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視点が、アスカ⇒ヒイラギと変わります。

アライヴ
作:亜月 聖



第29章;三つ目の真実


ヒイラギと由美に、不信感を抱かれているなんて思いもしない俺は、秋篠組のアジトへ向かうべく、颯爽と(?)走っていた

はずだったんだけどなあ。


「おい、オマエ、雪花組のアスカだな? 顔貸してもらうぜ」

俺の目の前に突如現れた、ヤクザ共。いかつい顔をしたヤクザが、10人あまり。
どうやら、秋篠組のやから達らしい。

俺が無言でいると、彼等は一斉に襲い掛かってきた。迫力あるなあ。

ま、秒殺だったけどね♪

まあ、そこまではは良かったんだけど、ヤクザ達の意識が、全員吹っ飛んで、親切な俺(否定するなよ)は、救急車を呼んでやった。

それで、今は病院にいる始末。

ほんと、俺って良い奴だねえ〜。

誰も褒めてくれないので、俺は勝手に自画自賛をしておく。


ヤクザたちを医師達に受け渡し、俺は病院内を歩き回った。
実はこの病院、ミナミが入院している所なんだよね。
久しぶりに、彼女の顔が見たくなってきた。

ヒイラギ達のことも気になるが、まあ良いや。ユキヒトもすぐには、ヒイラギ達に手を出せないしね。
ユキヒトは仲間の裏切りを最も嫌う。そして、彼が一番信頼しているであろう真央は、彼を裏切った。その情報は、きっともうユキヒトにも伝わっている。
今、真央はジンと一緒にコウガの元へ向かっている。
真実を、さらけ出すために。
全てを、終わらせるために。


1つずつ、ドアの前に書かれた名前を確認しながら廊下を進むと、目的の名前のプレートが目に入った。
一人部屋みたいだ。
俺は、そっとドアを開けた。

病室内には、先客がいた。
「おじさん」
俺が話しかけると、先客―アラガキは俺に顔を向け、微笑んだ。
「アスカ君か。いいのかい? こんな所で油をうってて」
「本当はいけないんですけどね。ミナミに会いたくなりましてね」
俺が苦笑しながらそう言うと、アラガキは声を上げて笑った。
「ありがとう。ミナミも喜ぶよ」
「だといいんですけど」
軽口をたたきながら、俺はミナミの顔を覗き込んだ。
開かれる様子のない瞳。痛々しいほどに白い包帯が腕に、頭に、所々に巻かれている。

大丈夫だよ、ミナミ。
俺は心の中で、ミナミに語りかける。

君が目を覚ましたとき、全ては終わっている。
真実が明るみに出ても、もう誰も絶望しない。
絶望の先にある一筋の光を、関係者は皆知っているんだから。
誰もが、光に向かって歩いて行けるさ。
希望は、ある。

だから、ミナミ。どうか、見守っていてくれ。
無理に目を覚ませとは言わない。物事にはタイミングというものがあるからね。
その瞳を開けたくなったら、ためらわず開けるといい。
その先には、輝かしい未来が待っている。


「おじさん。俺、もう行きますね」
「あ、ああ。気をつけてな」
俺の突然の言葉に、アラガキは若干驚いたようだ。俺はアラガキに向かって言った。
「おじさんは、ミナミと一緒にいてあげてください」
「分かった」
アラガキは深くうなずいた。
俺はアラガキに背を向け、病室から立ち去った。
去り際に、アラガキがポツリと漏らすのが聞こえた。
「大人になったな、アスカ君・・・」

ちょっと嬉しかった。



バタン、と倉庫の扉が開いた。
オレも萩原もヤクザたちも、一斉に入り口に目をやる。
ユキヒトも、銃をオレに相変わらず向けたまま、立ち上がった。

そこにいたのは、オレがよく知っている人物だった。
その姿を確認し、オレは声を上げた。
「ナツメ!」
「ヒ、ヒイラギ・・・」
肩で息をしながら入ってきたのは、ナツメだった。
ナツメが来てくれた。
少し気まずいが、嬉しいことに変わりはない。
オレの背後で、萩原が小声で言った。
「誰?」
「ナツメ。雪花組組長で、ミナミの恋人」
「・・・そう」
萩原は納得したように、うなずいた。

ヒュ〜♪ 場違いな口笛の主は、ユキヒトだった。
ナツメと向かい合いながらも、拳銃はオレに向いている。
「いやあ、まさか本当に来てくれるとはね〜。歓迎するよ、ナツメ」
「ユキヒト。ヒイラギ達に手を出すな」
ユキヒトの軽口に、ナツメは、ドキリとするほど厳しい声で応じた。
「ご心配なく。彼等に手を出す気はないよ。今は、ね」
そう言って、意味深な笑みを浮かべるユキヒト。その表情は、アスカに良く似ていた。
そんな奴を一瞥し、ナツメはこれまた冷酷な笑みを浮かべた。
「へえ? ユキヒトほどの残虐人間が、獲物に手を出さないなんてどうしたんだ?」
「そうなんだよ。僕だって一刻も早く殺してしまいたいよ。でもさあ、彼等より先に始末しなきゃならない裏切り者がいるんでねえ」
困ったもんだよ。そう言って、ユキヒトは声を出して笑った。
一寸も困ってなさそうな笑い方だ。

「・・・でも、せっかくナツメが来てくれたんだし、昔話でもしましょうか。ナツメ、こっちに来て、彼の隣に並ぶんだね」
ナツメは警戒しながらも、オレの隣に立った。その間も、目はユキヒトに向けられたままだ。

一体、昔話って何のことだ?
オレにはさっぱり分からなかった。
ただ、これからユキヒトが話す内容は、とても重要な真実であるということ。
それだけは、オレにも萩原にも分かる気がした。

「ねえ、由美ちゃん」
ユキヒトに話しかけられ、萩原はピクリと反応した。オレのシャツの裾を握る手に、いっそう力がこもる。
「・・・何ですか」
「君は雪花組について、どれだけ知っているのかな?」
「何も」
「じゃあ、コウガについては?」
「ミナミと同じクラスの不良君で、真央さんの弟って事くらいです。あ、あとミナミを轢いた張本人」
「なるほど。じゃ、君の前にいるヒイラギ君については?」
「アスカさんの仲間で、私のクラスメート。正義感があってなかなか学校に来ない」
ユキヒトの問いに、素っ気無く答える萩原。度胸があるのは良いが、最後のくだりはオレへの当てつけか?

「ふ〜ん」
何が面白いのか、ユキヒトは声を出さずに笑った。
その笑い方に、萩原はムカついたらしい。嫌悪感を表情に出しつつ、苛立った声で言った。
「それがどうかしたんですか」
「いや、別に。ただ、君は不幸だなって思って」
「不幸?」
「ああ。今から話すことは、人の生き方に関することだからね。内容は暗いし、ドロドロしているし、あんまり楽しい話じゃない。それに、この話の後、ヒイラギ君がナツメを許せるかどうか、皆無だしね。そんな話を、一般人で高校生の君が2人の間で聞かなきゃいけないなんて、可哀想だと思ってねえ」

ユキヒトの言葉に、萩原は戸惑ってオレを見た。もちろん、オレだって何のことやらさっぱり分からない。結局、おれと萩原は顔を見合わせ、そろってナツメを見た。

ナツメの顔は、憎しみに満ちていた。
「ユキヒト。君は一体どこまで知っている」
「全て、かな」
厳しいナツメの声とは対照的に、ユキヒトの声はどこまでも楽しげだ。
「まあ、ナツメは黙って聞いていてくれればいいから。君に、僕が話すのを止める権利はないんだからね」
「そんなこと、分かっている。俺だって、いつか話さなきゃいけないって分かってたし」

ユキヒトとナツメの会話に、ついていけない。
一体何なんだ? 人の生き方に関すること? オレがナツメを許す? 

オレの頭は、クエスチョンマークでいっぱいだ。

「ヒイラギ」
オレが混乱していると、不意にナツメがオレにささやいた。
「本当は全てが終わった後、俺から話したかったけどしょうがない。これからのユキヒトの話、真剣に聞いてくれないか」
「ナツメ、一体何があったんだ?」
オレが訊くと、ナツメは静かに首を横に動かした。
「今は言えない。ユキヒトに話させるのは、アスカやジン達が来るまでの時間稼ぎでもあるんだ。本当は、今すぐ彼を捉えたいけど、この人数のヤクザと拳銃を持った彼に立ち向かうには、人手が少なすぎるからね」
いまだ釈然としない点はあるが、後半のナツメの説明には、納得した。
確かに、この人数と拳銃相手じゃ、人手が少ない。
アスカ達を待つのが得策か。
「了解。でも、後でちゃんと説明しろよな」
オレがそう言うと、ナツメは少し笑ってうなずいた。
「約束しよう。ユキヒトが話したこと、ちゃんと後で説明するよ」

「・・・話は終わったかい? そろそろ、僕の話を聞いてもらおうか」
ユキヒトがえらそうに言った。
オレは彼の方に顔を向け、1つ提案をした。
「なあ、オレ達も座っていいか? 手ごろなものがなきゃ、座り込ませてもらうぜ。足が痛いんでな」
オレの言葉に、ユキヒトは声を上げて笑った。
「君は本当に面白いねえ! もちろん、座ってもらってかまわないよ」
「じゃ、遠慮なく」
オレが座り込む前に、いち早く萩原が腰を下ろした。どうやら、足首縛られていたこともあり、随分と痛かったらしい。彼女の目には、感謝の気持ちがこもっていた。

「じゃ、始めようか。ナツメ、本当に良いのかい? 僕は全部しゃべるけど」
ユキヒトの問いかけに、ナツメは肩をすくめながら言った。
「嫌だって言ってもしゃべるだろ。それに、こうなることはいくらか予想していたしね」
ナツメの言葉に、ユキヒトは微笑んだだけだった。

オレは背筋を伸ばした。
もう、後戻りはできない。
オレは不思議とそう確信した。


「では、昔話を始めようか」
ユキヒトが、ゆっくりと口を開き始めた。
静かな倉庫に、ユキヒトの声が響く。


「この昔話の発端は、ナツメにあるんだ。よく聞いていてくれよ。ナツメはね、本当は―」





「ヒイラギ君、君のことが大嫌いだったんだ」












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