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破壊の御子 作者:無銘工房

龍驤の章

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第6話 海

 少女は、海の中を泳いでいた。
 まだ、顔にあどけなさを残す少女である。そんな少女が銀色の髪をなびかせながら、自由自在に海を泳いでいた。
 しかし、季節は初春である。陸の上ですら、ようやく春の足音が遠くに聞こえ始めたという頃だ。いまだに海の水は冷たく、長く浸っていれば身体の芯まで凍り付いてしまうだろう。
 ところが少女が身に着けているのは、つつましやかな胸を覆う幅広の胸帯と、腰に巻いた革製の腰蓑だけである。とうてい防寒の役には立ちそうもない(よそお)いだ。
 そうだというのに、少女は水の冷たさを微塵(みじん)も感じていないのか、憂いひとつ感じさせない明るい笑みを浮かべ、魚も驚く速度で海中を泳ぎ回っていた。
 しかし、それもそのはずである。
 少女が水を蹴るようにして激しく上下に動かすのは、二本の足ではない。
 それは、大きなひれである。少女の腰から下は、人間の足のようにふたつに分かれることなく真っ直ぐ伸び、その先には寝かせた半月のような大きなひれがついていたのだ。
 マーマンである。
 水の女神によって創造されたとされる半人半魚の種族だ。
 マーマンの少女は、海中に湧いた積乱雲のような小魚の群れを見つけた。少女は悪戯っぽい笑みを浮かべると、いったん大きく弧を描くようにして海中を泳ぎ、勢いをつけてから小魚の群れに頭から突っ込んだ。この突然の襲撃に、小魚たちは群れを乱して慌てふためいた。
 そんな小魚の様子を十分堪能した少女は、大きく水を蹴って浮上すると、波間に頭を覗かせる。
「あー! 楽しかった!」
 これだけ思いっきり泳いだのは久しぶりである。いつもは王国の周りから離れることを許されていないため、全力で泳ぐのもままならない。それに、王国の周りでは常に誰かの目を気にしていなければならないので、とても窮屈(きゅうくつ)だ。
 そんな状況に嫌気が差した少女は、御付きの(ばあ)やの目を盗み、こうして王国から遠く離れた陸地の近くまで泳ぎに来ていたのである。
 今頃は自分がいなくなったのに気づいた婆やが慌てふためいていることだろう。
 おろおろと自分を探す婆やの姿を想像し、おかしくなった少女はクスリッと笑いを洩らした。
 しかし、そろそろ戻ってあげないと婆やも、かわいそうだ。
 そう思って再び泳ぎ出そうとした少女の視界の隅に、きらりと輝くものが映った。
 なんだろう?
 どうやら陸地の方で、何かがキラキラと輝いているようだ。少女は好奇心に誘われるがままに陸地へと泳いで行った。
「……! 鏡だ」
 それは、一枚の手鏡であった。難破した船の荷物だったものが浜に打ち上げられたのか、半ば砂に埋もれた手鏡が太陽の光を受けて、きらきらと輝いていたのである。
 少女は、ごくっと唾を飲んだ。
 鏡は、貴重品である。そして、それはマーマンにとっては、なおさらであった。
 それを象徴するのが、歴代の女王の玉座の後ろに飾られた一枚の大きな鏡である。この鏡は、百年程前に難破した船の中から見つけられたものだが、これを献上した平民の男は当時の女王から百家族から税を徴収する権利と地位ばかりか、末の姫まで下賜(かし)され、貴族に叙せられたという。
 そして、マーマンにとって鏡は単に珍しいというだけではない。この世界で鏡といえば、それは金属を丹念に磨いた銅鏡である。しかし、せっかくの鏡も、海では塩気にやられてしまい、すぐに曇ってしまう。そのため、その輝きを維持するために、鏡は定期的に高い費用を払って磨きに出さなくてはならないのだ。
 マーマンにとって鏡とは、これほど貴重かつ高価なものである。
 ましてや少女は自分の容姿に興味を覚え始めた年頃だ。(ぼん)に水を張った水鏡ではなく、自分だけの鏡を持ちたいと願うのも無理はない。
 少女は素早く周囲を見回した。
 陸地には、自分らを捕まえて奴隷として売り払う悪い人間も多いと聞く。そのため、陸地に上がってはならないと耳にタコができるほど言い聞かされてきた。
 だが、鏡が落ちている周囲に人影はない。また、そこは岩場がそこだけくぼんだようにできた小さな入り江である。そこならば他からは物陰となっていて、少女が浜に上がっても姿は見られないだろう。
 意を決した少女は両手をつき、下半身を引きずりながら浜へと上がった。
 そして、砂まみれになって浜に落ちていた鏡に手をかけようとした、その時である。
「今だ! やれ!」
 突然、野太い男の叫び声が上がった。
 それに驚く少女の上に、投網がかけられる。とっさに両手を振るって網から逃れようとするが、ますます網が絡むだけであった。
「早く黙らせろ! 早くだっ!」
 砂浜に掘られた塹壕(ざんごう)のような穴から、それまで息を潜ませていた人間の男たちが次々と飛び出し、網にかかった少女に群がる。少女は悲鳴を上げようとするが、その声は口に押し込まれたすえた臭いがする布に塞がれてしまった。必死に抵抗しようと伸ばした手も逆に男たちに掴まれて縄で縛られてしまう。
「急げ、ずらかるぞ!」
 その言葉と荒々しい男たちの足音を最後に、浜には静寂が戻る。
 そして、誰もいなくなった砂浜に、ただ小さな波だけが打ち寄せていた。

               ◆◇◆◇◆

 シャピロ商会から蒼馬をジェボアへ招待する報せが届いたのは、メナヘムとヨアシュの親子をジェボアに見送ってから、すぐのことである。
 その報せを受けた蒼馬は、ホッと胸を撫で下ろしていた。
 何しろ歓待した相手は、どこに行っても(ぜい)を凝らした歓待を受けているであろうシャピロ商会の会長である。そんな人に自分をジェボアに招いてもらうように歓心を得なければならなかったのだ。
 どのように歓待すれば良いか思い悩んだ末にヨアシュに相談したところ、「いつもどおりでよろしいでしょう。いつもどおりで」と、あまり役に立たない助言しかもらえなかった。
 いつもどおりと言われても、ヨアシュがボルニスを訪れた時は、料理人のマルコと一緒に再現した現代日本の料理を振る舞うぐらいである。別段、高価な贈答品を渡したり、盛大な宴を開いたりしたわけではない。そんなので本当に大丈夫なのか、とても不安だった。
 そして、案の定というべきか、メナヘムの反応はあまり良さそうには見えなかった。
 当初は穏やかな微笑みを浮かべていたメナヘムだったが、食事の度にだんだん表情がこわばっていったのだ。口では堪能していると言っても、やはり料理が舌に合わなかったのだろう。それでもどれかひとつぐらいはメナヘムの舌にも合うのではないかと、あれやこれやと出してみたが、それも逆効果だったようで、しまいにはメナヘムは頭を抱えそうですらあった。
 それとは対照的に楽しくてたまらないといった様子のヨアシュに、「これは、からかわれたのかな」とひそかに落ち込んでいた蒼馬である。だが、これほど早くジェボアへ招待してくれたのだから、何とか及第点をもらえたのであろう。
 そう安堵(あんど)するとともに蒼馬は、メナヘムの気が変わられては大変とばかりに、急ぎジェボアへ出立する準備を始めたのである。
 そして、いよいよボルニスの街から出立しようとした時、またもやジャハーンギルが馬車に乗り込んできた。
 この表情からは何を考えているかわからないディノサウリアンの戦士が、断りもなく蒼馬に同行しようとするのはいつものことである。
 もはや蒼馬もシェムルも、とやかく言うつもりはない。だが、完全武装で鼻息も荒いジャハーンギルの様子には、さすがに声をかけないわけにはいかなかった。
「あの、ジャハーンギルさん。その格好は……?」
 遠慮がちに尋ねる蒼馬に、ジャハーンギルは何をくだらないこと尋ねるのだとばかりに、ひとつ大きな鼻息を立てる。
「ジェボアに殴りこむのだろ。我に任せるがいい!」
 どうやらソロンの言葉を誰からか聞いていたようである。
「あの……殴り込むというのは(たと)えであって、戦を仕掛けるわけじゃないんですよ?」
 ホルメア国がこちらへ攻め込もうとしている現状において、まさか後背に当たるジェボアまで敵に回すのは、いくらなんでも無謀が過ぎる。
 そのことを説明するとジャハーンギルは、しばらくその縦長の瞳孔をした目をパチクリとさせた。しばらく固まったように動かなかったジャハーンギルだったが、やおら垂れた尻尾を引きずりながら馬車を下りてしまう。
「あれ? 一緒に行かないんですか?」
 戦がなくても、何だかんだと一緒についてくることが多かったジャハーンギルだけに、素直に馬車から降りたのは意外だった。それを蒼馬が尋ねると、ジャハーンギルはぶっきらぼうに言い捨てる。
「我は、海は好かん」
 彼と同じ意見だったのが、ドワーフの戦士長ドヴァーリンである。
「わしも海は遠慮したいわ。それに頼まれた仕事もあるのでな」
 このふたりは、西域以外の国から奴隷船で連れてこられた元奴隷である。薄暗く狭苦しい奴隷船の船底に、他のたくさんの奴隷たちと一緒に閉じ込められ、何日も波に揺らされてようやくこの西域までやってきたのだ。もう海はこりごりなのだろう。
 しかし、ジャハーンギルはともかくとして、蒼馬はドヴァーリンには同行して欲しかった。
 ドヴァーリンは、ボルニスの輸出の主力商品であるガラスや石鹸などの生産を行う各工房を統括管理している責任者である。ジェボアの商人との交渉において、そうした工房の生産状況や今後の見通しなどの説明を求められた時にいてくれると大いに助かるからだ。
 そのため事前に同行するように打診しておいたのだが、抑え込んでいた海への苦手意識がジャハーンギルの言動で首をもたげてきてしまったのだろう。
 もともとドワーフであるドヴァーリンは、奴隷時代の嫌な想い出がなくとも海などの大量の水を苦手としていた。
 それはドワーフの種族的特徴が関係する。ドワーフの身体は、他の種族と比べて筋肉や骨の密度が高い。このためドワーフは、その身体の大きさの割に力も強く頑丈なのである。だが、それが水の中では、かえって仇となってしまうのだ。
 人の身体が水に浮くのは、水より比重が少し重いだけだからである。そのため、手足で水を掻いたり、肺に空気を入れたりするだけで水に浮かぶことができるのだ。
 ところが、筋肉や骨の密度が高いドワーフは、種族全体がカナヅチなのである。
 蒼馬としては、できればついてきて欲しいが無理強いはしたくない。ドヴァーリンとしては恩義ある蒼馬に頼まれれば嫌とは言いにくいが、やはり海には行きたくない。
 そうして悩むふたりを交互に眺めていたジャハーンギルだったが、不意に動いた。
 顔をしかめて考え込むドヴァーリンの首根っこをいきなり掴み上げると、まるで木端(こっぱ)でも放り投げるようにして馬車の荷台に放り込んだのである。
 蒼馬とシェムルが思わず首をすくめてしまうほど盛大な物音を立てて馬車の荷台に放り込まれたドヴァーリンだったが、すぐに湯気を立てる頭を荷台から出して抗議した。
「おのれ、ジャハーンギル! わしを裏切りおったな!」
 しかし、ジャハーンギルは良い仕事をしたとばかりに大きく鼻を鳴らすと、のしのしと足音を立てて立ち去ってしまう。
 しばらくは怒り心頭といった様子のドヴァーリンであったが、放り込まれたとはいえ一度乗ってしまった馬車から降りるのも体裁が悪いと観念したのか、不機嫌な顔で馬車の荷車の荷台にドカッと胡坐(あぐら)をかいて座り込んだ。
 それを確認した蒼馬は、馬丁に連れて来させた馬の(あぶみ)に足をかけ、ひらりと馬の背中に乗った。すると、いつものようにシェムルがその馬の(くつわ)を取る。
「それじゃあ、出立しようか」
 エラディアやマルクロニスらに見送られ、蒼馬はジェボアへと出立した。

               ◆◇◆◇◆

 ボルニスを発った蒼馬は、ことさらゆっくりと馬を進めた。招待されたからと言って、慌ててジェボアに向かえば、足元を見られるからだ。
 何とかホルメア国が侵攻して来るまでに、ジェボアと良好な関係を結ばねばならないという焦りを抑え込み、蒼馬はあえてゆっくりとジェボアへと向かったのである。
 そして、ボルニスの街を出立してから、五日目の昼。ひたすら街道をジェボアへと馬を進めていた蒼馬たちは、ついに海を目にしたのである。
「ソーマ! あれが海か?!」
 知識として海は知っていても、その目にするのは初めてのシェムルであった。興奮に目輝かせるシェムルに、蒼馬はクスッと笑いを洩らす。自分が乗る馬の(くつわ)を取っていなければ、今にも海に向かって走り出しそうな雰囲気である。
「そうだね。ちょっと寄り道をしていこうか」
 蒼馬は寄り道することにした。街道を()れて砂浜まで下りると、毛を逆立て、うずうずとしているシェムルに「近くで見てきなよ」と声をかける。すると、シェムルは手綱を解かれた犬のように、波打ち際まで駆け寄った。
「すごいな、ソーマ! これが海か!」
 最初は波が打ち寄せて来るたびに、大げさなほど後ろに跳び退いていたシェムルであったが、波が危険なものではないとわかると、今度は波打ち際ではしゃぎ始める。
「これが波か! すごいな! それに、ソーマの言うとおり水がしょっぱいぞ! 誰がこれだけの水に塩を入れたんだ?!」
 絶対の忠誠を捧げる「臍下の君」の言葉を疑ったことはないが、やはりこうして実物の海に接すれば、シェムルも興奮せずにはいられない。
 まるで初めての海に連れて行ってもらった子犬のように、シェムルは波と(たわむ)れる。そんなシェムルとは対照的に、他のゾアンたちは茫然自失といった様子であった。
 そうしたゾアンたちも、シェムルと同様に知識としては海というものは知っていた。それでも、遠くから眺めた海が本当に大量の水であるとは理解できなかったのである。
 それは、彼らゾアンがこれまで平原以上に広いものを知らなかったからだ。
 彼らの中では、果てしなく広いもの=平原という常識が根付いていた。そのため、遠くから眺めた海も、青黒い草が生い茂っている平原なのだろうと勝手に解釈してしまったのである。
 しかし、実際に波打ち際に立てば、さすがに海が水でできていると認めるしかない。
 この時、蒼馬に同行していたゾアンの戦士たちは、それまでの常識と目の前に広がる現実との差に打ちのめされ、ただ茫然と立ち尽くしてしまうしかなかった。
 それは平原では両雄と讃えられるガラムとズーグのふたりも例外ではない。
「おい、ガラムよ」
 いまだ魂が抜けてしまったような顔のズーグは、自分と肩を並べて海を見つめているガラムに声をかけた。
「何だ、ズーグ?」
「どうも山の向こうには、黄金の国はなかったようだぞ」
 初めて目にする海の広大さに、ズーグは圧倒されていた。しかし、生来のひねくれ者である彼は素直にそれを認められず、からかったガラムから返って来る怒声でいつもの自分の調子を取り戻したかったのだ。
 ところが、返ってきたのは自分と同じ茫然とした声である。
「ああ。火の国もなかったようだな……」
 しばし、ふたりは無言のまま海を眺め続けたのである。

               ◆◇◆◇◆

 思わぬ寄り道によって予定よりも一日遅れてジェボアに到着した蒼馬たちをシャピロ商会の使用人と名乗る男がジェボアの街の正門前まで出迎えにきていた。予定より遅れたことを蒼馬が詫びると、かえって男に恐縮されてしまう。
 その男に先導されて、蒼馬たちはついにジェボアの街に入った。
 街に入るには面倒な手続きがあると覚悟していた蒼馬たちであったが、いかめしい顔つきの門衛たちもシャピロ商会の使用人の会釈ひとつで道を開けてくれた。シャピロ商会の影響力の強さを蒼馬たちに実感させた出来事である。
 正門を抜けた先は、まっすぐ港へと続く目抜き通りであった。そこには瞳や髪だけではなく肌の色まで違う人々でごった返しており、道の両脇に並ぶ露店からは威勢の良い売り声が飛び交っている。
 その通りに(のき)を連ねる屋敷の形状もまた様々だ。屋根だけ取ってみても、丸いものから平らなもの、尖ったものといろいろある。ただし、屋敷の建材が安価な日干し煉瓦ではなく、赤茶色の焼煉瓦であるのは、さすがは裕福な商人の街と言えよう。
 そんな多種多様な人種と文化のルツボであるジェボアの街でも、奴隷ではないゾアンが珍しいのか、蒼馬たちは先程から道を行き交う人々の注目を集めていた。
 時折こちらを見やり、ヒソヒソと声を潜めて語り合う人の姿は、正直気分が良いものではない。
 そのため、シャピロ商会が用意してくれた屋敷に到着した時には、誰もが無意識に胸を撫で下ろしたのである。
「ヨーホー! ようこそお出で下さいました。どうかここを我が家だと思い、おくつろぎください」
 屋敷に入ると、ヨアシュが満面の笑みで蒼馬たちを出迎えた。その後ろには、多忙なはずのメナヘムがいる。
「この度は、お招きいただきありがとうございました。しばらく、御厄介になります」
 蒼馬が感謝の言葉を述べると、メナヘムは「大したことではありません」と応じた。それから、何か気になるのか、しきりと蒼馬の後ろにいる同行者たちに視線を向ける。
 蒼馬は、すぐにそれを察した。
「マルコ、ちょっと来て」
 初めて見る異国風の建物と内装に、口と目を大きく開けて眺めていたマルコを呼ぶ。招待状に「ぜひ料理人も」という一文があったため今回のジェボア訪問にはマルコも同行させていたのだ。
「このマルコが、僕の料理人です」
「おお! 彼がそうか」
 マルコを紹介されたメナヘムは、破顔した。現代日本の料理はダメだったのかと思っていたが、意外と気に入ってもらえていたのかもしれないと蒼馬もホッとする。
 そんな蒼馬に、ズーグが声をかけてきた。
「ソーマ殿。俺は港とやらを見てみたいのだが」
 ゾアンの中では革新的な考えを持つズーグである。早くも初めて目にした海の衝撃から立ち直り、大きな交易船が停泊するという港に興味を持ったようだ。
 ここは快く認めてやりたいところだが、あえて蒼馬は首を横に振る。
「しばらくは、ここでおとなしくしましょう。他の方にも、当分は外出禁止だと伝えておいてください」
 この街の人々のゾアンに対する過剰な反応を見る限り、無暗に接触させるべきではない。無用の騒動を避けるためにも、しばらくは外出を制限するのが妥当だろう。
 ズーグは不服そうだったが、ヨアシュがにこやかに微笑んでいるところを見ると、正しい判断だったようだ。
 そこにひとりの使用人の男がやってきて、メナヘムに何やら耳打ちした。
 それまで上機嫌でマルコに、屋敷の厨房を自由に使ってくれ、珍しい食材も取り揃えてあると説明をしていたメナヘムの顔が曇る。
「どうやら先手を打たれたようですな……」
 メナヘムの口ぶりは、何かが起きたようだ。蒼馬から問うような視線を向けられたメナヘムは、ひとつため息を洩らしてから告げた。
「十人委員の数名が、ソーマ様にご挨拶したいと訪ねてきております」
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