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パイリン・ザ・ゴーレムマスター 作者:大滝よしえもん
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パイリン・ザ・ドラッケンマスター?(6)

 戦い終わって表彰式も終わり、会場に最後まで残っていた見物客の半数(即ちパイリンに賭けたおかげで儲かって、上機嫌の者たち)も宿に引き揚げ、祭りの終わったツィタデルブルクは、普段の平静な夜を迎えていた。

 「よかった、ひどいことにならなくて本当によかった~」
 表彰式の後に早々に外壁側に退き上げていったパイリン一行を見送った、保安官は嬉し泣きして神に感謝していた。
 そりゃ保安官事務所の間では悪名高い、一千万コーカの賞金首が大暴れして只では済まなかった事例が過去幾つもあったのに、今回は特に酷いことはなく、おまけに闘龍祭のトラブルまで解決してくれて終わったのだから、無理もない。
 しかもここにいたはずの高額の賞金首たちが、外部から人の集まる祭りを嫌って先に街を出ていたとその後の調べで判明、それを教えたら明朝には他の街へと発ってくれるというのだから尚更だ。

 しかし「今回はずいぶん稼げたけど、賞金首を狩れなかったのが心残りよな~、誰も死ななかったしさ」
 などと物騒なことを宣うパイリン。
 「だって赤い方のゲアリックの奴、裏社会のボスのくせして賞金かかってないんだぜ?ゲアリックのくせしてナマイキだぞ」……などとわけのわからない事を言っている。
 「お亡くなりになった竜さんはおいしかったデス」
 ついでにエンジェラもズレている上になんかヒドいこと言ってるぞ。
 「そりゃ騎士長さんみたいに犯罪者じゃないゲアリックさんも当然いるわけで」とアントン。

 「オレ的にはわかりやすく、みんな高額のボーナスアイテムであって欲しかった!」
 あいかわらずヒドい言いぐさのパイリンさん、彼女に人権という概念は無い。これからまた出会うであろう、ゲアリック分家の悪党たちを見かけたら賞金ゲットだぜ、と有無を言わさず襲いかかるつもりなのか?
 「試合で負けたのにキレた赤ゲアリックが後から襲ってきたりしたら、これまた本邦初公開の城塞ブルクゴーレムでぶっつぶしてやるつもりだったのに!」
 恐るべしパイリン、保安官の懸念どおり、やはり大惨事の危機は間近にあったのだ!
 「もっともやっつけても金にならないとわかったから、結果的に良かったんだけどさ」

 「しかしアレだよね、修道会の偉いさん、なんかビクビクして顔色も悪くて、すんげえ挙動不審じゃなかった?」
 そう言いながらパイリンは表彰式で向き合った、修道院長ベンヤミンの青ざめた顔を思い出しながらしばし考え、次のような恐るべき結論をだした。
 「なんか屁ぇこいたような臭いもしてたし、脱糞寸前を必至に堪えてたと見た!」
 「言われてみればそんな風にも見えたけど、女の子としてその下品な推理はどうかと思う!」



 一方、闘竜祭終了後、早々に院内に引き揚げ、部下達には今日はもう下がっているようにと言いつけ、一人自室に篭もってしまったベンヤミン・ケンプフェン……
 「ゴーレムマスター!ゴーレムマスターじゃないか!何がゴーストマスター・ビャクレーだ!あれは間違いなく、中央教区が賞金首に指定しているパイリンとやらだ!」
 表彰式ではそんな危険人物が目と鼻の先にいたのだから、思い返すだけで恐怖と寒気が蘇る。加えて激しいストレスによる過敏性腸症候群を発症、表彰式の間、激しい便意を堪えていたのだから尚更だ(パイリン師匠、大正解です!)。

 彼は恐れている、ゴーレムマスターを、あの時から、あの戦乱の末期から。中央教区の教会騎士団と協力関係にあった各種マスターたち、同盟を組んだ東方辺境伯連合と、その傭兵であったゴーレムマスターたち。
 彼らは、ヴァーラントにおいてグランドマスターを擁する最大派閥の名家から独立し、この地に新たな拠点を築き新興勢力になろうと渡ってきた分家筋の一族郎党、女子供も含む移民の集団であったという。

 大空龍教会騎士団を中心とした連合軍は、遂に帝国統一に反対する最後の勢力であった南部都市国家同盟軍を追い詰め、間もなく戦も終わろうとしていたその時……
 各個に分断され戦力を消耗した都市国家同盟が瓦解し、中央教区に恭順を表明、戦いが終わったその翌日のこと……突如として中央教区から、「ゴーレムマスター討伐」の勅令が降されたのは、その時のことだった。

 教会騎士団を筆頭に、あらゆる軍団にゴーレムマスター追討が命じられた。ゴーレムマスターたちは理由も告げられぬまま、突然「反逆者」として追われる立場になってしまったのだ。
 この理由も定かでない、命じられた側も疑問に思いながらの一方的な攻撃に対し、抗議も交渉の余地も無く、彼らは祖国・ヴァーラントへ渡る港がある、大陸東端の街を目指すほか無かったのである。

 かろうじて一族の三分の一程が祖国へと逃げ延びることができたのも、最初に彼らを雇った辺境伯たちの軍隊が気の毒に思い、見て見ぬふりをして逃げ道を空けてくれたのと、男たちが女子供を逃がすべく、時間稼ぎの足止め役となって一人また一人、散っていったおかげである。
 そう、パイリンに出会う直前、アントンがあの荒野で目撃した、動かなくなった岩石ゴーレムの列。あれこそは理不尽に散っていく他なかった、当時のゴーレムマスターたちの墓標とでも言うべき物だ。

 「復讐!そう復讐以外に何があるというのだ!味方についてからは、あれ程帝国の統一のために尽力してくれたゴーレムマスターたちを、理不尽にも!容赦なく駆り立て滅ぼそうとした我らを!何で許すものか!」
 彼は知っている、当時の、多くの者が知らされていない真実を……
 「たった一人、正体を隠し出没するゴーレムマスターの娘!あれこそは近い将来、ヴァーラントから再びこの地に攻め入り、教団に対する復讐の戦いを始めるための偵察役!」
 部屋には自分の他誰もいないのに、声に出して語り始めるベンヤミン……ヤバい、この人、医者に診てもらうことをお勧めしたい状態だ。

 「表彰式の時の奴の顔……教団の要人である私であろうと、いつでも暗殺できるという余裕の笑みか!」
 それは単に大儲けできて嬉しかったんじゃないのか?と聞いている人がいたなら誰もがそうツッこむところだが、ベンヤミンの思考はどんどん暗く、重く、ネガティブな領域に落ちていて、もはや聞く耳を持つまい。
 「あんな危険な奴を、今更教団の力に迎えいれるだと?そんな戯言をぬかす中央の『誰か』は何を考えているのだ!どうやったら奴が我らを許すというのか?殺らねば、先に殺らねば将来滅ぼされるのは我々!」一人語りは次第に叫びに、いやもはや悲鳴へと変わっていく。

 「やらねば!こっちからやらねばならんのだッ!」
 彼の中で勝手にふくれあがっていった恐怖は、裏返ってどす黒い殺意へと変わる。
 奇声と物音をを聞きつけて駆けつけた部下たちが、ドアを叩いて声を掛けているのも気付かず、彼はこの間のように中央教区に対する意見具申の書簡を作ろうと、震える手で筆記具を取りだした。



 そして明朝、その復讐鬼(?)パイリン御一行は賞金首を求め次の土地、鉱山労働者の村ゴルペンドルフへと向かう。ここはツィタデルブルクから出て行った賞金首の一部が向かったと噂される場所でもあるのだ。
 前日、ウドー・ゲアリック騎士長に頼んで譲って貰った、教団騎士の古いフルアーマーの余剰品から作ったヘルツマンも一緒である。

 「さーて次は宝石鉱山!宝の山!文字通り掘り出し物なゴーレムの動力源を、問屋を通さない現地価格でお安くまとめ買いツアーの巻~」
 「ところで師匠、ボク前にも一度聞いたけど、何でわざわざ東方自治区を放浪しながら賞金稼ぎなんかやってるの?お金のためだけとは思えないんだけど」
 「エッちゃんは賞金稼ぎが一応家業ですけど~、パー子さんって他所から来たんでしょ?なんで?」
 「武者修行!」両の拳を腰に当て、胸を張っての男らしいポーズでの即答であった。
 「廻国修行ともゆーな、要するにあちこち回って強い奴と戦って鍛えるやつ。」

 「ゴーレムを実戦でガンガン使って試す、これは試験や訓練じゃあぶり出せない問題点をいろいろ見つけることができるのだよ」
 その結果として殺されることもある賞金首達にとって、マジ迷惑、鬼のようなパイリンさん。
 「あと宝石な!ゴーレム動かすのに絶対必要だけど、稼ぎが無けりゃ調達不能だし、犯罪者狩りの賞金稼ぎ以外無かったし。まとめると戦いアンドお金!」
 「しかし一応稼いで宝石を買うってのは偉いよね、普通はどうせ自分も賞金首なんだからと、全部宝石強盗しようとか思うよね」
 そのアントンの一言を聞き、パイリンの脳内に電流走る!

 「しまった!その手があったか!お前天才だな、流石もと強盗見習い。次回からオレも強盗にジョブチェンジだッ!」
 それを聞いた二人は激しくズッコケ、モラルなんかカケラも無かった!
 「単に思いつかなかっただけなのかー!いや流石にそれやったら、保安官事務局から本格的に追っ手がかかるでしょ!」
 そう、今のところは罪状不明確な上に賞金稼ぎとして別の悪を狩っているから見逃して貰えていたわけだし。

 「今度の街で宝石がとれるとゆーことはぁ、宝石ドロボーさんもいるんじゃないデスか?ドロボーさんから盗むのって、やっぱドロボーなの?」
 「エッちゃんのくせに冴えてるな!よし決めた、次は『ドロボーからドロボーするのは無罪大作戦』、これでいこう!」
 「それを冗談じゃなくてマジで言ってる顔なのがヤバすぎる!」

 ……はて?彼女のトンチキな言動からは、ベンヤミン院長の懸念している「ゴーレムマスターによる復讐」がカケラも感じられませんが?そもそもパイリンは18歳(自称)、戦争が終わった年の生まれであり、そんな過去は体験してないだろうに。
 「よ~し!景気づけに歌って行くぞ!……ゆっぐっぞっゴ~レム~、発進だ~♪」元気よく歌い出すパイリンだが……
 「みんなの街を踏みつぶせ、みんなの~街をぶっ飛ばし、みんなの~街をやっつけろ♪」
 「なんてヒドい歌!」
 「ボックッら~のモノほど~デカいアレ~、ガ~ッチリしたナニ~、固いブツ~♪」
 「なんか猥歌になってるよ!」やっぱあんた脳味噌がオッサンだろ、パイリン。
 「ゴ~レムどこかがご立派~!ゴ~レムあそこがご立派~!サイズ!♪」謎の歌、終了、そして説明。
 「タイトルは『ご立派ゴリッパーサイズ・ゴーレム』、デミスター・リトルウッズさんの曲にオレが歌詞を追加」
 「あやまれ!デミスターさんにあやまれ!」

なんかもう、いろいろヒドすぎてすいません、と地の文からも謝罪せねばなるまい。ともあれ例の如く、彼女たちの旅はまだまだ続くったら続くのである。否も応もなく! (第3話・終)
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