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再び、アラガキ邸にて、アスカの視点です。

アライヴ
作:亜月 聖



第25章:コウガと真央


アラガキ邸の応接間にて。

真央の手に光る拳銃はまっすぐに、俺の頭に向けられている。
俺は真央から目をそらさない。背後で、アラガキ氏が声も出せないほどに驚いている。
真央は、相変わらず微笑んだままだ。

秋篠組副長であり、コウガの姉・・・。

俺はため息をついた。もう、最悪・・・。

「真央・・・。君は、ずっと私をだましていたのか」
アラガキの問いに、真央は答える。
「騙していたわけではありません。・・・ミナミ様達が、コウガを助けてくださったのが悪いのです」
「・・・どういう意味だ」
「そのままの意味ですわ。コウガが、ミライ様と出会っていなければ、私は今でも、アラガキ様に忠実に仕えていたでしょう」
「やっぱり、それが原因か」
俺は、真央に向かってつぶやいた。もし、コウガがこの家に来なければ、コウガがミライに惚れることも、それを真央が知ることもなかっただろうからなあ。
真央は、ゆっくりと語る。
「私の両親は、コウガが中学生のときに離婚しました。そのせいで、私とコウガは離れ離れになりました。・・・半年前、偶然再会するまでは」

運命の再会、ってやつか? 感動系ドラマっぽいな。


そういえば、ヒイラギどうしてるかな。罠にはまってなきゃいいけど。
なんて、人の心配してる暇ないか。

俺がそんなことを考えている間も、真央の話は続く。
「半年前のことです。繁華街を歩いていたコウガと、偶然にも再会しました。私はすぐさまコウガを組に連れて帰りました。私と一緒にいた組の人間が、コウガを気に入ったのです。コウガには立派なヤクザになる素質があると。・・・君さえ良ければ、組に入れたい―あの人は、そう私に言ったのです」
「そして君はコウガを秋篠組に入れた」
「ええ。組に入れば、いつでも会えますし」
真央はうなずいた。どうでもいいけど、肝の据わった女性が拳銃を持つと、何でこんなに絵になるんだろうか。

「組の人間、というのは組長のユキヒトのことかい」
「・・・そうです」
やはりな。どうやらユキヒトは、ジンの永遠のライバルになりそうだ。
ユキヒトの価値観は、ジンと正反対と言っても過言じゃないな。俺はどっちの考えも、なんとなく理解できるけど。

いずれにせよ、俺には時間がない。身の上話はここまでにして、そろそろ本題の話を聞かないとな。俺は真央に尋ねた。
「コウガとミライの出会いは、コウガから聞いたのかい? それとも、ミライから?」
「ミライ様からですわ。素敵な少年と会ったと言っておられました。コウガがこの家に来たとき、私は組の用事でいなかったのです。・・・ミライ様から名前や容姿を聞いて、驚きました。ミライ様には、その素敵な少年が私の弟だとはお伝えしませんでした。特に理由はないですけれど、何となく、伝えない方が良いと思いまして」

真央は、淡々と事実を語っていく。

「コウガと出会ってからのミライ様は、本当に楽しそうでした。学校へ行くのが楽しくなった、と言っておられました。たまに、笑顔も見せてくださいました。それは、コウガも同じでした。学校にも、真面目に通うようになって。私としては、全てが上手くいく展開でした。でも・・・」
「ミライは自殺してしまった」
俺が言葉を引き継ぐと、真央は、辛そうに顔に皺を寄せた。その表情を見て、俺は彼女の中の悲しみに気づく。真央は、ミライを見守ってきた唯一の人間だったんだ。ほかの人間―アラガキのような親戚だ―が、ミナミだけを見ていても、真央は、きちんとミライのことも見ていた。だから、ミライが自殺したときの悲しみも大きかったんだ。
真央は、絞り出すような声で言った。
「・・・ミライ様が自殺されて、たくさんの方が、葬式に来てくださいました。でも、その人々の中で、いったい、何人の方が涙を流してくださったでしょう。誰が、ミライ様の死を心から悲しまれたでしょう。・・・お義理だけでなく、本当に悲しんで、足を運んでくださった方が、本当にいたのかさえ、皆無です。
 ・・・ミナミ様は、確かに悲しんでおられました。泣き叫んでおられました。でも、ほかの方は・・。ひどい方は、これ見よがしにミライ様を中傷する。・・・あんなのは、ミライ様に対する冒涜です。・・・私は、胸が張り裂けそうだった・・・」
頭の芯がしびれたような感覚がした。
真央の気持ちが、俺の中に流れ込んでくるようだった。
辛かっただろう、真央。我慢できるだけ、さすが大人だ。
確かに、本当にミライの自殺を悲しむ人間なんて、数えるくらいしか、いなかったのかもしれないな。

ふと思いついたことがあって、俺は真央に尋ねた。
「葬式には、コウガは来たのかい」
「いいえ。コウガは来ませんでしたわ。でもきっと、一人で悲しみに耐えて痛んだと思います」
だよな。コウガみたいな不良君タイプが、葬式なんて行かないよな。



ちなみに、今の状況を説明すると、依然俺達3人は突っ立ったまま、話を続けている。俺の隣にはアラガキがいて、俺の真向かいには、真央がいる。
あ、あと、真央の左手に光る拳銃は、まっすぐ俺の頭に向いている。

真央の話は続く。ここからが、本題だ。

「ミライ様が自殺されて、コウガはまた以前のように暗くなってしまいました。いつも、何かを考えていて、組にもなかなか顔を出しませんでした」
そういえば、2ヶ月前くらいから、ふさぎ込みがちだと、由美が言ってたっけ。

「一ヶ月前のことです。ミナミ様がアラガキ邸に来られました。ミライ様がなくなって、初めてのご訪問でした」
真央の言葉には、かすかに皮肉がこめられているようだった。
「ミナミ様はおっしゃいました。恋人ができたと」
ミライの自殺の話のとき、あれだけ感情的になっていた真央の声は、いつの間にか無機質で、感情のない声へと、変化していた。
「恋人の名前を聞いて愕然としましたわ。まさか、秋篠組と一番対立の強い、雪花組の組長とは、思いもしませんでした」
同感。さすがの俺も、驚いたよ。あの2人を引き合わせたのは、俺だけど、まさか、付き合うことになるなんてね。
「君は、それをコウガに伝えたんだね」
俺の言葉に、真央は素直にうなずいた。
「ええ。双子の姉が自殺して、一ヶ月もたたないうちに、恋人がいる。そう言っただけで、コウガは、ミナミ様へ復讐することを決めたようでした」
それだけ憎しみが強かったということか。
「そして、君は、恋人の名前をユキヒトに言った」
「・・・アスカ様は、何でもお見通しのようですね」
呆れたように、真央は言った。そこは、呆れるんじゃなくて、感心する所だ。
真央は、軽く息をつくと、言った。
「コウガが、ミナミ様に復讐したいと言ったとき、私も賛成しました。でも、素人にできることなんてたかが知れてます。それに、絶対に、誰にも捕まりたくなかった。だから、秋篠組の力を利用したんです。あの方も、雪花組の、組長には随分プライドを傷つけられたようですから」
そういや、ナツメは、ユキヒトの勧誘を断ったんだっけ。そりゃ、プライドの高いユキヒトにとっては、屈辱だよな。もともと、ジンとは対立してるんだし。動機は、十分だな。

ふと、隣のアラガキに目をやる。呆然としている。まあ、無理もないけど。
目の前の真実に圧倒されながらも、アラガキは、食い入るように真央を見つめていた。

「ミナミ様の事を詳しく調べるのに、2週間掛かりました。そして、やっと、日常の行動パターンを把握し、最良といわれる時間帯、場所を見つけることができました。そして、実行したのです」
「じゃあ、実際にミナミを轢いたのは、やっぱりコウガなんだね」
「はい。コウガには、彼女を殺さない程度に手加減させました。2週間、組の人間に訓練させました」
用意周到の、計画犯罪ってわけか。
ユキヒトとしても、敵の恋人への復讐を手助けすることに、躊躇いはしなかっただろう。
副長の弟となれば、尚更だ。

不意に、アラガキが口を開いた。
「・・・お前は、ミナミへの復讐をためらったりしなかったのか」
「しませんでしたわ」
「・・・どうして」
目を見開くアラガキに、真央は諭すように言う。
「ご存じなかったのですか? ミライ様は、アラガキ様のことを、本気で愛しておられたのです。叶わない恋だと知っていても。・・・でも、あなたはミライ様に見向きもしなかった。それどころか、あなた様は、ミナミ様を愛しておられた。ミライ様は、好きな人まで、ミナミ様に奪われたのです。・・・躊躇いなどありませんわ」
「・・・・・・」
アラガキの様子を見て、俺は知らなかったんだな、と思う。ミライは、アラガキを本気で愛していた。だが、アラガキは、ミナミを愛していた。なんという三角関係。ドロドロじゃないか。

ミライの気持ちが、少しずつ分かってきた。だが・・・
「だからといって、自殺なんて勝手すぎる」
俺の言葉に、真央は鋭い視線を向けてきた。お前に何が分かる。そんな想いがこめられていた。
俺は顔を上げて、真央の眼を見て言った。
「ミライは馬鹿だよ。いくら、周りが、ミライとミナミを比べても、それはミナミのせいじゃない。ミナミにだって、悩みはあったはずさ。自分は自分と割り切って、胸を張って生きればいい。そうすれば、君や、コウガ少年のように、必ず自分だけを見てくれる人間が現れる。すぐ近くで、自分のことを大切に思ってくれていた人間がいたのに、ミライはそれに気づかず、最終的には逃げたんだ。キツイことを言うかもしれないけど、それはただの甘えだよ」
反論してくると思った。ミライが自殺したことすら知らない、親戚の男の偉そうな講釈など、彼女の神経を逆なでするだけだからな。

だが、予想に反して、真央は何も言ってこなかった。それどころか、深くうなずいている。

やがて、真央は口を開いた。穏やかな口調だった。
「アスカ様の言うとおりですね。どんなに辛くても、自殺など許されない。正直、私は悲しかったのです。よく言いますよね、心に支えのある人は、絶対自殺なんかしないって。そう考えると、私の存在は、ミライ様にとって、大切なものではなかったってことですから」
「真央・・・」
アラガキがそっと、彼女の名を呼んだ。主人の呼びかけに反応し、真央は顔を上げた。
その時、俺と目が合った。すると、彼女はフッと微笑んだ。
「私の話はこれで以上ですわ。後はお好きにどうぞ」
「え?」
真央の最後の言葉に、俺は数回瞬きをした。「お好きにどうぞ」だって?
いつの間にか、俺にまっすぐ(一直線に)向けられていた銃口は、だらりと下げられている。
俺は戸惑い、真央の顔を見た。

真央は、爽やかな笑みを見せた。出会った当初の、可愛い笑みだ。
「なんだか、自分の気持ちを話したら、すっきりしました。ミナミ様の意識が戻ったら、私、ミナミ様に謝りに行きますわ。そうして、しっかりと現実を見つめながら、生きていこうと思います。・・・ミライ様の分まで」
「真央ちゃん・・・」
俺は、彼女の名前を呼んだ。やっぱり、彼女は良い子だ。アラガキが、見込んだだけある。
「本当は、あの人―ユキヒトに、あなたを足止めするよう言われていたのです。でも、もうどうでも良くなりました。アスカ様、お急ぎください。ユキヒトは、萩原由美という少女を餌に、ヒイラギ少年を殺すつもりです」
「・・・やっぱり」
俺は下唇をかんだ。最悪の予想通り。
「止めてください、ユキヒトを。彼は、雪花組を潰すつもりですわ」
「潰させやしないよ、あんな奴に。―ありがとう、真央ちゃん。正直に話してくれて」
俺がそういうと、真央はゆっくりと首を横に振った。
「お礼をいうのはこちらの方ですわ。アスカ様のおかげで、目が覚めました。・・・私も、秋篠組の奴等を足止めしておきます。せめてもの罪滅ぼしです」
そして、真央は秋篠組のアジトを教えてくれた。頭の中に地図を描く。ちょっと遠いが、何とかなる距離だ。
「ありがと、真央ちゃん。またね、おじさん」
「あ、ああ」
「お気をつけて」
2人の言葉を背に、俺はアラガキ邸を飛び出した。
目指すは、秋篠組のアジト。
ヒイラギと、萩原由美は、俺が助ける。
雪花組組長補佐、アスカとして。

一応、あの馬鹿にもクライマックスを見せてやらなきゃな。
俺は親切にもそう思い、走りながら携帯を取り出し、あるメモリを画面上に呼び出した。












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