第1章:お見舞い
昔から、病院は嫌いだった。
白い壁は嫌いだ。独特のあの嫌な匂いも、苦手だ。病院と聞いて、真っ先に人が思い浮かべる病院の要素全てが、どうしようもなく苦手だ。
だが、オレは不覚にも、この建物に足を踏み入れなければならなくなってしまった。
ため息をつき、オレは白い建物へと、入っていった。受付で場所を聞き、オレは廊下を歩いた。
206号室という、プレートを確認してから、オレはドアを開いた。
その病室は、個室だった。
ベッドの傍に置かれた椅子に座っていたあいつが、オレのほうを向いた。
「やあ、ヒイラギ。来てくれたのか」
「まあな」
オレは、ベッドに近づいた。ベッドに横たわっているのは、一人の女の子だ。体のあちこちに、痛々しく、白い包帯を巻いている。意識のないその顔は、青白く、生きているとは思えなかった。
「意識が戻らないんだ」
椅子に座るように、うながしながら、ナツメはオレに言った。
オレは、ナツメを一瞥してから、また視線を女の子に戻した。本当に綺麗な子だ。確かミナミという名前だった。
「まだ君と同い年なのに、どうしてこんな目に遭わなきゃならないんだろうね」
ナツメは苦しそうにそういった。どうやら、ナツメはミナミが自分のせいでこうなったのだとまだ思っているらしい。
「戻る気はないのか」
愛おしそうにミナミを見つめるナツメに向かってオレは訊いた。俺が今日ここに来た目的は、単なる見舞いではないのだ。
ナツメは、肩をすくめて言った。
「悪いけど、まだ戻るわけにはいかない」
「ジンが心配してるぞ」
オレは、共通の友人の名を出した。オレがここに来たのは、ジンに言われてのことだった。
「あいつが心配しているのは、俺の事じゃなくて組のことさ。俺自体には興味なんてひとかけらも無いだろうよ。ジンに伝えてくれ。俺は、ミナミの傍を離れる気はない。お前のところには、もう戻らない、と。一ヶ月前、オレは決心したんだから」
真剣な顔で、ナツメはオレに言った。オレは、うなずいて退室するしかなかった。
「じゃあな」
片手を挙げて、オレは病室を出た。
病院を出ると、冷たい風が俺を出迎えた。いつの間にこんなに寒くなってしまったのだろう。つい最近までは、紅葉がきれいだったのに。
いつもの場所へと向かいながらオレは思い出す。ナツメがオレたちから離れていってしまった、一ヶ月前のことを。
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