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ジン視点です。
アライヴ
作:亜月 聖



第36章;生きる


俺は、腹の底から怒りがこみ上げてくるのを、必死に抑えていた。
拳を固め、心を落ち着かせようとしていた。

ガキだとは思っていたが、これ程とは思わなかった。
これで、ヒイラギと同い年とはな。
見えねえぜ、全然。
俺は真央と約束をした。コウガに危害は加えない、と。
俺は基本的に、約束は絶対に守る。誰かさんとは違ってな。
だから、繁華街をふらついていた彼を連れてくるときだって、じっと我慢したんだ。
だが、もう限界らしいな。

こいつのことは、ヒイラギに任せようと思っていたんだが、無理だな。

「・・・おい、小僧」
俺が声をかけると、コウガは顔を上げた。
俺は、コウガの顔をしっかりと見据えながら、言った。
「自分だけが不幸、なんて顔すんじゃねえぞ。世の中にはな、お前なんかよりもっと、辛い人生を送ってきたヤツがいるんだぜ。でもな、そいつらは絶対に諦めたりしない。自分から、命を投げ出したりもしねえ。死にたくなるような毎日でも、歯を食いしばって生きてんだ。どうしてそんなことができるのか、お前に分かるか?」

コウガは首をかしげた。どうやら、分かってないようだな。

「それはな、生きる意味ってのを知ってるからだ。自分の命の尊さを、きちんと知ってやがるんだ。命ってのはな、どんな奴のでも価値があるんだ。自分勝手に捨てれるもんじゃねえ。俺の命も、お前の命も、お前の姉貴の命も、ここにいる全員の命が、同じ価値を持ってんだ。もちろん、お前が惚れたミライって奴も、お前が傷つけたミナミも、一緒だ」

話しながら、俺は一年前を思い出していた。
初めて会った時のヒイラギ。「死にたい」と言った彼に、熱く話した内容を思い出した。
今コウガに話している内容と、ほとんど同じだ。


コウガは、じっと俺の目を見返していた。
その眼には、何も映らない。
憎しみだけで生きている人間ってのは、寂しすぎるぜ。

「・・・あんたは、俺にどうしろって言うんだ?」
「そんなこと、自分で考えるんだな」
静かな問いかけに、俺はあっさりと言った。
「お前の人生だからな。お前が決めろ。ただし、絶対に自殺なんかすんじゃねえ。惚れた女の後を追うような、馬鹿な真似だけはするな。男として、人間として最低だからな」

俺の話を、コウガはどう思ったんだろうな?
ま、頭の悪い俺だから、うまく言えたかどうかは分からねえ。

俺の言葉は、ちゃんとコウガに伝わったのか?
一年前のヒイラギのように。

俺にはどうして、ミライが自殺したのかなんて分からねえ。
遺書の内容を聞いたって、頭の悪い俺にはさっぱり、意味が分からねえんだ。
ミライは、ちゃんと生きる意味を見つけてたじゃねえか。それなのに、なぜ自殺する必要があるんだ? どんなに辛い人生でも、彼女のそばには、愛する男がいたのに。

まあ、ウダウダ言ってもしょうがねえか。彼女は死んじまったんだし。
死んだ人間を責めるのは、よくねえことだからな。


「・・・あるのですか?」
「あ?」
真央が真剣な眼差しで俺を見ていた。
もう一度、彼女はゆっくりと俺に訊いた。
「生きる意味をなくして、罪を犯したコウガに、再び生きる意味は、希望は、あるのですか?」
俺が答えようとしたときだった。

「そんなもの、あるに決まってるさ」
背後で明るい声がした。

振り返った先には、左肩を抑えるヒイラギがいた。
その隣ナツメ達の姿もある。

「生きる意味なんて、無限にあるんだ。自分で掴めばいい。どんな人間にも、生きる価値はあるんだから。大切なのは、本人がどれだけ頑張ろうとするか、だ。現実と向き合って、自分を信じて、他人を愛して、友達を作って、いろんなことを知っていけばいい。・・・それが、生きるってことだろう?」

「ヒイラギ君・・・」
真央の目から、水がぽたりと落ちた。

ヒイラギは大人だ。まあ、あいつが言ってたことの半分以上は、一年前俺が彼に言ったことなんだがな。
覚えててくれたってわけか。普通に嬉しいぜ。


「ヒイラギもジンも、カッコいいじゃん」
お前は黙れ、アスカ。その隣で、ナツメ達も笑っていやがる。
ま、確かに人生についての説教なんて、俺には似合わねえけどよ。


肝心のコウガは、ずっと俯いたままだ。
真央には俺の心は伝わったようなんだが、コウガにも伝わっただろうか。
話をしているうちに、コウガに対する怒りは消えてしまった。
昔を思い出したからかもしれねえな。


しばらくして、コウガが口を開いた。絞り出すような、声だ。かすかに、嗚咽が混じってもいた。
「・・・俺は、ミライが好きだった。あいつと一緒に生きたかった。でも、あいつは死んだ。
・・・ずっと悩んでた。どうして止めてあげられなかったんだろうって。遺書を読んでも、納得がいかなかった。だからっ、誰かのせいにしたかったんだ・・・」

はじめて聞く、コウガの本心。
分からなくもない、その心理。

アスカが、俺が一度も聞いたことのないくらい、優しい声で言った。
「コウガ。彼女が自殺したのは君のせいじゃないよ。人の気持ちは、その人だけのものだ。誰にも変えられやしない。それを、自分や他人のせいだって考えるのは、ミライに対しても失礼なことだと思うよ。君にできることは、復讐や後を追うことじゃないはずさ。ミライの分まで、君はしっかりと生きていかなきゃね」

コウガが顔を上げた。その両眼には、涙が光っていた。
「ミライっ・・・」
嗚咽を漏らすコウガを、そっと真央が横から抱きしめた。

きっと、2人はもう大丈夫だろう。
もう、馬鹿な真似はしねえはずだ。

生まれて初めて、アスカに感謝だ。
「なかなか、カッコいいね〜、アスカ」
「あ、やっぱり? 分かってるねえ、ナツメ。さっすが、俺!」
やっぱ、感謝すんのはやめるか。
ふと、俺の隣に人の気配を感じた。
「・・・何だ?」
隣にいたのは、萩原由美だった。
そういえば、ヒイラギをおびき出す餌として、真央に捕まえられたんだったな。

彼女は不安そうな顔で、俺に言った。
「ヒイラギ君が・・・」
「あ?」
「ヒイラギ君が、辛そうなんですっ」
「ヒイラギが?」
言われてみれば、確かに苦しそうだ。
いつの間にかうずくまって、左肩を抑えている。
俺は彼のそばにしゃがみこんだ。
息も荒いようだ。

「大丈夫か、ヒイラギ?」
「・・・だい、じょう・・・ぶ・・・」
「全然大丈夫には見えねえぞ」
どうやら、結構当たり所が悪かったらしいな。弾は貫通してねえようだし。
俺はそっと溜息をついた。
立っているだけでも、痛かっただろうに。何で言わねえんだよ、このマセガキは。
「あのな、ヒイラギ。少しは俺らを頼れ」
「・・・頼っ・・・てるさぁ・・・」
どうやら、本当に危なそうだ。俺は手招きで、アスカを呼んだ。
「呼んだかい?」
「ヒイラギが辛そうだからよ。病院連れて行きてぇんだけど」
「俺も行く」
「ヒイラギが? 俺も行こう」
「私も!」
「全員かよ」
俺はまた、ため息をついた。
「あの2人はどうすんだよ」
「大丈夫だよ、あの2人は。馬鹿な真似はもうしないはずだし」
ま、そりゃそうだな。

「ヒイラギ。立てるか?」
「ああ・・・」
そう言って。ふらりと立ち上がったかと思うと、ヒイラギはそのまま床に倒れた。
「おいっ、ヒイラギ!」
「ヒイラギ君、しっかり!」
俺と由美、それにナツメはヒイラギに駆け寄った。
アスカは、すぐさま電話をかけた。

コウガと真央も異変に気づき、こちらへやって来た。

「ヒイラギ、大丈夫かっ!?」
「なあ、ジン・・・」
ヒイラギは辛そうに顔を歪めながらも、言った。
「さっきさ、コウガに言ってたことって、一年前オレに言ってくれたことと、ほとんど同じだよな?」
「あ、ああ」
それがどうしたんだ?
「ジンの話聞いてるうちに、いろいろと昔のこと思い出してさ。6年前のことも思い出したんだ」
「!」
6年前。ヒイラギの一番苦くて、辛い過去。
あまりにも辛かったせいか、彼はその当時のことをよく覚えていない。
ただ、「自分が兄貴を海で殺した」とだけ。
そのせいで、母親に嫌われていることぐらいにしか。
兄貴のことも、年齢と、「自分と正反対」の性格に容姿、成績ってことくらいしか、覚えていないらしい。

いつかは向きわなきゃいけねえことだと、彼も分かっていたんだな。

ヒイラギは、荒く息を吐きながら言った。
「オレ、思い出したんだ。・・・オレの、本当の名前は、藤峰冬樹。その名前を変えたのは、オレの兄貴なんだ。・・・兄貴はジンと同い年だった。・・・やっと、思い出せたよ、兄貴の名前。・・・あいつの名前は・・・そう。藤峰夏也ふじみねなつやだ」
「フジミネナツヤ?」
知らねえ名前だな。って、当たり前だがな。

そのあと、ヒイラギは意識を失い(!)、アスカが呼んだ救急車によって、病院に運ばれた。
結局、真央とコウガ以外の奴ら―アスカ、俺、ナツメ、由美の4人が付き添うことになった。

その時、ナツメが異常なくらい蒼白な顔をしていたのだが、きっとヒイラギを心配しているのだと思い、俺がその表情の意味に気づくことはなかった。



ここからは、サクサク更新していきたいです(願望)











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