アライヴ(36/45)縦書き表示RDF


アライヴ
作:亜月 聖



第35章:復讐という名の「逃げ」


―再度倉庫にて。

コウガの告白は、オレ達一人一人に強い影響を与えた。
特に、ミライの遺書の話の時は、女性2人が涙を流した。
萩原はハンカチを目に当て、真央さんは声も出さずに、ただ涙を流していた。

アラガキ氏は、遺書はなかったと言っていた。
だが、ミライの遺書はあったんだ。
彼女が最も信頼し、愛する人に送られていたんだ。


ミライは憎悪や絶望で自殺したのではなかった。
自分の心が一番綺麗なとき。
好きな人とも両想いになれて、やっと光が見えてきた、まさにその時。
幸せの絶頂で、彼女は自ら命を絶った。


確かに、綺麗な思い出だけを抱えて、彼女は旅立つことができたんだろう。
だが、残されたコウガはどうだ?
遺書を受け取りながらも、コウガは自分の手を汚した。
復讐という、一番人間の醜い感情をむき出しにして。

今の彼の表情を見ている限り、彼は辛そうだ。
きっと、自分が犯した罪への虚しさ、若干の後悔。
そして、もう二度と戻れないという、絶望感。

6年前のオレと一緒だ。

「・・・それで?」
沈黙を破ったのは、やはりこの男、アスカだった。

「君はどうして、ミナミを轢いたんだい? ミライは自分から死を選んだ。妹を憎み、絶望感の中で死んだわけじゃない。そんなこと、君はすでに分かっているはずだ」

アスカの言葉に、コウガは憎々しげに吐き捨てた。
「そんなこと、分かってるさ。だがな、そう簡単に割り切れないのが、人の心ってもんだ。少なくとも、俺にはできなかったよ。好きなヤツが自殺して、周りは好き勝手に彼女を中傷する。双子の妹は、わずか一ヶ月で立ち直って、年上の恋人とラブラブだからな。ほんと、最初の涙はどこへ行ったんだって感じだよ」

コウガの皮肉交じりの言葉に、ナツメが目を伏せた。
それにしても、腹の立つ言い方だ。
まるで、ミライのことを分かっているのは自分だけ、とでも言いたげだ。

不意に、コウガの目がオレに向けられた。
「藤峰ヒイラギ。俺がなぜ、一ヶ月半もの間、待っていた理由が分かるか?」
「分かるわけないだろ」
超能力者じゃあるまいし。そんなに簡単に、人の心何て読めるわけないだろ。

コウガは軽く息をついてから、話し始めた。

「・・・一ヶ月前、ミナミに恋人ができたと聞いた。その時点で、俺はもうやるしかない、と思っていたよ。双子の姉が死んで、たったの一ヶ月だぜ? あり得ねえだろ、普通。
 2週間待ったのは、ミナミの身辺調査に、思いのほか手間取ったからだが、それだけじゃない」

その理由が、何となく、分かるような気がした。

「俺は、ミナミの平穏な暮らしを、ぶち壊したかったのさ。年上の男とラブラブで、幸せいっぱいの時に、殺してやりたかった。人生、思い通りにならないことだってあることを、あいつに教えてやりたかったんだよっ」



コウガは逃げている。


そう思った。
コウガは、周りが見えていない。ミライが自殺した。その事実を、きちんと受け止められていない。自ら死を選んだミライを、理解できていないんだ。

いや、本当は分かっているのかもしれない。
彼女が自殺したのは、誰の責任でもない。彼女自身が決めたこと。

彼はもう、そのことを分かっているはずだ。

それなのに、コウガはそれを認めようとはしていない。
その責任を誰かに負わせようとしているだけだ。

誰かに押し付けないと、彼は生きていけないのだろう。

おそらく、愛する人を失って、彼は復讐だけを生きがいにしていたんだろう。

そうやって、自分の生きる意味を保とうとしていたんだ。


「俺の話はこれで終わりさ。ミナミが死ななかったのだけが、心残りだけどな。まあ、仕方ねえか。・・・もう、俺の役目は終わった。俺に生きている意味はない。潔く死なさせてもらうぜ。ミライの傍に行きたいからな」
そう言って、コウガは肩をすくめた。

彼の眼には、希望も夢もない。
そして、これからの生きる未来も。

その時だった。

ツカツカと、コウガに歩み寄る男がいた。

ドカッ!

コウガの腹に、男のブーツが食い込んだ。
「うっ・・・!」
おそらく激痛が走ったんだろう。コウガはうずくまった。
「コウガッ! 大丈夫ですか?」
すぐさま、真央さんが駆け寄った。

オレは蹴った男―ジンを見上げた。
ジンがヤクザ以外の人間に手を出すのは、初めてだ。

「あ〜あ。本気で怒らせちゃった。俺もう知らねー」
どこまでも面白がる、アスカの声を背中で受け止めながら、オレは責めるようにジンを睨んでいた。オレと同じような視線を送っている人間が、他にも2人いる。ナツメと、萩原だ。

ジンがコウガに手を出すなんて、オレには信じられなかった。
もちろん、ジンも人間。怒るときだってあるだろう。だが、相手はまだ高校生だぜ? 萩原のようにビンタならまだ分かるが、ジンはつま先が尖ったブーツで蹴った。まるで、汚いものを見るかのような目で。

オレには、許し難い行為だった。

ヤクザでもない少年の腹を蹴るなんて、一端いっぱしの副長がすることではないはずだ。


「ジンさん。私はあなたに言ったはずですよ。コウガに手を出したら許さないと。私の言葉が聞こえていなかったのですか!?」

真央さんの殺気の混じった声に、ジンは静かに答えた。

「もちろん、聞こえていた。だから、連れ出す時にあんなに抵抗したのに、こいつは無傷だったろう? 俺は約束を守る。・・・だが、今は別だ。このガキに遠慮できるほど、俺は甘くはねえよ」

ジンはうずくまったコウガを一瞥し、軽蔑した眼で言った。

「・・・この甘ったれ小僧が」












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう