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パイリン・ザ・ゴーレムマスター 作者:大滝よしえもん
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ゴーレムマスター師弟、新たなマスターに出会う(4)

 この森のゲアリック強盗団のアジトは、地中の川から湧き出た水によって生まれた湖の、大きな中州の中心にある。そこにそそり立った、太い数本の幹がからみあって伸びたような、変わった巨木の洞を利用して建物代わりに使っているのだ。太い枝にはいくつかの足場を設けて、上に戦爆竜ヤーボドラッケンが留まる場所を作ったり、監視塔にした、ちょっとした砦である。

 その場所を見つけるのは困難ではなかった。湖の位置は知られていたし、このあたりで戦爆竜ヤーボドラッケンなんて山火事をおこしそうな危ない生き物など使っているのは強盗団員くらいなものだから、森の上を飛んでいくそいつらの行き先に向かえば、程なく巨木のアジトに行き当たる。

 そんなわけで、早朝から奇襲攻撃をかけるべく出かけたパイリン一行は、現在強盗団アジトから距離にして三百メートル程の藪の中から様子を伺っていた。そこから先は湖畔の草地、しかも湖畔から中州への道は細い浅瀬のみで、水位の低い今ならかろうじて歩いて渡れる状態。これでは巨木の上の見張櫓からは近づく者を容易に発見できるので、見つからないように忍び込むのは至難の業だろう。

 「団員は現在合計十九名。調べによると、親分であるゲアリックの統率力は強いが、片腕となるナンバー2たる存在がいないらしい。ここが狙い目だ。まず最初にゲアリックを倒し、統率力を失った手下どもを混乱に陥れる」
 「で、どうやって忍び込むの?見ての通り、見晴らしが良すぎるけど」

 パイリンは昨夜のうちに作戦を立ててたようだが、いかんせん時間が限られているため、細かい部分は現地で修正せざるをえないのだ。
 「プラン06の改訂B案でいく。それにプラン22の後半を付けたそう」
 「いつの間にそんなにたくさん考えてたの!?」
 「いやテキトーな数字言っただけ~、本当は今考えた」
 なんだ、うそか。こんな時にまでボケてどーする。

 「で、それは具体的に何をどうすると?」
 「まずエッちゃんが全裸でケタケタ笑いながらまっすぐ突撃し……」
 「だからそ~ゆ~ボケをかます状況じゃない~ッ!」
 「いや、ともかく目立って発見されること前提でアジトに近づいてもらう」
 パイリンは寸前のしょうもないボケは無かったかのようにまじめな口調で語った後、口元をMの字型にきりりと閉じた。

 「ああなるほど、エッちゃんさんは死霊が絶対守ってくれるという前提で、オトリになってもらうわけね。」
 「ちなみに貴様とヘルツマンもいっしょに行きますが、何か?」
 「何ですとお~!」



 「さあさあ起きろ野郎ども!出動は昼前だが、今から目ぇ醒ましておかねえと、人間、頭がボケてて、能力をフルに発揮できねえぞ!」
 ゲアリック親分(従兄)は強盗団で一番偉いくせに、一番早起きで、無駄に健康的である。まあ夜番の見張りはその前から起きているので例外だが。

 その見張り、三人のうち一人がアジトの巨木中程にあるテラスに、息せき切って現れた。
 「親分!親分!例の賞金稼ぎの仲間を自称する奴らが!」
 「何だと!北に向かうと見せかけて、こっちを襲う計略だったか!?」
 「いえ、実際どんなつもりなんだか知りませんが……」
 その後ろから、もう一人の見張りが、誰かを連れてテラスに出てきた。
 「こいつら、武器も無しで正面から乗り込んできました」

 それを聞いてズコーッと、ゲアリックは派手にすっころんだ。
 「なんじゃそりゃ~!」
 「アントンくん見てみて、『ズッコケ』だよ、『ボケ』に対する全身を使ったリアクションの王道、伝統芸だよ、あたし初めてみたデスよ~」
 「エッちゃんさん、なんかお笑いにこだわりでもあるの?ってゆ~か、そーゆー話題を語り合う場面じゃないと思うの」
 「………………」
 ちなみに最後のは、ヘルツマンの台詞。

 三人は縄、じゃなくてその代用となる、この辺でよく使われてる干した蔦の一種に手首を縛られて連行されてきていた。死霊二匹はいつもの位置に、胴(?)の中心を蔦で縛られ、風船よろしくエンジェラに繋がれ浮いている。
 「バ?……」ゲアリック(従兄)は声を震わせながら続けた。
 「バカの群れか貴様ら~ッ!」

 まあ仮に作戦であるにせよ、いや実際にパイリンの作戦のはずなのだが、これがお利口ちゃんな手段だとは誰一人思わないだろう。
 仮にこの後パイリンがゴーレムを持ち出して強襲をかけるとしても、まだ見張りが一人、物見櫓から監視を続けているから二人と一体は囮になってないし、わざわざ人質にされるようによこしてきたのは何故だ?

 先ほどの親分の声に起こされた強盗団員の半分が、いったい何事かと怪訝そうな表情で、ゾロゾロ姿を見せた。いずれも例の如くわかりやすい、いかにも凶悪強盗殺人犯ですよ私、と顔に書いてあるような悪人面である。仮に正義の味方がここに現れたら、問答無用の必殺技で、悪・即・斬となりそうな…いや実際、本当の犯罪者集団なんだが。

 「で、俺様の従弟を殺ったパークレンってなあどこだ?手配書にあったツラがどこにも見えねえが?」
 「パー子さんはぁ、後から奇襲攻撃をかけにくるからヨロシク!だそうデ~ス。あとパークレンじゃなくてパイリンと呼んでね♪とゆーのが伝言デス」
 「……なめとんのか!それ伝えるためだけに手前ら三人もよこしたのか?」
 アントンは(縛られてるので)両手を揃えて挙手してから、その質問に答えた。

 「ボク、師匠とのつきあいはごく短いですし、正直ワケわかんないです。あと親分、南の強盗団の方のゲアリック親分に顔も声もホントそっくりですね、懐かしくてちょっと泣けてきた……『わかりやすい』って言ってくれませんか?」
 「いや、似てるっつわれても、口元はそんなに似ちゃいねえんだがな」
 そんなこと言ったって、マスク外したとこ見たことないのでわからない。
 「………………」
 ちなみにこれは、ヘルツマンの台詞。

 「わかりにくい……というかサッパリわからんぞ、パー…もといパイリンとかいう女の考えは。わかりやすくない奴は嫌いだ、気にいらねえ」
 やはりあっちのゲアリックと外見が似てるだけでなく、性格もよく似ているようだ、このゲアリック(従兄)。そしてゾロゾロ出てきた手下どもは現在十七人。一人仕事を続けているはずの見張り役を除き、ここのゲアリックを加えれば、全員が姿を見せたことになる。

 「……十五、十六……これで十七人。武器をちゃんと持ってるのは半分くらい。飛び道具は全て単発装填式中折れ擲弾銃、あとマチェットナイフ」
 いつの間にか数を数えていたのか、アントンがブツブツ言っている。すると、ヘルツマンが(いつものことだが)無言でずいと前に出て、そのままズカズカとゲアリックに近づいていった。しかしいつものヘルツマンとはまた動きが違う。あまりにも速い、それはまるで……

 「てめえ!何勝手に動いてブブッ!」
 間に割って入った一人の強盗団員の叫びの最後の部分は、いきなりヘルツマンの手首を縛った蔦があっさりちぎれ飛び、そのまま振り切った裏拳に張り飛ばされた瞬間の悲鳴である。
 そのままゲアリックに襲いかかるヘルツマン!続く拳の一撃を、かろうじて受け止めるゲアリック。

 「うおッ!この野郎、なんて馬鹿力」
 ギリギリと押されたゲアリックは、バルコニーの手すりの方に追い込まれる……ヘルツマンは彼を下に突き落とすつもりのようだ。
 強盗団員も手をこまねくことに、この時持っていた銃がみんな擲弾銃で、ヘルツマンを撃てば親分まで巻き沿いになりかねないため発砲できなかったのだ。慌てて駆け寄り、鉈でガンガン殴りつける者もいたが、もとより全身鎧のヘルツマンには通用しない。

 しかし危ういところで、ゲアリックは片腕だけは切り返すことに成功し、手摺り際の攻防は膠着状態に陥った……ように見えた。
 突然バシャッと金属音がして、ヘルツマンの鎧の胸部分が左右に開いた!
 そこに現れたのは……パイリンの顔!!
 「って、手前は~ッ!」
 「予告通り、奇襲しに参上」

 そう、アントンが改造したヘルツマンの中に収まっていた、パイリンの登場である。中空構造のゴーレムであるヘルツマンは、パイリンの動きをトレースし、何倍もの力として出力する。「強化外骨格パワードエクソスケルトン」とでも呼ぶべき代物になっていた。
 そしてパイリンが鎧の腕部から抜き出した手には、彼女の斧型擲弾銃が握られていた!
 「無茶すんなてめえ!この距離で撃ったらてめえも吹っ飛ぶだろがッ!」
 「だが、木の塊ってのは爆発しねえんだ」

 銃から放たれたのは、空薬莢に火薬を詰めて組み直した、手製の木製弾頭だった。貫通力のない、しかし悪鬼オウガがブン殴ったような一撃が、ゲアリックの胸を直撃する!
 ゲアリックの頑強な体とプロテクターはこれに耐え、胸骨にひび一つ入れることはできなかったが、その上半身を大きくのけぞらせ、手摺りの向こうに突き落とすには十分な打撃だった。
 「どわああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
 ゲアリックの姿が消えた瞬間驚きで一瞬動きが止まり、悲鳴が下へと消えていくのを聞いて我にかえった強盗団員たちは、パニックをおこしながら大騒ぎ。

 「おおッお。親分が!」
 「このガキども、なんてことを!」
 「誰か下に助けに……ええい、こいつら殺っちまえ!」
 ヒネリの無いことおびただしい、だから君たちはその他大勢どまりの存在なんだと思わせるような陳腐な台詞を吐きながら、パイリン一向に襲いかかる手下たち。ようやく使える状況になった擲弾銃をヘルツマン+パイリンめがけてポンポンぶっ放し、アントンとエンジェラめがけて鉈を振り回して迫り来る。

 パイリン入りヘルツマンは、初速の遅い擲弾を難なくかわし、炸裂して飛び散る破片を物ともせず、逆に射手をブッ飛ばして返り討ちにする。一方アントンとエンジェラの方は……
 「たぁ~すけて~」
 やっぱり思った通りの大ピンチ。手首を縛られたままで、武器を持たないアントンは振り回される鉈を必死にくぐり抜け逃げ回る。一方、そんな状況でもぽわ~んとして、どうしていいのかわからなさそうに棒立ちのエンジェラ。

 あまりに無防備なので、むしろ手を出しかねている者が多い中、一人怒り狂った手下が大鉈を振りかぶって襲いかかってきた!
 「死ねや~ッ!」
 ズバーッと縦一閃、振り下ろされた大鉈は、エンジェラの服の革の胸当てと、顔の前に出していた両手首を縛る蔦、ロングスカートをかすめて地面に叩き付けられた。

 直後、胸当ては綺麗に二つに割れ落ち、手首は自由になり、スカートは裂けてハラリと舞い落ちる。もっとも、ロングスカートは旅用に腰に巻く下半身用のケープみたいなもので、ミニのフレアスカートとタイツ姿になっただけで、一部のご期待に沿える結果にはならなかったのだが。

 「き……」
 エンジェラが硬直した。さすがに日頃、ぽよよんとしたキャラの彼女でも、今一瞬の危機が、脳に正しい警告を与えたらしい。
 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」悲鳴、そして……!
 「来るぞ!離れろアントン、『イヤボーン』が始まる」
 パイリンの警告と同時に、まだ蔦で繋がれたままだった二匹の死霊が、爆発するようにふくれあり、姿を変じた!!生ぬるい風が渦をまいて吹き荒れ、続いて二匹を中心に冷気が広がっていく。突然の異形の出現に驚愕した強盗団員たちは動きを止めた。

 ボスフォー・デア・ドラッケンガイスト!
 それは凶悪に生えそろった白い牙の並ぶ、巨大な口を開いた龍の首であった!その下にはかぎ爪を持つ小さな前肢が並び、胴から下は人魂の尾のように不定形にチロチロとうごめき、滑るように宙を移動する。

 ビートゥナ・ディ・トイフェルゼーレ!
 それは白くひからびた、悪鬼のミイラのようなおぞましき姿!落ちくぼんだ眼下は限りない闇に包まれ、大木の根を思わせるいかつい巨腕と象牙色の爪は、捕らえた獲物の体から、その魂を引きずり出す。下半身は同じく人魂のようにうごめいている。

 それぞれ全長三メートルほどの姿になった二匹の死霊は、同時にエンジェラを襲った男に飛びかかり、その体に「重なった」!
 驚愕した男の姿が一瞬、二重にブレる……いや、正しくは肉体と、抜け出た同じ姿の彼の魂が、少しズレて重なって見えたのだ。肉体の方の顔はそのままの表情で固まり、引きずり出された魂のの方の顔は、恐怖に引きつり絶叫している……しかしその声は誰にも届かない。

 その後はゴーストマスターであるエンジェラにしか見えなかったことだが、男の魂は二つに裂かれ、二匹の死霊にもぐもぐと喰われ飲み込まれて消えていった。抜け殻となった肉体は倒れ伏し、単なる肉の塊と化し二度と動くことはなかった。
 これを見た他の手下共は、完全に恐慌状態に陥った。撃ち込まれる擲弾も、振り下ろされる鉈も、霧のようにすり抜ける死霊にとっては何の意味もない。また次の犠牲者が捕らわれ、顔面を驚愕の表情で固め崩れ落ち、同じく冷たい只のモノとなって地に転がった。離れた位置から見ていて、さらにこれが倒しようがない怪物であると悟った懸命な団員達の半数はいち早くその場から逃亡。しかし近くの残りは悉く死霊たちの餌食となってしまった。

 最後の一人の魂を飲み込みながら、ボスフォーがゾッとするような声で、人の言葉を喋った。
 「嗚呼~、なんて質の悪い魂だァ~。こんな出来損ないの魂は、ずっとずっと邪悪な儂の一部にしてくれるゥ~」
 同じくビートゥナがキンキン響く金切り声で語り始めた。
 「薄汚い魂だよこいつらのはァ~。汚れそのものである妾に取り込まれちまいなァ~」
 そしてグスグス泣きべそをかいているエンジェラの側に戻っていく二匹。
 「オオ泣くんじゃないよ、儂の可愛い虫ケラちゃんよ~」
 「お前の澄んだ生気を吸わせておくれェ~。魂の痛みが癒されるんだよォ~」
 それは相変わらず不気味に響く声ではあったが、先ほどよりは若干の暖かみを感じさせるものだった。



 全くコントロールできない二匹の死霊は、エンジェラに「使われて」いるのでもなければ「従って」いるのでもない。本来はその肉体の死と同時に、地獄と呼ばれている何処かに引きずり込まれるはずの彼ら。しかし罪に汚れた死霊と呼ばれる魂は、「エンジェラ」というこの世に存在する清浄な「場」の一つの側にあることで、現世に留まることを許される。

 無数の命を喰らい、限りない罪を背負った、いや、もはやそれ自体が罪の塊と化した死霊は、現世にある同じく汚れた魂を喰らい、己の一部として取り込んでいく。それはまるで、この世の罪と痛みを全て抱え込み、いつか現れるであろう聖人に、まとめて浄化され昇天することを望む、贖罪のための行為……なのかなあ?だったらいいけど。



 恐怖の表情を顔に貼り付けた抜け殻となって転がる九人を見渡して、アントンはガクガク震えながら言った。
 「これは利用とか、そんなこと考えていいレベルじゃないよ師匠!」
 ヘルツマンの中に入ったままのパイリンも、流石に顔がひきつっている。ヤバい、マジだった。それもそのはず、この世界で最強クラスの怪物の霊が、コントロールできない状態ですぐ側にいたのだから。
 ふと見ると、放射状に散らばった屍たちの中心で、一人佇むエンジェラがこちらを伺っている。上目遣いの、寂しそうな瞳…。

 その目に気づいた二人のすぐ脇に、唐突に二匹の死霊が出現した。悲鳴をあげる間もなく、二匹は深いところから響いてくるようなあの声で、しかしさっきとは異なる、切なさのこもった調子で語りかけてきた。
 「あの娘は『いい子』なんだよォ~。あんなに濁りのない魂も珍しいよォ~」
 「一人にしないでやってくれぃ~。あの娘の側に居てやってくれぃ~」
 あ、愛されてるな、エッちゃん、おバケにモテモテだ。しかし考えてみれば、あれって巫女体質というか霊媒体質なんだな。ピュアというかボケボケだけど。
 おバカでよかったなぁ~、エッちゃん、と失礼なことを考えながら、パイリンはエンジェラの方に目をやると……いつの間にか、アントンが彼女の側に立っていた。

 怯えながらも、何やら労りの声をかけているのだろか。対するエンジェラの表情が和らいできて、そして笑顔になって、頭一つ背の低いアントンの首ををぎゅっと抱きしめ、その顔をない胸に埋めさせた。
 あ、あの坊主、なんか美味しいところもっていきやがったなプンプン、などとパイリンが思っていると、戦爆竜ヤーボドラッケンの金切り声と、直後に何本もの炎の噴流がヘルツマンを纏った彼女を襲った! (続く)
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