第11章:無関係
「まったく!! いつもの場所に行ってみりゃあ、誰もいねえし。アスカがいないのは勝手だが、居るはずのヒイラギもいねえ! オイ、ヒイラギ! ナツメにはちゃんと会ったんだろうな!!」
―うるせえ。
先ほど、オレの背後に立っていたジンは、今はオレの横に座っている。ジンの声は、鋭く、怖い。しかも、うるさい。
「そんな大声出すんじゃない、ジン。ウエイトレスの綺麗なお姉さんが、《あの人達、早く出てってくれないかしら》的な目つきで見ているよ」
アスカ、頼むから、ジンを怒らせるような言い方はやめてくれ。
「貴様にどうこう言われる筋合いはねえんだよ、アスカ」
「俺も君に何か言われる筋合いは無いな。俺がどこで何していようと、ヒイラギがどこで何をしていようと、ジンには関係ないだろ」
「2人とも、場所考えろよ」
火花を散らすジンとアスカに、オレはヒソヒソ声で言った。公共の施設でケンカだけはやめて欲しい。居合わせた人たちの視線が痛いんだ。
「ヒイラギがやめろっていうんなら、やめるけどさっ」
「オイ、ヒイラギ。ナツメの様子はどうだったんだ?」
さりげなくジンは、アスカを無視し、オレに話しかけてきた。オレは、ナツメの様子を話した。もう戻らない、と言っていた事も。
オレの話を聞いたジンは、眉間にしわを寄せ、不機嫌そうだった。
「フン、やっぱりな。あの無責任野郎が」
「無責任、か」
オレは、こっそりとつぶやいた。無責任。嫌な言葉だ。あいつを思い出させる言葉だ。
「それにしても、ジン。どうして、いきなりナツメを呼び戻そうなんて思ったんだい?」
アスカが訊いた。
「別に」
ジンの答えは素っ気なかった。
「寂しくなった?」
「んなわけねえだろ!」
ジンには、変な趣味は無いぞ、アスカ。もちろん、オレもだ。
「ふ〜ん・・・」
憤慨しているジンを、アスカはじろじろと眺めた。
「んで? お前等はここで何してやがるんだ?」
「別に」
アスカは某女優風に答えた。似ているのが怖い。
「ま、お前等がどこで何してようが、俺の知ったことじゃねえけどな」
そう言って、ジンは両手を頭の後ろで組んだ。
「じゃあ、ほっといてくれよ、ジン。俺とヒイラギはまだやることがあるんでね」
「勝手にしろ」
素っ気無いな、ジン。やっぱ、ジンもナツメがいなくなった事に、まだショックを受けているのだろうか・・・。
「じゃ、バイバイ」
そういって、アスカは適当に手を振った。
「あ?」
「もう用は無いだろ? 帰れ帰れ」
「・・・」
アスカ、態度冷たいな。まあ、ジンもそんな感じだから、お互い様か。
「確かに用はもうねえけど。1つだけ言っとくぞ。特にヒイラギにだ」
「オレ?」
オレは、ジンを見た。ジンもオレの目を覗き込んだ。
「ナツメのことにはもう首を突っ込むな。あいつは、もう戻って来ねえ。想ってやるだけ無駄だ。それと、あいつの彼女が事故にあったそうだが、それについても首を突っ込むんじゃねえぞ。お前には関係ねえことなんだから」
「どうして、関係ないことなんだよ?」
オレは、ぶっきらぼうにジンに訊いた。
「ってことは、やっぱり事故について調べてやんのか」
「・・・ああ。そうだよ」
渋々、ジンにそう言うオレを、アスカは白い目で見つめた。確かに、オレはアスカと約束をしていた。ジンには、事故について調べていることを言わない、と。すまない、アスカ。勘弁してくれ。
「フン、やっぱりな。ヒイラギ、お前は優しすぎんだよ。赤の他人のことに、首を突っ込みすぎだ。会った事も無い人間の事なんか調べんじゃねえよ」
「ナツメの彼女は、オレと同じ高校の生徒だ!」
オレは、思わずジンに向かって怒鳴った。オレがこんなにジンに対して怒るのは、いや、こんなに感情をあらわにしたのは初めてだった。
「ついでに言えば、アスカの親戚だ」
「・・・何だと」
ジンは、明らかに驚いていた。目を開き、驚愕している。そんなジンに、オレはさらに言った。
「確かに、オレとナツメの彼女は直接的には関係は無いかもしれない。だが、ナツメはオレの友達だ。それに、アスカも」
「何だよ、その付け加えて的なカンジ。差別はいけないよ」
アスカの発言は、とりあえず無視してオレはジンに向かって話を続けた。
「彼女は、ナツメの大切な人だろ? オレにとって、ナツメは大切な人間だ。ナツメは、彼女が事故にあって傷ついている。彼女がひき逃げに遭ったのは、元ヤクザの自分のせいだと思って、自分を攻めているんだ。オレは、そんなナツメを、もう見たくないんだ。ナツメは、オレの大切な友達なんだから」
一語一語、区切るようにして、訴えるオレの声を、ジンはじっと目を閉じて聞いていた。オレは、しゃべっているうちに、胸に何かがこみ上げてきた。ひき逃げに遭った、オレと同い年の少女。彼女が事故に遭い、それを自分のせいだと思い、自分を責めているナツメ。その2人ともが、オレには気になって仕方がない。一人は、大切な友達だから。もう一人は、大切な友達の彼女であり、親戚だから。
「・・・そうかよ」
やがて、ジンが口を開いた。
「お前が、そう確信してんのなら・・・好きなようにやれ」
「ジン・・・」
嬉しかった。どうやら、ジンにオレの思いは伝わったようだ。初めて会ったときのように。
「その代わり、無茶はすんじゃねえぞ」
「ああ」
オレは微笑んだ。久しぶりに笑ったせいか、少し笑顔がひきつった。
そんなオレを、ジンは温かいまなざしで見つめていた(アスカは分からない)。
「さて、と」
突然、アスカが口を開いた。オレとジンはアスカを見た。
「何だよ、アスカ」
「ジンとヒイラギの友情も深まったようだし、そろそろ次の所に行こうかな、と思ってね。もう2時だし」
もう2時なのか。オレは驚いた。オレ等は一体、何時間この喫茶店にいたんだ?
「行こう、ヒイラギ」
そう言って、アスカは席を立った。オレもうなずいて、立ち上がったのだが・・・。
「ジン、行かないのか?」
席を立とうとしないジンに向かって、オレは訊いた。すると、ジンは肩をすくめ、言った。
「俺はもう少しここにいるぜ。会わなきゃなんねえ人間がいるんでな」
「そうか」
ジンが会わなければならない人間・・・おそらくヤクザだな。この喫茶店もかわいそうに。
「ヒイラギ、行くよ」
入り口のほうから、アスカの声がした。
「今、行く」
アスカに向かって、返事をしてから、オレはジンに言った。
「じゃあな、ジン」
「ああ。気をつけろよ」
ジンは、そう言ってうなずいて見せた。
オレは、喫茶店を出た。 |