第20章:罪
俺は馬鹿だ。27年間生きてきて、初めてそう思った。
俺の隣では、ヒイラギが泣いている。声なんて上げずに、ただただ涙を流している。
そんな彼を見ていると、己の愚かさに腹が立ってしまう。
俺は、ヒイラギの辛さにすぐには気づいてやれなった。俺はよくヒイラギのことを「ガキ」呼ばわりしているが、本当にガキだと思ったことはない。むしろ、そこいらの大人より、よっぽど大人だと思う。まあ、確かに少し虚勢張ってるようなとこはあるけど。
ヒイラギの元気がないことは、気づいていた。だが、それはナツメがいなくなったからだと思っていた。でも、それだけじゃなかったんだ。ナツメと何を話していたか知らないが、ヒイラギは一年前のことを、本能的に悟ってしまったんだろう。
俺は、ヒイラギが混乱していることに気づいてやれなかった。ナツメの記憶喪失、ジンとナツメの間にあるわだかまり。そして、ミナミの事故、ミライの自殺。俺には良く分からないが、親からの久しぶり(?)のメール。
17歳の少年には、辛いことばかりだっただろう。
ごめんな、気づいてやれなくて。
そんな思いで、俺がヒイラギの頭をなでていると、不意にヒイラギがしゃべりだした。
「フユキ」
「え?」
「オレの、本名」
「なっ・・・」
俺は、耳を疑った。ヒイラギは、相変わらず目をそらしながら言った。
「オレの本名、フユキっていうんだ。季節の冬に、大樹の樹。それで、冬樹。ヒイラギってのは、あだ名だ」
「でも、由美ちゃんが、ヒイラギ君って・・・」
俺の疑問に、ヒイラギは、何ともいえない表情で答えた。
「小さい頃から、オレはヒイラギって呼ばれてたからさ。今じゃ、きっと親でもヒイラギって呼ぶよ。だから、学校の書類も、ヒイラギで通したんだ」
「・・・そうなんだ」
俺は、そうとしか言えなかった。
「でも、ヒイラギ。一体どういう心境の変化? 俺にそんなこと話してくれるなんて」
まさに、不思議だ。
「・・・アスカには、世話になったから・・・。それに、何か話したくなった」
「ヒイラギ・・・」
ちょっぴり感動。まさかこんなにも早く、ヒイラギが心を開いてくれるなんて、思わなかった。
「なあ。オレの昔話、してもいいか? 話が終わった後でも、アスカは、オレのこと、軽蔑しないでいてくれるか? オレを、ヒイラギって、呼んでくれるか?」
いつになく真剣な口調で、ヒイラギはそう言った。その目は、どこか不安そうだ。
生憎、俺は、過去で人を判断しない主義だ。そんなことはありえない。
「大丈夫。過去に何があろうと、ヒイラギはヒイラギだ。軽蔑なんかしないよ」
君が俺を軽蔑しないように、ね。
俺がそういうと、ヒイラギは微笑んでくれた。17歳の少年の、素直な笑みだった。
「じゃ、話すぜ。言っとくけど、この話はナツメにも、ジンにもしたことねえからな。人に話すのは、お前が初めてだ」
「それは嬉しいね」
そういって、俺は微笑んだ。本心だ。
ヒイラギは、遠い目つきで、ゆっくりとしゃべり出した。
「オレさ、兄貴がいたんだ」
兄貴? まあ、いても不思議はないか。
ん? 「いた」って、何で過去形なんだ?
「ヒイラギ、何で過去形?」
「・・・死んだんだ、兄貴。6年前に、海で。生きてれば、ジンやナツメと同い年」
「・・・そうか」
俺はそうとしか言えなかった。
不意に、ヒイラギの目が、俺を見た。その目の暗さに、俺はどきりとした。
その目は、俺が初めてヒイラギに会ったときの目とよく似ていた。
「兄貴は、さ」
次の言葉が、聴かなくても分かるような気がした。
「オレが、殺したんだ」
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