アライヴ(10/45)縦書き表示RDF


アライヴ
作:亜月 聖



第9章:喫茶店にて


「どうしてあたしが、ミナミと本当の友達じゃないと思ったの?」
喫茶店に入り、飲み物を注文するなり、雪永はオレに尋ねてきた。当たり前だが、オレには敬語を使わないらしい。
「友達じゃないのか」
「・・・友達よ」
どうやら、雪永晶という女生徒は、「優等生」という仮面をかぶっているだけのようだ。だんだんと、本性が出てきている。
ちなみに、アスカは微笑みながら、成り行きを見守っている(面白がっている)。
「あたしとミナミのことなんて、ヒイラギ君には関係が無いと思うんだけどな」
「朝倉ミナミに恋人がいたのを知っているか?」
オレがそう訊くと、明らかに雪永は狼狽した。
「知らなかったのか?」
「・・・知ってたわ」
雪永はうつむきながら言った。
「でも、会ったことは無いのよ。ミナミは、恋人ができたことは教えてくれたけど、その恋人の名前や、年齢、どんな人かも教えてくれなかったもの」
雪永の口調は、どこか嫉妬を感じさせるものだった。

そのとき、注文した飲み物が運ばれてきた。そのため、一時話は中断した。
運ばれてきたカフェオレを、ゆっくりと左手で持って口に運びながら、オレはじっくりと幸長を見ていた。
雪永は、コーヒーカップを右手に持ち、うつむき加減でコーヒーを飲んでいた。
改めてみてみると、雪永は目が大きい。男好きのするタイプだ。オレも、普通の高校生だったら、こういうタイプの女の子と、付き合ったりしたんだろうか・・・。

「・・・ミナミは本当に良い子だったわ」
オレが、物思いにふけっていると、不意に雪永がしゃべりだした。雪永は、自分の手を見つめながら、ぽつり、ぽつり、としゃべった。
「ミナミは、誰にでも優しくて、愛らしくて、何でもできて、皆から好かれていたわ。それ故に、反感を買ったり、恨みを買ったりすることもあったけど・・・」
「あんたもその一人か?」
オレがそう訊くと、雪永はキッ、とオレの顔を睨んだ。
「違うわ! 確かに、うらやましいって思った事はあるわ。でも、一緒に行動するようになってからは、そんなこと思わなかった。あたし、知ってしまったんだもの、ミナミにはミナミなりに、悩みがあるって事。誰にでも優しく、何でもできるからこそ、悩んでしまうってこと。
あたしは、ミナミを恨んだり、反感を持ったりしてないわ」
「じゃあ、どうしてあの日、彼女と一緒に帰らなかったんだい?」
オレの隣から、低い声が聞こえた。
今まで事態を静観していた、オレの横にいる人物は、オレが聞いたこともないような、低く鋭い声で、雪永に迫った。
「どうして、彼女が事故にあったって聞いて、冷静でいられるんだい? もっと言えば、どうして、さっきから、彼女のことを過去形で話すんだい? まるで、彼女が死んでしまったかのように」
アスカの問いに、雪永はうつむいた。アスカの問いは、オレも思っていたことだった。友達が、親友が、事故にあって意識不明だというのに、どうして冷静に学校にいられるんだろう?
恋人のナツメは、絶えず彼女の傍に付き添っているというのに。もし、事故にあったのがジンやナツメ、アスカだったら、オレはきっと耐えられない。居てもたってもいられなくなるだろう。それが、親友なのではないだろうか。
「言っておくけど、彼女の恋人は、親友をほっといて、ずっと彼女の傍にいるよ。辛そうな顔しながら、毎日毎日、彼女の顔を見てる。親友が呼び戻しに来てもつれない態度さ。それに比べて君は、随分と冷めているね」
アスカの言葉にはどこか厭味が混じっているように思う。オレは、アスカがこんなに静かに怒るやつだとは知らなかった。
雪永は、再びうつむいていた。唇が、震えているのが見えた。
「答えてくれないかい?」
アスカの、氷のように冷たい言葉で、雪永はようやく顔を上げた。そして、ハッキリとした声で言った。
「言えないわ」
「なぜ?」
「あなた達を信用できないもの」
雪永の目は、まっすぐにオレとアスカを見つめていた。それにしても、アスカの前でよく「信用できない」とか「言えない」なんて言えるな。ヤンキーの中でも、一風変わっているアスカは、本気で怒ると、誰よりも怖い。別に、怒鳴るわけでも暴力を振るうわけでもない。それは、ジンだ。アスカは、言葉と口調によって、怒りを表す。先ほどのような、氷のような冷たい声。あれは、隠し事をしていると、思わず言ってしまうような、そんな厳しい声だ。
まあ、雪永は、アスカの性格を知らないだろうし、なかなか負けん気が強そうだから、いえるんだろうけど。
オレが、あれこれ関係の無い事を考えていると、アスカが表情を少しだけ和らげた。つまり、微笑(苦笑といったほうが良いかもしれないが)したのだ。そして、そのままの表情で言った。
「なかなか度胸のある子だね。信用できない、か。そりゃそうだ。でも、信用してもらわないと困るんだけどな」
「じゃあ、こうしようぜ」
オレは横から口を挟んだ。妥協案(?)を思いついたのだ。
「オレ達が、朝倉ミナミをひき逃げした犯人を見つけられたら、雪永は今の質問に答えるって事で」
「良い案だ。ヒイラギにしては、考えたね」
失礼な言い方をしないでくれ、アスカ。
「どうして、あたしの個人的なことをあなた達に教えなきゃいけないのよ。それに、どうしてヒイラギ君はそんなにミナミについて知りたがるの? 一度もしゃべったこと無いくせに」
雪永が、不満そうに言った。
「最もな質問だね。ちなみに、俺の回答は、ただただ知りたいから。高校生の、真の友情とは何なのかっていうのも、興味あるしね」
どこか楽しそうに、アスカは言った。雪永の視線が、アスカから、オレへと移った。次はお前だ、ということらしい。
オレは、まっすぐに雪永の目を見返し、言った。
「理由が無きゃダメなのか」
えっ、というように、雪永はまじまじとオレを見つめた。オレは、そんな雪永に言葉を発した。
「誰かのことを知りたい、って思うことに理由なんて無いさ。オレもアスカと同じ。ただ知りたいだけさ。あの日、あんたはどうして朝倉ミナミと、一緒に帰らなかったのか。どうして、あんたはそんなに冷静でいられるのか。まるで、こうなることを予測していたみたいに」
雪永が息を呑む音が、オレには聞こえたような気がした。そんな雪永に、オレはさらにしゃべり続ける。
「2つ目の質問には、2つ理由がある。1つは、朝倉ミナミが隣にいるアスカの親戚だからだ。親友の親戚が事故に遭った。しかもそれはひき逃げで、犯人は捕まっていない。そしてその親友はそのひき逃げ事件について調べようとしている、なんて知ったら、誰でもその親友を手伝ってやろう、と思うだろう? 
もう1つは、彼女がオレと同い年だからさ。同い年の人間が、ひき逃げにあった。しかも、オレと同じ学校の人間だ。ひき逃げってのは、よほど恨みを持った人間の仕業だ。殺意があると言ってもいい。どうして、高校生の女の子が、そんなに恨まれていたのか。どうして、その子は、一人で歩いていたのか。高校生ともなれば、友達と大勢で一緒に帰るのが普通だろうからな」
オレの話を、雪永はじっと聞いていた。そして、言った。
「いいよ」
「え?」
「あなた達が、ミナミをひき逃げした犯人を捕まえることができたら、さっきの質問に全て答えてあげる」
雪永の目は真剣だった。その目を見て、オレは少し後悔をした。少なくとも、雪永は朝倉ミナミのことを、親友としてみていたのだ。オレは、その友情を疑ってしまったのだ。
ごめんな。オレは心の中で、雪永に謝った。口に出しては、いえなかった。
「ありがとう、雪永さん」
アスカが、そっと声をかけた。雪永は、何かを決心したように、立ち上がった。
「あたし、学校に戻るわ。戻って、ちゃんと授業聞いておく。ミナミが、戻ってきたときにあたしが親友として勉強を教えてあげられるように」
そう言う雪永の顔からは、先ほどまでとは違う、どこか晴れ晴れとしたものを感じた。
「絶対に、犯人見つけてください」
ペコリ、と雪永は頭を下げ、喫茶店を出て行った。

「ヒイラギ」
「何だ?」
雪永が去ってからも、オレ達はぐずぐずと喫茶店にとどまっていた。
「さっき、カッコよかったよ」
「は」
「さっきの話さ。ヒイラギのクセに、なかなか良いこと言うじゃん」
「ほっといてくれ」
オレはそういって、窓の外を見た。木枯らしが吹いていて寒そうだ。だが、オレの心の中は、少しだけ晴れたようだ。













ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう