第24章:倉庫にて
初めて、人を助けたいと思った。
自分にとって、直接関係のある人間ではないけれど、助けたいと思った。
生まれて初めて、人の役に立てるかもしれないって思ったんだ。
オレは息を切らしながら、目的地である、秋篠組のアジトへたどり着いた。
そこには、某青春ドラマで毎回出てきそうな、倉庫らしき所があった。
どう考えても、そこにしかいない。
オレはそう思って、倉庫のドア(扉といった方が正確だ)を、両手で勢いよく開けた。
ガラガラガラッ。
「・・・ヒイラギ君!」
倉庫の奥に、萩原はいた。
辺りには、どうやら両足を縛られて動けないらしい萩原以外、誰もいなかった。
オレは、急いで萩原に近づいた。
「萩原、大丈夫か?」
「ヒイラギ君・・・。来るなって言ったのに」
「来るなって言われて、素直にじっとしてる奴がいるかよ」
オレがそう言うと、萩原は少しだけ微笑んでくれた。その時、オレは萩原が両手をロープで縛られていることに気づいた。オレは、そのロープをはずそうと、手を動かした。
「一応、アスカにはアラガキ邸に行くように言っといたぜ」
「ありがとう」
なかなかロープが外れない。おいおい、どんだけ強い力で縛ってあるんだ?
オレはロープに苦戦しながらも、萩原に訊いた。
「なあ、オレに電話してきた奴って」
「あれは、アラガキ邸にいる女の人よ。真央さん、だったかな。ほら、2ヶ月くらい前に朝倉ミライさんって子が自殺したでしょう。その葬儀の時に、会ったのよ」
オレは驚いて、萩原を見た。と、同時に手首のロープがほどけた。あとは、両足のロープだけだ。
「葬儀、出たのか」
「そりゃ、出るよ。私、ミライとはそんなにしゃべったことないけど、妹のミナミとは、一年のとき、同じクラスだったしさ。第一、同級生がなくなったんだよ? 葬儀に出るのが普通だよ」
どうせオレは、自殺したことすら知りませんでしたよっ。
だが、やっぱり萩原は良い奴だ。そんな人間を助けてやれることが、オレには何故か嬉しかった。
人の役に立つって、良いもんだな。
オレがそんなことを思いながら、萩原の両足を縛っているロープをほどいていると、不意に萩原がしゃべりだした。
「・・・ねえ、ヒイラギ君」
「なんだ?」
「ありがとね」
「・・・え?」
オレが顔を上げると、弾ける様な萩原の笑みがあった。
「私のために、ここまで来てくれてありがとう。本当に、ありがとう」
「萩原・・・」
「私なんて、ヒイラギ君と全然関係ない人間なのに。アスカさんに連絡してくれたり、助けに来てくれたり。ほんとに、嬉しいよ」
「関係なくなんてないだろ」
オレは再び、視線をロープに向けながら、言った。
「萩原は、オレのクラスメートだし、アスカの知り合いだし。全然、関係なくねえよ。それに、関係なくたって、普通あんな電話掛かってきたら助けに行くだろ」
「ヒイラギ君・・・」
萩原の嬉しそうな声が聞こえた。恥ずかしい。柄にもないこと言ったな、オレ。
オレは、萩原の両足を縛るロープをはずすことに集中した。こちらも、先ほどのロープと同様、随分キツめに縛ってある。素肌に食い込みそうなくらいだ。早くほどいてやらないと、萩原が気の毒だ。
オレはせっせとロープをほどきながら、萩原に言った。
「萩原が、ココまで連れてこられた経緯を教えてくれ」
「うん。私さ、今日は友達と遊んでたんだ。それで、友達を別れた後携帯が鳴ってね。出てみたら、学校の一年担当の女の先生だったの。渡したいものがあるから、近くまで来てくれって言われて。向こうが教師だと名乗ってるのに、無視するわけにもいかないでしょ。指定された場所へ行ったの。そしたら」
「後ろから襲われたってわけか」
オレの言葉に、萩原は首を縦に動かした。
「そう。不覚にも、後ろから何かを嗅がされて、気を失っちゃったのよ、私。気がついた時には、私は両手両足を縛られて、ここにいたわ。私が目を覚ましてすぐ、女の人がやって来たの」
「それが、アラガキ邸の真央ってことか」
「ええ。それで、声色を変えてヒイラギ君に電話を掛けたのよ。私の携帯に入ってたヒイラギ君の携帯番号にね。私、学級委員だから、一応クラスの人全員の番号は控えてるのよ」
「つまり、あの声は真央だったのか」
「そういうことよ」
オレは舌打ちしたい思いだった。まんまと、オレは真央さんにだまされたってわけだ。いや、オレだけじゃない。おそらく、アスカやアラガキもだ。
可愛い顔して、ヤクザとつながりがあるとはな。
一体、何者なんだ? まさか、秋篠組組長の親族とか・・・?
オレが考えをめぐらせていると、萩原が言った。
「あの真央さんって人、きっと組の一員の人なんだと思うよ」
「え? 何でそう分かるんだ?」
「だって、あの女、ヤクザっぽい人に『副長さん』って呼ばれてたの」
「何だって!」
副長だと? ってことは、最初から彼女は、オレ達の敵だったんだ。
オレ達は敵の前に、平然と隙を見せてたってわけか。
涙が出るくらい、情けねえな・・・。
オレは思わずため息をついた。
今頃、アスカもアラガキ邸にいるよな。アスカも、真央のこと気づいたんだろうか・・・。
気づいただろうな。あいつ、頭も良いし、鋭いし。
なんか、ショックだなあ。
「ヒイラギ君? 手、止まってるよ」
「あ、悪ぃ」
オレは、再びロープをほどくことに、意識を集中した。
「やっと、ほどけた」
何とか、両足のロープほどき成功。萩原の足首にはくっきりとロープの跡がついていた。
「あ〜あ、跡ついちゃったなあ」
「我慢すんだな」
「ちぇっ」
サンダルを履いた自分の足を見ながら、萩原はため息をついた。どうでもいいが、この季節にサンダルって、寒くねえのかな。疑問だ。ただし、地雷危険区域内の疑問なので、訊いてみる気はないけどな。
「とりあえず、出ようぜ」
「うん」
萩原がうなずいて、オレが立ち上がったときだった。
「秋篠組へようこそ。哀れな子羊達」
純粋な悪意を感じさせる、冷たい声。
オレは扉の方へと、振り返った。
「まさか、こんなに上手くいくなんてね。計算外だったのは、意外と萩原由美ちゃんが、聡明だったことかな」
「・・・!!」
オレの隣で、萩原はオレのシャツの裾をつかんだ。ボソッと彼女がつぶやくのが聞こえる。
「気安く、ちゃん付けしないで欲しいな」
度胸あるな、萩原。さすが、アスカの知り合い。
奴はゆっくりと、オレと萩原に近づいてきた。オレ達は動けない。奴の左手に光る、拳銃が、オレ達の頭にまっすぐ向けられているからだ。
「また会えて、嬉しいよ。ヒイラギ・・・いや、藤峯冬樹君」
「!!」
奴―ユキヒトは笑いながらそう言った。 |