アライヴ(28/45)縦書き表示RDF


アライヴ
作:亜月 聖



第27章:二つ目の真実


秋篠組のアジトにて。


オレは、呆然としながら目の前のユキヒトを見つめていた。オレの背後にいる萩原も、痛いほどの力をこめて、オレのシャツのすそを握っている。

何故だ。何故、こいつが、オレの名前を知っているんだ・・・。

誰にも言ったこともなく、親ですら忘れているかもしれない、その名前を。

オレの反応は予想済みなのか、ユキヒトはくすっと笑いながら言った。
「何で知ってるんだ、って表情だね。僕をなめるんじゃないよ。その気になれば、君の本名くらい簡単に知ることができるよ。君の苗字なんか、学校へ行けばすぐ分かることだし。冬樹って名前も、僕の手に掛かればすぐに分かったよ。冬樹君」
「・・・オレの、名前を呼ぶなっ・・・!!!」
オレは拳を固めながら、ユキヒトに言った。
冬樹。二度と聞きたくない、その言葉なまえ

聞くだけで、嫌悪感が増す。

オレの体に冷たいものが駆け巡る。

6年前のあの日を境に、誰も呼ばなくなったその名前。

まさか、こんな奴からその名を聞こうとは。

吐き気がする。


「冬樹ク〜ン? 僕の話聴いてるかい? どうやら君には、放心癖があるようだねえ」
ユキヒトは、笑いながらそう言った。
馬鹿にするようなその口調。
ほんと、オレの身の回りにはあいつの性格を受け継いだ奴がいっぱいいる。
これも、天罰かな。
オレは自嘲気味にそう思った。


「ちょっと、ヒイラギ君。危機感ないわけ? この人、物騒なもの向けてるじゃない」
萩原の咎めるような声で、オレは目の前の危機を再認識した。
ユキヒトは、依然としてオレと萩原に拳銃を向けている。
今は、昔を思い出している場合じゃない。
真実を見つけ出す時だ。何が何でも、真実を暴き出す。
そして、絶対に、萩原を傷つけさせない。

彼女を、守る。

「あんたに訊きたいことがある。答えてくれないか?」
オレがユキヒトにそう言うと、奴は唇の端を吊り上げ、言った。
「何かな」
「コウガはどこにいるんだ」

コウガ、という名前に、ユキヒトの眉がピクリと動いた。
その様子から、奴がコウガの名を知っていることが分かった。
「教えてくれ。どこにいるんだ」
オレの問いに、ユキヒトは微笑し、言った。
「彼に会って、君は一体何をするつもりだい?」
「オレは真実を知りたいんだ。コウガに会って、オレは事の全てを知りたい」
オレの答えに、ユキヒトは失笑した。

ムカつくな、その顔。


「真実なんか知ってどうするんだい? 行き着く先は、人間の醜さだよ。人間は弱いからね。コウガなんて、人間の醜い所の塊みたいな奴だから」
「なら、あなたは人間のムカつく要素の塊みたいな人ですね」
ユキヒトの暴言に、暴言で対抗した萩原。さすが、アスカの知り合い。度胸、あるなあ。
萩原の暴言に、ユキヒトは苦笑する。
「否定できないのが辛いねえ。まあ、そこはご愛嬌ってことで」
男にご愛嬌も何もねえな。
オレはイライラしてきた。だが、ここで怒鳴ってしまっては、おそらくこいつの思う壺だ。冷静になるんだ。
怒りに身を任せると、ろくな事にならない。それに、まだ質問に答えてもらってないしな。
「質問に答えろよ。コウガはどこだ」
「地球のどこか」
「・・・おい」
まるでアスカのような答え方に、オレは絶句した。
「なあんてね。彼は秋篠組にいるよ。復讐を果たして、今は一人、愛する人を失った悲しみに耐えてるんじゃないかなあ」
ユキヒトは、愉快そうに言った。

やはり、コウガは秋篠組にいた。一人で悲しみに耐えている? はっ。馬鹿みたいだ。
オレは、声を大にして、彼に言いたいことが山ほどある。

「コウガに会わせてくれねえか」
「はっ」
おい、人の頼みを鼻で笑うな、鼻で。
クックッと、のどの奥でいつまでも笑いやがって。ってか、その前にその拳銃降ろせ。
「冬樹君、君は自分の置かれている状況が分かってるのかなあ? 君には、そんな傲慢な態度取る余裕なんかないはずだけど? 僕がその気になれば、君は今すぐにでも死ぬ状況にあるんだ」
からかうような、ユキヒトの口調。だが、その声にはどこか冷たい刃の色が見え隠れしている。
悪寒がしてきた。

ユキヒトは相変わらず、微笑んだままオレに拳銃を向けている。
その拳銃を見て、オレは気づいた。
拳銃は、オレと萩原、2人に向けられてるんじゃない。
オレ一人に向けられているんだ。
つまり、萩原をここに呼び出したのは、オレを引き寄せる罠・・・?
標的―子羊スケープゴートは、オレ一人・・・?
「・・・やっと気づいたようだね」
オレの表情を読み取ったのか、ユキヒトが口を開いた。
「僕は、君を殺すためにココへ来たんだ。だから、真央に協力させて、萩原由美ちゃんを餌に、君をおびき出したんだ」
淡々と語るユキヒトの顔は、ありえないほどに無表情だ。
その表情が、ユキヒトの真剣さを物語っている。
「ゴメンね、冬樹君。君がジンに拾われたときから、僕はもう、君を殺すしかないんだ」
殺す、と言う言葉に背後の萩原が、びくりと反応した。
オレのシャツの裾を握る手が、震えている。
オレはつばを飲み込んだ。
ユキヒトの言葉は、生々しく、オレの耳に入ってくる。

彼は本気だ。

奴の話は続く。
「一年前、ジンが少年を拾ったって聞いてね。珍しいこともあるもんだと思ってたら、いつの間にか、ジンとナツメがケンカしたって話を聞いてねえ。便乗してやろうと思って、ナツメを勧誘すれば、一番ムカつくやり方で断られちゃってさー。はらわた煮えくり返ったよ」
声の抑揚とは裏腹に、ユキヒトの顔は無表情だ。
「半年前のことだったよ。ある日偶然であった少年がいたんだ。それが、コウガだったんだ。その目を見た途端、僕は震えたね。彼の目は、殺し屋の目だったよ。荒削りだけど、訓練すれば、立派な殺し屋になる。そう思って、秋篠組に連れて来たんだ」

17歳で、殺し屋の目って・・・。どんだけ、コウガって暗い目してるんだ?

だが、おそらくユキヒトの目は間違ってなかったんだろうな。
結果的に、コウガはミナミを轢いたんだろうし。

「コウガの復讐を手伝ったのは、あんただな」
オレの言葉に、ユキヒトはうなずいた。
「そうだよ。一ヶ月前、思いつめた表情をしたコウガから話を聞いてね。2ヶ月くらい前から、彼がふさぎこんでいたのは知ってたんだけどねえ。まさか、好きな人のための復讐だなんて、思いもしなかったよ」
「その時、真央さんからナツメの恋人の事を聞いたんだな」
「そうだよお。それで、コウガと意気投合して、復讐を手伝うことにしたってわけ。真央の弟の頼みとなれば、断るわけにもいかないし」
「・・・それで、お前の目的は何なんだ? ナツメとジンが決別した今、何を望む?」
オレの問いに、ユキヒトは微笑んだ。見るものをぞっとさせる、冷たい笑みだ。
「雪花組を潰すこと、さ。そのためには、まず君に死んでもらわなきゃね」
ユキヒトが、ゆっくりと銃をオレに向けたまま、こちらへ歩み寄ってくる。反射的に、オレと萩原は後ずさった。
「逃げられないよ、2人とも」
「なっ・・・!!」
いつの間にか、倉庫には沢山のヤクザが集まっていた。
気づかなかった。
「ヒイラギ君・・・」
オレの背後で、さすがの萩原もおびえていた。

首筋に冷や汗が伝う。

ヤクザの兄ちゃん達は、全員ニヤニヤ笑いながら、オレ達3人を取り囲むように立っていた。

オレは舌打ちをしたい気分だった。萩原がいなければ、ユキヒトの拳銃がなければ、こんな奴等、倒せるのに。
今のオレには、自分は守れても、他人を守る力はない。
萩原だけは、無事に無傷で、帰してやりたい。

「冬樹君」
ユキヒトに名前を呼ばれ、オレは視線をユキヒトに戻す。いつの間にか、彼は目の前にいる。
その手には、もちろん拳銃が光っている。

畜生、誰か助けに来いよ!
アスカ、ジン、ナツメ!

「無駄だよ。誰も来ない。アスカは真央が足止めしてるし、ジンやナツメはココを知らないしね」
ユキヒトの愉快そうな声が、オレの神経を逆なでする。
だからといって、何かできるわけでもない。オレが何か行動を起こせば、すかさず取り囲んでいるヤクザ達が暴れだすだろうし、ユキヒトが引き金を引くだろう。オレに当たるならまだしも、萩原に当たることだけは避けなければならない。

誰か、来い。萩原とオレを、助けてくれ!

オレはただ萩原を背後にかばい、ジッとユキヒトを睨むことしかできなかった。

ユキヒトは、満面の笑みを浮かべ、オレの額に銃口を突きつけた。
「バイバイ、冬樹君」
その指が、引き金に掛かったときだった。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう