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アライヴ
作:亜月 聖



第10章:登場


「で、どうすんだよ」
優雅に、コーヒーを飲むアスカに向かって、オレは言った。この言葉を吐くのは、今日で2回目だ。
「どうするって?」
「行き当たりばったりになってるじゃねえか。結局、雪永からは有力な情報は、つかめなかったわけだし・・・」
ほんとに、オレ達は何をしていたんだか。結局、約束だけして肝心なことは何も訊いていない。
だが、肩を落とす俺とは違い、アスカの顔は笑っていた。
「最初から、真実が分かるなんて、思っちゃいないさ。年頃の女子高生が最初から、全部しゃべってくれるわけないし。ほかにも当てはあるしね」
「それを早く言え!!」
平然と言うアスカに、オレは思わず声を荒げてしまった。当てがほかにあるのなら、早く行ってくれ!! というか、そっちの方面から攻めたほうがよかったのでは・・・?
「まあまあ。落ち着くんだ、ヒイラギ。ウエイトレスの綺麗なお姉さんが、びっくりしているよ」
「・・・・・・」
いつから、オレとアスカは漫才コンビになったんだろうか? 謎だ。
「と、いうことで」
と、アスカは手帳を開きながら言った。
「次は、この人に訊いてみよう」
「誰だよ?」
「アラガキ」
誰だ、それ。
「誰だよ、そいつ」
「ミナミの叔父」
「叔父?」
つまり、ミナミの父親か母親の兄弟ってわけか。
アスカは、うなずきながら話を続けた。
「父親の弟らしいよ。年齢は・・・まだ30代。若いねえ」
妙な所に感心しているアスカをよそに、オレは疑問を口にした。
「朝倉ミナミの両親は?」
「死んだ」
「死んだあ!?」
初耳だ。
「彼女が小さいときに、火事でね。それ以来、ミナミは父方の家で育てられたらしいよ。まあ、高校生になってからは、両親がかけてくれていた生命保険で、一人暮らししてたみたいだけど。でも、アラガキ氏とはよく会っていたそうだし。オレも詳しくは知らないけどさ」
「つまり、アラガキ氏は朝倉ミナミのことをよく知っているってわけか」
「そういうこと」
アスカがうなずいた所で、オレはカフェオレを飲み干した。アスカはそれを黙ってみていたのだが・・・。
「ヒイラギ」
「何だ」
「好きだね、カフェオレ」
オレは顔を上げてアスカを見た。
「そうか?」
「うん」
確かに、オレはカフェオレが好きだ。だが、今それは関係ないんじゃ・・・。
アスカは、しばらくオレを見ていたが(視線が痛い)、フッと目をそらし、ポツリとしゃべった。
「ミナミも、好きなんだよ、カフェオレ」
「そうなのか」
「ああ。俺がミナミに会うのは、いつもこういう喫茶店とかなんだけど、いっつも彼女頼んでたよ。飲むと心が落ち着くからって」
「そうか・・・」
オレは手元にあるグラスを見つめた。オレがカフェオレを飲みまくる理由。誰にも言ったことはない。ただ、好きなだけじゃない、裏にある理由。オレはきっと、一生誰にも話さないだろうな・・・。
「そういえば・・・」
不意に、アスカが言い出した。
「何だ?」
「俺、ヒイラギのことよく知らない」
「は?」
いきなり何を言い出すんだ、こいつは。
「ヒイラギの本名とか、全然知らない」
「それは、お互い様だろ」
オレはそっけなく答えた。確かに、オレはアスカに自分の本名を教えたことはない。ジンやナツメも知らない。でも、それはお互い様だ。オレも、アスカやジン、ナツメの本名なんて知らない。
「それに、俺は、君がどうして雪花組に来たのか知らない。ある日、ジンが君を連れてきただけだ」
「・・・お互い様だろ」
そういえば、オレが雪花組に入ってもう一年ぐらいたつな。初めて、ジンやナツメ、アスカに会ったときはびっくりしたなあ。まあ、もう慣れたけど。
そういえば、ジンどうしてるかな・・・? そもそも、あいつがオレに「ナツメの様子見て来い」って言ったんじゃなかったか? そのくせ、ジンいつもの場所にいねえし。そのおかげで、アスカと組む羽目になっちまった・・・。

オレが、事の流れをジンに擦り付けている間、アスカはじっとオレを見ていた。俺の顔になんかついてるのか?
「やっぱり、俺は君にとってナツメやジンより下なのかな・・・」
「へ?」
オレは目を剥いてアスカを見た。アスカの顔はどこか悲しげ、寂しげだった。
「君は俺には見せてくれないよね」
「何を」
「笑顔」
は・・・? オレは、間抜けなことに、開いた口がふさがらなかった。アスカの奴、何を言い出すかと思ったら。
「ヒイラギ、君はナツメやジンには見せる、笑顔を俺には見せてくれない。オレは、それが悲しくてたまらないよ。君とはもっと仲良くしたいのに、君は笑ってもくれない」
「笑うも何も、話題が話題だろうが」
アスカの多少オーバーな台詞が、これ以上喫茶店内に響き渡らないよう、オレはあわてて(でもクールぶって)アスカの言葉をさえぎった。
「アスカの親戚の高校生の女の子の、ひき逃げ事件の話題しているときに、満面の笑みなんてできるかよ」
「できる」
こいつ、断言しやがった・・・。
「オレには無理」
「俺も無理」
「は」
じゃあ言うなよ!! オレはそう言いたくてたまらなかった。
まったく・・・。いつからこの話はコメディ化したんだ?
「君だけじゃない。ジンもだ。ジンは、俺のこと間違いなく嫌っているだろ」
「だろうな」
オレは首を縦に動かした。ジンは、確かにアスカのことをライバル視している。
アスカは、ため息をつきながら(芝居くさいが)、いった。
「オレは別に、ジンと対立したいわけじゃないんだけどね。ただ、あいつヒイラギのこと大切に思ってるから、どうしても俺を嫌うみたいで・・・。まるで、ヒイラギの保護者か兄貴だね」
「・・・」
オレはだまっていた。オレの脳裏にジンの顔がよぎる。ジンは、確かにオレに優しくしてくれる。オレがヤンキーたちに囲まれ、そいつ等を倒したとき、初めてジンに会った。一瞬、ジンの顔の怖さにビクッとしたが、ジンはガキ(アスカによると、高校生はガキらしい)のオレを、仲間に入れてくれた。そして、ナツメも。ナツメは、すぐにこの新入りを受け入れてくれた。オレにとって、ジンとナツメは大切な存在だ。兄貴のような存在なんだ・・・。

オレが、自分の思いに浸っていると、不意にアスカが顔を上げて、入り口に目をやった。そして、ため息をつきながら、肩をすくめ、首を横に振った。
その行動の意味は、次の瞬間オレには分かった。

「何やってんだ、お前等」
低く、思わず背筋を伸ばしたくなるような、冷たい声。その声を発した人物はどうやら、オレの背後にいるようだ。
アスカが、オレの背後に目をやりながら、言った。
「やっぱり、ヒイラギの保護者だ」
オレは、後ろを振り返った。

金髪に、つり上がり気味の目。鋭い眼光。そして、頬の傷。
見るからに、ヤクザっぽいそいつは、紛れも無く、オレの親友、ジンだった。












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