第15章:コウガについて
アラガキ邸を後にすると、早速アスカが携帯を取り出した。
「誰にかけるんだ?」
「電話じゃなくて、メールだよ、ヒイラギ。もちろん、由美ちゃんに」
なるほど。アスカの答えにオレは納得した。萩原由美なら、情報網も広いだろうしな。
「とにかく、コウガ少年の情報が欲しいからね」
パタンと携帯を閉じて、アスカはオレの方を向いた。
「さっきの話、どう思った?」
「さっきの話って・・・ミライのこと?」
オレの問いにアスカはうなずく。オレは思ったままのことを口にした。
「似てるなって思った」
「・・・誰に?」
オレに、と言おうとしたその時だった。
「アスカさん?」
声のしたほうを見ると、そこには
「由美ちゃん」
オレのクラスメートの萩原由美がいた。
立ち話も変なので、オレ達3人は近くの喫茶店に入った。(ちなみに、昨日の喫茶店ではない)
萩原由美は、まあ、何ともオシャレな格好だった。イマドキの、女子高生ってこんなカンジなんだな。
「ヒイラギ君」
ウエイトレスが去ると、萩原はすぐにオレに話しかけてきた。
「なんだ?」
「ちゃんと学校に来」
「断る」
言葉を遮られた萩原は、少し不機嫌そうな顔をした。アスカが笑って言う。
「由美ちゃん。ヒイラギに学校行け、だなんて無理な話さ。ヒイラギは、学校行くより、俺たちと一緒にいるほうが楽しいみたいだし」
「え、そうなんですか?」
「そうそう。俺たちといるときのヒイラギなんて、とっても幸せそうでさあ」
「今はオレのことなんてどうでも良いだろ」
オレはクールに突っ込んだ。オレ、そんなにアスカの前で幸せそうな顔したことねえし。
すると、突然萩原由美が笑い出した。
オレもアスカもぽかんとして、萩原を見た。
「ヒイラギ君とアスカさんって、何か本当の兄弟みたい!」
「あはは、かもね」
笑顔で相槌を打つアスカ。だが、オレはアスカのように、萩原の言葉を肯定することはできなかった。かといって否定することもできない。
兄弟。
今、一番聞きたくない単語だった。
「・・・ヒイラギ君?」
オレが固まったのに気づいたのだろう、萩原が不安そうにオレの表情を伺ってきた。
「・・・なんでもない」
オレは下を向いて答えた。
気まずい沈黙を破ったのはアスカだった。
「それでさ、由美ちゃん」
「はい」
「君に訊きたいことがあるんだ」
「お役に立てるのなら、何でも」
「ありがとう。実は、神藤高校2年C組にコウガって少年いるだろ?」
「コウガ?」
一瞬、萩原は眉を寄せたが、すぐに思い当たったらしい。
「知ってますよ! コウガ君って、あの不良君でしょ? ちょっとヒイラギ君に雰囲気の似てる」
「そうそう。そいつ」
そんなにオレとコウガって奴、似てるんだろうか・・・。
「そのコウガ少年について訊きたいんだ」
「コウガ君かあ・・・」
萩原は視線を宙に泳がせながら、ゆっくりと語った。
「コウガ君て、何ていうんだろ・・・まあ、本当に不良ってカンジだよね。銀髪で制服は着くずしてるし、バイクは乗り回してるし、無愛想だし。でも、結構純情そうだったけど」
「純情そうって?」
アスカが問う。
「つまり、恋したらもう一直線て意味です。よく言えば純情、悪く言えば単純」
つまり、アスカと正反対のタイプってことか?
「そのコウガ少年、最近学校来ているか知ってるかい?」
アスカの問いに、萩原は考え込んだ。そして、いった。
「そういえば、少し前から様子がおかしいって、C組の人が言ってたかも。彼は、もともとそんなに学校に来なかったらしいんだけど、2ヶ月くらい前からは、ほとんど来てないらしいの。来たとしても、何かをずっと考え込んでるみたい。ここ2週間は、一日も来ていないらしいの」
2週間前、といえば、ミナミが事故にあった日だ。2ヶ月前といえば、ミライが自殺した時だ。オレはアスカと顔を見合わせた。アスカは軽くうなずいた。どうやら、アスカもオレと同じ思いのようだ。
コウガという少年、とてつもなく怪しいじゃないか。アスカが萩原に礼を言う。
「ありがとう、由美ちゃん。君のおかげでいろいろ知ることができたよ」
「アスカさんのお役に立てれて嬉しいです」
随分と好かれてるんだな、アスカ。
「アスカさんとヒイラギ君が、興味半分で人のことをあれこれ詮索したりする人ではないと、信じています」
「もちろんだよ」
アスカが力強くうなずく。その横でオレも消極的にうなずく。
そんなオレ達2人を、萩原は笑顔で見つめていた。
「じゃ、私はこれで。頑張ってください。―ヒイラギ君、何を調べているのかは知らないけど、それが終わったらちゃんと学校に来」
「じゃあ、またな」
冒頭と同じ台詞を口にしようとする萩原に、オレはさっさと手を振った。言葉をさえぎられた萩原は、「ヒイラギ君のために言っているのにな・・・」などと言っていたが、特に気を悪くしているようではなかった。
そして、萩原は(オレにではなく)アスカにぺこりと頭を下げた後、喫茶店から立ち去った。
萩原が立ち去った後。
「これでほぼ決まったね」
アスカが口を開いた。
「ひょんなことからミライに助けられた、不良少年コウガは、ミライにおそらく好意を抱いてたんだろう。そんななか、ミライは自殺してしまった。それを知ったコウガ少年は、ミナミのせいだと思い、ミライの敵討ちに、ミナミを轢いた。大体そんな所かな」
「ああ。だけど、ミライの自殺から時間がたちすぎてないか?」
ミライが自殺したのは2ヶ月前。ミナミが事故にあったのは2週間前。この空白の一ヵ月半の間、コウガは何をしていたんだ?
「俺が思うに」
どうやら、アスカはこの疑問までも解決するまで、推理を立てているようだ。
「コウガがミナミに復讐しようと決意したのは・・・ミナミに恋人ができたからじゃないかな」
「え?」
どういう意味だ?
「だから、ミナミに恋人ができたのは約一ヶ月前だろ? コウガ少年は不良らしいから、もしかしたらどこかの組にお世話になってたかもしれない。それで、とある組のリーダーが、女子高校生と付き合い始めた、しかもその少女は神藤高校の人間らしい・・・なんて噂が彼の耳にもし入ったとしたら・・・。彼なら、調べるんじゃないかな。そして、それが自分の想い人を苦しめたミナミだと知ったのならば・・・」
ゆっくりとかみ締めるように、アスカは言葉を続けた。
「自分の双子の姉が自殺して、まだ1ヶ月半あまりなのに、ミナミは幸せそうに恋人を作っている。それが原因で、もしかしたら、コウガ少年は歯止めが利かなくなってしまったのかもしれない」
そう自分の推理を語る、アスカの横顔は、とても悲しそうだった。
オレは、想像してみる。自分の愛した人が、ひそかに恋焦がれていた人が自殺する。それだけで相当ショックに違いない。なぜ、自殺してしまったのか。自分は、何か役に立てたんじゃないのか、どうして気づいてやれなかったのか、いや・・・もしかして自分のせいなのか。
似ている、と思った。昔のオレに。
事情は違えど、同じだ。
「ま、とにかく」
オレの思考は、アスカの明るい口調によって中断させられた。
「大体のあらすじは見えてきたし、いよいよコウガ少年と接触だね」
「どうやって?」
オレが訊くと、アスカは笑みを浮かべ(背後に黒いものが見えるのはオレの気のせいだろうか)、快活に言った。
「もっちろん、組に当たるのさ。どこかの生意気なガキと違って、俺信頼あるから♪」
その生意気なガキというのはオレの事だろうが、聞かなかったことにしよう。
「じゃ、俺は、高校生くらいの少年が最近どこかの組に入ったっていう噂がないか訊いてみるから。ヒイラギは、ミナミの様子見てきて」
別行動ってわけか。まあ、オレがのこのことアスカについて行っても、良いことなさそうだし(みんなから白い目で見られるだけだし)。それに、ミナミのことも気になるし。
「了解」
「よっし。じゃ、今日の夕方にまた昨日の喫茶店で良いかい?」
「ああ」
オレはうなずいた。喫茶店のウエイトレスさんの白い目が、目に浮かんだが、まあ無視するとしよう。
「よろしくね、ヒイラギ。ミナミとナツメによろしく〜」
へらへらと笑いながら手を振るアスカを一瞥し、オレは喫茶店から立ち去った。
―コウガ。お前はどこにいる―
―どこにいるんだ― |