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更新、大幅に遅れて、申し訳ございません。
以後、気をつけます。
アライヴ
作:亜月 聖



第12章:自宅にて


喫茶店を出ると、そこはもう、日が傾こうとしている直前―つまり夕暮れだった。
冬の日没は早いからな。
「さて、と」
オレの隣にいたアスカが、手帳を取り出し、言った。
「行くよ、ヒイラギ」
「どこへ」
「アラガキの所」
「だからどこだよ!!」
ヤバイ。思わず怒鳴ってしまった。そんなオレの反応に、アスカは薄く微笑した。
あいつにそっくりだ・・・。
「まあまあ。そんなにカッカするなよ。アラガキも、そんな遠い所にすんでるわけじゃないし」
「本当だろうな・・・」
オレはアスカを疑った。なにせ、こいつは「近い近い」とか言っておきながら、オレとナツメを一時間歩かせたことがあるんだ。
「大丈夫だよ、ヒイラギ。ほんとに近くだから。でもまあ、今日はやめておこうか。もう4時だし」
「そうだな」
オレは同意した。今の時間帯じゃ、会社にいるだろうしな。それにしても、オレ達ってどんだけ喫茶店にいたんだ・・・。今後、あの喫茶店に行くときは、もっと注文しとこう。
「じゃあね、ヒイラギ。また明日。午前10時にいつもの場所で」
「アラガキに会えるのか?」
オレが訊くと、アスカはにやりと笑った。
「もちろんさ。アラガキは俺の親戚だし。明日は土曜日だから、会社も休みだし」
「そうか」
朝倉ミナミの叔父、アラガキ。アスカの親戚、アラガキ。一体どんな奴なんだろう?
オレの心は早くも期待半分、不安半分となってきた。
「バイバイ」
そういって、アスカは手を振った。オレも手を振り返す。そして、オレは家へと帰った。



約30分後。自宅到着。ちなみに、オレの家は一軒家だ。そのくせ、家族構成はオレ一人。両親は、外国で仕事をしており、滅多に帰ってこないので、実質オレの一人暮らしだ。一人暮らしにしちゃ大きすぎるけどな。住み慣れた家だし。
「ただいまー」
誰もいないのに、ドアを開けるときに、声が出るのは昔を思い出してなのだろうか・・・。
「おかえりー」


なぜか、リビングにナツメがいた。


「ヒイラギ、お帰りなさい☆ 早かったねえ」
「ナツメ・・・」
「ん?」
ナツメは、極上の笑顔を見せてきた。フラッシュバック。オレの脳裏に、あいつの笑顔がよぎる。
「何で、お前が、ここに、いるんだ!」
オレは、一語一語区切るように言った。意味が分からない。なぜ、ここにナツメがいるんだ?というか、なぜカギのかかった家に入れる? その前に、なんでナツメが俺の家を知ってるんだ?
オレの頭が?(クエスチョンマーク)でいっぱいになっているとき、ナツメは優雅に微笑んでいた。
「んで、本当に、何でここにいんだよ」
「なんとなく。ヒイラギ一人じゃ可哀想だと思って」
「何で、オレの家知ってんの」
「俺が素晴らしいから」
「はっ」
いけしゃあしゃあと、自分が「素晴らしい」とか言ってる奴が素晴らしいわけねえだろ!
本当に、何故なんだ? 落ち着け、大人びた少年ヤンキー、ヒイラギ。冷静に考えるんだ。


分かんねえ。本当に何でなんだ?
「オイ、ナツメ。本当にどうして」
オレは言葉を失った。

ナツメは、泣いていた。
両手を顔に押し当てて、ひじをテーブルにつき、無表情に泣いていた。
「ナ、ナツメっ」
オレは慌てて、ナツメのそばへ行った。
「どうしたんだよ、ナツメ」
「ヒイラギ・・・」
ナツメは、顔を上げた。女性もうらやむ美形が、涙で輝いていた。
「笑わないで聞いてくれるか」
「? あ、ああ・・・」
オレは首を縦に動かした。実はナツメが女だったとか、本当は朝倉ミナミの恋人じゃなくて兄妹だとか、そんな馬鹿なことじゃないかぎり、オレは信じる。
オレがそういうと、ナツメは、力なく微笑んだ。
「ありがとう、ヒイラギ」
そして、オレに横顔を向けたまま、話し出した。
「これから話すことは、アスカしか知らない。ジンさえも、知らないことなんだ」
長くなりそうなので、オレはナツメの向かい側の椅子に座った。

「俺さ、ヒイラギ」
「うん」
「―記憶が無いんだ」


は?
何だって? オレは目を見開いて、ナツメを見た。ナツメの表情は真剣だった。
「記憶が無いといっても、全ての記憶が無いわけじゃない。断片的にはあるのさ。小学校のときの担任の先生とか、一番仲の良かった友達とか。年間行事の思い出とか。もちろん、この世界に入ってからのことなんかは全て覚えているんだ。でも、ダメなんだ。どうしても・・・どうしても、家族のことが思い出せないんだ」
家族。その言葉は、オレには無縁のものだった。オレに家族はいたんだろうか。
ナツメの話は、ショッキングだが、驚くのは、質問するのは、ナツメの話が終わってからにしよう。

ナツメは、一息ついてから、また話し始めた。
「俺さ、18歳のとき―つまり今から6年前か。そのときに、何かの事故で意識不明になっちゃったらしくてさ。その事故についても、俺は何にも覚えてないんだ。気がついたら、病院のベッドの上だった。そして」
「家族のことだけ、すっかり忘れてしまったと」
「そういうこと」
ナツメは、オレの言葉に深くうなずいた。
「今じゃ、もう何も思い出せないんだ。両親の顔も、兄弟がいたのかさえも、分からない・・・。だから、ここへ来た」
「どうしてここを知っていたんだ? 教えてないはずだけど」
オレは、最初から疑問に思っていたことを口にした。すると、ナツメは、唇の端を吊り上げて言った。
「ヒイラギ、君はオレが通っていた高校の生徒だろ。なら、簡単に調べることができたよ。鍵は、これを使ったんだ」
そういって、ナツメは、ポケットから銀色の細長いものを取り出し、テーブルの上に置いた。
針金だ。
オレが、戸惑いながら、ナツメを見ると、
「アスカが教えてくれたんだ。いつかきっと役に立つって。本当に役に立った」
アスカめ。変なことばっか教えやがって。
オレが、恨めしげに針金を見つめていると、ナツメが不思議そうに訊いてきた。
「ヒイラギ、何か訊きたい事とかないの?」
「何を?」
オレが訊くと、ナツメは戸惑ってしまったようだ。
「いや、絶対にいろいろと訊かれると思ったのに」
「はっ」
鼻で笑うのは、本日二回目だ。
「うわ、コイツ、鼻で笑いやがった」
「だって、この話題はナツメにとって良いものじゃないんだろ」
「え?」
オレは、動揺するナツメの目を見ながらしゃべり続けた。
「家族の記憶を失ったなんてさ、ナツメにとっては辛いことだろ。辛い気持ちを話してくれた人間に根掘り葉掘り聞くなんて、オレにはできない。オレは、どうしてナツメがこの家には入れたのかが分かって納得したし、ナツメはオレに自分の秘密を打ち明けてくれた。それだけで十分だ」
オレは、久しぶりににっこりと笑った。
「ヒイラギ・・・」
「記憶、早く戻ると良いな。あと、ナツメの彼女、意識早く戻ると良いね」
オレがそういうと、ナツメは少しだけ笑ってくれた。
「ありがとう、ヒイラギ。やっぱり、君は心の優しい子だね。さてと、そろそろ帰ろうかな。ミナミのところに戻らないと。お邪魔したね、ヒイラギ。会えてよかったよ」
「オレも」
オレは、帰ろうとするナツメを玄関まで見送った。
「じゃあね、ヒイラギ」
「ああ。今度会うときは、ナツメの記憶が戻り、彼女さんの意識が戻っていることを願うよ」
オレの言葉に、ナツメは、ちょっと目を開き、微笑んだ。
そして、バイバイ、とオレに手を振り、帰っていった。


記憶喪失、か。
ナツメが帰った後、しばらくオレはソファで脱力していた。
先ほどのナツメの話を思い出す。
ナツメ、辛そうだったな・・・。
家族のことが思い出せない。それは、さぞかし辛いことだろう。
ふと、あいつのことを考える。今日は、あいつのことをよく思い出す。そう、なんでも完璧にできて、オレに、生きる希望を失わせた、あいつ。
あいつも生きていれば、ナツメやジンと同年齢・・・か。
そんなことを思いながら、ソファでまどろんでいると、時計の針が6を指し示した。
そろそろ晩飯の支度だ。
「めんどくせえ・・・」
なんて、ぼやいても仕方ないか。
「明日、10時だったっけ・・・」
寝坊したかったのに・・・。
オレはそんなことを考えながら、自分だけのために、夕食を作り始めた。



ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
作者の聖です。
更新不定期の人間ですが、よろしければこれからの展開も見てやっていただけると、作者としては嬉しい限りです。
今後も、「ありえねー!」展開が続きますが、頑張って早めに更新していきたいと思っております。











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