をホルメア国の王侯貴族の(もと)へ持ち込んで利益を上げている商人だ。蒼馬を嫌う理由はコルネリウスと似たようなものだが、売り手であるヤコブはなおさらホルメア国の機嫌を気にしているという。
 このヤコブと似たような状況にあるのが、ジューダである。ジェボアの周辺で採れる良質の葡萄を使った酒の製造と販売によって利益を上げるジューダは、ここ数年はホルメアの王侯貴族へ販路を広げている最中だという。そのため、ヤコブ以上にホルメア国の機嫌を損ねるわけにはいかないのである。
 ヨアシュによれば、この三人が蒼馬との関係改善に対して明確に反対の立場をとっている者だという。その他の四人は、コルネリウスらと蒼馬とを天秤にかけた結果、消極的な反対を示している者たちだった。そのため、メナヘムに対しても気まずそうな様子である。
 そうしたことをヨアシュから説明を受けている間も、メナヘムとコルネリウスは笑顔でやりあっていた。だが、一向に(らち)が明かない状況に、ついにコルネリウスはメナヘムへ決断を迫る。
「会わせていただけないのでしたら、やむをえませんな。我々としても暇ではない。忙しい合間を縫ってきたというのに、とても残念です」
 先に挨拶を断ったのは、そちらの方だ。次にそちらから挨拶したいと言ってきても、こちらは忙しいと言って断るからなという最後通牒である。
 メナヘムとしては、他の十人委員に根回しした上で蒼馬を会合に呼び、紹介したかった。だが、こうなってしまってはやむをえまい。そばに控えていた使用人に、物陰から今のやり取りを見ているであろう蒼馬を呼びに行かせる。
 程なくしてシェムルひとりを伴って蒼馬がその場に姿を現すと、コルネリウスらはわずかにざわめいた。
 コルネリウスはただ眉をひそめただけだが、ヤコブは明らかな侮蔑の表情を浮かべ、ジューダは困惑している様子である。それは初めて目にする蒼馬の容姿が、わずかなゾアンと奴隷たちを扇動してホルメア国に反旗を翻すという大それたことをやった人物には見えなかったからだ。
「はじめまして。僕が木崎蒼馬です」
 まず、蒼馬が自己紹介すると、皆を代表してコルネリウスが挨拶を返す。
「ようこそジェボアへおいでくださいました。――しかし、昨今では発展著しいボルニスの街から見れば、この街など平和なだけで見るべきものなどないでしょう」
 平和なだけで見るべきものなどないという部分をやけに強調するコルネリウスの意図は、いらぬ騒動を持ち込むなという牽制と早く街から立ち去れという圧力だ。
 しかし、蒼馬はとんでもないと首を横に振る。
「興味深いものでいっぱいです。たとえば――」
 蒼馬は指折り数えて、街で見かけて興味を覚えたものを挙げていく。しかも、それを素で言っているからたちが悪い。言葉の裏を読もうとしていたコルネリウスは、単純にうれしそうに話す蒼馬に困惑してしまう。
「いや、まあ、その……ジェボアをそれほど高く評価していただけるとは、うれしいですな」
 コルネリウスはひとつ咳払いをして気を取り直すと、また調子を狂わされてはたまらないとばかりに、一気に核心に迫る。
「それで、あなた様がジェボアにいらっしゃったのは、いかなる目的でしょうか?」
 この世界に落ちてから初めての旅行で訪れた異国情緒あふれるジェボアの街に、ついつい興奮気味だった蒼馬も、ようやく気を引き締める。
「僕の目的は、友好です」
 蒼馬の答えに、これまたデカく出たものだとコルネリウスは呆れる。
「いかなる船にも、ジェボアの港は常に開いております」
 ジェボアの友好の扉は常に開いているので後はそちらが歩み寄るだけだとコルネリウスは船と港になぞらえて言った。それに負けじと、蒼馬もやり返す。
「お互い手を重ねられれば、これほどうれしいことはありませんね」
 この地方の商人らは商談の際に、手のひらを上に向けて差し出し、相手がそれに手を重ねて握り合うと、商談が成立したことになる。しかし、それには互いに手を差し出さなければできない。蒼馬は自分たちだけではなく、ジェボア側の譲歩も求めたのだ。
 ここ数年の間に、エラディアとヨアシュによって交渉の基礎を学んできた成果である。
 その後も、ホルメア国との本格的な戦いを前にしてジェボアの不干渉の約定を結びたい蒼馬と、奴隷廃止宣言の撤回やジェボア商人の特権を取り付けたいコルネリウスは、互いに相手の失言や譲歩の言葉を引き出そうと言葉の応酬を続けた。
 その内容は初めてヨアシュが接見した時と大差ないものである。それだけにコルネリウスの攻め手が予想しやすく対応は楽ではあったが、同じことの繰り返しに蒼馬はややうんざりしていた。
 しかし、蒼馬よりも先に我慢の限界に達したのがヤコブである。
「いい加減にしてもらいたい! なぜ、このような奴隷をそそのかして国をかすめ取ろうとする盗賊の頭のために、私の貴重な時間を浪費せねばならんのだ!」
 メナヘムばかりか、コルネリウスも眉をひそめる暴言だ。
 まがりなりにもひとつの勢力を担う相手を悪しざまに罵ったのである。発言の撤回ばかりか謝罪として何らかの譲歩を要求され、それが通らなければ最終手段――武力行使も辞さないぞと言われてもおかしくはない非礼な行為だ。
 しかし、ホルメア国との関係が緊迫している今の蒼馬の状況ならば、それは絶対にあり得ないと踏んでいるのか、ヤコブはさらに言う。
「それにしても、ここは臭い。まるで家畜小屋の臭いだ。さっさと終わらせてほしいものですな」
 明らかに、交渉を決裂させようという腹である。
 これほどの侮辱を受ければ顔を真っ赤にして怒り出して当然だというのに、そのヤコブの予想に反して蒼馬は苦笑するだけであった。むしろ、自分の代わりに憤怒の形相で牙をギリギリときしらせるシェムルを視線でなだめている。
「困ったなぁ。僕らは決して盗賊なんかじゃないんですけどね」
 本心から困ったという表情で、蒼馬は頬を指先で掻いた。
 それにヤコブは拍子抜けしてしまう。
 力がものを言う時代において、多くの人々を従える人物ならば、それなりの自尊心は持ち合わせているはずだ。それなのに、これほどの侮辱を受けても苦笑ひとつですますとは信じられなかった。
 どれほどこいつは根性なしなのか。
 蒼馬に対してさらに侮蔑の念を深めたヤコブは、良いことを思いついた。
「盗賊の仲間ではないとおっしゃられるならば、ここはひとつ身の(あかし)を立てられるというのは、いかがでしょう?」
「身の証……ですか?」
 目をぱちくりとさせる蒼馬に、ヤコブはいやらしい笑みを浮かべて見せた。
「さよう。たとえば――山賊退治というのは、どうですかな?」

               ◆◇◆◇◆

「何だ、あの礼を知らぬ奴はっ!」
 ヤコブの提案を熟考したいという形を取ってコルネリウスらに帰ってもらった後、真っ先に声を上げたのは、シェムルであった。
 獣臭いなどとゾアンである自分を侮辱したばかりか、敬愛する「臍下(さいか)の君」を軽んじられたのである。蒼馬の交渉中は何があっても黙っているようにと、常日頃からエラディアにしつこいぐらい念押しされていなければ、とっくにヤコブを罵倒するか斬りかかっていただろう。
 そんな怒り狂うシェムルの後ろでは、ズーグが自分の身体を嗅ぎながら言った。
「おい、ガラムよ。俺はそんなに臭うか?」
 くだらないことを訊くなとばかりに無言を貫くガラムであったが、さりげない仕草で自分の腕の臭いを嗅ぐところから、彼もまたひそかに気にしているようだ。
「《怒れる爪》に、《猛き牙》! ふざけたことを言っている場合かっ?!」
 シェムルに叱責を受けたふたりは、小さく肩をすくめて苦笑を交わした。
「まあまあ。落ち着いてよ、シェムル」
 自分が頼りない容姿をしていることを自覚している蒼馬は、ヤコブの自分を軽んじる言葉もさして気にも留めていない。それに、今はヤコブの提案を検討するのが先である。そして、その前にまずは確認しておかねばならないことがあった。
「山賊退治とは、どういうことですか?」
 ジェボアの商人ギルドといえば、商人を襲った盗賊はその首に多額の賞金を懸けて地の果てまで追い詰めることで知られている。そんな商人ギルドに加盟している商人を襲撃するような山賊がいるだけでも驚きだが、それがいまだ野放しになっているのはもっと驚きだった。
「それだけ、したたかな奴らでして……」
 苦い顔をする父親に代わり、ヨアシュが苦笑しながら答えた。
 ヨアシュが言うには、おそらくは蒼馬とダリウス将軍との戦いの時の敗残兵ではないかということだった。ボルニスとの境にほど近い山を根城にし、そこを通りかかる隊商や行商人を襲っていると言う。その人数は二十人ほどと多くはないが、そこいらの山賊たちよりも腕が立つばかりではなく、結束も固いらしい。
 しかし、ジェボアもまがりなりにも一国である。たかが二十人ほどの山賊ならば、簡単に討伐できるのではないかと思った。
 そう指摘すると、さすがのヨアシュも苦虫を噛み潰したような顔になる。
「実は、すでに三度ばかり討伐の兵を出しているのです」
 商人の権力が強いジェボアでは相対的に王家の力が弱く、常備軍の数も少ない。しかし、それでも二千人ばかりの兵士は(よう)している。ところが、その兵士を使って三度も山狩りをしたのだが、山賊たちが拠点としていた粗末な山小屋を発見するのがせいぜいで、肝心な山賊や強奪された金品などは見つけられず、ほとんど成果を上げられなかったのだ。
 そればかりか山賊たちも山狩り直後は鳴りを潜めはするものの、しばらくすれば再び凶行を繰り返すという、イタチごっこの状態らしい。
 軍隊を動かして山狩りまでし、それでも捕まえられないという話に、蒼馬は「もしや」と思う。その表情から蒼馬の推測を見抜いたメナヘムが、ひとつ(うなず)いて見せる。
「御推察のとおりでしょうな。このジェボアでは国軍を動かすには、十人委員の採決が必要なのです。その採決の結果をもって、初めて国軍を動かすように国王に要請を出す決まりになっています」
 蒼馬は、やはりと思った。
 そのような面倒な手順を踏んでいれば、どこからか山賊退治の話は洩れてしまうだろう。それでは山賊たちに、これから山狩りをするので逃げてくださいと言っているようなものだ。
 無論、それはメナヘムたちも気づいてはいた。
「同じことを思った一部の商人らが出資し合い、雇い入れた傭兵たちを空の馬車に乗せて山賊たちをおびき出そうとしたこともあります。しかし、それもすべて空振りに終わってしまいました」
 かなり用心深い山賊らしい。ただ自分らの縄張りを通ろうとする商人を無差別に狙うのではなく、じっくりと獲物を品定めしてから襲撃しているようだ。
 そうした話を聞いて難しい顔で考え込む蒼馬に、ガラムが提案する。
「どうする、ソーマ。応援を呼ぶか?」
 すでにボルニスの街には、蒼馬の召集を受けて平原からゾアンの戦士たちが続々と集まり始めている頃だ。
 緊急事態の伝令としてハーピュアンの戦士を二名ばかり同行させている。彼女たちに手紙を託せば、その日のうちにボルニスの街にいるマルクロニスやバヌカらが、山狩りをするに十分な数の戦士を手配してくれるだろう。
 しかし、その提案に血相を変えたのは、ヨアシュである。
「おやめください。許可なく他国の軍勢が国境を超えれば、いらぬ争いになります!」
 一個の軍隊と呼べるだけの戦士を何の許可も得ずにジェボア国内に足を踏み入れさせれば、とんでもない大事になってしまう。下手をすれば蒼馬とジェボアとの間で戦になりかねない危険な行為だ。
「だが、山賊を退治してくれとは、おまえらの仲間が言い出したことだろ?」
 シェムルが素朴な疑問をぶつけると、ヨアシュもため息をついて肩を落とす。
「だからですよ。あの方たちは、山賊を退治しろとは言っても軍勢を呼び寄せて使えとは言っておりません。今ある手勢だけか、傭兵でも雇って山賊退治しろというわけです」
 つまりは無理難題を吹っかけてきたわけだ。
 その場にいる者たちは、一様に難しい顔になってしまった。
「いつまでと期限を切られたわけではありませんので、じっくりと考えましょう」
 ヨアシュは(つと)めて明るい口調で言ったが、すぐに否定の声が上がる。
「いや。時間はないと思います」
 そう言ったのは蒼馬だった。
「たぶん、すぐにこの話を言いふらされると思います」
 短い対話からも、ヤコブが自分らを見下し、嫌っているのはわかった。ああした手合いは、多少の不利益や悪評をかぶるのもいとわず、こちらの足を引っ張ろうとするものだ。
 今回も、自分が無理難題を吹っかけているのを棚に上げ、蒼馬たちに山賊退治を頼んだことを言いふらすだろう。山賊らに頭を悩ませている商人らの期待をあおり、もし山賊退治を断ったり失敗したりすれば蒼馬の評判を損なうようにだ。
 しかも、あまり時間を置けば、今度は噂を聞いた山賊たちが姿をくらませてしまい、山賊退治そのものが達成できなくなってしまう。
 何とも陰湿な嫌がらせだ。
「何か他の方法でヤコブさんを納得させるか、今の手勢だけで山賊を退治するしかないか……」
 そうは口で言ったものの、どちらも難しいことは蒼馬も承知していた。
 今さら他の条件を提示しても、ヤコブが「私は山賊退治をしなければ認められない」と言い張るに決まっている。ヤコブ以外の反対派の豪商らを抱え込もうにも、ことの経緯を知ったしたたかな豪商らは、これ幸いにと蒼馬に対してボルニスでの特権を求めて来るだろう。それではこちらの損が増すばかりだ。
 それならば山賊退治を考えた方が、まだマシな気がする。
 ただ山賊退治をするだけならば、今の手勢だけでも不可能ではない。このジェボアに連れてきたゾアンの戦士だけでも三十人近く、いずれも選び抜かれた屈強な戦士たちばかりである。いくら兵士崩れの山賊とはいえ、彼らの力の前ならば物の数ではないだろう。
 しかし、それはまともに戦えればの話だ。いずこに潜んでいるかもわからない山賊たちを探し出すには、さすがに心もとない人数である。
 それでも時間さえかけられれば、わずかな痕跡から山賊たちの隠れ家を見つけるのは優秀な狩人ぞろいのゾアンならば造作もないことだ。また、ハーピュアンたちならば上空から怪しい人を見つけ出すのも可能だろう。
 だが、自分らが山賊退治を依頼された話が伝われば、ゾアンやハーピュアンの姿をちらりと見かけただけで、山賊たちは蜘蛛の子を散らすように逃げてしまうに決まっている。
 考えれば考えるほど手詰まりな状態に、蒼馬はうなってしまった。そんな蒼馬にシェムルが問いかける。
「打つ手も限られ、時間もない。――さて、我が『臍下の君』よ。どうする?」
 すぐにでも蒼馬が解決策を提示してくれるものと信じ込んでいる口調であった。その彼女の信頼はうれしいが、さすがにこの困難な状況を打破できる解決策など、そうホイホイと思いつくわけがない。
 さすがに無理だよ、と言おうとした蒼馬だったが、はたと言いよどむ。そして、視線を下に落とし、顎に指を添えて考え込み始めた。
「待てよ、待てよ、待てよ。打つ手も限られ、時間もない? それって向こうにも言えるんじゃないか?」
 何かを思いついたように蒼馬は小さく目を見開くと、ブツブツと独り言を言い始める。
「さあ、考えろ。どうする? どう行動する? 時間もお金もない。さあ、どうする?」
 シェムルたちにはお馴染みの光景であったが、独り言を言いながら部屋をウロウロと歩き出す蒼馬の姿を初めて目にするメナヘムとヨアシュの親子は目を丸くした。
「ソーマ様は、いかがなされたのですか?」
「……気にしないでくれ。ソーマのいつもの病気だ」
 ヨアシュに問われたシェムルは、やや気恥ずかしさを覚えて苦笑を浮かべる。
 しばらく独り言を言いながら考えを巡らせていた蒼馬だったが、不意に「よしっ!」と小さく声を洩らすと足を止めた。
 すると、シェムルたちは無言で蒼馬の指示を受けるべく、彼の前に立つ。
「シェムル」
 最初に声をかけたのは、もちろん彼女の名だ。
「マルクロニスさんに連絡したい。後で手紙を書いてもらう。ハーピュアンの伝令の準備もしておいて」
「心得た。我が『臍下(さいか)の君』よ」
 さらに蒼馬は、居並ぶ三人の豪傑――ガラムとズーグとドヴァーリンに声をかける。
「先程も言いましたが、ことが解決するまでは皆に外出禁止を徹底させてください」
 それに三人は重苦しい表情でうなずいた。しかし、蒼馬の次の言葉で破顔する。
「そして、いつでも戦える準備を」
 それから蒼馬は、メナヘムへ向き直った。
「メナヘムさん、このことを十人委員の方々にお伝えください。僕たちは戦いの準備はしますが、あくまで山賊退治が目的です。街で騒動を起こすつもりはないと」
 山賊退治の準備をジェボアで騒ぎを起こすものだと、ヤコブらに揚げ足取りをされないための布石を打つ。
「承知した。すぐにでも十人委員の諸兄らに伝えておきましょう」
「それと、ひとつ確認したいのですが」
「ほう。それは、何ですかな?」
「先程、傭兵を雇ってという話がありましたが、この街には傭兵団がいるんですか?」
「無論、おりますが?」
 戦争がなくとも、傭兵団は食っていかねばならない。そのため、隊商の護衛や商人の邸宅の警護などの働き口が多いジェボアを拠点としている傭兵団が多いそうだ。
 蒼馬は満足げに、よしよしとうなずいてから言った。
「メナヘムさん、頼みがあります。数台の馬車と、それを動かす人手。そして、商人ギルドの旗を貸していただけないでしょうか?」
 何を要求されるかと思ったが、大したものではなかった。それらならば、すぐにでも用意できるとメナヘムはふたつ返事で()け負った。
「それと、もうひとつお願いが」
 しかし、蒼馬の頼みは、それだけではなかった。
「大規模な山狩りをするのに必要な傭兵を集めたいので、その交渉をお願いします」
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