第3章:一ヶ月前〜決別〜
「どうしてだよ、ナツメ!!」
信じられないような言葉を吐いたナツメにオレは詰め寄った。
ナツメは相変わらず微笑んでいた。
「彼女のためだ」
「は?」
「ヒイラギも知ってるだろう? 俺に敵が多いことを」
オレは、首を縦に動かした。そんなことはもちろん知っている。この若き組長はとにかく敵が多かった。
「あいつ等が俺に彼女ができたと知ったら、間違いなく彼女をひどい目に合わすだろう? 俺は、彼女をそんな辛い目にあわせたくは無いんだよ」
静かな、それでいて厳しい声だった。ナツメがそこまで決意しているのなら、俺は何も言えなかった。だいたい、ナツメが思っていることは普通のことかも知れないんだ。彼女のためを思うなら、組長なんてやらないほうが良い。
でも、やっぱり心のどっかでオレは悲しかった。一端、こうと決めたら大地震並みのことが無い限り、意思を変えないナツメのことだ。きっと、もう戻ってきてはくれないだろう。
絶対に。
「ナツメ・・・」
「ごめんね、ヒイラギ」
ナツメがそっと、オレの頭をなでた。この美形男はたまに17歳のいたいけな少年の心を揺さぶる。
「いいよ。ナツメが決めたことなら・・・」
ナツメが決めたんならそれで良い。オレに、とやかく言う権利はない。ここは理解のあるところを見せたい。友達として。
「幸せにしてやれよ」
「ありがとう」
ナツメがそういったときだった。
「無責任になってんじゃねえよ、ナツメ!!」
知らないうちに、ジンは立ち上がっていた。その灰色の瞳でナツメを睨みながら怒っていた。
「ジン・・・」
「おい、ナツメ!! お前に彼女ができようが、おれは知ったこっちゃねえ。だがなあ!! 組をやめるってことはどういうことか分かってんのかよ! お前は組長なんだぞ!!」
そう怒鳴るジンを見て、ナツメはやれやれ、とでも言うようにため息をついていった。
「ジン、結局君にとって大切なのは組のことか」
「当ったり前だろ!!」
「ヒイラギは俺のことをまず考えてくれたけどね」
なんだか、すごい言い争いになっている。この2人がけんかをするなどオレは思っても見なかったのだが・・・。
「二人とも、喧嘩は」
「お前は黙ってろ、ヒイラギ!!」
「ヒイラギ、口出ししないでくれ」
柄にも無くとめようとするオレは、あっさりとナツメとジンに跳ね除けられた。どうやら、本気で言い争いをするつもりらしい。
今まで気持ち悪いほど仲の良かった二人だけにオレはドキドキハラハラ。どうすれば良いのかさっぱり分からない。
ジンとナツメはお互いを睨んでいた。ナツメが先に口を開く。
「ジン、お前は一体どうしたんだい? さっきは勝手にしやがれ的な発言してたくせに。彼女ができたと俺が言ったときにお前はもう気づいていたんだろう? 俺が組を抜けることを」
「ああ。分かってたさ。勝手にすれば良いって思った。一度はなあ。でもな、お前が抜けるとどうなる? 組長がいきなりカタギになる? はっ!! しかもその理由は彼女のため? 笑わせんな。さっきのおれはどうかしてたんだよ。よくよく考えてみりゃあ、おれ達にまで火の粉が飛んできていることに気づいたのさ」
はき捨てるようにジンは言った。ナツメは何も言わない。ただじっと静かな目でジンを見ていた。返す言葉が無いのか、それとも自分の決心は固いのに尚も自分の心に揺さぶりをかけようとするジンを哀れんでいるのか。どちらか、オレには皆目分からなかった。
オレに分かっていることはただ1つ。ナツメの決心は揺るがないということ。オレやジンがどんなに言ったって、ナツメは足を洗う。彼女のためにカタギになる。それだけは代わりようの無い事実。ナツメが組をやめるといった時点でオレには分かっているような気がした。だからこそ、寂しかったけれど、行って欲しくなんか無いけど、理解のあるところを見せたんだ。
クールで大人びた少年ヤンキー、ヒイラギとして。
静かなときが過ぎた。嫌な沈黙が辺りを支配した。
「そうかよ」
不意に、ジンがそういった。オレはジンを見る。ジンの目には何ともいえない光が宿っていた。悲しみなのか、怒りなのか、それともその両方なのかはオレには分からない。そう。オレにはわからないことだらけなんだ。ナツメのことも、ジンのことも。
「やめたきゃさっさとやめやがれ」
そういうとジンはきびすを返し走り去った。
「ジン!!」
あとを追おうとするオレの肩をそっとナツメがつかんだ。
「ヒイラギ」
「ナツメ・・・」
「もう、これで会うのが最後になるな」
「・・・うん」
そういってオレはうつむいた。やはり、直接言われると涙が出そうになる。
「そんな顔をするな、ヒイラギ。こっちまで悲しくなる」
オレは顔を上げた。ナツメは微笑んでいた。きっとこの男はこの微笑で、ミナミといういたいけな少女を自分の虜にしたんだろうな。
「まあ、ジンには一生会わないつもりだけど、ヒイラギとはまた街で会うかもしれないな」
「ジンとはもう会わねえのか?」
オレの問いにナツメはきっぱりと答えた。
「会わない。俺とジンはこれで決別だ。もう会うことなんて無いだろう」
「そう・・か」
どうしてこうなったんだろう? あんなに仲の良かったオレ達は一体どこで道を間違えたんだ?
「あとのことは、すべてアスカに任せてあるから」
アスカ。ジンとライバル的存在にある理性を持った男だ。オレも結構仲が良い。
「じゃあな、ヒイラギ。またどこか出会えることを願うよ」
そういってナツメは行ってしまった。オレは、後を追うことはできなかった。
2週間後。アスカから、ナツメの恋人が事故にあったと聞いた。どうやら、ひき逃げらしい。
ナツメは意識不明状態の恋人にずっと付き添っているらしい。
一体、歯車はどこで狂ってしまったんだろう・・・? |