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アライヴ
作:亜月 聖



第38章;翌朝の病院


ヒイラギが病院に運ばれた夜、俺たちは大騒ぎだった。
病院に着いたのが、午後10時。
思ったよりもヒイラギの怪我の状態は思わしくなく、傷は膿を出しているそうだ。
その後、手術やら入院手続きやらで、またたく間に一夜が過ぎた。
ヒイラギの手術も、真夜中に無事終わった。
ただし、意識は戻っていない。


現在の時刻は、午前8時。
結局、俺もナツメもジンも、家には帰らなかった。ただひとり、由美だけは家に帰した。未成年だからな。
由美は心配しまくっていたけど、今日は学校。何かあったらすぐに連絡すると約束し、しぶしぶ登校。

「来なかったな、ヒイラギの母親」
病室で、ジンが伸びをしながら言った。
俺達男3人は、病室(ちなみに個室)のベッドの横で一夜を明かした。

「そうだね、連絡したらしいんだけどねぇ・・・」
そう。彼の母親は来なかったんだ。
一応、病院側の人が母親の携帯番号(ヒイラギの携帯から勝手に見た)に連絡をしたらしいんだけど、留守番でつながらなかったとか。
留守番にメッセージは残したらしいけど。
病院の関係者やナツメ、ジン、由美までもが不審がっていた。もちろん、俺もだ。

いったい、どういうつもりなんだ?
過去に何があったかは知らないが、自分の息子だぜ?
撃たれて入院、手術もしたってのに、連絡もなしとか。
それでも母親かよ?

「俺、ちょっとミナミのところ行ってくる」
ナツメが唐突にそう言ったので、
「あ、じゃ俺も行く」
ついていくことにした。

一緒に病室を出て、ミナミの元へと向かう。
どちらも無言だった。
ちらりとナツメを見ると、昨夜よりいくらかは、顔色が良さそうだった。
ヒイラギが倒れた時は、本当に真っ青だったからな、こいつ。
少しは思い出したのだろうか、自分のことを。

フジミネナツヤ。
俺はその名前を知っている。
ま、ヒイラギの意識が戻るまでは、何も言う気はないけどね。
彼へのサプライズってことで。

ヒイラギ、びっくりするだろうなあ。
なんて思っているうちに、病室へ到着。
そっとドアを開けると、そこにアラガキの姿はなかったのだが・・・。

「あら、いらっしゃい! ナツメさん、アスカさんも!」



ベッドの上で、ミナミが笑みを浮かべていた。



え?




これって、どういうことですかね?
つまり、意識が戻ったってこと・・・?


「・・・み、みなみ?」
「はい。何ですか、アスカさん」
「意識・・・、戻ったの?」
俺の質問にあっさりと彼女はうなずく。
「はい。2時間ほど前に」
「・・・・・・・・・」
沈黙。


意識が、戻った。



まあ、嬉しいことなんだけどさ。
意外とあっさりと目を覚ますもんなんだねえ。

「ミナミ・・・。良かった・・・」
俺の隣では、ナツメが本当に嬉しそうな顔をしている。
まあ、とにかく良かったよかった。

俺とナツメが並んで椅子に腰かけると、ミナミは相変わらず微笑みながら、言った。

「実は、私が意識を戻したのは、ミライのおかげなんですよ」
「ミライの、おかげ?」
どういう意味だ?
「意識が戻る前、ミライが私に言ったんです。『大好きだよ、ミナミ。私の分まで生きてね』って」
「・・・そっか」
俺はうなずいた。ミライも、なかなか粋なことをする。
昨日の一件、彼女は見ていたはずだ。
ミライの魂は、救われた。
そう考えても良いんじゃないかな。
安らかに眠れ、ミライ。
また会う日まで。

「これで、ヒイラギの意識が戻れば、万々歳なんだけどなあ」
約十分後。ミナミの病室を後にして、俺はつぶやいた。
朝も早いし、また後でゆっくりミナミとは話すつもりだ。
コウガと真央の処分も、彼女に決めてもらう予定だし。

俺のつぶやきに、ナツメは曖昧に笑っただけだった。

しばし無言で俺たちは歩いた。
しばらくして、ナツメが口を開いた。
「なあ、アスカ・・・」
「ん?」
ちなみに俺たちは、売店に向かって歩いている。腹の虫がうるさいんでね。
「俺さ、思い出したことがあるんだ」
「何だい?」
「うまく言えないんだけどさ、フラッシュバックみたいな感じで、さ」
「へぇ〜」
もしかして、記憶が戻ったとか? まあ、それはそれで良いことだけど。
「昨日、ヒイラギが倒れたとき・・・」
売店遠いな。
「俺、すごく怖かった。でさ、前にもそんなことがあったなあ、って急に思ったんだ。まだ俺が学生の頃、ヒイラギが危険な目に遭って、俺は必死に彼を助けようとしたんだ」

売店、どこにあるんだろ。

「俺の昔の記憶・・・。ずっと思ってたけど、鍵を握っているのはヒイラギなんじゃないかな。ヒイラギが目を覚ました時、俺はすべてを思い出す気がしてならないんだ」
「あ、あった」
俺は足を止めた。目の前は売店。パンが食べたい。
そんな俺に、ナツメは眉をよせて、
「アスカ。俺の話、聞いてた?」
「ん? もちろん聞いてたさ」
大体はね。
「でも、今のところは何も言えないんじゃないかな。すべては、ヒイラギの意識が戻ってから、だろ?」
「まあ、そうなんだけどさ・・・」
ナツメは言葉を濁し、その後は何も言わなくなった。

もちろん俺は、彼が何を言いたいのかくらい、分かっている。
だけど、物事には順序ってものがあるからね。
まずは、ヒイラギの意識が戻ること。それが第一。
真実を知る権利は、ヒイラギだって持っているからね。


俺とナツメはそれぞれパンを買い、ついでにジンの分も買って、病室に戻ろうとした。
その時だ。一人の看護婦が、俺達に近づいてきた。
「あの、藤峰ヒイラギ君の付き添いの方たちですよね?」
「そうですが」
その看護婦は、少しためらってから、言った。
「さっき、藤峰君の病室を、尋ねて来られた方がおられたんです。それが、30代くらいの女の方で・・・」
彼女の言わんとすることが、分かった。
とうとう来たか。この時を、俺は待っていたんだ。

「分かりました。教えてくださって、ありがとうございます」
俺は彼女に軽く礼を言い、ナツメをせかして、ヒイラギの病室へ向かった。
これからが、本当の意味でのフィナーレだ。
ヒイラギにとっても、ナツメにとっても。












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