第4章:決断
「よお、ヒイラギ。久しぶりだな」
「久しぶりだな、アスカ」
いつもの場所―とある繁華街の路地裏―へ行くと、ジンの姿は無く、代わりにアスカがいた。
アスカは、オレよりも10歳年上の男だ。茶髪に片耳ピアス。背も高くてその辺にいそうな兄ちゃんって感じだ。ハッキリ言って、アスカはヤクザに見えない。だが、こう見えてアスカは雪花組の重要な一員なんだ。
理性的で、いつも冷静だ。オレは、結構アスカのことを頼りにしている。
「ナツメの所へ行って来たのか?」
近くの喫茶店に入って一番奥のテーブルに着いたところで、アスカはそう切り出した。
オレは、店員にカフェオレを頼んでから、うなずいていった。
「ああ。だけど、どうすることもできなかった」
「だろうな」
運ばれてきたホットコーヒー(ちなみにブラック)を飲みながらアスカは納得したようにうなずいた。
「君達から離れていったナツメが見舞いに行ったぐらいで戻ってくるなんて思えない」
「ナツメは・・・恋人の事故が自分のせいだってまだ思ってるんだ」
そう。ナツメは恋人がひき逃げにあったのは、自分のせいだと思っている。ヤクザだったコロの自分に恨みを持つ人間の仕業だと。
「あいつらしいね」
アスカはそういって微笑んだ。
「どうやら本当にミナミが好きなようだね。でも、ナツメのせいじゃなかったりするんだよなあ、実は」
「えっ!? アスカ、何か知ってるのか?」
アスカの言葉にオレは顔を上げた。アスカは苦笑していった。
「これは言わないでおこうと思ったんだがな・・・。実はナツメをミナミと逢わせたのはこの俺なんだ。ミナミは俺の親戚に当たるんだ」
「へ・・・」
初耳だった。
「ミナミの家庭は複雑でさ。結構恨まれたりとかしてたから、そっちの線でミナミはひき逃げにあったんじゃないかと俺は踏んでいるんだ」
確かに。そのほうが筋が通りやすいかもしれない。
じゃあ、ナツメは考え損をしているのか?
「どうする、ヒイラギ」
不意にアスカがオレに訊いた。アスカは真剣な顔をしていた。
「どうするって・・・?」
「もし、君がミナミのひき逃げについて調べたいというのなら俺は協力するぜ」
「調べる・・・? オレが・・・?」
オレは当惑した。オレにそんな義理は無い。あいにく、オレはそこまで慈悲深くは無いんだ。
「しないに決まってるだろ」
「ナツメに戻ってきて欲しくないのか?」
アイスカフェオレを飲もうとしていたオレの手が止まった。
「ミナミのひき逃げの犯人が分かれば、ナツメは戻ってきてくれるかもしれないぜ?」
「・・・」
「そうすれば組は安泰。ナツメとジンも仲直りするだろうし、俺は親戚のミナミの敵が取れて嬉しいし、君はナツメが戻ってきてくれて嬉しい。皆が万々歳の結果になるぜ」
「・・・」
アスカはずるいと思う。ここまで言われたら、オレは首を縦に振らなくちゃいけないじゃないか。
確かに、ジンとナツメには仲直りをして欲しい。このままなんて、耐えられない。それに正直、ナツメには傍にいて欲しい。それに、ミナミというオレと同い年の子のことも気になる・・・。
「どうだ?」
オレの性格を熟知しているのに、アスカはそんなことを聞いてくる。オレは精一杯睨んで言ってやった。
「分かったよ。調べてやろうじゃねえか!!」
アスカはフッと微笑み、言った。
「俺も協力するよ、ヒイラギ」
「ったり前だ!!」
何がおかしいのか、アスカの顔には笑みが耐えない。
オレ、馬鹿にされてる・・・?
「じゃあ、一緒に調べような、ヒイラギ。ジンには内緒だぜ」
「ああ」
オレはうなずいた。ナツメの恋人の事故について調べるなんていったら、荒っぽいジンのことだ。何をするか分からない。
こうして、オレはナツメの恋人、ミナミについてアスカと共に調べることになった。
この決断が、後のオレの人生を大きく変えることになるなんて、そのときのオレは気づかなかった。 |